【hkok】小さな心は道連れに
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“――い、――ん…い…”
ふわりとそのまま地面から身体が離れていくような、浮遊感が広がる。それと同時に聞こえてくるのは、優しくて、柔らかくて――それでいて何かを悔いているような声。
余程遠くにいるのかその声はとても聞きづらく、耳をそばだてなければ気付けないほどだ。
こちらから問いかけてみようともするものの、喉から空気が抜けていくばかりで声にならない。どんなに力を入れてもやはり声は出ず、そうこうしている内に声はゆっくりとフェードアウトしていった。
「っ、待っ…!」
引き止めるように伸ばした両手はただ空を掴んで終わった。
何も映らない天井へと向けられた手をしばし呆然と眺める。あまりの寝ぼけように恥ずかしくなった私は、おずおずと手を引っ込めて上体を起こした。
下らない夢をみるなんてことは多々あったが、今日の夢は何か胸に引っかかる。夢なんて一方的に場面が進むだけで、決して現実の私に語りかけるようなものではない。なのにあの声は真っ直ぐ私に向かって投げかけられていたように思える。
しかし考えたところで答えにたどり着けないこともなんとなく悟ったため、ため息をついて諦めた。
「おい、入るぞ」
「! は、」
言うが早く、ためらいの欠片もなく障子が開かれる。昨日から女の子としての尊厳をがつがつ壊されてる気分だ。心の中で大きくため息をつき、姿勢を正した。
開かれたそこにいたのは捕らえられた時に見た三人だった。センターを陣取る男は脇の、襟巻きが特徴的な男に指示を出してこちらに寄越した。
今度は一体何を、と身体を強ばらせる私だったが男は近くに腰を降ろしたかと思うと、縄をほどき始めた。最悪しか想定していなかった頭にはあまりに意外すぎる行動だ。
「名字、といったか。ついて来い」
くいと顎を上げて部屋から出るよう促される。先日までの待遇の違いにすぐには反応できず、脇にいた男の人の一人が「起きてる?」と視界に入り込んできたのをきっかけに我に返った。
「今日をもってお前は晴れて、っつうのもおかしいか……とにかく自由の身だ」
「…え?」
連れ出されるがまま、外と中とを分かつ門の前に立たされ、放たれたのは衝撃的すぎる一言。先日の検問から一転、こんなにすんなりと帰してくれるとは思わなんだ。喜びと同時に疑問の目をポニーテールさんにぶつけると、人一人殺せる目つきで睨み返された。一瞬呼吸が止まりかけた私は、慌てて頭を下げて「お世話になりました」と、到底この場には相応しくないであろう言葉を吐いていた。
頭を下げていても分かる、周りの“何言ってんだこいつ”的な冷ややかな空気。このまま地面に頭を突っ込んでしまおうかと割りと真剣に考えていれば、
「…その心意気だけは買っておいてやるよ」
ため息混じりに救いの言葉をいただいてしまった。頭を上げてほっと胸を撫で下ろすと、一人だけ含み笑いをしているので少し強気な視線を送ってみた。
「お世話、ね。確かにこれで誰かさんの大きいいびきに悩まされずに済みそうだ」
「な゙っ…」
私いびきなんてかいてたのか、というかよりによって他人に聞かれるなんて。引きつった笑いをこぼすと、あきれ混じりに隣の襟巻きさんが「総司」とたしなめていた。なんだ、冗談か……かいてもない冷や汗を拭う振りをして心を落ち着かせた。
「おら、いつまでも此処にいたら日が暮れちまうぞ」
「は、はい」
急かす声に後押しされ、お三人方に一言告げて背を向けた。
お天道様はまだ顔を出したばかりで、日が暮れるには早すぎる。よほど追い出したかったのかと若干気持ちを陰らせながら、一歩、また一歩と見えない道に足を進ませるのだった。
『不透明な道のり』
「山崎君、任せたぞ」
「…はい」