♪ 真珠色の恋
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
人間(魚)、酔っぱらうのにアルコールは必ずしも必要なわけではないようだ。
ここぞとばかりに一芸を披露する者、スプーンを落としただけでゲラゲラ笑っている者、「あの寮長が俺たちを労ってくれるなんて」と感動し号泣する者……などなど。場の雰囲気に酔い、完全に出来上がってしまった寮生たち。室内は混沌としながらも、皆最低限の理性は保っているようだった。それもそのはずで、あまりにも目に余る行為があれば副寮長が一瞬にしてその寮生を気絶させていたからである。まるで必○仕事人のような鮮やかな動きを傍目にみながら、何とか気分を切り替えたユウはテーブルの上に広がるご馳走を味わう。あれもこれもと欲張って取ってしまったお蔭で、質より量という思考が全面に出た一皿が出来上がってしまった。これじゃ私もグリムのことを言えないな、と苦笑していれば、「ばぁ♡」という声と共に頭上から二つの似た顔が覗き込んできた。
「びっ……くりするじゃないですか」
フロイド先輩、とジト目で言うと彼はにっこりと笑ってユウのフォークを奪い、刺してあったタコのカルパッチョを頬張った。もう一方の先輩は先輩で、ユウの何倍も大きな山の出来上がっているお皿を手に微笑んでいる。
「ユウさんは何故、アズールを引き止めなかったんですか?」
ジェイドの問いに、無意識にユウの眉間に力が入った。せっかく気分を切り替えたというのにこれではまた逆戻りだ。ぶすり、と皿のタコを刺しながら「別に私が引き止める理由なんて無いですし」と抗議を込めた強い口調で言い返す。
確かに残念ではあるが、常日頃から忙しそうにしているアズールである。今回だって何か外せない用事があったのだろう。ユウは改めて自分に言い聞かせていると、横に立って聞いていたフロイドは「ふーん」と溢す。その顔は何処か物知りげで。ユウが怪訝な視線を送っていれば、ペロリと舌なめずりをしたフロイドが「なんでか知りたい?」と笑みを浮かべる。
「いけませんよ、フロイド。アズールがこれからラゼリアさんと……あっ」
「ちょっとダメじゃんジェイド〜。アロワナちゃんと二人でディナー行くなんて言っちゃ……あっ」
「………え?」
ポロッ、と宙に浮かせたままのフォークからタコが床に転げ落ちた。式典服の胸元に染みを作って転がったそれを見送ることなく、ユウは双子を見据えたまま固まる。
――アズール先輩が、あの美しい女性と、二人きりで、ディナーを。
一語一語を区切りながら丁寧に咀嚼しようが、知らされた事実は変わらない。魂が抜けたかのように、今のユウには何も考えられなかった。強制的に頭の中に描かれたのは、昼間に見たアズールと彼女の楽し気な姿。それが今もどこかのお店で、自分の知らないところで存在していることを思い描くと、今にもその場にへたり込みそうだった。
俯きながら堪えていると、「ユウくん、どうしたんスか?」とラギーが下から覗き込む。
「な、なんでもないです……」
「でも顔色良くないっスよ。もしかして調子に乗って食べ過ぎたとか? それか……そこの二人にいじめられたとか」
「おやおや、ラギーさんも人聞きの悪いことを。僕たちはただ、恋に悩めるユウさんにアドバイスをして差し上げただけですよ」
「そーそー。オレたちやさし~から」
「あ~……だいたい状況は飲み込めたっス」
同情を込められた目で見られると、余計に自分自身が惨めで情けなく思えてくるというもので。ユウはキッと顔を上げると、テーブルに置いてあるノンアルコールカクテルが並々入ったグラスを掴む。そのまま煽るように飲み干せば、三人から「おお」と声が上がった。飲まなきゃ、食べなきゃやってられるかとでも言うように、ユウは食べかけのまま残していた食事に手をつける。
「小エビちゃんもさぁ、もっと積極的にアピールしたほうがいいんじゃねぇの。アズールって昔からそっち方面は稚魚並に鈍いし」
「そうですね。今のままでは恋人になるどころか、告白すら出来ませんよ」
何なら協力して差し上げますよ、とジェイドとフロイドは双子らしくお揃いの笑顔を浮かべる。薄々気づいてはいたもののやはり自分の気持ちはとうに彼らにはバレていたのだろう。ユウは恥ずかしいやら、居た堪れないやらで深くため息を吐いた。とはいえ、もともと告白するつもりなんてハナから無いのだ。だから二人の力を借りるつもりは無い。そう伝えれば、二人だけでなくラギーまでもが「ええ?」と非難の声を上げた。
「アズールくんの前ではあからさまに萎らしくなるし、オレからすればユウくんの気持ちに気づかないほうが不思議っスけどね」
「……そんなに私って分かりやすかったんですか」
思いもしなかった事実に、ユウはがっくりと肩を落とした。「どうしても気づかれたくないんでしたら、今みたいに普通に喋ったほうがいいのでは」と、ジェイドは至極単純な話とばかりに言う。ユウにとってはそれがなかなかどうして難しかった。
「先輩たちにはどう思われても構わないので意識しなくて済むんですけど。アズール先輩相手だと、嫌われたくないって気持ちが先に来ちゃってぎこちなくなっちゃうんですよね」
「うわ~、小エビちゃんかわいくねぇ」
「ぐえっ」
不満を垂らしたフロイドに、頭の上からのしかかられる。彼の全体重を掛けられては、首がぽっきりいってしまいそうだ。両手を使って何とか押し退けた。
「にしても、あの色んな意味で賢いアズールくんが気づかないのは意外っスね」
「頭がいいからこそ、分からないのかもしれません」
「どういうことです?」
ぼそりと呟いた言葉に、三人は一様に首を傾げた。恐る恐る、ユウは自分の考えを口にする。
「視野が広いだけに、自分に近づいてきた人のバックグラウンドがアズール先輩には分かってしまうんです。裏に悪意を持った人とか計算をしている人は一番に気が付いてしまうから、純粋に好意を向けている人も何かしら理由をつけてそういう人たちと一緒方にして扱ってしまうんじゃないでしょうか」
それにはきっとイソギンチャク事件で知った彼の幼少期や、育ってきた環境が起因しているのだろう。あの日のことを思い出しながら、手段を選べなかったとはいえ強引なことをしてしまったと少し反省した。
「そうかもしれないっすねぇ。損得勘定無しで寄ってくるお花畑頭はカモにはうってつけだし」
ニシシ、と笑うラギーをユウは何とも言えない表情で横目に見る。彼の言葉を頭ごなしに否定することは出来なかった。純粋な好意をアズールが認識したところで、それをどう扱うのかまではまだ分からない。いや、思いを伝えないと決めた今となってはユウには一生知り得ないことだ。
――ならば、今頃一緒にディナーを楽しんでいる彼女はどうなのだろうか。きっと彼女の向ける思いも純粋な好意に違いない。それを受け取ったアズールはどうするのだろう。一度は考えようとしたが、答えをはっきりと形にする前に頭を振って掻き消した。知ったところで自分の気持ちや立ち位置が変わるわけではない。むしろ一層惨めになるだけだ。
「楽しんでいってください」と言ってくれたアズールの声を思い出し、ユウはまだまだ残っている料理たちを楽しむことにした。
ここぞとばかりに一芸を披露する者、スプーンを落としただけでゲラゲラ笑っている者、「あの寮長が俺たちを労ってくれるなんて」と感動し号泣する者……などなど。場の雰囲気に酔い、完全に出来上がってしまった寮生たち。室内は混沌としながらも、皆最低限の理性は保っているようだった。それもそのはずで、あまりにも目に余る行為があれば副寮長が一瞬にしてその寮生を気絶させていたからである。まるで必○仕事人のような鮮やかな動きを傍目にみながら、何とか気分を切り替えたユウはテーブルの上に広がるご馳走を味わう。あれもこれもと欲張って取ってしまったお蔭で、質より量という思考が全面に出た一皿が出来上がってしまった。これじゃ私もグリムのことを言えないな、と苦笑していれば、「ばぁ♡」という声と共に頭上から二つの似た顔が覗き込んできた。
「びっ……くりするじゃないですか」
フロイド先輩、とジト目で言うと彼はにっこりと笑ってユウのフォークを奪い、刺してあったタコのカルパッチョを頬張った。もう一方の先輩は先輩で、ユウの何倍も大きな山の出来上がっているお皿を手に微笑んでいる。
「ユウさんは何故、アズールを引き止めなかったんですか?」
ジェイドの問いに、無意識にユウの眉間に力が入った。せっかく気分を切り替えたというのにこれではまた逆戻りだ。ぶすり、と皿のタコを刺しながら「別に私が引き止める理由なんて無いですし」と抗議を込めた強い口調で言い返す。
確かに残念ではあるが、常日頃から忙しそうにしているアズールである。今回だって何か外せない用事があったのだろう。ユウは改めて自分に言い聞かせていると、横に立って聞いていたフロイドは「ふーん」と溢す。その顔は何処か物知りげで。ユウが怪訝な視線を送っていれば、ペロリと舌なめずりをしたフロイドが「なんでか知りたい?」と笑みを浮かべる。
「いけませんよ、フロイド。アズールがこれからラゼリアさんと……あっ」
「ちょっとダメじゃんジェイド〜。アロワナちゃんと二人でディナー行くなんて言っちゃ……あっ」
「………え?」
ポロッ、と宙に浮かせたままのフォークからタコが床に転げ落ちた。式典服の胸元に染みを作って転がったそれを見送ることなく、ユウは双子を見据えたまま固まる。
――アズール先輩が、あの美しい女性と、二人きりで、ディナーを。
一語一語を区切りながら丁寧に咀嚼しようが、知らされた事実は変わらない。魂が抜けたかのように、今のユウには何も考えられなかった。強制的に頭の中に描かれたのは、昼間に見たアズールと彼女の楽し気な姿。それが今もどこかのお店で、自分の知らないところで存在していることを思い描くと、今にもその場にへたり込みそうだった。
俯きながら堪えていると、「ユウくん、どうしたんスか?」とラギーが下から覗き込む。
「な、なんでもないです……」
「でも顔色良くないっスよ。もしかして調子に乗って食べ過ぎたとか? それか……そこの二人にいじめられたとか」
「おやおや、ラギーさんも人聞きの悪いことを。僕たちはただ、恋に悩めるユウさんにアドバイスをして差し上げただけですよ」
「そーそー。オレたちやさし~から」
「あ~……だいたい状況は飲み込めたっス」
同情を込められた目で見られると、余計に自分自身が惨めで情けなく思えてくるというもので。ユウはキッと顔を上げると、テーブルに置いてあるノンアルコールカクテルが並々入ったグラスを掴む。そのまま煽るように飲み干せば、三人から「おお」と声が上がった。飲まなきゃ、食べなきゃやってられるかとでも言うように、ユウは食べかけのまま残していた食事に手をつける。
「小エビちゃんもさぁ、もっと積極的にアピールしたほうがいいんじゃねぇの。アズールって昔からそっち方面は稚魚並に鈍いし」
「そうですね。今のままでは恋人になるどころか、告白すら出来ませんよ」
何なら協力して差し上げますよ、とジェイドとフロイドは双子らしくお揃いの笑顔を浮かべる。薄々気づいてはいたもののやはり自分の気持ちはとうに彼らにはバレていたのだろう。ユウは恥ずかしいやら、居た堪れないやらで深くため息を吐いた。とはいえ、もともと告白するつもりなんてハナから無いのだ。だから二人の力を借りるつもりは無い。そう伝えれば、二人だけでなくラギーまでもが「ええ?」と非難の声を上げた。
「アズールくんの前ではあからさまに萎らしくなるし、オレからすればユウくんの気持ちに気づかないほうが不思議っスけどね」
「……そんなに私って分かりやすかったんですか」
思いもしなかった事実に、ユウはがっくりと肩を落とした。「どうしても気づかれたくないんでしたら、今みたいに普通に喋ったほうがいいのでは」と、ジェイドは至極単純な話とばかりに言う。ユウにとってはそれがなかなかどうして難しかった。
「先輩たちにはどう思われても構わないので意識しなくて済むんですけど。アズール先輩相手だと、嫌われたくないって気持ちが先に来ちゃってぎこちなくなっちゃうんですよね」
「うわ~、小エビちゃんかわいくねぇ」
「ぐえっ」
不満を垂らしたフロイドに、頭の上からのしかかられる。彼の全体重を掛けられては、首がぽっきりいってしまいそうだ。両手を使って何とか押し退けた。
「にしても、あの色んな意味で賢いアズールくんが気づかないのは意外っスね」
「頭がいいからこそ、分からないのかもしれません」
「どういうことです?」
ぼそりと呟いた言葉に、三人は一様に首を傾げた。恐る恐る、ユウは自分の考えを口にする。
「視野が広いだけに、自分に近づいてきた人のバックグラウンドがアズール先輩には分かってしまうんです。裏に悪意を持った人とか計算をしている人は一番に気が付いてしまうから、純粋に好意を向けている人も何かしら理由をつけてそういう人たちと一緒方にして扱ってしまうんじゃないでしょうか」
それにはきっとイソギンチャク事件で知った彼の幼少期や、育ってきた環境が起因しているのだろう。あの日のことを思い出しながら、手段を選べなかったとはいえ強引なことをしてしまったと少し反省した。
「そうかもしれないっすねぇ。損得勘定無しで寄ってくるお花畑頭はカモにはうってつけだし」
ニシシ、と笑うラギーをユウは何とも言えない表情で横目に見る。彼の言葉を頭ごなしに否定することは出来なかった。純粋な好意をアズールが認識したところで、それをどう扱うのかまではまだ分からない。いや、思いを伝えないと決めた今となってはユウには一生知り得ないことだ。
――ならば、今頃一緒にディナーを楽しんでいる彼女はどうなのだろうか。きっと彼女の向ける思いも純粋な好意に違いない。それを受け取ったアズールはどうするのだろう。一度は考えようとしたが、答えをはっきりと形にする前に頭を振って掻き消した。知ったところで自分の気持ちや立ち位置が変わるわけではない。むしろ一層惨めになるだけだ。
「楽しんでいってください」と言ってくれたアズールの声を思い出し、ユウはまだまだ残っている料理たちを楽しむことにした。