このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

2・猪名寺乱太郎

名前変換

この小説の夢小説設定
名前変換ページ

名字変換なしの場合“アオカゲ”になります。
名前変換なしの場合“サイカク”になります。



『もう少しで忍術学園への山道に出るな。』

ガサガサと薮の中を進む西鶴は、そう言いながら額の汗を袖で拭う。

裏々山での自主練の帰り道は、敢えて普通の山道を通らず、薮の中を進んで忍術学園まで帰っていた。

低木やつる草などが生い茂り、普段なら人が中々踏み込まないそんな場所なのだが、人知れず活動する忍者にとっては、薮といえども避けて通れない場所である。もちろん忍たまである西鶴にとっても。

そうゆう所を進むのにヤブこぎを使うのだが、これには物凄く体力がいる。
薮の密生地を両手で平泳ぎのように掻き分けて進むのだ。
そのせいなのか、西鶴はこのヤブこぎが苦手だった。


『流石に夜間はキツイな。いくら薮の距離が短くても、やっぱり苦手だ。』

西鶴は、やや大きいめの枝を掻き分けながら呟く。既に日は落ち、東の空に三日月が昇り始めていた。


【苦手なら、慣れてしまえばいいぞ。繰り返しやる事でそのうち、コツや要領が分かってくる。苦手だって避けてたら、何時までたっても上手くならないぞ。繰り返し何度もやって慣れれば、その内、上手くなる。】

そう笑って、どんどん薮の中に進む親友の御調を追い掛けたのは、もう何ヶ月も前の事になる。
彼が居た頃は、よくこんな風に薮の中を突き進みながら、学園に帰っていたものだ。


―― 御調は、七松と張り合っていたからな。こうゆうのは得意だったんだよね。――

疲れで止まりかけた足を勢いよく踏み出し、枝を薙ぎ払う。
辺りに茂る草が減った気がするのは、山道の近くまで来たからだろう。三日月の為、辺りが見えづらく苦労したが山道まであと少し。


『もう、一息だな。』

その事に安堵した為か、枝を払う力が弱まった。


【ヤブこぎの時は、枝の跳ね返りに気をつけろよ。】

御調がそう言って注意するのを思い出したのは…

すでに事が起こった後だった。





+++





「今日も星がキレイだなぁ。」

乱太郎は、夜空を見上げて呟く。
星空がキレイに見えるのは、今日が三日月で月明かりが暗い為だ。
それに、自分が現実逃避しているからかもしれない。


「また、穴に落ちるなんて………。」

見上げていた夜空は丸く枠に囲まれている。
穴の底から見上げているからだ。

落とし紙を配り終り、その事を善法寺先輩に報告に向かっている時に再び穴に落ちた。

穴に落ちるのは、本日二回目である。


「落とし紙を持ってる時じゃなくてよかったけど…、どうやって外に出よう。」


乱太郎が落ちた穴はかなり深く、自力では脱出するには結構難しい。


「誰か~、いませんかぁ~。」

叫んでみたものの、周囲から何も反応がない。


「やっぱり、自分でなんとかしなきゃぁ、駄目か。」

乱太郎は、気合いを入れて穴の壁に飛び付いた。





+++
ボロボロと崩れる穴の壁と格闘する事、一刻。否、それ以上時間が掛かっているかもしれない。

何度も登っては落ち、登っては落ちと繰り返し挑戦して、なんとか乱太郎は穴の入口付近まで登れていた。


「あと、もう少し…。」

一瞬安堵の為か、気が抜けた。

その瞬間。

足元の土が崩れ落ちる。


「!!。」

声も出す間もなく、再び穴の底へと落ちてゆく…はずだった。


そんな乱太郎を掴む手がなければ。



『惜しいな。後少しで自力で出て来れたのに。』

言葉と共に西鶴は乱太郎を掴んで穴から引き上げる。


「………。」

乱太郎は、先程から再び穴に落ちると思った恐怖心からなのか、心臓がバクバクと音を立て落ち着かず。
今だに助けてくれた人物を見る余裕がない。


『怪我は無いようだな。』

何処か聞き覚えのあるような、ないようなそん声を聞いて慌てて我に返った乱太郎がお礼を言う。


「助けて下さって、ありがとうございます。」

『どう致しまして。もっと早くに助けてやればよかったんだが、俺が見た時は登ってる途中だったから。逆に声をかけた方が危ないと思って。』


苦笑するその人物は六年生だった。

鶯色の制服は少し泥だらけで、そして…
左袖が大きく破けている。


「先輩!!その袖どうかしたんです。怪我してませんか。わたし保健委員なんです。」

破けている袖を見て乱太郎が慌てる。


『あぁ、これか。心配ない、制服の袖が破けただけだ。腕は怪我してないから心配いらないよ、猪名寺。』

「そうですか…。って、わたしまだ名乗ってないですよね。」

驚いて見上てくる乱太郎に西鶴はクスクスと笑う。


『きり丸に聞いたんだ。保健委員の友達がいるって、でも俺と猪名寺は一度会ってるんだ。覚えてないかい。』

「もしかして、青影先輩ですか。」

以前、町で厄介事に巻き込まれ時に助けてくれた菅笠の少年が青影先輩だった。
そう、今日の夕食の時にきり丸が教えてくれたのだ。
まさか、こんな形で会う事になろうとは思いもしなかった。


青影先輩、あの時は、きり丸を助けて下さってありがとうございました。」


ペコリと頭を下げる乱太郎の頭を西鶴が撫でる。


『あの時にお礼は言って貰ってるのだから、もう頭を下げなくていいんだぜ。』

「でも…。あの時、わたしのせいできり丸が怪我を…。」


―― そう、あの時、わたしがゴロツキ男とぶつからなければ…、きり丸は怪我をしないですんだのに。――


乱太郎が俯く。


『俺もな、同じような事言ってたら、友人二人に怒られたんだ。
【なんでも、かんでもしょい込むなって。】
あの時だって、悪いのはゴロツキ男だ。』

はっとして乱太郎が顔を上げる。


『不運だからって、人の怪我まで自分のせいにするなよ。いつかそれに押し潰されちまうぞ。』

ポンポンと乱太郎の頭を軽く叩く。


『急に変わるのは無理でも少しづつでいいんだ。まだ一年なんだし。伊作なんか、この六年で開き直ってるしな。』

西鶴はクラスメイトの事を思い出す。
善法寺伊作は学園一不運な男として有名だが、そうだからと言って、それを誰かに八つ当たりしたり、嘆いたりしていない。

彼はちゃんと受け止めている。


―― 善法寺のそうゆう所が凄いと思う。――

西鶴が口には出さずにそう思った。


 「善法寺先輩をすごいなぁって思うんです。」

乱太郎もちょっと前の出来事を思いだして呟く。

一瞬の間に自分を庇ってくれた先輩の事を。


『そっか。』

西鶴が優しい表情で笑った後、真面目な顔をする。


『でも開き直るって言っても、気を抜いたりはしちゃぁ駄目だからな。さっきみたいにあと少しって所で落っこちたり、俺みたいになったりするぞ。』

西鶴先輩も気を抜いたから、袖が破けたのですか。」

『まぁな。ちょっと油断してた。』

―― 六年生でも、そんな事あるんだ。――

乱太郎が驚いた表情で見つめる。
ほんの少し西鶴を身近に感じた。六年生と言えど完璧ではないのだと。


『あれだ、油断大敵てやつだな。』

西鶴は恥ずかしそうに乱太郎から視線をずらし、話題を変える。


『乱太郎はこの後どうするんだ。』

「そうだ、伊作先輩に報告に行かないと。」

『善法寺の所に行くのか。』

「はい。落とし紙配り終えた報告しに行きます。」

もし、乱太郎が今から伊作の居る保健室に向うのならば、夜遅くなるだろうと西鶴は思う。

既に、西鶴が自主練を終えて忍術学園に戻って来た頃には夜空に三日月が昇っていたからだ。


―― 善法寺が、こんな時間まで後輩にそんな事をさせないよな。乱太郎、まさか随分と長い間、穴に落っこちてたのか…。――

乱太郎が疲れてないか心配になった。
だから、西鶴は乱太郎にある提案をする。


『それだけなら、代わりに俺が言うよ。もう夜も遅い、そろそろ部屋に戻らないと同室の子が心配する。』

「でも…。」

『俺も、ちょうど善法寺に用事があったんだ。気にするな。』

「分かりました。それじゃぁ、お願いします。」

乱太郎は西鶴の提案を受け入れる。
正直に言えば、助かったと思う。
実は、穴を登るのに体力を使い果たし、もうへとへとだったのだ。


―― わたしが、疲れてたの先輩にばれてるのかな。西鶴先輩、優しいなぁ。――


きり丸が今日、機嫌が良かったのが分かる気がする。
西鶴を見ていると何となくそう思った。


『猪名寺、気をつけて部屋に戻れよ。』
西鶴が、別れを告げるとグイっと乱太郎に服を引っ張られる。
それに合わせて乱太郎の目線に西鶴は屈む。


「今度、一年は組に遊びに来て下さい。」

笑顔で乱太郎が言った。
西鶴はそれを聞いて勿論だと大きく頷く。


『そうだな、福富にも会いたいし、遊びに行くよ。』

「約束ですよ。」


よほど西鶴との約束が嬉しいかったのだろう、部屋に帰る乱太郎の表情はとても明るいものだった。
そんな彼を見送り。


『約束事が、また増えたな。』

西鶴も嬉しそうに呟いた。





+++





『しかし、よくこんな深い穴、あんな小さい体で登ってこれたな。』

乱太郎が帰った後、穴を覗き込めば、かなり深さがある。


―― 私も負けてられないな。――

一年生相手にこんな事を言うのもおかしいかもしれないけど。


―― そろそろ、私も覚悟決めなきゃいけない。――


制服の左袖は確かに破けただけで腕に怪我はないが…。

西鶴は、スルリと頭巾を取る。
今まで頭巾で隠れていたが、左目の上部に傷が出来ていた。既に血は乾いている。

跳ね返った枝は左袖を切り裂き、そのまま左目を目掛けて跳ねて来たのだ。
咄嗟に顔を横に逸らしたおかげでこれだけの傷で済んだ。
もう少し西鶴の反応が遅ければ大変な事になっていただろう。


この前までは、怪我をすれば瀬戸田に診てもらっていたが、今は…。


―― 乱太郎に、会わなければ自分で治療するつもりだったのだけれどなぁ。――


『これも何かの縁か。』

西鶴は今で避けていた医務室へと足を向けた。











 
2/2ページ