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閑話・とある老人の回想録
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『欲しいモノがあります。だから・・・。』
そう幼き子供は言い。
「見てみたいモノがあるんです。だから・・・。」
とある娘はそう呟いた。
それは全て過去の事。
++ とある老人の回想録 ++
庭に植えられた木々にうっすらとした淡い色の花が咲き。
暖かな風で揺られると、ハラリと舞い散る。
いつものように庵の縁側に座り、ゆったりとお茶を飲んでいると穏やかであった庭に足音も無く突如として彼女は現れた。
「主様。只今戻りました。」
黒紺の忍装束に身を包み、その者は深く首部を垂れる。
そんな彼女に縁側から声をかけた。
「うむ、して彼方の地の様子はどうであった。」
「かの城も例の奴等も今はどちらも停戦状態にあり、戦が起こるとすれば・・・。」
「次の春か。」
先んじて呟けば彼女はコクリと首を縦に振る。
「どちらも先の戦での被害が多く立ち直るには、かなり時間がかかりましよう。」
そう言い終えると彼女は懐から一通の封書を取り出す。
「ご必要な情報は此方にまとめております。」
両手で差し出され封書を受け取り、中に目を通す。
「ふむ、確かに。」
庭に控える彼女を縁側から見下ろす。
「さて、次の春までは少し時間があるのぅ。」
そう呟けば、今度は隣に黒い影が舞い降りた。
「学園長、少し宜しいでしょうか。」
現れたのは黒の忍装束に身を包む若い女性。
「兼ねてよりの計画しておりましたあの話しを実行させて頂きたく。そのご報告を。」
若い女性の視線は目の前の庭に居る彼女に向けられている。
同じ様に庭の彼女に視線を移す。
「どうかご許可を頂けますか。彼女もそれを望んでいます。」
そう告げる女性の言葉に合わせて彼女は深く頭を下げる。
「主様、いえ学園長先生。私は・・・。」
この言葉の続きは彼女が自分に仕える以前から望んでいた事。
背後にある小さな一室で彼女達は強く願ったのだ。
耳に残っているのはどちらも真摯な声であった。
脳裏に甦るのは二人共に真っ直ぐな瞳。
「シナ先生、すまんが“あの子”を呼んで来てくれんか。」
黒の忍装束の女性は優秀な教師である。
彼女はそれだけで、先程の言葉が了承の意であると理解している。
「はい。」
女性は、若い姿のまま柔らかく返事をすると瞬く間にその姿を消した。
あの頃と同じ真っ直ぐな瞳を持つ彼女が一人庭に残る。
時がいくら過ぎようとこうした彼女のような強気意思を瞳を持つ子供は毎年必ず現れる。
今年も何人もの幼い子供がこの庵で夢を希望を望みを叫んだり、呟いたり、言い切った。
それが、叶うのは・・・。
ふっと視線が空へと向かう。
風に合わせて空高く舞う鳥を見つけ、笑みを溢す。
まだまだ、先の事じゃろうて。
幼き雛が成長し巣立つ、それはとても喜ばしいもので何度繰り返されても飽きる事はない。
目の前に控える彼女は既に巣立たモノ。
呼んで来る子供はこれから巣立つモノ。
どちらも未だに己の望みを叶えていない。
*