【hkok】小さな心は道連れに
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意識が戻ったら、辺りは真っ暗だった。
一切の手掛かりを映さない視界に瞬間的に頭が混乱したが、頭部を締め付ける感覚と全身に這う縄を感じれば、拘束されているという解釈に何とか辿り着くことができた。
状況を理解したはいいもの、それでもまだここに至る経緯は掴めない。ぐるぐると記憶を探ろうと試みても、この状況から想定される“最悪”が、考える行為を妨げる。
暴行? 強姦? ああもう制服なんて嫌いだ。容姿はさておき、女子高生というだけで妙なブランドイメージがあるもの。私服に比べたら格段にこういう目に遭う確率は高くなる。
このまま名前すら知りもしない人間に殴られたり身ぐるみ剥されるぐらいなら死んだほうがマシだ。
……なんて、考えるのだけは簡単なのだ。情けなくも震える全身を自覚すれば、自嘲的な笑みが零れた。
「へぇ…笑ってるなんて随分余裕なんだね」
「っ!?」
視界には何もないが、それは確かに人の声だ。音量的に自分の目の前にいるのだろう。
とうとう来る時が来てしまったのか。叫んで暴れ回りたくとも、布を噛まされた口では驚きの声すら上げられない。
身体を丸め精一杯の抵抗を見せても、人は鼻で笑った。
「あまりむやみに刺激をするな」
「だって面白いんだもん。ほら、こうすると丸まっちゃってさ」
おでこの辺りをつつかれたらしく、私は反射的に一層丸まる身体に力を入れた。「団子虫みたい」そう笑いながら形容され、羞恥だか怒りだか知らないが、かあっと顔が熱くなった。身体の自由があれば絶対に一発は殴っているところだ。
「おい、お前らは何やってやがる」
「副長…!」
「…あーあ、もっと遊んであげたかったのにな」
三種類目の声は、不機嫌そうだが凛とした声。徐々に増える人数に、震えは止まらないどころか悪化していく。もしかしたら声がないだけで既に大勢がこの場に居合わせているのかもしれない。
「お前、」
恐らくその人の言葉は私に向けられているのだろう。私は首を声の聞こえる方へ向けた。
「これからお前の処遇を決める、が…そこで余計な真似をしねぇならいくつか縄を解いてやる」
答えを待つ沈黙が落とされる。
それは、自分の置かれた最悪の状況を改めて目で確認することになる。想像するだけでも怖くて堪らないというのに。だがここで拒めば疑いは晴れないまま一刀両断されかねない。
私は震える身体と心は気付かない振りをして、ひとつ頷いた。
「よし。…斎藤」
「はい」
名前を呼ばれた人が、縄を解きにかかる。まずは足が自由になり、手首以外の上半身、口、そして最後に――。
「っ、」
容赦なく飛び込んでくる光に目を細める。こういう目に遭う時は暗がりの密室が相場だと思っていたが、違ったらしい。
「ここ、は…」
身体を起こして辺りを見回せば、下は畳、壁は襖で仕切られていて、電気も見当たらない。何より目の前に並ぶ方々に、色んな意味で度肝を抜かれた。
「おーい、起きてる?」
「は…はは、はい…!」
一人に不意に顔を覗きこまれて、素頓狂な返事が飛び出す。よほどツボにはまってしまわれたのだろうか、その方は腹を抱えて笑い出した。
――何なんだ、この和風美形トリオは。
もしや芸能関係とか、華やかな世界の方だったりするのだろうか。
いつの間にか恐怖心は存在を忍ばせ、ただただ視界に広がる風景に翻弄されていた。
『望まぬ視界』
向けられている鋭い目線なんて、気付きたくなかった。
※ 実際の“ダンゴムシ”は明治頃に日本に渡って来たらしいです。このお話の中ではスルーでお願い致します。