【hkok】春うらら
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「――今帰った」
「おかえりなさい、お疲れ様です」
座っていた腰を上げて声の主を迎える。そのまま部屋へ向かいテーブルを前にあぐらをかいて座る土方さんを見て、いつも通り二人分のお茶を淹れてそこに持って行く。
最近の土方さんは疲れた様子で帰ってくることが多くなった。しかしそれは決して不健康の意味ではなく、見ているこちらにも充実感を感じさせるものだ。証拠に、疲れと同じくらい笑顔も多く見せるようになった。
腰を落ち着かせて話すのはもっぱら道場でのこと。あいつはなかなか筋がいい、あいつは落ち着きがなくて指導が大変だ、など……内容だけ聞けば愚痴にすら取れてしまうものもあるのに、その表情はいつも柔らかだった。
「…何笑ってんだ」
「いえ、…ただ、楽しそうだなって思いまして」
訝しげに眉を寄せる土方さん。以前ならあまりの迫力に怯んでしまっていたが、彼の内面をほんの少しだけ理解した今の私は至って心を落ち着かせていた。
一方の土方さんは、私の言葉を聞いて寄せていた眉をぴくりと吊り上げた。それに連動して落ち着いていたはずの心臓が跳ねる。…まだまだ怯んでるらしい自分に苦笑しか出てこない。
湯のみを口に持っていって気を紛れさせていると、予想外に穏やかな声が土方さんから発せられた。
「そうだな。いつまでも此処で腐ってたって何にもならねぇしな」
どうせなら実のある生活を送りてぇんだ、と眩しいくらい清々しい笑顔を向ける。
前から思っていたが、この人は強い。自分のいた時代から突然未来に連れて来られて、こうして堂々と背筋を伸ばして前を見ている。もちろん、彼の心に抱えているものは誰にも見えないが、少なくとも外から見て弱さが見えないのは間違いなく彼の強さだと思った。
さっきまでの迫力とは別の意味で言葉を失っていたが、呼吸するかのように不意に「強いですね」とこぼしていた。はっとなって口を抑えた頃には土方さんがこちらを見て緩やかに笑んでいた。
「強かねぇよ、今の俺はやっとのことで立ってんだ。
…名字に支えられてな」
「そんな、私は何にも」
「いや、実際助かってるんだ。もしお前じゃない誰かや、手がかりも何にもないところだったら、なんて考えたら肝が冷える。言葉は悪いが、此処に来れたのは不幸中の幸いってやつだろう。
だから…… 名字には感謝している。ありがとう」
感謝を述べた彼の頭はゆっくりと下げられた。いつかの状況と似た今の状態にあたふたと顔を上げるよう告げる。
「――それに、支えられているのは私も同じです」
やっと顔を上げて下さった土方さんが疑問を抱いた目を向ける。私はそれに後押しされて拙いながらも確実に形として言葉を紡ぎ出す。
自分から一人暮らしを進み出たのにも関わらず、始めてから幾分か過ぎて次第に寂しさを感じるようになった。かといって仕事など諸々の事情があるから、実家にとんぼ返りなんてできたものじゃない。それに社会人にもなって親に頼るのは些か抵抗があるものだ。
故に、土方さんの存在は(今になって思えば)とても有り難かった。
言葉の最後に「ありがとうございます」と付けて、頭を下げる。
私にしてみれば物足りないぐらいの時間だったのだが、顔を上げろと本人に言われては仕方なく前を向いた。
真っ先に視界に入ってきたのは、困ったような、それでいて照れたように笑う土方さん。つられて私も笑みを浮かべれば、どちらからともなく湯のみを手にとって啜った。
「おかえりなさい、お疲れ様です」
座っていた腰を上げて声の主を迎える。そのまま部屋へ向かいテーブルを前にあぐらをかいて座る土方さんを見て、いつも通り二人分のお茶を淹れてそこに持って行く。
最近の土方さんは疲れた様子で帰ってくることが多くなった。しかしそれは決して不健康の意味ではなく、見ているこちらにも充実感を感じさせるものだ。証拠に、疲れと同じくらい笑顔も多く見せるようになった。
腰を落ち着かせて話すのはもっぱら道場でのこと。あいつはなかなか筋がいい、あいつは落ち着きがなくて指導が大変だ、など……内容だけ聞けば愚痴にすら取れてしまうものもあるのに、その表情はいつも柔らかだった。
「…何笑ってんだ」
「いえ、…ただ、楽しそうだなって思いまして」
訝しげに眉を寄せる土方さん。以前ならあまりの迫力に怯んでしまっていたが、彼の内面をほんの少しだけ理解した今の私は至って心を落ち着かせていた。
一方の土方さんは、私の言葉を聞いて寄せていた眉をぴくりと吊り上げた。それに連動して落ち着いていたはずの心臓が跳ねる。…まだまだ怯んでるらしい自分に苦笑しか出てこない。
湯のみを口に持っていって気を紛れさせていると、予想外に穏やかな声が土方さんから発せられた。
「そうだな。いつまでも此処で腐ってたって何にもならねぇしな」
どうせなら実のある生活を送りてぇんだ、と眩しいくらい清々しい笑顔を向ける。
前から思っていたが、この人は強い。自分のいた時代から突然未来に連れて来られて、こうして堂々と背筋を伸ばして前を見ている。もちろん、彼の心に抱えているものは誰にも見えないが、少なくとも外から見て弱さが見えないのは間違いなく彼の強さだと思った。
さっきまでの迫力とは別の意味で言葉を失っていたが、呼吸するかのように不意に「強いですね」とこぼしていた。はっとなって口を抑えた頃には土方さんがこちらを見て緩やかに笑んでいた。
「強かねぇよ、今の俺はやっとのことで立ってんだ。
…名字に支えられてな」
「そんな、私は何にも」
「いや、実際助かってるんだ。もしお前じゃない誰かや、手がかりも何にもないところだったら、なんて考えたら肝が冷える。言葉は悪いが、此処に来れたのは不幸中の幸いってやつだろう。
だから…… 名字には感謝している。ありがとう」
感謝を述べた彼の頭はゆっくりと下げられた。いつかの状況と似た今の状態にあたふたと顔を上げるよう告げる。
「――それに、支えられているのは私も同じです」
やっと顔を上げて下さった土方さんが疑問を抱いた目を向ける。私はそれに後押しされて拙いながらも確実に形として言葉を紡ぎ出す。
自分から一人暮らしを進み出たのにも関わらず、始めてから幾分か過ぎて次第に寂しさを感じるようになった。かといって仕事など諸々の事情があるから、実家にとんぼ返りなんてできたものじゃない。それに社会人にもなって親に頼るのは些か抵抗があるものだ。
故に、土方さんの存在は(今になって思えば)とても有り難かった。
言葉の最後に「ありがとうございます」と付けて、頭を下げる。
私にしてみれば物足りないぐらいの時間だったのだが、顔を上げろと本人に言われては仕方なく前を向いた。
真っ先に視界に入ってきたのは、困ったような、それでいて照れたように笑う土方さん。つられて私も笑みを浮かべれば、どちらからともなく湯のみを手にとって啜った。