【hkok】せぶんてぃーん・ぶるーす
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あれから最悪ホームレス覚悟で外に出て歩いていると、何故か自然と自分の家のほうへ向かっている感じがした。頭で考えるより、身体が覚えているという感覚。
私って実はエスパーなのかもしれない、もしくはトリップした時に備わった新しい力なのだろうか。
「(ここを右…? んでここを真直ぐ…?)」
不思議に思いながらも、今はこの感覚に託すしかないと若干弱腰で路を辿った。
――ふとそれまで導いていた意識が途絶えた。
家に着いたのだろうか。立ち止まって辺りを見回せば、コンビニと空地とビル――そして目の前に高くそびえ立つマンション。再度周りを確認しても住まいらしき建物はこのマンションしか見当たらない。
本当にここなら、こんなリッチな生活が保障されるならトリップも悪くないかもしれない。
邪な考えを浮かべながらマンションの入り口に向かい、部屋番号を入力する。やっぱり手が自然と自分の番号を入れていたので、ここが私の家なのだろう。
開いた自動ドアに足を踏み入れれば、大きな噴水がお出迎え。だだっ広いエントランスは吹き抜けになっていて、上を見上げればオレンジに染まった空が覗かせていた。
いかにもな空間に気後れしながらも、感覚任せにエレベーターに乗り込んで六階まで上がる。
とりあえず最上階じゃなくてよかった。そんなとこに住んだ日には落ち着かなくてとても過ごせたものではなかっただろう。
そんな自分の庶民的思考に虚しさを感じつつ、扉が並ぶ壁の丁度真ん中辺りの部屋の前に立つ。ノブの近くに鍵穴を発見して焦ったのも束の間、鞄のポケットを漁ったらあっさり鍵が出てきた。それを差し込んで回せば、軽快な解錠音が主を迎える。
「お、お邪魔しまーす…?」
自分の家というつもりでここまで来たのだが、やはり初めて訪れるのになかなかそうは思えない。当然のように中から返事は返って来ず、恐る恐る靴を脱いで上がった。
部屋はマンションの外観通りの広さで、インテリアもシンプルだが妙な気品が漂っている。しかし空き部屋だったのだろうか、いくら見渡しても生活感は一切感じ取れなかった。いやあったらあったで困るのだが。
「今日からここが私の家!」という意識はあっても、なかなか気持ちが追い付かない。部屋のソファに数段階に分けて腰掛け天井を仰ぐ。
「後から人来たらどうしよう…」
それで泥棒だとか空き巣だとか言われて警察に突き出されたらろくな言い訳もできず、私の人生はジ・エンドだ。背中に悪寒が走って余計身体が丸まった。
こういう時は最悪の事態は考えないほうがいい。どうせなるようにしかならないのだ。それでいいのだ(ありがとう、バ〇ボンパパ)。
まだ自分の部屋を把握したり、腹ごしらえもしたいところではあるが、一応転居してきたということになる。これからお世話になるのだから、大家さんやお隣りに挨拶しに行かなければならないだろう。色々聞かれたりとかしたらかなり困るが…適当に誤魔化すしかない。
まずは手近なお隣りさんだ。本来ならば菓子折りも礼儀として欲しいところだが、手持ちのお金もないし仕方がない。また別の機会に渡そう。
玄関を出ると、自分の部屋から右手のお宅の前に立つ。
「(襟よしリボンよしブレザーよし…スカートよし)」
身だしなみを整えてインターホンを押す。緊張しながら家主の声を待っていると、いきなり扉が開く音がした。まずはインターホンで会話する気満々だったのに…! せっかくのセキュリティなのにまるで意味がないじゃないか。
「あのっ、今日から隣りに越して来た名字ユウと申しま……」
緊張のあまりフライングして下げてしまった頭を上げれば、ぽかんとした表情の男性。あらやだ、これまた美形なお方――って。錆びたブリキ人形の如く鈍い動きで表札を見れば、洋風なマンションに似つかわしくない檜の板にくっきり「原田」と彫られていた。
「お前、その制服…うちの生徒か?」
「は、はい」
心底驚いたという表情で告げる、原田さん。恐らくゲームの中でいう“原田左之助”だろう。いつか会うのだろうなとは思ってはいたが、いかんせん場所が想定外すぎる。
バクバクと脈打つ心臓を落ち着かせていると、訝しげな視線を送られていることに気付く。
「俺は原田左之助だ。学園の保体担当で教師なんだが……親御さんは一緒じゃないのか」
「はい。ちょっと訳あって一人暮らしで…」
我ながら苦しい言い訳だ。しかも先生なら学園の資料を見れば生徒の身の上なんて簡単に知れるはず。せめてこの場だけでも凌ごうと必死に目を泳がし、苦笑いを繰り返す。
「……ま、家庭の事情ならしゃあねぇな。困った時は頼ってくれていいぜ」
「ありがとうございます…!」
頭に軽く乗せられた手のひらがあまりに力強くて、心が少し楽になった気がした。
「――お前ら、何やってんだ…?」
この声を聞くまでは。
なんだかいやにドスが効いているのは気のせいか。はばかられるが、視線を右にずらす。そこにはこれでもかというぐらい眉間に皺を寄せた土方さんが立っていた。
背中におびただしい冷や汗をかいていると、原田さんが「新しい隣人さんだってよ」と私の頭を軽く叩きながら何でもない風に言ってみせた。そういう土方さんは、原田さんのところに訪れに来たのだろうか。
「隣人?」
「おう。だから土方さんの隣りでもあるぜ」
「……。
え?」
それまで土方さんに向けていた目を九十度回転させ、原田さんに切り替える。頭上にクエスチョンマークを浮かべた後、私の表情を見て思い付いたように説明してくれた。
「土方さんは俺の二つ隣りに住んでんだ。…つまり、名字は俺と土方さんの間の部屋に越してきたっつーわけだな」
「なるほど」
分かりやすい説明で納得はしたものの、とんでもない状況に内心の私はのたうち回っていた。
ちらっと脇を見やれば土方さんが直ぐそばにいて思わず肩が震えた。
「まさか同じマンションとはな…」
「土方さんも知らなかったのか?」
「ああ。最近は個人情報保護だの何だのでそうそう把握できるもんじゃねぇんだよ」
そう言って煩わしげにため息を吐いた。二人で繰り広げられる会話を聞いていると、徐々に身体が小さくなっていくような気がする。
そうだ、同じ建物に――まして隣りに自分の勤めている学園の生徒がいるなんて気分のいいものではないはずだ。それに気付いてしまったら申し訳なくなってしまい、自ずと頭が下に向かった。
「おい」
「…はい」
俯けた頭を土方さんへと起こす。
「どんな事情であれ、ガキの一人暮らしなんて感心できたもんじゃねぇが…なんだ」
「?」
「隣りのよしみだ、相談くらいにならのってやれるだろう」
まさか土方さんがそう言って下さるなんて思わず、目を見張ってしまった。気まずそうに視線をさまよわせていた土方さんは、びっくりしている私を見ると安心させるかのように柔らかく微笑んだ。
滅多に見られない表情をしっかり焼き付けたい気持ちとは裏腹に、何故か私はすぐに目を逸らしてしまった。
『Oh!マイホーム!』
「ったく、土方さんは…」
「あ? なんだよ」
「いいや。……無自覚ってのが余計質悪いよな」
私って実はエスパーなのかもしれない、もしくはトリップした時に備わった新しい力なのだろうか。
「(ここを右…? んでここを真直ぐ…?)」
不思議に思いながらも、今はこの感覚に託すしかないと若干弱腰で路を辿った。
――ふとそれまで導いていた意識が途絶えた。
家に着いたのだろうか。立ち止まって辺りを見回せば、コンビニと空地とビル――そして目の前に高くそびえ立つマンション。再度周りを確認しても住まいらしき建物はこのマンションしか見当たらない。
本当にここなら、こんなリッチな生活が保障されるならトリップも悪くないかもしれない。
邪な考えを浮かべながらマンションの入り口に向かい、部屋番号を入力する。やっぱり手が自然と自分の番号を入れていたので、ここが私の家なのだろう。
開いた自動ドアに足を踏み入れれば、大きな噴水がお出迎え。だだっ広いエントランスは吹き抜けになっていて、上を見上げればオレンジに染まった空が覗かせていた。
いかにもな空間に気後れしながらも、感覚任せにエレベーターに乗り込んで六階まで上がる。
とりあえず最上階じゃなくてよかった。そんなとこに住んだ日には落ち着かなくてとても過ごせたものではなかっただろう。
そんな自分の庶民的思考に虚しさを感じつつ、扉が並ぶ壁の丁度真ん中辺りの部屋の前に立つ。ノブの近くに鍵穴を発見して焦ったのも束の間、鞄のポケットを漁ったらあっさり鍵が出てきた。それを差し込んで回せば、軽快な解錠音が主を迎える。
「お、お邪魔しまーす…?」
自分の家というつもりでここまで来たのだが、やはり初めて訪れるのになかなかそうは思えない。当然のように中から返事は返って来ず、恐る恐る靴を脱いで上がった。
部屋はマンションの外観通りの広さで、インテリアもシンプルだが妙な気品が漂っている。しかし空き部屋だったのだろうか、いくら見渡しても生活感は一切感じ取れなかった。いやあったらあったで困るのだが。
「今日からここが私の家!」という意識はあっても、なかなか気持ちが追い付かない。部屋のソファに数段階に分けて腰掛け天井を仰ぐ。
「後から人来たらどうしよう…」
それで泥棒だとか空き巣だとか言われて警察に突き出されたらろくな言い訳もできず、私の人生はジ・エンドだ。背中に悪寒が走って余計身体が丸まった。
こういう時は最悪の事態は考えないほうがいい。どうせなるようにしかならないのだ。それでいいのだ(ありがとう、バ〇ボンパパ)。
まだ自分の部屋を把握したり、腹ごしらえもしたいところではあるが、一応転居してきたということになる。これからお世話になるのだから、大家さんやお隣りに挨拶しに行かなければならないだろう。色々聞かれたりとかしたらかなり困るが…適当に誤魔化すしかない。
まずは手近なお隣りさんだ。本来ならば菓子折りも礼儀として欲しいところだが、手持ちのお金もないし仕方がない。また別の機会に渡そう。
玄関を出ると、自分の部屋から右手のお宅の前に立つ。
「(襟よしリボンよしブレザーよし…スカートよし)」
身だしなみを整えてインターホンを押す。緊張しながら家主の声を待っていると、いきなり扉が開く音がした。まずはインターホンで会話する気満々だったのに…! せっかくのセキュリティなのにまるで意味がないじゃないか。
「あのっ、今日から隣りに越して来た名字ユウと申しま……」
緊張のあまりフライングして下げてしまった頭を上げれば、ぽかんとした表情の男性。あらやだ、これまた美形なお方――って。錆びたブリキ人形の如く鈍い動きで表札を見れば、洋風なマンションに似つかわしくない檜の板にくっきり「原田」と彫られていた。
「お前、その制服…うちの生徒か?」
「は、はい」
心底驚いたという表情で告げる、原田さん。恐らくゲームの中でいう“原田左之助”だろう。いつか会うのだろうなとは思ってはいたが、いかんせん場所が想定外すぎる。
バクバクと脈打つ心臓を落ち着かせていると、訝しげな視線を送られていることに気付く。
「俺は原田左之助だ。学園の保体担当で教師なんだが……親御さんは一緒じゃないのか」
「はい。ちょっと訳あって一人暮らしで…」
我ながら苦しい言い訳だ。しかも先生なら学園の資料を見れば生徒の身の上なんて簡単に知れるはず。せめてこの場だけでも凌ごうと必死に目を泳がし、苦笑いを繰り返す。
「……ま、家庭の事情ならしゃあねぇな。困った時は頼ってくれていいぜ」
「ありがとうございます…!」
頭に軽く乗せられた手のひらがあまりに力強くて、心が少し楽になった気がした。
「――お前ら、何やってんだ…?」
この声を聞くまでは。
なんだかいやにドスが効いているのは気のせいか。はばかられるが、視線を右にずらす。そこにはこれでもかというぐらい眉間に皺を寄せた土方さんが立っていた。
背中におびただしい冷や汗をかいていると、原田さんが「新しい隣人さんだってよ」と私の頭を軽く叩きながら何でもない風に言ってみせた。そういう土方さんは、原田さんのところに訪れに来たのだろうか。
「隣人?」
「おう。だから土方さんの隣りでもあるぜ」
「……。
え?」
それまで土方さんに向けていた目を九十度回転させ、原田さんに切り替える。頭上にクエスチョンマークを浮かべた後、私の表情を見て思い付いたように説明してくれた。
「土方さんは俺の二つ隣りに住んでんだ。…つまり、名字は俺と土方さんの間の部屋に越してきたっつーわけだな」
「なるほど」
分かりやすい説明で納得はしたものの、とんでもない状況に内心の私はのたうち回っていた。
ちらっと脇を見やれば土方さんが直ぐそばにいて思わず肩が震えた。
「まさか同じマンションとはな…」
「土方さんも知らなかったのか?」
「ああ。最近は個人情報保護だの何だのでそうそう把握できるもんじゃねぇんだよ」
そう言って煩わしげにため息を吐いた。二人で繰り広げられる会話を聞いていると、徐々に身体が小さくなっていくような気がする。
そうだ、同じ建物に――まして隣りに自分の勤めている学園の生徒がいるなんて気分のいいものではないはずだ。それに気付いてしまったら申し訳なくなってしまい、自ずと頭が下に向かった。
「おい」
「…はい」
俯けた頭を土方さんへと起こす。
「どんな事情であれ、ガキの一人暮らしなんて感心できたもんじゃねぇが…なんだ」
「?」
「隣りのよしみだ、相談くらいにならのってやれるだろう」
まさか土方さんがそう言って下さるなんて思わず、目を見張ってしまった。気まずそうに視線をさまよわせていた土方さんは、びっくりしている私を見ると安心させるかのように柔らかく微笑んだ。
滅多に見られない表情をしっかり焼き付けたい気持ちとは裏腹に、何故か私はすぐに目を逸らしてしまった。
『Oh!マイホーム!』
「ったく、土方さんは…」
「あ? なんだよ」
「いいや。……無自覚ってのが余計質悪いよな」