忍者と井戸と幽霊
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そもそも、何故こんなにも焦っているかと言うと
アレを一番最初に
彼らに、自慢したからだ。
「やっと買ったんだ。群青色の髪紐。」
「千鶴先輩、良かったですね。」
「どうよ、似合うかな。」
「まぁまぁじゃないっスかぁ。」
「えー。まぁまぁかぁ。」
「そんな事ありません。先輩よく似合ってますよ。」
とまぁ、少しばかり後輩に気を使わしてしまったような気もするが、それでも、あの時は素が出てしまうくらい、嬉しかったのだ。
でも今思えば、あまり男の子のする発言ではないと、反省しているけれど。
気をつけなければ、私が男装している事がばれてしまう。
その事についてなら今回は、かなりヤバイ状況だ。
実は、忍たまで色付きの髪紐は珍しく、特に規定があるわけではないので色が付いていても、なにも問題はないのだけれど。
ほとんどの生徒は白色の髪紐を使っている。
なので、もし、今度の幽霊騒動の現場であの髪紐が発見されるとかなりまずいのである。
幽霊は血まみれの女性。もし、髪紐のせいで私だとばれたなら、男装している事までもが一緒にばれてしまうから。
「なんとしても、先に見つけなければ。」
と千鶴は意気込むが、周りは既には組に囲まれていた。
「何を先に見つけるんですか?。」
後の庄左ヱ門に問いかけられて、千鶴はドキっとしながらも、それを顔には出さずに答えた。
「そりゃもちろん、幽霊だよ。やっぱりどんなものか見て見たいしさ。」
すると、きり丸が目玉を小銭にして、千鶴の服を引っ張る。
「幽霊見学チケット売ったらもうかりますかね。」
「どうだろう。でも忍たまなのだから、幽霊を怖がってたら駄目だな。」
その言葉に、怖がって千鶴の制服を掴んでいた数人が手を離した。
それぞれが、あからさまに怖がってない風を装っている。
それが、なんだか微笑ましくて、千鶴はつい笑顔になった。
とは言え、やはりこの状況はあまり良くない。
ぞろぞろと12人で古井戸へと向かっているのだ。
流石に人数が、多すぎる。
ーー 困ったなぁ、どうしようか。ーー
そんな事を考えていると、近くで不気味なカラスの鳴き声がした。
とたんに千鶴の制服やら、腕などに再びは組の良い子達がくっつく。
「カラスぐらいで驚いてたら、この先に進めないぞ。」
苦笑しながら、千鶴は服を掴んでいたしんべヱの手を握る。
「先輩。どうして、忍たまだったら幽霊怖がっちゃぁいけないんですか。」
「あぁ、それは・・・。」
相変わらず、冷静な庄左ヱ門の質問に千鶴が答えようとすると。
“かぁぁーーーー”
再び、夕暮れ時の薄暗い闇の中から、カラスの鳴き声が邪魔をした。
「ねぇ、三治郎。この鳴き声って。」
「あっ、やっぱり虎若も気になる。」
三治郎と虎若が鳴き声のした木々を睨む。
それに、兵太夫が若干驚いたように聞き返す。
「もしかして、あの“カラス”なのか!。 」
「あのカラスってなに?。」
三人に付いてゆけず、ポッりと伊助が呟く。
「生物委員会で夜鴉を飼ってるんだけど、その一匹に脱走癖があって…。」
「兵太夫と三治郎にカラクリ仕掛けの鍵を作ってもらったのに、それでも…。」
「あいつ、また脱走したんだな。」
そう悔しいそうに兵太夫が言う。
「「とにかく、捕獲しないと。」」
生物委員の二人が力強く言い切った。
「そうゆう訳で、ぼく達はちょっと抜けるね。庄左ヱ門。」
「あれ、兵太夫も一緒に行くの。気をつけてね~。」
庄左ヱ門の言葉も聞き終わらないうちに三人とも走り去った。
「生物委員会も大変だよね。」
千鶴も同室の友人の苦労を知っている。
八左ヱ門も今頃、脱走したカラスを探しているのだろうか。
ーー でも、これで三人も人数減っちゃった。ーー
など、考えていると
喜三太、金吾、団蔵までもが居なくなってしまう。
湿っぽい草むらの中で、巨大ナメクジを見かけたらしい。
暴走した喜三太を二人は止めれなかったようだ。
あっという間に人数は半分になってしまった。
「無事、目的地まで行けるかなぁ。」
不安げな乱太郎の呟きは、段々と闇夜に染まる木々の中へと消えていった。
湿っぽい空気に
日暮れ時の薄暗さ
人気の無い寂しい木立
その陰にひっそりと
蔦が絡まる古井戸があるはずだ。
状況はあの日と同じ。
あの日と違うのは、あそこに私が居ない事だけ…。
人数が減ったので、千鶴とは組は一塊となって進む。
千鶴としては、何とかここを抜け出して落とした髪紐を探したいのだが、無理そうだ。
「そんなに怖がらなくても、大丈夫だよ。」
と言ってみたものの、乱太郎、きり丸、しんべヱに庄左ヱ門と伊助はそれぞれしっかりと千鶴をつかんでいる。
「もうすぐ古井戸が見えて……。」
ザバァーーーン。
庄左ヱ門の言葉を遮って、大きな水音が辺りに響く。
「「「「「!!。」」」」」
「まさか。そんな事あるはずが…。」
青ざめて立ち止まるは組の五人とは対象的に、千鶴は井戸へと駆け出そとするが
「先輩、危ないですって。」
乱太郎に服装を引っ張られる。それどころか残りの四人も必死に千鶴を止める。
ズルズルと五人を引きずり千鶴が木々の間を抜けた。
其処からだと井戸が良く見える。
「せんぱいぃぃーーー。止まって下さい。」
そう叫びつつ、千鶴にくっついたは組のよい子達は古井戸を見て一斉にビシッと固まった。
その視線は古井戸に釘付けだ。
薄暗い古井戸の前には
白い着物の黒髪の幽霊
ぼんやりとその横を青白い炎がゆらゆらと浮かぶ。
「「「「「出たーー!!。」」」」」
五人は叫ぶと同時にバッタリと倒れてしまう。
「えっ嘘、庄左ヱ門まで魂が飛んじゃってるの。」
千鶴が、慌てて倒れ五人をそれぞれ揺する。
「大丈夫か、乱太郎。きり丸、しんべヱ。伊助~。しっかりしろ、庄左ヱ門。」
呼び掛けたが反応がない。
「ちょっ、ヤバイって、お前らも手伝ってよ。」
千鶴の慌てた声に、古井戸に立つ幽霊が近付いて来る。
その背後でガサリと物音がすると人影が現れた。
「勘右衛門、雷蔵、兵助。どうしよう。」
現れた人影に千鶴が半泣きで訴える。
「大丈夫だから、お前も落ち着け。」
ぽんぽんと千鶴の頭を軽く撫でると勘右衛門が気絶した庄左ヱ門を揺すった。
同じように、雷蔵はきり丸を兵助は伊助を、千鶴が乱太郎としんべヱをそれぞれ起こす。
「うーん。尾浜先輩?。」
「あれ、不破先輩なんで居るんです。」
「「千鶴先輩ー。」」
「久々知先輩、その格好って。」
最後に起きた伊助が大声を上げる。
雷蔵、勘右衛門は群青色の制服姿だが、兵助だけ違ったのだ。
髷が解かれ黒々とした豊かな黒髪が水に濡れている。
ポタリと水滴が髪の毛から流れ落ち、兵助の白い着物を濡らした。
「久々知先輩が幽霊だったなんて。」
兵助の格好に気づいた乱太郎が驚く。
「と言う事は、い組が見た幽霊って久々知先輩なんですか。」
庄左ヱ門が尋ねると、勘右衛門が苦笑しながら頷く。
「えー。そんなぁ。」
がっかりして肩を落とすきり丸を雷蔵が宥めた。
「きり丸、大丈夫かい。」
「せっかくの金儲けが・・・。」
きり丸はしばらく立ち直れそうにないようで、かなり落ち込んでいる。
「久々知先輩なんで、そんな格好してるんです。」
伊助が、兵助に質問をすると。
「あぁ、これは・・・。」
答える兵助の声を遮ってて、新たに別の声がそれに答えた。
「驚忍の術の訓練をしてたのさ。」
「その声は…。」
背後から突然現れた人物の声に乱太郎達が振り向くと
「「「「「ほげげー。」」」」」
その人物の頭の部分が巨大なナメクジだったのだ。
「三郎、流石にその変装はないだろ。」
巨大ナメクジの正体、それは変装の名人鉢屋三郎。
その変装を見て、千鶴も呆れていた。
「私もそう思ったんだけど、こんなに喜こんじゃってるし、まぁいいっかと。」
そう言う三郎に抱き上げられてるのは先程、行方不明になった喜三太だ。
ナメクジの三郎に大喜びで抱きついている。
金吾と団蔵は、そんな二人の後ろをかなり引き気味で立っている。
「金吾、団蔵、喜三太。無事だったんだね」
ワイワイと再会を喜んでいる中、一人冷静な庄左ヱ門が千鶴の袖を引っ張る。
「先輩。驚忍の術って、どうゆう事なんです。」
その質問には千鶴ではなく三郎が答えた。
「庄左ヱ門は相変わらず冷静だな。」
三郎がそう言いながら、喜三太を地面に下ろすといつもの雷蔵の姿になる。
「驚忍の術ってのは・・・。」
するとバキバキと音がして三郎の言葉を遮り、草むらの中から何かが飛び出す。
「お前ら、ちょっと待った。」
そう叫ぶ彼は、千鶴達に言ったわけではなく、彼の後、追っ手へと言ったようで、こちらに気づいてない。
「八左ヱ門!!」
千鶴の驚いた声で、八左ヱ門もやっと状況を理解したらしい。
「よぉ、千鶴。」
八左ヱ門がニコッと笑う。
その肩には一羽の真っ黒のカラスが止まっていた。
「「「待てーー。」」」
八左ヱ門が出て来た草むらから三治郎、虎若、兵太夫が飛び出し、
その音に驚いて飛び立つカラスを彼らは網で捕まえた。
「お前ら………。」
「あれ、竹谷先輩どうしたんですか。」
今気づいたとばかりに兵太夫が言うと
「「脱走したカラス捕まえました。」」
嬉しそうに報告してくる一年の二人に、八左ヱ門は小さく溜息をつくと「よくやった」と褒めた。
「あのカラスも作戦だったのか。」
千鶴は小声で八左ヱ門に確認する。
そんな、二人のやり取りを見て
「あっ、そうか!!。」
庄左ヱ門は、一人納得したらしい。
「この幽霊騒ぎは先輩達の作戦だったんですね。久々知先輩の幽霊や竹谷先輩のカラス、鉢屋先輩のナメクジ。全部、ぼく達を驚かす為のものだったんだ。」
「さすが、は組の頭脳。」
残りのは組の子達からパチパチと拍手が沸き起こる。
「ちなみに、不破先輩と尾浜先輩は何していたんです。」
ショックから立直りつつあるきり丸に質問されて、雷蔵は苦笑しながら答えた。
「僕は火の玉で勘右衛門は見張りと言うか連絡係だよ。」
「じゃぁ、千鶴先輩はここまでの案内役だったんだ。ぼく達を騙すなんて………。」
「えっ。いやその。悪かった。」
千鶴としてはそのつもりはなかったが、友人達がこんな事を何故してくれたのか分かるので、そのまま話しにのった振りをする。
「久々知先輩、驚忍の術って迷信を利用して人をびっくりさせる術ですよね。」
伊助は途中で遮られたので、改めて兵助に尋ねた。
「そうだ。人がびっくりして心にスキをつくるから、そのスキにつけ入り目的を達成するんだ。まぁ、今回は訓練だけどね。」
「もう、すっかり騙されちゃいましたよ。」
伊助がそう言って笑う。
それを見て八左ヱ門が呟いた。
「は組は驚忍の術には強いかと思ったんだけどな。」
「竹谷先輩、どうしてですか。」
「ほら、この間、密書騒ぎで、土倉に山伏姿で潜入してたし、兵庫水軍の時でも、山田先生が妖怪に化けてたよな。」
「あー。そう言えば。そんな事も。」
「あと、タソガレドキとオオマガドキの合戦でも、傾堂先生に怪奇の話聞いてたし。」
「あれも、驚忍の術なんですか。」
「多分な。あの怪奇現象の犯人はタソガレドキの忍びだと思うぞ。あの怪奇現象で随分とオオマガドキの兵士が逃げたみたいだぜ。」
八左ヱ門の答えには組のよい子達はポカンとしている。
「しんべヱ、目が離れてるぞ。」
三郎が苦笑しながら続ける。
「さて、幽霊の謎も解けたし、は組も全員揃ったんだから、そろそろ帰るか。」
三郎の言葉に雷蔵も加わる。
「君達、夕飯まだなんじゃないの、随分と暗くなってるよ。」
「ぼく、お腹すいたー。」
しんべヱの一声で、は組のよい子達は楽しそうに帰って行った。
一方、五年生はと言うと・・・