【hkok】せぶんてぃーん・ぶるーす
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先生が退室した今、残された私はぼうっと外に見える光景を眺める。
まだ競技が始まって約一時間しか経っていないのが不思議なくらい、疲れがピークにきていたらしい。
いっそこのまま終わるまでサボタージュしてしまおうか、と邪な考えを巡らせていた頃だった。
「高みの見物たぁ、いいご身分じゃねぇか」
「げ」、思わず感情そのままの声が出そうになって口を押さえた。だが時既に遅しとはまさに今の状況のようで、土方さんの眉間には三本の皺が窮屈そうに並んでいた。
一番見つかりたくない人に見つかってしまったのだから仕方がないだろう。とか、余計に怒りを買いそうなことを考えながら、乾いた笑みを零した。
「ったく…なんでお前がここにいるんだ」
「えっと、ちょっとしたドジを踏んでしまいまして」
「はぁ?」
後頭部に手を当ててベタな“やっちまったぜ”ポーズをとると、訝しげに視線を泳がせていた土方さんの目が一点に留まる。
馬鹿、ドジ、阿呆…一体どんな罵倒の言葉が飛んでくるのだろうか。事前に構えていればダメージもいくらか軽減されるものだ。その道理に倣って身構える私に対し、当の土方さんは目を見開いたかと思うと――何故か目の前まで距離を縮めてきたではないか。横のデスクに片腕をつき、斜め上から私を見下ろす。
「傷は深いのか?」
「あ、…いえ」
「痛みは?」
「…ほとんど無い、…です」
真剣に問いかける様に、身構えていた私は呆気にとられ正直な状況を伝えた。
大袈裟に痛いと言えばこのままサボタージュが叶っただろうに、目の前のこの人がいい加減な人間であればそうできただろう。しかし、土方さんは違う。真剣に一人の生徒の身を案じる人間であり“先生”だ。嘘を言えば本当に自分が馬鹿で愚かな人間になってしまう。
私の言葉を聞いた土方さんは張っていた肩を降ろして、溜め息というには長すぎるほどの息を吐き出した。
「あんまり担任を心配させんな」
「す、すみません」
身を小さくして頭を下げた。
申し訳なく思うのは言葉にもあるように確かに本心だ。ただ、同時に生まれた嬉しいという感情も本心としか認めようがなかった。
込み上げてくる笑みを俯いて必死に抑えていれば、温かな手のひらが頭部に降ってくる。
「名字は女だ。張り切るのもいいが、怪我には気をつけろよ」
「…はい」
優しく言い聞かせるような声色に、つられて全身の緊張が和らいだ。芯の通ってない返事をすると、手のひらは何度か頭の上を往復して離れていく。急激に冷えていく温度が寂しいのは何故だろう。
「――…ところで、山南さんはどこ行ったんだ?」
「熱中症で倒れた生徒の救護に…」
「ねっ…!?」
辺りに視線を巡らせていた土方さんの目が、答えを聞いた途端これでもかというぐらい見開かれる。私は自身が睨まれたかのようでびくりと肩が震えた。
続けざま、慌てた様子で踵を返す姿を呆然と見送っていると、
「…あぁ、そうだ」
「はい?」
土方さんは不意に出入り口で足を止めた。急がなくていいのだろうか、と思いながら首を傾げる。
「そっからで構わねぇから、しっかりと担任の勇姿を見とけよ」
視線が交わると、向けられるのは稀に見るいたずらな笑み。
今度こそ去っていった背中を見送って、無意識に私は自分の頬に手をやる。……熱い。
よそよそしく手をポケットに突っ込み若干しわが目立つプログラムを取り出すと、三十分後に“教師対抗リレー”の文字を見つけた。私は静かに笑みを零しては、言われた通り再び窓へと向き直るのだった。
『どん?』
「おい、大丈夫かっ」
「…ぐー」
「寝ていただけのようですよ」
「……」
まだ競技が始まって約一時間しか経っていないのが不思議なくらい、疲れがピークにきていたらしい。
いっそこのまま終わるまでサボタージュしてしまおうか、と邪な考えを巡らせていた頃だった。
「高みの見物たぁ、いいご身分じゃねぇか」
「げ」、思わず感情そのままの声が出そうになって口を押さえた。だが時既に遅しとはまさに今の状況のようで、土方さんの眉間には三本の皺が窮屈そうに並んでいた。
一番見つかりたくない人に見つかってしまったのだから仕方がないだろう。とか、余計に怒りを買いそうなことを考えながら、乾いた笑みを零した。
「ったく…なんでお前がここにいるんだ」
「えっと、ちょっとしたドジを踏んでしまいまして」
「はぁ?」
後頭部に手を当ててベタな“やっちまったぜ”ポーズをとると、訝しげに視線を泳がせていた土方さんの目が一点に留まる。
馬鹿、ドジ、阿呆…一体どんな罵倒の言葉が飛んでくるのだろうか。事前に構えていればダメージもいくらか軽減されるものだ。その道理に倣って身構える私に対し、当の土方さんは目を見開いたかと思うと――何故か目の前まで距離を縮めてきたではないか。横のデスクに片腕をつき、斜め上から私を見下ろす。
「傷は深いのか?」
「あ、…いえ」
「痛みは?」
「…ほとんど無い、…です」
真剣に問いかける様に、身構えていた私は呆気にとられ正直な状況を伝えた。
大袈裟に痛いと言えばこのままサボタージュが叶っただろうに、目の前のこの人がいい加減な人間であればそうできただろう。しかし、土方さんは違う。真剣に一人の生徒の身を案じる人間であり“先生”だ。嘘を言えば本当に自分が馬鹿で愚かな人間になってしまう。
私の言葉を聞いた土方さんは張っていた肩を降ろして、溜め息というには長すぎるほどの息を吐き出した。
「あんまり担任を心配させんな」
「す、すみません」
身を小さくして頭を下げた。
申し訳なく思うのは言葉にもあるように確かに本心だ。ただ、同時に生まれた嬉しいという感情も本心としか認めようがなかった。
込み上げてくる笑みを俯いて必死に抑えていれば、温かな手のひらが頭部に降ってくる。
「名字は女だ。張り切るのもいいが、怪我には気をつけろよ」
「…はい」
優しく言い聞かせるような声色に、つられて全身の緊張が和らいだ。芯の通ってない返事をすると、手のひらは何度か頭の上を往復して離れていく。急激に冷えていく温度が寂しいのは何故だろう。
「――…ところで、山南さんはどこ行ったんだ?」
「熱中症で倒れた生徒の救護に…」
「ねっ…!?」
辺りに視線を巡らせていた土方さんの目が、答えを聞いた途端これでもかというぐらい見開かれる。私は自身が睨まれたかのようでびくりと肩が震えた。
続けざま、慌てた様子で踵を返す姿を呆然と見送っていると、
「…あぁ、そうだ」
「はい?」
土方さんは不意に出入り口で足を止めた。急がなくていいのだろうか、と思いながら首を傾げる。
「そっからで構わねぇから、しっかりと担任の勇姿を見とけよ」
視線が交わると、向けられるのは稀に見るいたずらな笑み。
今度こそ去っていった背中を見送って、無意識に私は自分の頬に手をやる。……熱い。
よそよそしく手をポケットに突っ込み若干しわが目立つプログラムを取り出すと、三十分後に“教師対抗リレー”の文字を見つけた。私は静かに笑みを零しては、言われた通り再び窓へと向き直るのだった。
『どん?』
「おい、大丈夫かっ」
「…ぐー」
「寝ていただけのようですよ」
「……」