忍者と井戸と幽霊
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『なぁ、聞いたか。西の古井戸に幽霊が出たらしいぜ。』
『全身血まみれの女の幽霊だろ。聞いた、聞いた。』
『一年が見たんだろ。信じられるかよ。』
『でも、あの場所は昔から出るって先輩に聞いた事ある。』
『本当に!!。』
賑わう食堂で、青色の制服を着た集団がそれぞれ定食を持ちとワイワイと通り過ぎる。
それを眺めていた竹谷八左ヱ門は、正面を向いて溜息をついた。
「けっこう噂広まってるみたいだぜ。千鶴。」
声を掛けられ、千鶴は元気良く動かしていた箸を止めた。
「もぐ………もぐ…。ごっくん。」
詰め込んだご飯を飲み込むと、苦笑い。
「そうみたいだね。どうしよう。八左ヱ門。」
その言葉に八左ヱ門が返事を返す前に怒気を含む声が上から聞こえた。
「どうしようじゃねぇ。バカ千鶴。」
バコっと頭を軽く叩かれ、顔を上げると不破雷蔵が怒り顔で立っていたのだ。
しかし、千鶴は彼を見て別人の名前を口にする。
「痛っ。三郎、叩くなよ。」
睨む千鶴に気にする事なく、雷蔵の顔をした鉢屋三郎が定食をテーブルに置くと千鶴の横に座る。
「どんだけ噂が広まってると思ってんだよ。こっちはお前のせいで、貴重な水場が一つ減ったんだからな。」
三郎の言葉に千鶴がへこむ。
あの場所は元々三郎が使っていた所で、千鶴は後から知ったのだ。
「ごめん。」
千鶴の呟くような小さな声に
「………。そんなに落ち込むなよ。」
鉢屋も呟く。
お互い秘密を抱える身の上だ。
何かと水場には不便をしている。
三郎は人に素顔を見られたくないから。
千鶴は偽りの性別を隠す為に。
人には言えない秘密を抱えている。
それに、彼女の方が自分よりも水場には苦労している。
性別が違うのは何かと不便だろうと、そんな事を思いながら、三郎は千鶴を見る。
整った顔立ちは中性的で、人懐こい瞳はカッコイイとゆうよりも可愛いらしく見える。身長だってさほど高くない。
彼女に女の子だと打ち明けられた時も、実はすんなりと納得してしまった。
千鶴なら有り得ると思えたからだ。
だからこそ、彼女は此処での生活には慎重に成らなければいけない。それなのに・・・。
「やっぱり、千鶴はバカだ。」
三郎がからかう様に言えば、落ち込んでいた千鶴が復活する。膨れるように彼女は怒る。
「なにを~。三郎、私に喧嘩売ってるのか。よーし。その…。」
三郎の言葉に千鶴が言い返すが途中で遮られた。
「二人共、騒がないの。ここは食堂だよ。」
今度は本物の不破雷蔵が定食のお盆を持ち二人に注意したのだ。
「雷蔵、やっと来た。あれ、勘右衛門と兵助は?。」
八左ヱ門が不思議そう尋ねる。
「い組は授業が遅れたみたい。兵助も勘右衛門も多分すぐ来ると思うけど…、いい加減にしなよ二人共さぁ。」
今だに睨み合う千鶴と三郎に雷蔵は呆れている。
「雷蔵。仕方無いんだよ、三郎が喧嘩売ってくるんだから。」
「違うだろ、お前が勝手に…。」
「喧嘩すんなって、お前ら本当は仲良いだろ。それより早く飯食べちまおうぜ。そんで、作戦会議な。」
八左ヱ門の言葉に、千鶴と三郎は『違う!!』と反論するが、雷蔵の方は二人の事よりも作戦会議の方に反応する。
「八左ヱ門、作戦会議って、やっぱりあの事だよね。」
「このまま放っておけない。六年にでも動かれたら面倒だ。」
「そうだな、動かれたら確実だろう。」
八左ヱ門や雷蔵の会話を理解した三郎も納得して頷くが、千鶴一人だけが分かっていない。
「何かあったか、作戦なんか立てる事がらが。」
「お前なぁ、さっき自分で言っただろ。どうしようって、まさか!!。放っとくつもりだったのか。」
「もしかして、あの事………。」
三郎に呆れら、千鶴も気づく。
視線の先は、噂話しをしていた二年生の集団に向ける 。
「あの場所に近寄らなきゃ、大丈夫かと思ってた。」
「多分、まずいと思うよ。このまま放っておくの。」
普段悩み癖のある雷蔵からあっさり返事を返され千鶴は戸惑った。
雷蔵が悩まずに即答するなんてよっぽどだ。
「“女”の幽霊。」
隣の三郎が、ぼそっと呟く。
はっとする千鶴に八左ヱ門のトドメの一言が告げられる。
「千鶴、あの日から髪紐無くしたままだろ、それって…。」
「しまった!!。そうだった。」
「「「!?。」」」
慌てて立ち上がった千鶴に驚いたとゆうより、その後ろを見て三人はびっくりしていた。
雷蔵が注意する前に、ある物が千鶴目掛けて飛んでくる。
ドッカァァンーーー
後頭部に衝撃を受け、大きな音を立て千鶴がテーブルに突っ込んだ。
「大丈夫、千鶴。何故、食堂にバレーボール…。」
慌てる雷蔵
「立ち上がらなきゃ、当たらないですんだのに…。」
冷静に分析する三郎
「バレーボールって事は、七松先輩の仕業だな…。」
こんな事に慣れている八左ヱ門
三人、それぞれバラバラな行動だけど、思った事はただ一つ。
「「「さすが、五年連続保健委員。千鶴、相変わらずの不運だ。」」」
千鶴はそんな三人に突っ込む間もなく、気絶した。
+++
ぼんやり開けた瞳に映るのは見慣れた医務室の天井で、千鶴はほんの少し苦笑いをした。
ーー また、気絶しちゃったんだ。ーー
体を起こす事もせず、なんとなく辺りの気配を探ると衝立の向こうから話し声が聞こえた。
向こうは千鶴が起きた事に気付いていない。
保健委員かな?とその話し声を聞き取ると、思ったよりも人数が多かった。
ーー 何話してるんだろ。ーー
千鶴は疑問に思いながら、彼らの会話に耳を澄ます。
『ねぇ、本当に幽霊が出て来るのかな。』
『西の古井戸って言やぁ、あのボロ井戸の事だろ。』
『あそこかぁ。確かに何か出てきそうな雰囲気のある井戸だよね。』
立てる続けに聞こえた会話の内容に千鶴は、固まったように動けない。
何故ならば、その噂話しをしているのが………。
乱太郎、きり丸、しんべヱの三人組であるから。
ーー ヤバい!!。一年は組にあの噂を知られてしまった。ーー
しかも、更に会話の人数が増える。
『でも、幽霊を見たのが、い組だからなぁ。』
『信憑性が薄いって言うか、あいつら、想定外の事が起こるとちょっと弱いよね。』
『えっ、それじゃぁ、見間違いなの。血まみれの幽霊。』
三治郎と兵太夫、最後に驚いているのは、伊助だ。
もしも、彼らに幽霊の正体がバレたら大変な事になる。
何せ噂の血まみれの幽霊は私なのだから。もしも、私だとバレたら………。
千鶴は、さらにヒヤヒヤしながら彼らの会話に聞き入る。
『だから、確かめに行くんだろ。は組でさ。』
『あの古井戸に本当に幽霊が出るのかどうなのか。』
『それに、あそこはいい具合に湿ってるからナメクジさん沢山いそう。』
『喜三太ぁぁ、ナメクジは関係ないから。幽霊見に行くだけだから。』
団蔵と虎若が頷き、喜三太の言葉に金吾が慌ててツッコむ。
『そうゆうわけで、幽霊の出る古井戸にゴーッ!!。』
『オーー。』
最後に庄左ヱ門がテンション上げて叫ぶと好奇心旺盛なは組の良い子達が答えた。
ーー と、止めれない…。ここまで盛り上がったは組を止めるのは不可能だ。ーー
千鶴はガクリと肩を落とした。それこそは組の担任の二人でないと止めれない、否、あの二人ですら何時もは組に振り回されているのだ。
千鶴が、畳に手を付き項垂れていると衝立の向こうから、誰かが顔を出す。
「良かった。千鶴、気がついたんだね。」
「伊作先輩!。先輩もいらっしゃったんですか。」
「まぁね。乱太郎の手当てしてたんだよ。」
伊作がそう言い終わらないうちにどんどん衝立の向こうから覗く顔ぶれが増える。
「千鶴先輩。大丈夫ですか。」
「また、気絶して運び込まれてたんっスね。」
「今回も落とし穴に落ちゃったんですか。」
「いや、先輩の服は汚れてないから、また七松先輩のバレーボールが原因だよ。」
「庄ちゃん、相変わらず冷静だね。」
「先輩、先輩。たんこぶ出来てますか。見せてください。触らせてください。」
「お前ら、相変わらず一気にしゃべるなー。ここは医務室だ。静かに!!。」
そう、叫んだ千鶴に伊作が
「でも、今一番声が大きかったのは千鶴だったね。」
そうツッコミを入れた。
+++
「ん~、頭痛や吐き気もなさそうだし、他に怪我もないみたいだから大丈夫だね。」
伊作が千鶴の具合を見てる間には組の子達も落ち着いたらしい。
とりあえず、彼らの足止めに成功したようだ、良かった。
千鶴が一息付いたのもつかの間。
やはり、は組の子達の興味は先ほどの噂話に戻っていた。
「でもさぁ、なんで血まみれだったんだろう。その幽霊。」
「誰かに切り殺されたとか。」
「それならなんで、こんな所に出るんだよ。」
「あの古井戸に、何か曰くがあるじゃないの。」
「ほら、忍術学園には血天井があるからさ。あれみたいに曰く付きの井戸を移築したとか。」
「あり得る。」
そんな会話を聞きながら千鶴は、あの日の事を思い出していた。
実は、古井戸には何も問題はない。幽霊だって、出るはずもない。
幽霊などではなく、私が居ただけ
ならば何故、私が血まみれ幽霊に間違えられたのか…
それに、あれは血ですらなかったのだ。
思い出すだけで、涙が出そうになる。
あの日はあまりにも運がない日だったのだから・・・。
+++
あの日、休日だからと朝から制服を洗濯したら、あの暴君の被害に遭い洗濯物を泥だらけにされて、再び洗濯する羽目になった。
次に制服を洗濯したので、仕方なく私服でいると穴堀小僧の穴に落ちた。
しかも上から、どじっ子事務員さんに打ち水をぶっかけられて、泥だらけなのが更に悪化。これまた、すぐに着替えるしかなく。
トドメをとばかりに、最後は寝着の着物を着て、部屋に閉じ籠っていると、八左ヱ門に夏野菜をぶん投げられた。
彼に悪気はないのだ。物を出したままにしていた私が悪い。
その物に躓いた彼は、手に持っていた桶の中身をあたり一面に撒き散らす。
桶の中身は井戸水で冷やされた夏野菜。
食堂に行けない私を心配した八左ヱ門が、おやつの代わりに持って来てくれた物だった。
そして、運悪く、熟れたトマトが私に落下した。しかも複数も。
桶の中はキュウリの方が数が多かったにも関わらず、数少ないトマトが私を直撃したのだ。なんたる不運。
「何故、キュウリじゃないんだー!!。」
と取り乱したのは秘密だ。
三郎にでも知られたら、絶対にからかわれるに決まっている。
そして、熟れたトマトを被った私は慌ててあの古井戸に向かった。
きっと、あの日私は何かに呪われていたに違いない。
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あの日の事を振り返り落ち込んだ千鶴に、乱太郎が心配して制服の裾を掴む。
「先輩、やっぱりどこか痛むのですか?。」
「大丈夫だよ。乱太郎こそ、怪我をしたのだろ。大丈夫か。」
一年は組が、何故こうも大勢で医務室に居るのかと言うと
乱太郎が怪我をしたからだ。
皆で古井戸に向かう途中で怪我をしたらしい。
「わたしは大丈夫です。怪我だってほら。」
腕にペタリと貼られた絆創膏。
「伊作先輩に手当てしてもらったので全然、平気です。」
乱太郎が強がって言っている様子でもないので、千鶴は安心して、乱太郎の頭を優しく撫でた。
「乱太郎だけずるいー。」
とたんに周りからも声が上がる。
ならばと、傍らに居た喜三太を捕まえて頭を撫でたりしていると。
「そう言えば、君たち古井戸に行かなくていいの?」
伊作先輩が余計な一言を言ってくれた。
「先輩、なんて事を言うんです。」
千鶴が慌てる。
は組に古井戸へと向かわれるのはもの凄くまずいからだ。
しかし、伊作は外を指差し続けて言う。
「だってほら、もうすぐ日が沈むし、早く行かないと暗くなるよ。」
その一言を聞いて、は組の良い子達は次々と医務室を飛び出して行く。
暗闇の中、幽霊に出会うのは嫌だったらしい。
あまりの素早いは組の行動に、あっけにとられた千鶴だったが、直ぐに彼らを追いかけた。
あの場所には、彼らに見つけられたら困るものがある………。
+++