【hkok】せぶんてぃーん・ぶるーす
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ささやかな宴もお開きとなった頃、静かな部屋に訪問者を告げる音が鳴り響いた。
すっかり酔い潰れて雑魚寝をしている二人はそれに気付きもしない。片付けをしていた手を止めて、部屋の主である原田さんを起こしにかかるもののよっぽど酔いが回っているのか、なかなか目覚めてはくれなかった。
「(しょうがないか)」
もう夜も遅いのだし、しばらく待っていれば引き返してくれるだろうと片付けを再開した。
予想は当たってくれたらしく、インターホンは数回鳴ると静かになった。私はほっと息を吐き、皿をまとめて台所に立つ。
「原田、いねぇのか」
「っ!?」
望むらくは幻覚、幻聴であってほしい。
そうでなければ何故あの鬼教師様がこの、バッドでオーマイゴッドなタイミングで来てしまうのだろうか。
「……おい」
返事をしたら地獄行き決定だ。その場にしゃがみ込んで皿で顔を隠すという、私なりの防衛策を取りながら息を殺す。しかし無常にもそれは数秒も持たずに破られるのだった。
「面は上がってんだよ、… 名字…!」
「ひっ」
顔を覆っていた皿が抜き取られ、視界に容赦なく叩き付けられるは同じ目線までしゃがんだ土方さんの険しいお顔。地獄の門番にふさわしいぐらいのそれに、私は泣きたくなった。
「…ごめんなさい」
「謝るってこたぁ、当然何が悪いか分かってんだろうな?」
正座に座り直して、経緯を洗いざらい話す。眉間に皺寄せっ放しの、鋭い目線が刺さりっ放しの、針のむしろ状態で喋るのは相当にキツかった。
もう塵一つも出てこないぐらい全て吐き出し終えると、向かいに腰を据えていた土方さんはゆっくりと立ち上がった。
「とにかく名字はもう帰れ。……ったく、こいつらにもきゅうを据えとかねぇとな」
ぶつぶつと不機嫌そうに呟き始めた土方さんに怯みつつ、腰を上げて一つ要望を告げてみる。
「分かりました、けど…片付けてからでもいいですか?」
もてなしてもらった身としてはこのまま帰るのは気が引ける。おまけにこの後の二人に降り懸かる火の粉(むしろ火の玉)を考えたら、せめて片付けぐらいはしなければと使命感に駆られた。
遠慮がちに土方さんを見上げれば、困ったように息を吐いた後しっかりと頷いて下さった。怖くて厳しくはあるが話の分からない頭でっかちな先生ではないのだ。
お礼を言って、気合いを入れるため袖をまくる。それなりに量のある洗い物の山をひたすら崩していると、横から手が伸びてきた。
「手伝ってやるよ」
「あ、ありがとうございます」
お言葉に甘えて濯ぎ終えた皿を横に並ぶ土方さんに渡すと、布巾で手際よく水を拭き取る。それが妙に様になっているものだから、自分の作業に集中できない。
いつもジャケットとシャツに隠されている素肌は、捲られたことにより惜しみ無く露出されている。程よい筋肉、浮き出る血管――腕からだけでも男らしさが滲み出ていて、変に意識してしまう。
落ち着きがない私の心臓の音まで聞こえてしまいそうな、黙々と洗い続けるだけの空気に低い声が響いた。
「お前、一人暮らしで寂しくないのか」
「…そうですね…たまになりますが、だいぶ慣れました」
「そうか」
「――何より、お二人もいますしね」
横目で見る土方さんは表情を和らげていたから、私は嬉しくなってしまいついうっかり口に出すつもりはなかったことまで漏らしてしまった。
それがどうやら面を食らわせてしまったらしく、意外そうに目を見開く土方さんに力強く頷いた。
「今日だってこんな風に誘っていただいたりして……すごく元気づけられました」
あ、でもそのせいでさっき怒られたんだっけ。自分の失言に顔を青くしながら隣りを窺い見れば、案の定眉間に皺を寄せていた。また雷が落ちるかと身構える私だったが、その必要はなかった。
いつまでも降ってこないそれに隣りを見やると苦虫を噛み潰したという表現がぴったりな土方さんがいたのだ。
「原田に、惚れてんのか?」
「はい?」
予想の斜め上、どころか垂直をいった言葉に思わずすっ頓狂な声を上げる。土方さんも何だかバツが悪そうにしていたが、質問されたからには答えなければなるまい。
確かに、原田さんは画面で見たままかっこいいし、憧れではあるがそれは惚れたはれたの感情ではない。どちらかと言えば芸能人と接するような感覚に近いと思う。そうして頭の中で慎重にまとめた結果を述べる。
「そんなことはないです」
「……そうだよな。悪い、変なことを聞いた」
「いえ、」
何なのだろうこの気まずさは。
皿を洗う手も心なしかおぼつかない気がしたり、明らかに動揺している自分が窺い知れる。平静を装おうとすればするほど上手くいかないのが常――最後の一枚を渡す際不意に土方さんの手に触れた。数分前の私なら何ごともなく流せただろうが、まるで高熱に触れたかのように瞬時に手を引っ込めてしまったのだ。
「おわ! っまえ、いきなり離すんじゃねぇ…!」
「す、すみません」
寸でのところで受け取った土方さんから一喝食らう。
思い過ごしかもしれないが益々空気が重たくなってしまった感じがして、蛇口を閉める手も鈍くなった。
自分の不手際にため息を吐きながら手拭きで手を拭いていると、土方さんに名前を呼ばれる。心でためらいつつ引きつけられるようにゆっくり首を動かせば、突然頬に温もりが触れた。
「泡、ついてるぞ」
す、と添えられた手に驚きながらもあの毒気のない笑顔を見せられたら、私は金縛りにあったかのように動けなかった。
自然と流れる雰囲気がいたたまれないような、でも壊したくないようなむず痒い気持ちにさせる。
ただ土方さんの瞳に目を凝らしていると、それは急に細められて同時に手も離れた。
「……もう片付けは終わっただろ。早く帰るんだな」
「っ、はい。…おやすみなさい」
我にかえった私は言うが早いか、脱兎の如く床に転がっていた鞄を引っ掴んで部屋を出た。
『その偶然、効果絶大』
「おい、左之。なーんかあの二人いい雰囲気じゃねぇか?」
「……そうだな」
すっかり酔い潰れて雑魚寝をしている二人はそれに気付きもしない。片付けをしていた手を止めて、部屋の主である原田さんを起こしにかかるもののよっぽど酔いが回っているのか、なかなか目覚めてはくれなかった。
「(しょうがないか)」
もう夜も遅いのだし、しばらく待っていれば引き返してくれるだろうと片付けを再開した。
予想は当たってくれたらしく、インターホンは数回鳴ると静かになった。私はほっと息を吐き、皿をまとめて台所に立つ。
「原田、いねぇのか」
「っ!?」
望むらくは幻覚、幻聴であってほしい。
そうでなければ何故あの鬼教師様がこの、バッドでオーマイゴッドなタイミングで来てしまうのだろうか。
「……おい」
返事をしたら地獄行き決定だ。その場にしゃがみ込んで皿で顔を隠すという、私なりの防衛策を取りながら息を殺す。しかし無常にもそれは数秒も持たずに破られるのだった。
「面は上がってんだよ、… 名字…!」
「ひっ」
顔を覆っていた皿が抜き取られ、視界に容赦なく叩き付けられるは同じ目線までしゃがんだ土方さんの険しいお顔。地獄の門番にふさわしいぐらいのそれに、私は泣きたくなった。
「…ごめんなさい」
「謝るってこたぁ、当然何が悪いか分かってんだろうな?」
正座に座り直して、経緯を洗いざらい話す。眉間に皺寄せっ放しの、鋭い目線が刺さりっ放しの、針のむしろ状態で喋るのは相当にキツかった。
もう塵一つも出てこないぐらい全て吐き出し終えると、向かいに腰を据えていた土方さんはゆっくりと立ち上がった。
「とにかく名字はもう帰れ。……ったく、こいつらにもきゅうを据えとかねぇとな」
ぶつぶつと不機嫌そうに呟き始めた土方さんに怯みつつ、腰を上げて一つ要望を告げてみる。
「分かりました、けど…片付けてからでもいいですか?」
もてなしてもらった身としてはこのまま帰るのは気が引ける。おまけにこの後の二人に降り懸かる火の粉(むしろ火の玉)を考えたら、せめて片付けぐらいはしなければと使命感に駆られた。
遠慮がちに土方さんを見上げれば、困ったように息を吐いた後しっかりと頷いて下さった。怖くて厳しくはあるが話の分からない頭でっかちな先生ではないのだ。
お礼を言って、気合いを入れるため袖をまくる。それなりに量のある洗い物の山をひたすら崩していると、横から手が伸びてきた。
「手伝ってやるよ」
「あ、ありがとうございます」
お言葉に甘えて濯ぎ終えた皿を横に並ぶ土方さんに渡すと、布巾で手際よく水を拭き取る。それが妙に様になっているものだから、自分の作業に集中できない。
いつもジャケットとシャツに隠されている素肌は、捲られたことにより惜しみ無く露出されている。程よい筋肉、浮き出る血管――腕からだけでも男らしさが滲み出ていて、変に意識してしまう。
落ち着きがない私の心臓の音まで聞こえてしまいそうな、黙々と洗い続けるだけの空気に低い声が響いた。
「お前、一人暮らしで寂しくないのか」
「…そうですね…たまになりますが、だいぶ慣れました」
「そうか」
「――何より、お二人もいますしね」
横目で見る土方さんは表情を和らげていたから、私は嬉しくなってしまいついうっかり口に出すつもりはなかったことまで漏らしてしまった。
それがどうやら面を食らわせてしまったらしく、意外そうに目を見開く土方さんに力強く頷いた。
「今日だってこんな風に誘っていただいたりして……すごく元気づけられました」
あ、でもそのせいでさっき怒られたんだっけ。自分の失言に顔を青くしながら隣りを窺い見れば、案の定眉間に皺を寄せていた。また雷が落ちるかと身構える私だったが、その必要はなかった。
いつまでも降ってこないそれに隣りを見やると苦虫を噛み潰したという表現がぴったりな土方さんがいたのだ。
「原田に、惚れてんのか?」
「はい?」
予想の斜め上、どころか垂直をいった言葉に思わずすっ頓狂な声を上げる。土方さんも何だかバツが悪そうにしていたが、質問されたからには答えなければなるまい。
確かに、原田さんは画面で見たままかっこいいし、憧れではあるがそれは惚れたはれたの感情ではない。どちらかと言えば芸能人と接するような感覚に近いと思う。そうして頭の中で慎重にまとめた結果を述べる。
「そんなことはないです」
「……そうだよな。悪い、変なことを聞いた」
「いえ、」
何なのだろうこの気まずさは。
皿を洗う手も心なしかおぼつかない気がしたり、明らかに動揺している自分が窺い知れる。平静を装おうとすればするほど上手くいかないのが常――最後の一枚を渡す際不意に土方さんの手に触れた。数分前の私なら何ごともなく流せただろうが、まるで高熱に触れたかのように瞬時に手を引っ込めてしまったのだ。
「おわ! っまえ、いきなり離すんじゃねぇ…!」
「す、すみません」
寸でのところで受け取った土方さんから一喝食らう。
思い過ごしかもしれないが益々空気が重たくなってしまった感じがして、蛇口を閉める手も鈍くなった。
自分の不手際にため息を吐きながら手拭きで手を拭いていると、土方さんに名前を呼ばれる。心でためらいつつ引きつけられるようにゆっくり首を動かせば、突然頬に温もりが触れた。
「泡、ついてるぞ」
す、と添えられた手に驚きながらもあの毒気のない笑顔を見せられたら、私は金縛りにあったかのように動けなかった。
自然と流れる雰囲気がいたたまれないような、でも壊したくないようなむず痒い気持ちにさせる。
ただ土方さんの瞳に目を凝らしていると、それは急に細められて同時に手も離れた。
「……もう片付けは終わっただろ。早く帰るんだな」
「っ、はい。…おやすみなさい」
我にかえった私は言うが早いか、脱兎の如く床に転がっていた鞄を引っ掴んで部屋を出た。
『その偶然、効果絶大』
「おい、左之。なーんかあの二人いい雰囲気じゃねぇか?」
「……そうだな」