【hkok】小さな心は道連れに
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一通り尋問を終えると、まるで流れ作業のように部屋に押し込まれる。縄は手足だけにしてもらえたが、私に対する周囲の目は捕らえられる前より鋭くなった気がする。
文字通り真っ暗な部屋の真ん中で、何をするでもなく三角座りで居座る。ただ頭はそうはいかず、辺りを包む闇に飲み込まれそうなほどの負の感情がぐるぐると巡っていた。
――新選組といえば幕末に存在していた組織、という認識しか持ち合わせていない。そう、その程度の知識なのだ。
そんな、興味なんて欠片も無い私が何故この状況に立ち合っているのか。逆にそのぐらいの認識しか持っていないが故の状況なのか。いずれにしたっていきなりこの仕打ちは理不尽すぎる。
「早く、帰りたい…」
搾り出した本心をきっかけに私は声を押し殺しながら泣いた。下手に大声を出せば、どんな目に遭わされるか分からないからだ。
そんなことにすら気を張らなくてはならない現実が、余計に涙を押し出す。
すっかり止めどころを失っていた涙を止めたのは、障子越しに聞こえた落ち着いた男性の声だった。
「――おい、起きているか」
思ってもみなかった来訪者に慌てて涙を拭う。鼻声で返事をすると、間もなく障子が開いた。
同時に入ってきた月の光に目を細める。月ってこんなに眩しかったっけ、なんて間の抜けたことを考えていると、明るい中に一つのシルエットが浮かぶ。
月の光を反射する藍色の髪、服装のせいもあるだろうが彼の持つ雰囲気が夜を思わせ、得も言われぬ気持ちになる。
「…なんだ」
「い、いえ、なんでも…」
いかにも怪訝なものを見る目を向けられては、見惚れていましたと正直に言うわけにもいかない。視線を俯けてひたすらに恥ずかしさを堪えた。
「退け」
淡々と放たれた単語に声のした方を振り向けば、布団を抱えたその人がいた。
いつの間に部屋に入ったのだろうか。とりあえずそんな疑問は押しのけて、三角座りした足を屈伸させてその場を退いた。
すぐに彼は抱えていた布団を降ろし、手慣れた様子でセッティングしていく。皺をしっかり伸ばしている辺りに彼の性格が読み取れるようだ。
ものの数分足らずで作業を終えると、部屋の隅で呆けていた私に対峙する。
「…これに着替えろ」
「? 足袋と…着物?」
上から差し出されるそれらを、結ばれた両手で受け取る。
首を傾げて手元と彼を交互に見やると、疑問を感じ取ったのか「季節柄、夜は冷える。…それに畳を傷まされては困るからな」と、淡々と述べられた。
後者の意味がよく分からなかったが、彼の視線で原因が靴下に有ることが分かった。泥だらけの上に生乾き、これでは着替えろと言われるのも納得ができる。丁度合点がいったところで目の前にいたはずの彼は障子に手を掛けていた。やることなすことが速すぎるその人に、私は焦りながらも呼び止めた。
「ありがとうございます…!」
焦ったせいで少々大きい声になってしまったが、そのおかげで相手の耳に届いたらしい。彼は障子を途中まで開けたところで手を止め、首を捻る。
「勘違いをするな、これは局長たっての計らいだ。…俺に礼を述べたところで、あんたの処遇は変わらぬ」
月明かりが邪魔して表情こそ窺えないが、今はそれでよかったと心底思う。あの冷たい瞳は一度向けられれば十分だ。
閉じられた障子によって部屋は再び暗闇に包まれる。
一度光を目にしてしまったせいか、はたまた彼の辛辣な言葉のせいか。私は爪の食い込む痛みすら無視して、きつく拳を握り締めた。
『残酷な月夜』
(どうやって着ればいいんだろ…)