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7・一年は組

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「いいよなぁ、窓際の席はさぁ。」

ポツリと隣を走る団蔵が羨ましそうに呟く。

怪しげな人影を最初に見つけたのが、窓際に座る兵太夫だったから彼はそれが羨ましかったのだろう。

今は個々に分かれてその人影を探している最中で、金吾は団蔵と組んでいた。


「そう言う団蔵だって、窓は近いだろ。」

彼の席は、窓際に座る虎若の隣だ。
僕がそう言い返せば、「それは、そうだけど…。」と彼は口を尖らす。

金吾は駆け抜ける先に落とし穴の目印を見つけ、其処を飛び越えた。


「まぁ、確かに窓際は特等席だけど。でも、団蔵には廊下側もオススメだよ。」

ある事を思い出すと僕は言った。


「それは、オレにも委員長みたいにアレをしろって事か。」

団蔵も難なくその落とし穴を飛び越えながら答える。

落とし穴や蛸壺があっちこっちに仕掛けてあるのは、学園全体が競合地域であるからだ。
しかし、団蔵は落とし穴などまったく気にすることなく言い返す。


「アレは、ギンギンに忍者してる委員長だから出来るんだ!!。廊下を通る人の足音だけで体重を聞き当てるとかさぁ。そんな術、そう簡単には出来るもんか。」


「そうかなぁ…。案外、団蔵だって出来ちゃったりするかもよ。」


「まさか、無理だって。絶対まだ出来ない。」

と首を振る団蔵は自覚は無いみたいだけれど、呆れている口振りの中に先輩を尊敬するような声音が密かに混じっていた。

そんな様子で答えた団蔵は、やっぱり潮江先輩にしっかり鍛えられているのだと僕は思う。


―― そうでなければ、競合地域にも関わらずこうやって慌てずに動き回れないもの。団蔵もそんな柔な鍛えられ方を委員会でされてないって事だ。勿論それは僕もだけど・・・。――

同じ体育委員会で六年生の委員長を思い浮かべた。
いけどんの掛け声で塹壕を掘り進める七松先輩。

その力強さと持久力は他者と比べて圧倒的だ。その分、後輩の僕達は彼に振り回されているのだけれど。 
しかし、その為か僕も委員会で鍛えられていのは事実である。

いつも七松先輩に振り回さればっかりいるけれど、学園を走り回っている今も息が上がってないのは多分、先輩のおかげだ。


「おい!。金吾。」

団蔵の呼び掛けに我に返る。

前方を指差す団蔵は少し緊張した面持ちでこちらを向いた。


彼の指差した草蔭の中に、見慣れない人影と木の影に潜むクラスメイトが見える。

先に虎若達が見つけたようだ。
彼と組んでいた三治郎の姿が見えないのは、小松田さんを呼びに行ったからであろう。

お互い、気配を出来るだけ消して侵入者らしき人影に近づく。

その人影が、一瞬だけ何かに反応した様に動きを止めた。

その瞬間、虎若が叫んだ。



「発見ーー!!。」

その人影に気づかれたと思ったのか、虎若が先手を打つ。

その大きな声を合図に僕も団蔵も彼らのいる草蔭に突っ込んだ。


―― 曲者だか暗殺者か知らないが、必ず捕まえてやる。――


草蔭を抜け出すと金吾は思いっきり彼に飛び付いた。

地面に潰れた彼は抵抗もしてこない。
それを不思議に思っていると


「確保完了!。」

同じく飛び付いた団蔵が高らかに声を上げた。




 
+++
 




『ん??。』

中庭を私服姿で西鶴が歩いていると、背後に誰かの気配を感じて立ち止まる。
不思議に思い、首を傾げて振り返ろうとすると・・・。


「発見ーー!!。」

突然、元気な男の子の大きな声と共に、草蔭から何か飛び出して来る。

身構えた瞬間、鮮やかな水色の塊が三方から押し寄せた。


―― あ、やばっ。――

三方から来られては流石に西鶴でも防ぎきれない。
呟く暇なく押し倒され、次々と水色の物体が覆い被ってくる。

恐るべき10歳児パワー。思いのほか跳ね退けるには苦労しそうだ。


「確保完了!。」

高らかに一人の少年が声を張り上げた。

暫くすると、水色一色の視界の向こうで薄墨色が眼に映る。


「ありがとう。皆、助かったよ。」

事務員の彼は入門票を片手にのんびり笑っていた。


彼と一年生達の口振りから、侵入者を探していたのだろうと予測がついた。
それで、自分はその人物と間違えられたって事も気が付く。


―― もしかして………。――

西鶴の脳裏に黒紺の忍装束姿のある人物が思い浮ぶ。

つい先程、学園長の庵で彼女に会って話しをしたばかりだったから、まさかと思ったけれど、もしかしてとほぼ直感的に確信する。

このタイミングでこの子達に捕まるなんて、あの彼女の策略としか思えない。
立ち去り際、悪戯っ子のようにクスリと笑った彼女。
あの時の表情を思い出すと自然と言葉が溢れた。


『やられた…。』

西鶴は潰れながら言葉と共に重い溜め息を吐き出す。


―― それにしても、小松田さんまで間違えるだなんて・・・。――

溜め息は一つだけでは済みそうにない。



+++

 
虎若の声に庄左ヱ門と伊助が駆けつけると、そこには水色の塊が出来ていた。

虎若や団蔵、金吾と一年は組の武闘派三人が侵入者らしき人物を捕り押さえている。

庄左ヱ門は、その塊と化した彼らを見ていると違和感に気付く。

曲者や侵入者であれば捕まりそうになっているのだ、抵抗の一つもするだろうに、そんな様子もない。

それに良く見るとその人は、上級生の先輩達と同じくらいの年齢に見えるのは気のせいだろうか。

そんな事を考えてる最中に小松田さんが入門票を持って現れた。


「ありがとう。皆、助かったよ。」

のほほんと笑う小松田さん。
そして、潰れている人物に入門票を差し出した。


「それじゃぁ、サイン書いてくださいね。」

『・・・。』

そう詰め寄られても、当人は水色の塊になってしまっているので反応が出来そうもない。
と思っていたら、もこもこと塊が動いた。


『小松田さん!!。一年生は仕方ないにしても、貴方は俺の事、知ってるでしょう。』

押さえつけていた団蔵や金吾、虎若もろとも、その人は地面から上体を起こす。


―― 三人も引っ付けて起き上がった!!。――

ボクが思わず感心していると


「この人、意外と力持ちなんだね。」

横で伊助も驚いていた。

一方、組み付いていた三人は大慌てだ。


「団蔵もっとしっかり押さえ…「分かってるって……「金吾、痛い。ぼくの腕まで挟んで………。」あっ、悪い……。」ちょっと待っ……。」

体勢を崩され大混乱に陥っていた。


「おーい。みんな、落ち着いて。」

伊助が叫ぶ。


「小松田さん、この方と知り合いなんですか。」

ボクが小松田さんに尋ねると、目の前の人が先に返事をくれた。


『知り合いも何も、俺はここの六年だ。』

「「「えーー。」」」

混乱していた三人から驚きの声が上がる。

やっぱりそうだったか。とは流石に声に出せないけれど、庄左ヱ門は小さく息をつく。

彼が起き上がって抗議した時点で外部からの人でないと気づいたから。


「なーんだ。青影くんじゃないか。」

小松田さんは怒っている先輩に今度は出門票を渡す。


青影くん、私服って事は、また外出するんでしょう?。じゃぁ、こっちにサインしてね。」

出門票と筆を渡された先輩も、ボク達も彼の行動にぽかーんと固まってしまった。


『・・・。 小松田さん、あなたって人はーー。』

先輩はそう呟くとクスクスと可笑しそうに笑った後、目線を下に向ける。


『それから、君達は何時まで引っ付いているつもりかな?。』

先輩の上着やら足腰に掴まっていた三人が慌てて離れる。


「「「先輩。勘違いして、ごめんなさい。」」」」

三人が一列に並んで頭を下げた。


『うん。』

先輩は、怒りもしないで許してくれた。


「先輩、すみません。ボク達、学園に侵入たと思われる人物を探してる最中だったんです。」


どうしてこうなったのか、庄左ヱ門が説明すると西鶴はその事が分かっていたように頷いた。


『そうだろうね。』

頷く先輩にボクは疑問を感じた。


「何かご存じなのですか?。」

『あぁ、実はついさっき卒業生の先輩にあったのさ。だから、俺とその人を間違えたんだろう。俺は君達とは面識もないのと今は私服姿だ、それが仇になったようだ。』

先輩は苦笑する。


「卒業生って事はその人はプロの忍者なのですか?。」

伊助も横で話しを聞いていたのか
、好奇心から訊ねる。


『ん~。忍者と言うか、あの人はくノ一だよ。卒業生だから、ついついサイン書き忘れたのかもしれない。』


―― と言うよりも、あの人は小松田さんや在校生をからかう事を楽しんでるからなぁ。お客として学園に来るよりも、勝手に侵入する方を選ぶに決まっている。――

西鶴は、ありありと卒業生のくノ一の行動が読めた。
とは言え、それを後輩の忍たま達に言う訳にいかない。


―― あの人と私の関係は忍たま達には、言えないもの。――

西鶴はゆっくりと息を吐き出した。


「なーんだ。結局、サイン書き忘れたお客さんだったのか。」

団蔵がガッカリしたように言った。


『残念ながら、そのようだ。』

先輩はそんな団蔵の頭をくしゃりと撫でる。


『でも、君達の行動力には驚いたよ。流石に俺も三人の力に耐え切れなかったしさ。』

「本当ですか。」

「やったー!。」

「六年の先輩に褒められた。」

は組の武闘派の三人は嬉しそうだ。
その一方でボク達は小松田に話しかけた。


「それじゃぁ、小松田さんはその卒業生の人をまた探し出さないといけませんね。」

「そうだね。何処にいるんだろう。」

「学園長先生の庵か先生方の部屋等の辺りいらっしゃるのかも。」


ボクが卒業生とゆう単語から推測していれば


「こんな時でも冷静だよね。庄左ヱ門ってさ。」


隣の伊助がそう言って笑った。





+++



ぼくは、隣にいる庄左ヱ門のいつもの癖に思わず笑みを溢す。

そして、視線を侵入者に間違えられた先輩に向けた。


―― 先輩、間違えちゃったのに怒らなかったなぁ。――

怒る処か、逆に私服姿の自分に非があると認める辺り、かなりお人好しなのかもしれない。

そんな風に先輩を見ていたら


「あっ。」

ぼくは、ある事に気づく。


「先輩、髪に土が付いてますよ。」


伊助の言葉に西鶴が何気なく手をやると、確かに少しざらつき感がある。
しかし、服に付いた土と同様で、軽く払えば直ぐに落ちそうだ。


『さっきので付いたのかな。』

先輩は、特に気にもしてない様子で言ったけれど、ぼくは凄く気になった。


「まさか先輩、そのまま外出するつもりですか。」

伊助は、きゅっと眉を寄せる。


「今度は伊助の悪い癖が発動したみたい。」

ポッりと虎若が呟き


「伊助はキレイ好きだから。」

団蔵や金吾は苦笑気味に頷く。
伊助が戸惑う先輩に近付き服を掴む。


「先輩、結い直すのでしゃがんでください。」

『いや、自分で直すから。』

「いいから、しゃがんでください。」


伊助の凄い剣幕に圧され、言われるがまま西鶴は低く腰を落とした。  




+++

 
建物の屋根に腰掛け一人のくノ一が楽しそうに笑みを溢す。


―― あの子・・・。――

視線の先には、可愛い後輩が一年生に取り囲まれていた。

伊助と呼ばれた、一年生はキレイ好きの癖があるらしい。

先程、押し倒された西鶴は髪に土でも付けていたのか、伊助に髪紐を解かれている。


―― 伊助君の剣幕に圧しきられるなんて西鶴も、まだまだ甘いなぁ。――

と思いつつも微笑ましく彼女達を見守る。


「おや、そろそろ第二陣が到着しそうね。」

水色の制服の集団が西鶴達に近付いて来ていた。


「こっちもお客さんだわ。」

彼女の直ぐ隣に黒い影が降り立つ。


神石じんせき。お前、此処で何してるんだ。」

「土井先生。お久しぶりです。嫌だな、そんな恐い顔しなくてもいいじゃないですか。」

「これは自前だ。」

「あら、勿体無い。土井先生、普段はもっと格好いいですよ。」

神石の言葉に土井はガクリと肩を落とした。


「その性格は卒業しても変わらんのか。」

「えぇ、簡単に変わるなんて出来ませんよ。あっ。今更、私に惚れたとか言っても無駄ですからね。私には大事な婚約者様がいますし。」

飄々と言って退ける神石の性格は、もしかしたら卒業前より悪化してるのではと土井は思った。


「そんな心配はいらん。」

苦虫を噛み潰したような表情の土井先生に神石はフフっと笑う。


「先生の組の子達は、中々個性が豊で可愛らしいですね。」

「わざと校庭を通っただろう。お前は俺に胃痛を起こさせたいのか。」

「違いますよ。もう、土井先生はつれないないんだから。」

フフっともう一度、神石は笑った。


「神石が教官だなんて、青影は苦労してそうだ。」

「土井先生、ひどーい。」

神石は気にする様子もなく軽く言い返した。


二人の視線の先では、鮮やかな水色の集団が元気よく走り抜けて行った。




+++



―― こんな状況になるなんて…。落ち着かない。――

好奇心旺盛な一年生達の視線に小松田さんはモノ珍しそうにこっちを見つめている。

正直、恥ずかしすぎる。

西鶴は顔が赤くなっていないかと心配しながら俯いた。


「押し倒された時に髪紐も緩んだみたいですね。」

伊助がシュルリと首の後で結んでいた紅色の髪紐を解く。
手ぐしで髪をすきながら、僅に付いていた土を払い髪をまとめ直す。

それを見ながら金吾が関心していた。


「伊助って器用だよね。」

「でも、こうゆうのは兵太夫の方が得意だよ。」

伊助は苦笑しながら紐を結ぶ。


「あいつ、作法委員だからな。櫛とか持ってそう。」

団蔵が相槌をうつ。


「そう言えば、まだ来ないよね。兵太夫達や乱太郎達。三治郎も戻って来ないし。」

虎若は心配そうだ。

「三治郎、まだ合流出来ないのかな。もしかして、迷子に・・・。」

庄左ヱ門の言葉に小松田さんが言い返す。


「まさか、学園内だもん。大丈夫だよ。」

とは言われても、は組の面々は思い当たる節があるのか顔を曇らせる。


「オレ達、三治郎とか探しに・・・。」


「「「皆っーー。助けに来たよー。」」」


ガサリと草蔭から数人が飛び出すと西鶴目掛けて飛び付く。


『またか!!。』

今度も西鶴は避けきれず押し倒された。







+++






「あれー。西鶴センパイどうしちゃったんですか。」

喜三太の呼び掛けに、西鶴は落ち込んでいた顔を上げた。


『山村だけだな、俺を覚えててくれたの。』

西鶴の呟きに喜三太は首を傾げた。


「嫌だな。西鶴先輩。おれもちゃんと覚えてましたって。」

「わたしも覚えてました。急に止まれなかっただけですよ。ねぇ、しんべヱ。」

「そうです。よい子は急に止まれません。」

そう言ったしんべヱは自信満々である。

西鶴は本日、何度目になる溜め息をつきそうになった。



+++


「あっ、そろそろ、侵入者さがさないと。それからサインも貰わなきゃ。」

小松田さんに西鶴は出門票を差し出す。


『事務室に戻ってみてわ、吉野先生が何かご存じかもしれません。あとコレ。』

小松田さんに小さな紙を渡す。


『外泊届けです。帰りは明後日の予定ですので。』

西鶴の言葉に反応したのは、意外にも乱太郎だった


青影先輩、明日いないんですか?明日は身体測定があるのに。」

『悪いな、乱太郎。既に俺は計測を済ませてある。』

「それじゃぁ、仕方ないですね。せっかく、保健委員が主役の日なんですけど…。」

落ち込む乱太郎に西鶴も眉をへの字に下げた。
次回は参加すると約束が出来ないのは、西鶴としても残念である。
しかし男装の身である為、秋にある次回の身体測定も不参加だろう。


『乱太郎、明日は伊作を頼むぞ。』

「そう言えば、先輩は善法寺先輩と同じ6年は組でしたっけ。」

きり丸の声に西鶴は頷いた。


「は組の先輩だったんですね。間違えちゃってごめんなさい。」

謝ったのは、遅れて現れた三治郎だ。


「先輩が私服姿なのは、外泊するからですね。」

「先輩が外泊なのは任務だからですか。」

兵太夫に続いて、庄左ヱ門が質問する。

その質問に西鶴は首を横に振った。


『残念だけど、それは秘密だよ。だって俺達は・・・。』

西鶴は、にゃりと口端を上げて笑った。


―― あぁ、私も神石じんせき先輩に似てきちゃったかも。――

心の中で呟いた。




+++


“忍者のたまごなのだから”と言って笑う後輩から、神石じんせきは視線を横へと向ける。

「土井先生。それでは、私も行きますね。」

「結局、お前の用事は済んだのか。」

「えぇ、勿論。山本先生との約束は既に終えましたし。吉野先生に入門、出門のサインも預けてあります。バッチリですよ。」

神石は足音もなく、屋根の上を移動し、屋根の端まで来ると振り返った。


「土井先生。」

呼び掛ける神石は悪戯が成功した子供の様な無邪気な笑顔である。


「早く、あの子達を捕まえないと、先生が教室の掃除しないといけなくなっちゃいますよ。まだ放課後の掃除済んでないのでしょう。」


「そうだ。しまったーー!!。」

土井がそう叫んだ時には、既に彼女は消えた後だった。


「本当、青影は苦労してそうだ。」

土井は呟くと屋根から子供達の所へ向う。



集まった彼らの所で、彼の怒鳴り声が響くまで、あと少しである。







  
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