【hkok】春うらら
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「私は仕事があるのでここを空けますが…」
「留守なら任せておけ」
パンプスを履きながら一段上の彼を見上げる。妙に自信が溢れる様に思わず苦笑を漏らしてしまった。
一応、この空間で不自由しない程度のことは手短ではあるが教えた。風呂やらテレビやらトイレやら…一つずつ説明する度に一本増えていく眉間の皺は、当人には悪いが見ていてちょっと面白かった。知らずに思い出し笑いをしてしまったらしく、土方さんに訝しげな表情で見られる。私は変に勘繰られる前に慌ててドアを開いた。
「じゃあ、行ってきます」
「おう。気をつけてな」
何気なく発せられたその一言が、私を何とも言い難い気持ちにさせる。久々の感覚に自然と笑顔で外へ踏み出した。
どんなに忙しい仕事中も、頭の隅では土方さんのことが気になって仕方なかった。あぁそういえばあれを説明してなかった、一人であたふたしていないだろうか、などあらぬ不安ばかりが募っていく。
しかしそのせいだろうか。いつもより早く昼休みを迎えられた気がした。
「ユウ、なんか嬉しそうじゃない?」
「え、そう?」
「なんていうか周りに花でも飛んでる感じ? あ。さては、彼氏でもできたんでしょ」
「違います」
隣りのデスクの同僚が、手元の弁当だけにあきたらず、私までもを楽しそうにつついてきた。
彼女の好奇心に溢れた推測をばっさり斬ると、頬を膨らまして「つまんないの」と漏らされた。彼氏ではないが同棲している人ならいる、なんて言った日には根掘り葉掘り聞かれそうだと唾をご飯と一緒に飲み込んだ。
「そうだ! ちょっと相談したいことがあるんだけど」
彼女は忙しそうに弁当を置くと、鞄を漁って一冊の雑誌を取り出した。
意気揚々と手渡されたそれは、今を煌めく俳優が表紙の男性向けファッション雑誌だった。目の前の彼女と手に持った雑誌の関連性がいまいち掴めず、首を傾げた。
「彼氏の誕生日プレゼントを買いたくてさ。でもどういうのがいいか分からないから一緒に考えてくれない?」
途端に照れくさそうに笑う同僚が、いつもの数倍可愛く見えた。
恋の力ってすごいなぁ。感心しながら雑誌をぱらぱらと捲っていれば、ふと部屋にいる彼が浮かんだ。
「(…これとか似合いそう)」
「んー、それはちょっとうちの彼氏には合わないかも」
「あ……そうだよね」
気付いた頃には同僚のことはそっちのけで、土方さんに似合うものばかりを探していた。
そういえば、今日でこそ家に閉じこもっていただいているが、このままではいつぞやの彼が言っていたように本当に閉じ込めてしまうだろう。
――幸い明日は丸一日休みだ。
よし、仕事が終わったら早速買いに行こう。
そう心に決めれば午後の仕事に俄然やる気が出てきた。
会社を出れば私は真直ぐ大きなショッピングモールへと足を運んだ。良さげなものを見つけては店に入ってみるが、値札を見て断念することを繰り返していた。ボーナスで温かい懐でもさすがにキツい桁ばかり。
半ば諦めかけて歩いていると、目に入ったのは今流行りのファストファッション店。瞬間それまで重かった足取りが軽くなり、安心して品定めに取り掛かった。
「ただいま帰りましたー」
「ああ、ご苦労だったな……
なんだその荷物は」
まさかの玄関までお出迎えして下さった土方さんは、帰って来た私を見るなり険しい表情を浮かべる。怪訝に見る彼に笑顔で返して、とりあえず部屋に腰を落ち着かせた。
「これは、私から土方さんへのプレゼントです」
「ぷれぜんと?」
「あ、贈り物…ですかね」
「名字が、俺に?」
前に座る土方さんは面食らった顔で私を見る。予想通りの反応にほくそ笑みながら袋から取り出して現物を見せる。
「安物で申し訳ないのですが、一応この時代で一般的に着られている服です」
ジーンズに白のカッターシャツ、黒のジャケットにチャッカブーツ。捻りのないコーディネートだが、この方は素材がいいからきっと綺麗に着こなせてしまうだろう、という考えの結果だ。
土方さんは自分に贈られた服を手に取ってまじまじと観察する。生地から何から初めて見て触るものばかりである彼の眉間には、やはり濃い皺がたたえられていた。
「サイ――大きさを確認したいので、着ていただいてもよろしいですか?」
「別に構わねぇが……どうやって着るんだ…?」
正直に言おう、それは盲点だった。
私はしばらく頭を抱えた後、実演すればいいじゃないかという考えに至った。説明を加えながらシャツを羽織り、ジーンズを履く。男物なので服の上からでも余裕で着ることができた。
一通り着終えると、土方さんはぎこちない動きで着替えていく。いきなり目の前で堂々と脱がれたので、私は急いで回れ右をした。視界にはなくとも布擦れの音が妙にいやらしく聞こえて(私に変態の気はないはずだが)、動悸が止まらなかった。
「こんなもんか?」
土方さんに終わったことを確認して振り向いてみれば、――王子様がそこにいた。
我ながらメルヘンな表現であるが、まさにその代名詞がぴったりだったのだ。
「かっ…」
「蚊?」
「格好いい、です!」
興奮の余り私は立ち上がって、彼に押し寄る。眼福とはこういうことを言うのだろうか、チャンスとばかりに目に焼き付けようと見つめ続ける。
「…大きさは問題ねぇよ」
「みたいですね。よかったです」
「っ、だから、そんな見るな…!」
腕で顔を隠しながらぷいと背ける。怒られるかと予測していた私は、思わぬ反応に目を白黒させる。
呆然としながらも真っ赤に染まった耳を視界に捉えれば、新たな彼の一面を見た気がして小さく笑ってしまった。
『お返しは君の、』
「(“格好良い”なんて、気安く言うんじゃねぇ)」
「留守なら任せておけ」
パンプスを履きながら一段上の彼を見上げる。妙に自信が溢れる様に思わず苦笑を漏らしてしまった。
一応、この空間で不自由しない程度のことは手短ではあるが教えた。風呂やらテレビやらトイレやら…一つずつ説明する度に一本増えていく眉間の皺は、当人には悪いが見ていてちょっと面白かった。知らずに思い出し笑いをしてしまったらしく、土方さんに訝しげな表情で見られる。私は変に勘繰られる前に慌ててドアを開いた。
「じゃあ、行ってきます」
「おう。気をつけてな」
何気なく発せられたその一言が、私を何とも言い難い気持ちにさせる。久々の感覚に自然と笑顔で外へ踏み出した。
どんなに忙しい仕事中も、頭の隅では土方さんのことが気になって仕方なかった。あぁそういえばあれを説明してなかった、一人であたふたしていないだろうか、などあらぬ不安ばかりが募っていく。
しかしそのせいだろうか。いつもより早く昼休みを迎えられた気がした。
「ユウ、なんか嬉しそうじゃない?」
「え、そう?」
「なんていうか周りに花でも飛んでる感じ? あ。さては、彼氏でもできたんでしょ」
「違います」
隣りのデスクの同僚が、手元の弁当だけにあきたらず、私までもを楽しそうにつついてきた。
彼女の好奇心に溢れた推測をばっさり斬ると、頬を膨らまして「つまんないの」と漏らされた。彼氏ではないが同棲している人ならいる、なんて言った日には根掘り葉掘り聞かれそうだと唾をご飯と一緒に飲み込んだ。
「そうだ! ちょっと相談したいことがあるんだけど」
彼女は忙しそうに弁当を置くと、鞄を漁って一冊の雑誌を取り出した。
意気揚々と手渡されたそれは、今を煌めく俳優が表紙の男性向けファッション雑誌だった。目の前の彼女と手に持った雑誌の関連性がいまいち掴めず、首を傾げた。
「彼氏の誕生日プレゼントを買いたくてさ。でもどういうのがいいか分からないから一緒に考えてくれない?」
途端に照れくさそうに笑う同僚が、いつもの数倍可愛く見えた。
恋の力ってすごいなぁ。感心しながら雑誌をぱらぱらと捲っていれば、ふと部屋にいる彼が浮かんだ。
「(…これとか似合いそう)」
「んー、それはちょっとうちの彼氏には合わないかも」
「あ……そうだよね」
気付いた頃には同僚のことはそっちのけで、土方さんに似合うものばかりを探していた。
そういえば、今日でこそ家に閉じこもっていただいているが、このままではいつぞやの彼が言っていたように本当に閉じ込めてしまうだろう。
――幸い明日は丸一日休みだ。
よし、仕事が終わったら早速買いに行こう。
そう心に決めれば午後の仕事に俄然やる気が出てきた。
会社を出れば私は真直ぐ大きなショッピングモールへと足を運んだ。良さげなものを見つけては店に入ってみるが、値札を見て断念することを繰り返していた。ボーナスで温かい懐でもさすがにキツい桁ばかり。
半ば諦めかけて歩いていると、目に入ったのは今流行りのファストファッション店。瞬間それまで重かった足取りが軽くなり、安心して品定めに取り掛かった。
「ただいま帰りましたー」
「ああ、ご苦労だったな……
なんだその荷物は」
まさかの玄関までお出迎えして下さった土方さんは、帰って来た私を見るなり険しい表情を浮かべる。怪訝に見る彼に笑顔で返して、とりあえず部屋に腰を落ち着かせた。
「これは、私から土方さんへのプレゼントです」
「ぷれぜんと?」
「あ、贈り物…ですかね」
「名字が、俺に?」
前に座る土方さんは面食らった顔で私を見る。予想通りの反応にほくそ笑みながら袋から取り出して現物を見せる。
「安物で申し訳ないのですが、一応この時代で一般的に着られている服です」
ジーンズに白のカッターシャツ、黒のジャケットにチャッカブーツ。捻りのないコーディネートだが、この方は素材がいいからきっと綺麗に着こなせてしまうだろう、という考えの結果だ。
土方さんは自分に贈られた服を手に取ってまじまじと観察する。生地から何から初めて見て触るものばかりである彼の眉間には、やはり濃い皺がたたえられていた。
「サイ――大きさを確認したいので、着ていただいてもよろしいですか?」
「別に構わねぇが……どうやって着るんだ…?」
正直に言おう、それは盲点だった。
私はしばらく頭を抱えた後、実演すればいいじゃないかという考えに至った。説明を加えながらシャツを羽織り、ジーンズを履く。男物なので服の上からでも余裕で着ることができた。
一通り着終えると、土方さんはぎこちない動きで着替えていく。いきなり目の前で堂々と脱がれたので、私は急いで回れ右をした。視界にはなくとも布擦れの音が妙にいやらしく聞こえて(私に変態の気はないはずだが)、動悸が止まらなかった。
「こんなもんか?」
土方さんに終わったことを確認して振り向いてみれば、――王子様がそこにいた。
我ながらメルヘンな表現であるが、まさにその代名詞がぴったりだったのだ。
「かっ…」
「蚊?」
「格好いい、です!」
興奮の余り私は立ち上がって、彼に押し寄る。眼福とはこういうことを言うのだろうか、チャンスとばかりに目に焼き付けようと見つめ続ける。
「…大きさは問題ねぇよ」
「みたいですね。よかったです」
「っ、だから、そんな見るな…!」
腕で顔を隠しながらぷいと背ける。怒られるかと予測していた私は、思わぬ反応に目を白黒させる。
呆然としながらも真っ赤に染まった耳を視界に捉えれば、新たな彼の一面を見た気がして小さく笑ってしまった。
『お返しは君の、』
「(“格好良い”なんて、気安く言うんじゃねぇ)」