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折り紙

立花仙蔵と歳上のヒト



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昔から彼は、あたしより年下なのに、あたしよりもずっとしっかりしていた。

何をやっても彼の方が上手くて、幼い頃のあたしはいつも悔しい思いをしていたのだ。


「また、仙ちゃんの方が上手だ。ずるい。」

手元に出来た折り紙を見比べてあたしは膨れた。


折り目の揃ってないあたしの折り紙と彼のきっちり揃えて折られた折り紙を比べると、明らかに彼の方が綺麗に出来ている。

「ずるいとかずるくないの問題じゃないよ。」


と言いながら、あたしが折るのが下手すぎなんだと彼は笑う。
それはあたしを馬鹿にした笑いではなかった。

今なら、あの時の彼の笑顔がどんな意味だったのか分かる。

微笑ましいとか、いとおしいとかそんな感情が含まれていたのだろう。

でも、その頃のあたしはそうゆう感情を汲み取る能力はまだなくて。


「笑うなんて、最低。」

と不機嫌に折ったばかりの紙ふうせんを膨らますと彼に投げつけたのだ。


彼に勝てなくて悔しい。

いつか、彼をあっと驚かせてやる。

その思いは彼と離れ離れになってからも消える事はなく。

八年も経った今でも、あたしの中に残っている。

もし、彼と再会する事が出来るのなら


あたしは絶対に負けないんだから。





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六年にもなれば、忍術学園へときた依頼が、課題という名で割り当てられる。

それらの多くは危険を伴うものばかりだ。

そして、今回の私の課題は


とある城のお姫様の護衛である。



「失礼します。ご夕飯の支度が調いました。運び入れても宜しいでしょうか。」

そう言って豪華な襖を開けると中には、十七、八歳ぐらいの美しい姫が座っていた。


「仙子さん。わざわざ運んで来てくださったのですか。」

姫がにっこりと笑う。


現在、私は“仙子”と名前と性別を偽り、姫付きの侍女としてこの城に潜入していた。


「お食事を準備しても宜しいですか。」


「あっ、ちょっと待って下さい。」

そう言うと姫は、慌てながら周囲を片付ける。

本来ならば、侍女なんかにお姫様が敬語を使う必要はない。


しかし、彼女は幼い頃から市井で長らく暮らしていた為、侍女にすら敬語を使うようになったらしい。
これは癖だから仕方がなのだと彼女は笑った。


慌てる彼女の手元には、色鮮やかな折り紙が散らばっていた。


「暇でしたので…。」

恥ずかしそうに折り紙を彼女は片付ける。

命を狙われている為、彼女は城の奥へと匿われていた。

豪華な部屋の造りとは裏腹に、窓がない為に圧迫感が強く、息が詰まりそうな部屋だと仙蔵は思う。

ましてや市井の生活を知っている彼女なら尚更の事、ここでの生活は窮屈であろう。


仙蔵は、散らばる折り紙を一つ拾った。

まだ膨らんでない紙ふうせん。


ズキリと一瞬、胸の奥が痛みを訴え、懐かし記憶が脳裏に浮かぶ。


「あっ、仙子さん。それ気に入りました。」


「いいえ、違います。」


「そうですか。でも、その折り紙は仙子さんに差し上げます。」


姫は、そう言うと他の折り紙が入った箱を棚に戻そうと立ち上がる。

そんな彼女を仙蔵は後ろから抱き締めた。




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「なっ・・・。」


姫が驚きの声を出す前に口元を塞ぐ。

その瞬間、部屋に投げ込まれた煙玉が爆発する。


そして、煙幕の向こう側から数名の着地音が聞こえた。


「姫様は私の後ろに…。」


仙蔵は懐から短刀を取りだし構えた。

暗殺者が襲って来たのだ。


―― 天井裏からとは芸ない奴らだ。ましてや煙玉など。――


襲ってきた一人目を難なく短刀で叩き伏せる。

二人目が繰り出した刀の切っ先を短刀で防ぎ、その隙を突いて一撃を喰らわす。

三人目へと視線を滑らせた時、仙蔵はこの部屋の異常に気が付いた。

煙幕が長過ぎる。もうとっくに消えてもよいはずなのに。

襲われたこの部屋に窓はない。空気の換気が悪いのだ。

しかし、それだけでは・・・。


ゴホッ。

喉の焼けつくような痛みに仙蔵は眉間に皺を寄せた。


―― 毒か。――

そう思った時、一瞬の隙が出来た。


「残念。75点だね。」

言葉と共に背後から手が伸びると遠慮なく仙蔵は後に引っ張られた。


ガタン。音と共に床が抜けたのだ。




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落下の衝撃で手から短刀が離れる。
カランと落ちた短刀の音にクスリと笑う女の声。

それでも仙蔵は懐から苦無を取りだし、臨戦態勢を保つ。


「流石は、六年い組の立花仙蔵。」


仙蔵と共に床下に落ちた姫は、先程とはまるで別人の声音で言った。


「まさか、守るはずの相手に裏切られるとは。」

仙蔵も苦無を構えたまま姫を見据えた。
そんな仙蔵を見つめた後、彼女は悩むように額に手をあてた。


「う~ん?。やっぱり60点かな。」

彼女が呟き、額から手を動かすと、仙蔵の横を何かが通り過ぎた。


ドサリと暗殺者が倒れる。その体には深々と手裏剣が刺さっていた。
いつの間にか彼らもこの床下に降りてきていたのだ。

そして、その暗殺者を彼女が仕留めた。



「とりあえず、話しは後で。」


姫だった女は、そう言うと隠し通路へと姿を消した。

仙蔵も急いで後を追う。



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隠し通路の行き先は城の裏庭へと通じており、その裏庭で彼女は私を待っていた。


「敵を騙すにはまず味方からってね。本物の姫様は君が来る前から安全な場所に避難していたのよ。」


黒の忍装束を着こんだ彼女が仙蔵に囁く。


「さぁ、仙ちゃん。君お得意の宝禄火矢で存分に暴れるが良い。」


二人を囲むように現れた敵の集団に彼女は臆する事なく、得意気にニヤリと口角を上げた。


「勿論、あたしも加勢するけどね。」

そう言って仙蔵の背後を守るように苦無を構える。



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辺りにいた敵を倒して、悠々と立つ彼女の忍としての腕前は本物で、まるで昔の彼女と別人に見えて

思わず、彼女の名前を私が八年ぶりに呼ぶと、彼女はクルリと振り向いた。


「仙ちゃん。次からはあたしの名前の後に“先生”って付けないと駄目だからね。」

そして、堂々と私に宣戦布告をするのだ。

「仙蔵、もうあなたには負けないわ。」


驚く私を見て、彼女はヨシっとガッツポーズを作る。


「あたし、受かちゃったの。忍術学園の教員試験に。」


その言葉の後、彼女は幼かったあの頃とかわらない無邪気な笑顔を浮かべる。


「仙蔵。ありがとう。あたしを覚えててくれて。」
















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