【hkok】せぶんてぃーん・ぶるーす
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太陽がこれからの季節に向けて頑張りを見せる今日この頃。
――私は落胆していた。
「有り得ない…」
出来たばかりの女子更衣室で、頭を抱える。
次の授業は体育。もう着替え終わってはいるものの、私は自分の格好を見てはなかなか外へ出る勇気を出せずにいた。
「(今時、ブルマーの体育着はないだろう…!)」
幼い頃であれば、まだ肌を出すことに対しての羞恥は少なかったから、さして抵抗はなかった。まさかこの歳になって履くことになるとは思いもしない。
今まではどうしても嫌だったので下はジャージを履いてやり過ごしていたが、体育祭が迫る授業ではジャージは禁止という極めて、極めて! 不本意な決まりがなされたのだ。
泣きたい気持ちで唸っていると、諦めろと言わんばかりのチャイムが鳴り響いた。
授業に遅れたら容赦無く減点される、私は半ばやけくそで走った。
「すみません、遅れました」
「ん? ユウが遅れるなんて珍し――」
乱れる息を正しながら謝れば、何故か原田さんが固まった。目線はやはりやや下にあるのが分かって、私は今日この瞬間ほど穴があったら埋まりたいと思ったことはない。
「原田さん…?」
「あ、…あぁ、とりあえずユウも準備運動に入れ」
「はい」
既に走り込みをしている男子とは少し離れた場所でストレッチを始める。時折飛んで来る男子たちの視線はなるべく見ない振りをした。
「知っての通り、もうすぐ体育祭だ。それぞれの参加競技はもう決まってるな?」
全員が準備運動を終えたところで原田さんの召集がかかる。そこでなされた問い掛けに、全員が声を揃えて「はい」と返事をする。
そういえば先日決めたような決めてないような……ぼけっとしていると、腕を誰かに小突かれた。
「(ユウ、頑張ろうな!)」
隣りを見れば満面の笑みで親指を立てる平助君。
思い出した、私は一緒に二人三脚に出るんだっけ。
理由は確か身長的に丁度いいとかなんとかで、だいぶ平助君がヘコんでいたのを覚えている。でもこんな笑顔を浮かべるぐらいだから競技自体は好きなんだろうな、なんて思いながら私も親指を立てた。
「じゃあ今日は、練習とか、…あー…まぁ、とにかく身体動かしとけ」
「(適当だな、オイ!)」
頭を掻きながらたるそうにする原田さんに私が心の中で盛大に突っ込みをするもの、周りの男子たちは「はい」と清々しい返事を高らかにするのみだ。
その内みんなは言われた通り、各々サッカーやらバドミントンやら鬼ごっこやらをし始めた。既に授業というより休み時間と化したこの状況に女一人が溶け込めるわけもなく、木陰の下に腰を降ろした。
まったく、こういう時につくづく思う。何で千鶴は同じ学年じゃないのだろう。いっそ私が一年になってしまいたいぐらいだ。
楽しそうに駆け回る男子たちを眺めながらごちる。
「ユウ、俺は身体を動かせって言ったはずだぜ?」
「…原田さん」
苦笑いで歩み寄ってきた先生らしからぬその方。私は「動かしてますよ」と言って、周りにある雑草を抜く。
「んなもんは校内美化の奴等に任しときゃいいんだよ」
つまらない屁理屈も、ぱこんとファイルで頭を叩かれて一蹴されてしまった。手で叩かれたそこを労っていると、原田さんがすぐ隣りに腰を落としたのが視界の端に映った。
――目の前には青春真っ直中な子たち、空は気持ちいい快晴、頬を撫ぜる風は強すぎず丁度いい。ふと目を閉じれば意識がぼやけ、今にも眠りの国に落ちそうだ。
「ユウは、土方さんが好きなのか?」
これも夢かな。そうだ、きっとそうに違いない。でなければこんな、
「…ユウ?」
「!」
……現実だ。恐る恐る開放した視界には覗き込む原田さんの顔があった。私はさり気なく距離を取って、自分の腕に顔半分を埋める。
「なんで、ですか」
「この間、俺んちで土方さんと話してたろ? …それを見てたんだよ」
「っ、あれは」
一気に思い出されたあの時の情景に、勢いよく顔を上げる。一刻も早い否定を述べようとした私は、何気ない問いらしからぬ真剣な表情を浮かべる原田さんに、口が固まった。
一瞬だったか、数秒経ったかは分からないが、原田さんは我に返ったように目を逸らして「悪い」と呟いた。
「…違いますよ。だって、“先生”ですし」
私は自分に言い聞かせる意味でも否定を口にした。今の私の立場で言っても、土方さんを好きになることなんてできないのだ。…あれ、そもそもなんで好きになること前提で考えている――?
「そこは訂正させてくれ。…教師とか、そういう肩書きにあんまりこだわるもんじゃねぇよ」
「(原田、さん?)」
言っていることと、彼の表情に違和感を覚えた。諭す言葉に似合わない切なげな顔に、私はその台詞の捉え方を悩んだ。
いつの間にか向けていた原田さんへの怪訝な視線は、駆けて来た元気な声に遮られてしまった。
「ユウ! こんなとこで休んでないで、サッカーやろうぜ」
「…いや、遠慮…」
「行ってこいよ。若いもんは駆け回ってなんぼだぜ?」
「そーそー。それにおじさんと話しててもつまんないだろ?」
「よし。平助、五点減点な」
「ちょ、それだけは勘弁…!」
間近で繰り広げられる漫才のような会話に、抑え切れない笑みを零した。
それに気付いた平助君は照れくさそうに頬を掻いて私の腕を引く。思わずつんのめった身体を支えてくれた、もう一人の彼の顔は窺い知れなかったが
「その格好も、悪くないぜ」
囁かれた言葉に色んな意味で泣きたくなった。
『位置について』
彼らの瞳の真意は、まだ埋もれたまま。
――私は落胆していた。
「有り得ない…」
出来たばかりの女子更衣室で、頭を抱える。
次の授業は体育。もう着替え終わってはいるものの、私は自分の格好を見てはなかなか外へ出る勇気を出せずにいた。
「(今時、ブルマーの体育着はないだろう…!)」
幼い頃であれば、まだ肌を出すことに対しての羞恥は少なかったから、さして抵抗はなかった。まさかこの歳になって履くことになるとは思いもしない。
今まではどうしても嫌だったので下はジャージを履いてやり過ごしていたが、体育祭が迫る授業ではジャージは禁止という極めて、極めて! 不本意な決まりがなされたのだ。
泣きたい気持ちで唸っていると、諦めろと言わんばかりのチャイムが鳴り響いた。
授業に遅れたら容赦無く減点される、私は半ばやけくそで走った。
「すみません、遅れました」
「ん? ユウが遅れるなんて珍し――」
乱れる息を正しながら謝れば、何故か原田さんが固まった。目線はやはりやや下にあるのが分かって、私は今日この瞬間ほど穴があったら埋まりたいと思ったことはない。
「原田さん…?」
「あ、…あぁ、とりあえずユウも準備運動に入れ」
「はい」
既に走り込みをしている男子とは少し離れた場所でストレッチを始める。時折飛んで来る男子たちの視線はなるべく見ない振りをした。
「知っての通り、もうすぐ体育祭だ。それぞれの参加競技はもう決まってるな?」
全員が準備運動を終えたところで原田さんの召集がかかる。そこでなされた問い掛けに、全員が声を揃えて「はい」と返事をする。
そういえば先日決めたような決めてないような……ぼけっとしていると、腕を誰かに小突かれた。
「(ユウ、頑張ろうな!)」
隣りを見れば満面の笑みで親指を立てる平助君。
思い出した、私は一緒に二人三脚に出るんだっけ。
理由は確か身長的に丁度いいとかなんとかで、だいぶ平助君がヘコんでいたのを覚えている。でもこんな笑顔を浮かべるぐらいだから競技自体は好きなんだろうな、なんて思いながら私も親指を立てた。
「じゃあ今日は、練習とか、…あー…まぁ、とにかく身体動かしとけ」
「(適当だな、オイ!)」
頭を掻きながらたるそうにする原田さんに私が心の中で盛大に突っ込みをするもの、周りの男子たちは「はい」と清々しい返事を高らかにするのみだ。
その内みんなは言われた通り、各々サッカーやらバドミントンやら鬼ごっこやらをし始めた。既に授業というより休み時間と化したこの状況に女一人が溶け込めるわけもなく、木陰の下に腰を降ろした。
まったく、こういう時につくづく思う。何で千鶴は同じ学年じゃないのだろう。いっそ私が一年になってしまいたいぐらいだ。
楽しそうに駆け回る男子たちを眺めながらごちる。
「ユウ、俺は身体を動かせって言ったはずだぜ?」
「…原田さん」
苦笑いで歩み寄ってきた先生らしからぬその方。私は「動かしてますよ」と言って、周りにある雑草を抜く。
「んなもんは校内美化の奴等に任しときゃいいんだよ」
つまらない屁理屈も、ぱこんとファイルで頭を叩かれて一蹴されてしまった。手で叩かれたそこを労っていると、原田さんがすぐ隣りに腰を落としたのが視界の端に映った。
――目の前には青春真っ直中な子たち、空は気持ちいい快晴、頬を撫ぜる風は強すぎず丁度いい。ふと目を閉じれば意識がぼやけ、今にも眠りの国に落ちそうだ。
「ユウは、土方さんが好きなのか?」
これも夢かな。そうだ、きっとそうに違いない。でなければこんな、
「…ユウ?」
「!」
……現実だ。恐る恐る開放した視界には覗き込む原田さんの顔があった。私はさり気なく距離を取って、自分の腕に顔半分を埋める。
「なんで、ですか」
「この間、俺んちで土方さんと話してたろ? …それを見てたんだよ」
「っ、あれは」
一気に思い出されたあの時の情景に、勢いよく顔を上げる。一刻も早い否定を述べようとした私は、何気ない問いらしからぬ真剣な表情を浮かべる原田さんに、口が固まった。
一瞬だったか、数秒経ったかは分からないが、原田さんは我に返ったように目を逸らして「悪い」と呟いた。
「…違いますよ。だって、“先生”ですし」
私は自分に言い聞かせる意味でも否定を口にした。今の私の立場で言っても、土方さんを好きになることなんてできないのだ。…あれ、そもそもなんで好きになること前提で考えている――?
「そこは訂正させてくれ。…教師とか、そういう肩書きにあんまりこだわるもんじゃねぇよ」
「(原田、さん?)」
言っていることと、彼の表情に違和感を覚えた。諭す言葉に似合わない切なげな顔に、私はその台詞の捉え方を悩んだ。
いつの間にか向けていた原田さんへの怪訝な視線は、駆けて来た元気な声に遮られてしまった。
「ユウ! こんなとこで休んでないで、サッカーやろうぜ」
「…いや、遠慮…」
「行ってこいよ。若いもんは駆け回ってなんぼだぜ?」
「そーそー。それにおじさんと話しててもつまんないだろ?」
「よし。平助、五点減点な」
「ちょ、それだけは勘弁…!」
間近で繰り広げられる漫才のような会話に、抑え切れない笑みを零した。
それに気付いた平助君は照れくさそうに頬を掻いて私の腕を引く。思わずつんのめった身体を支えてくれた、もう一人の彼の顔は窺い知れなかったが
「その格好も、悪くないぜ」
囁かれた言葉に色んな意味で泣きたくなった。
『位置について』
彼らの瞳の真意は、まだ埋もれたまま。