【hkok】せぶんてぃーん・ぶるーす
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けたたましい音を立てて私を起こそうとする目覚時計を少々荒っぽく止める。
まだ寝ていたいと訴える身体に鞭を打ち、身支度に取り掛かった。
忙しく部屋の中を動き回っているとふと、両隣りにはあの方たちがいらっしゃる――と意識しては、いちいち動作に神経をそばだててしまう。
落ち着け私、ここは家賃数万円の今までのアパートとは違うのだ。
「行ってきます」
マンションを出て、向かいのコンビニで朝食を買う。
何故か鞄に入っていた自分のお財布には、あと約一万円ほどしか残っていなかった。数日ならなんとか凌げる数だが、もしこれが何か月も続くとしたら絶望的だ。
朝から憂鬱な気分を引きずりながら学園への足を進めた。
「ユウー! はよ!」
「あ、おはよう」
後ろから元気に駆けてきた平助君。さすが高校生だなぁ、なんて高みの見物をしていた私も「急がなきゃ遅刻だぞ!」の言葉に走り出した。
「……名字、藤堂、共に三秒遅刻。二点減点」
「さ、三秒!?」
秒単位でもいけないのか。
がっくりとうなだれる私に対して、平助君は肩に手を置いて憐れみの笑みをくれた。そういう君も減点なんですけど。
「ああ、それから。藤堂はこれでトータル十点減点だから、土方の指導を受けてもらう」
斎藤さんの隣りにいた、南雲薫君(であろう方)がさも楽しそうな声色で言った。
「げっ!? マジかよ」
「有り難く思え。土方先生が貴重な時間を割いて、説法を解いて下さるのだぞ」
「そりゃ一君からしたらそうだろうけどさぁ!」
「おらおら、そんなとこで雑談してっと朝礼に間に合わねぇぞ!」
口を尖らせる平助君に背後からどつきという名の喝を入れる、鮮やかな緑ジャージが眩しいお方。
「ってぇよ、新ぱっつぁん!」
「……永倉先生、一分遅刻。給料一割減給」
「はぁ!? おい、斎藤! いくら風紀委員でも教師の給料を減らすなんて、」
「土方先生から“教師の遅刻も厳しく取り締まれ”との言伝を戴いています」
「ちなみに次遅刻したら一か月博打禁止だから」
「なんじゃそりゃあ!?」
絶望に打ちひしがれる永倉さんを横目に平助君と私は「面倒だから早く行こう」と軽くアイコンタクトをとって走り出そうとしたのだが、
「あと、名字…だっけ?」
「! な、なんでしょう」
「あんた、僕の妹と随分親しくしてるみたいだね。
でもあんまり調子乗ったら……わかってるだろうね?」
どす黒いオーラを漂わせながら笑みを浮かべる南雲君は、さながら魔王のようだった。
私は有無を言わず首を縦に振って、今度こそ教室へと全力疾走した。
この学園には二人も危険人物がいて、私はその両方に目をつけられてしまったらしい。
*
午前の授業を終え、ようやく昼休み。
購買で一番安いコッペパンを手に昨日と同じく平助君と屋上に向かうと、そこには千鶴が一人で待っていた。堪らず二人で声をかけると千鶴は眩しい笑顔で迎える。
「んー…」
「バイト探しですか?」
「そう、でもなかなか見つからないもんだね」
今朝のコンビニで情報誌を入手したのはいいものの、条件が一致するバイト先は見つからない。
「うちはバイト厳禁だ」
コッペパンをかじりながら情報誌と睨めっこしていると、背後から聞き覚えのある淡々とした声が聞こえた。
そこに立っていたのはやはり風紀委員の斎藤さんで。険しい顔で私を見下ろしていた。
「申請書とか出せば…」
「駄目だ。そんな暇があるなら勉学に勤しめばいいだろう」
教師のような威厳で言われては、反論する言葉も尻すぼみになる。しかし私にとっては死活問題なのだ。
「先生にバレなければ!」
「俺が黙っているとでも思うのか?」
「……思いません」
完璧八方塞がりとなってしまった。仕方なくため息を吐いて情報誌を閉じる。私が諦めたことが分かると、斎藤さんも隣りに腰を降ろした。
「斎藤さん、ユウさんのために何とかなりませんか?」
「…規則は規則だ。生徒一人特別扱いなどできない」
「一君、オレからも頼むよ。なんかユウは訳ありっぽいし」
「二人とも…」
二人で私のために懇願する姿に、友情の素晴らしさというのを見た気がした。斎藤さんを見ると思わぬ加勢に困った様子で目を伏せていた。
「――わかったよ。可愛い妹の頼みだしね」
「南雲…!?」
またもや後ろから聞こえた声に振り向けば、何故か一年の風紀委員である南雲薫君が立っていた。
「お前と斎藤が学園長に掛け合えばいい」
「何故俺が…」
「その代わり、千鶴には一か月僕の弁当を作ってきてもらう」
「「なっ!?」」
「分かりました。任せて下さい!
ユウさん、よかったですね!」
「う、うん。ありがとう、千鶴」
よく分からない内に話はいい方向に転がっていった。千鶴や、すっかり固まってしまった二人には悪いけど、とりあえず希望が見えて胸を撫で下ろした。
早速放課後、斎藤さんと一緒に学園長に話をすると(ちょっと同情を誘うような捏造も加えて)、他の生徒には秘密という条件で快く許可をいただいた。
『彼女の憂鬱』
「斎藤さん、どうぞ」
「…弁当?」
「千鶴のじゃなくて申し訳ないですが、」
「……いや、有り難く頂戴する」
まだ寝ていたいと訴える身体に鞭を打ち、身支度に取り掛かった。
忙しく部屋の中を動き回っているとふと、両隣りにはあの方たちがいらっしゃる――と意識しては、いちいち動作に神経をそばだててしまう。
落ち着け私、ここは家賃数万円の今までのアパートとは違うのだ。
「行ってきます」
マンションを出て、向かいのコンビニで朝食を買う。
何故か鞄に入っていた自分のお財布には、あと約一万円ほどしか残っていなかった。数日ならなんとか凌げる数だが、もしこれが何か月も続くとしたら絶望的だ。
朝から憂鬱な気分を引きずりながら学園への足を進めた。
「ユウー! はよ!」
「あ、おはよう」
後ろから元気に駆けてきた平助君。さすが高校生だなぁ、なんて高みの見物をしていた私も「急がなきゃ遅刻だぞ!」の言葉に走り出した。
「……名字、藤堂、共に三秒遅刻。二点減点」
「さ、三秒!?」
秒単位でもいけないのか。
がっくりとうなだれる私に対して、平助君は肩に手を置いて憐れみの笑みをくれた。そういう君も減点なんですけど。
「ああ、それから。藤堂はこれでトータル十点減点だから、土方の指導を受けてもらう」
斎藤さんの隣りにいた、南雲薫君(であろう方)がさも楽しそうな声色で言った。
「げっ!? マジかよ」
「有り難く思え。土方先生が貴重な時間を割いて、説法を解いて下さるのだぞ」
「そりゃ一君からしたらそうだろうけどさぁ!」
「おらおら、そんなとこで雑談してっと朝礼に間に合わねぇぞ!」
口を尖らせる平助君に背後からどつきという名の喝を入れる、鮮やかな緑ジャージが眩しいお方。
「ってぇよ、新ぱっつぁん!」
「……永倉先生、一分遅刻。給料一割減給」
「はぁ!? おい、斎藤! いくら風紀委員でも教師の給料を減らすなんて、」
「土方先生から“教師の遅刻も厳しく取り締まれ”との言伝を戴いています」
「ちなみに次遅刻したら一か月博打禁止だから」
「なんじゃそりゃあ!?」
絶望に打ちひしがれる永倉さんを横目に平助君と私は「面倒だから早く行こう」と軽くアイコンタクトをとって走り出そうとしたのだが、
「あと、名字…だっけ?」
「! な、なんでしょう」
「あんた、僕の妹と随分親しくしてるみたいだね。
でもあんまり調子乗ったら……わかってるだろうね?」
どす黒いオーラを漂わせながら笑みを浮かべる南雲君は、さながら魔王のようだった。
私は有無を言わず首を縦に振って、今度こそ教室へと全力疾走した。
この学園には二人も危険人物がいて、私はその両方に目をつけられてしまったらしい。
*
午前の授業を終え、ようやく昼休み。
購買で一番安いコッペパンを手に昨日と同じく平助君と屋上に向かうと、そこには千鶴が一人で待っていた。堪らず二人で声をかけると千鶴は眩しい笑顔で迎える。
「んー…」
「バイト探しですか?」
「そう、でもなかなか見つからないもんだね」
今朝のコンビニで情報誌を入手したのはいいものの、条件が一致するバイト先は見つからない。
「うちはバイト厳禁だ」
コッペパンをかじりながら情報誌と睨めっこしていると、背後から聞き覚えのある淡々とした声が聞こえた。
そこに立っていたのはやはり風紀委員の斎藤さんで。険しい顔で私を見下ろしていた。
「申請書とか出せば…」
「駄目だ。そんな暇があるなら勉学に勤しめばいいだろう」
教師のような威厳で言われては、反論する言葉も尻すぼみになる。しかし私にとっては死活問題なのだ。
「先生にバレなければ!」
「俺が黙っているとでも思うのか?」
「……思いません」
完璧八方塞がりとなってしまった。仕方なくため息を吐いて情報誌を閉じる。私が諦めたことが分かると、斎藤さんも隣りに腰を降ろした。
「斎藤さん、ユウさんのために何とかなりませんか?」
「…規則は規則だ。生徒一人特別扱いなどできない」
「一君、オレからも頼むよ。なんかユウは訳ありっぽいし」
「二人とも…」
二人で私のために懇願する姿に、友情の素晴らしさというのを見た気がした。斎藤さんを見ると思わぬ加勢に困った様子で目を伏せていた。
「――わかったよ。可愛い妹の頼みだしね」
「南雲…!?」
またもや後ろから聞こえた声に振り向けば、何故か一年の風紀委員である南雲薫君が立っていた。
「お前と斎藤が学園長に掛け合えばいい」
「何故俺が…」
「その代わり、千鶴には一か月僕の弁当を作ってきてもらう」
「「なっ!?」」
「分かりました。任せて下さい!
ユウさん、よかったですね!」
「う、うん。ありがとう、千鶴」
よく分からない内に話はいい方向に転がっていった。千鶴や、すっかり固まってしまった二人には悪いけど、とりあえず希望が見えて胸を撫で下ろした。
早速放課後、斎藤さんと一緒に学園長に話をすると(ちょっと同情を誘うような捏造も加えて)、他の生徒には秘密という条件で快く許可をいただいた。
『彼女の憂鬱』
「斎藤さん、どうぞ」
「…弁当?」
「千鶴のじゃなくて申し訳ないですが、」
「……いや、有り難く頂戴する」