【hkok】春うらら
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一筋の光が瞼を差した。
無意識に出た呻き声と共に上体を起こせば、見慣れない景色に一瞬にして目が覚めた。
周りを確認しても自分の部屋とは何もかもが違う上に、見たことのないものばかりがそこかしこに転がっている。とうとう混乱し始めた頭を抱えながら急速に記憶を辿った。
――ああ、そうだ。俺は未来とやらに来ちまったんだ。
それで此所は、昨日会ったあの女の家。身の危険はないことが解ると、ほうと息を吐いた。
「土方さん? 起きましたか」
「…ああ」
襖らしき扉の向こうから遠慮がちに聞こえてきた声。いやにゆっくりと開かれた扉から「おはようございます」とぎこちない笑顔で顔を覗かせた。
まぁ、昨日会ったばかりの身の上も知れねぇ野郎で居候の身だ、警戒されても仕方がない。簡単に挨拶し返すと、やっぱり恐る恐る部屋に入ってきては、俺が寝ている布団の隣りの机の座布団に腰を据えた。その手には布きれが握られていて、綺麗に机を磨いていく。それを眺めていると机に向けられていた視線が不意に俺に方向転換した。
「朝ご飯、食べますか?」
「そう、だな。頂く」
「わかりました! 頑張りますね」
妙に張り切った様子で踵を返して再び扉の向こうへ行ってしまった。
間もなく聞こえてきたのは規則正しい包丁の音。この音が与える安心感はいつになっても変わらないものだ。自然と緩む頬を引き締めて、寝崩れしてしまった着物を正し布団を畳んだ。
「土方さーん、朝ご飯の準備ができましたよ」
再び開かれた扉の向こうから美味そうな匂いが漂う。それを裏付けるかのように、女の運ぶ盆の上には見ているだけでも腹一杯になりそうな料理が盛られていた。
「すげぇな。これ全部お前が作ったのか」
「はい、一応…たぶん食べられなくはないと思います」
つやつやと光っている飯、大根と豆腐の味噌汁、里芋と人参の煮物、鯵の焼き魚、胡瓜と蕪の漬物。
机に並べられるご馳走に思わず唾を飲み込んだ。雪村の作る料理も相当に美味いが、これはこれでまた別の魅力を醸し出している。
「いただきます」
「どうぞ」
手を合わせて、早速味噌汁に箸を伸ばした。お椀に口をつけて流し込めば、見た目通りの美味さが口に広がる。
「塩加減はいかがですか? 辛くないですか?」
「ああ、丁度いい。それどころか…こんな美味ぇ味噌汁は初めてだ」
「っありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」
お礼を言うのは俺のほうだろうよ。突っ込もうとしたが、心底嬉しそうな表情で食べ始めるものだから、仕方なく味噌汁と共に飲み込んだ。
さぁ、次。と箸を進めようとしたところでふと頭に浮かんだ疑問。後回しにしようかと考えたが、内容が内容なだけにすぐ切り出した。
「そういやぁ、お前の名前を聞いてねぇな」
「…あれ、そうでしたっけ」
自分が普通に呼ばれているから気付かなかったが、俺は目の前のこの女の名前を知らない。これから世話になる身で家主である奴の名前を知らないというのもおかしな話だ。
「私は、名字ユウといいます。改めてよろしくお願いします」
「俺のほうこそよろしく、だな。…ユウ?」
「な、名前呼び、ですか…!」
「…嫌だったか? 悪い」
「い、いえ! どうぞご自由に呼んで下さい」
そう言いながら顔を赤く染めてなんとも危なっかしい様子で飯を食らう。照れているのだろう、視線が合いそうになる度目を泳がせる姿に胸の辺りに温かいモノが注がれた。
しばらくは名字と呼ぶことにしよう。
『朝の一コマ』
「ご馳走さま」
「お粗末様でした!」
「美味かったぜ、ユウ」
「っそそそうですか、な、何よりですー、はは!」
「…っくく」
無意識に出た呻き声と共に上体を起こせば、見慣れない景色に一瞬にして目が覚めた。
周りを確認しても自分の部屋とは何もかもが違う上に、見たことのないものばかりがそこかしこに転がっている。とうとう混乱し始めた頭を抱えながら急速に記憶を辿った。
――ああ、そうだ。俺は未来とやらに来ちまったんだ。
それで此所は、昨日会ったあの女の家。身の危険はないことが解ると、ほうと息を吐いた。
「土方さん? 起きましたか」
「…ああ」
襖らしき扉の向こうから遠慮がちに聞こえてきた声。いやにゆっくりと開かれた扉から「おはようございます」とぎこちない笑顔で顔を覗かせた。
まぁ、昨日会ったばかりの身の上も知れねぇ野郎で居候の身だ、警戒されても仕方がない。簡単に挨拶し返すと、やっぱり恐る恐る部屋に入ってきては、俺が寝ている布団の隣りの机の座布団に腰を据えた。その手には布きれが握られていて、綺麗に机を磨いていく。それを眺めていると机に向けられていた視線が不意に俺に方向転換した。
「朝ご飯、食べますか?」
「そう、だな。頂く」
「わかりました! 頑張りますね」
妙に張り切った様子で踵を返して再び扉の向こうへ行ってしまった。
間もなく聞こえてきたのは規則正しい包丁の音。この音が与える安心感はいつになっても変わらないものだ。自然と緩む頬を引き締めて、寝崩れしてしまった着物を正し布団を畳んだ。
「土方さーん、朝ご飯の準備ができましたよ」
再び開かれた扉の向こうから美味そうな匂いが漂う。それを裏付けるかのように、女の運ぶ盆の上には見ているだけでも腹一杯になりそうな料理が盛られていた。
「すげぇな。これ全部お前が作ったのか」
「はい、一応…たぶん食べられなくはないと思います」
つやつやと光っている飯、大根と豆腐の味噌汁、里芋と人参の煮物、鯵の焼き魚、胡瓜と蕪の漬物。
机に並べられるご馳走に思わず唾を飲み込んだ。雪村の作る料理も相当に美味いが、これはこれでまた別の魅力を醸し出している。
「いただきます」
「どうぞ」
手を合わせて、早速味噌汁に箸を伸ばした。お椀に口をつけて流し込めば、見た目通りの美味さが口に広がる。
「塩加減はいかがですか? 辛くないですか?」
「ああ、丁度いい。それどころか…こんな美味ぇ味噌汁は初めてだ」
「っありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」
お礼を言うのは俺のほうだろうよ。突っ込もうとしたが、心底嬉しそうな表情で食べ始めるものだから、仕方なく味噌汁と共に飲み込んだ。
さぁ、次。と箸を進めようとしたところでふと頭に浮かんだ疑問。後回しにしようかと考えたが、内容が内容なだけにすぐ切り出した。
「そういやぁ、お前の名前を聞いてねぇな」
「…あれ、そうでしたっけ」
自分が普通に呼ばれているから気付かなかったが、俺は目の前のこの女の名前を知らない。これから世話になる身で家主である奴の名前を知らないというのもおかしな話だ。
「私は、名字ユウといいます。改めてよろしくお願いします」
「俺のほうこそよろしく、だな。…ユウ?」
「な、名前呼び、ですか…!」
「…嫌だったか? 悪い」
「い、いえ! どうぞご自由に呼んで下さい」
そう言いながら顔を赤く染めてなんとも危なっかしい様子で飯を食らう。照れているのだろう、視線が合いそうになる度目を泳がせる姿に胸の辺りに温かいモノが注がれた。
しばらくは名字と呼ぶことにしよう。
『朝の一コマ』
「ご馳走さま」
「お粗末様でした!」
「美味かったぜ、ユウ」
「っそそそうですか、な、何よりですー、はは!」
「…っくく」