僕の誕生日  🦀📣

 今日は暇だったため、ヴィルの家に遊びに来た……が、ヴィルは書類仕事がまだ少し残っていたため、書斎の奥の机で作業をしている。待っている間暇な僕は近くのソファで本棚にあった面白そうな小説を読んで待っていた。
 僕が小説を第2章まで読み進めた頃、作業が終わったのだろうか。ヴィルが筆を置いて、僕に話しかけてきた。

「なぁ、極卒」
「はい、何ですか?」
「そういえば気になっていたのだが、お前の誕生日はいつなんだ?」
「へっ?」
「お前の誕生日を調べようと思ってあの時のカードを確認してみたのだが、『●月★日』としか書かれていなくて分からなかったんだ」

 あの時のカード……恐らくパーティーの際にMZDに書かされたプロフィールのようなものだろう。
 確かあの時、自分のことを他人にあまり知られたくなかったから、色々とぼかして書いていたのだった。
 まぁ、その情報がカードとして使われることになったのはだいぶ後だったが。

「そういえばそうでした……ところで、どうして僕の誕生日なんか知ろうと思ったんです?」
「折角恋人になったのだから、恋人の誕生日位は知っておきたいと思ったんだ」
「なんだ、そういうことですか。僕の誕生日は11月14日ですよ」
「そうか、ありがとう」

 そう言ってにこりと笑ったヴィルは、早速笑顔で卓上カレンダーの11月を開き、なにかを書きはじめた。恐らくさっき教えた僕の誕生日をメモしているのだろう。――――にしては、少し長すぎないか?誕生日をメモするなら、日にちを丸で囲んだり、「○○の誕生日」と書いたりするだけでいいからすぐ終わるはずだ。何を書いているのか気になるから少し覗いてみようと、僕は本に栞を挟み、彼の元へと向かった。

「ヴィル、何を書いて……って、ちょっ、ヴィル!?何してるんですか!」
「何って、お前の誕生日に印を付けているだけだが」
「いやいや!どう考えてもやり過ぎですって!」
「特別な日なんだ。この位が丁度良いだろう」
「だからって、カレンダーにそんなでかでかと赤丸を書く必要は無いでしょう!?周りの日にちが潰れて見えなくなってるじゃないですか!」
「『恋人の誕生日』という一年で最も素敵なイベントがあるんだ。他の日にちはどうだっていい」

 ヴィルは、「極卒の誕生日」と書いた11月のカレンダーの14日部分を、周囲1マス分の日にちが見えなくなる位ぐるぐると赤ペンで囲っていた。これカレンダーとして機能するのか……?

「そんなに特別な日じゃないですよ!ただの僕の誕生日ですって!そこまでする必要あります!?」
「あるから今こうしているんだ」
「えぇ……」

 そうだった。この人は僕のことになると途端に頭のネジが全部まとめてすっ飛ぶ人だった。だとしてもそこまでやるか普通……?

「――というか、いつまでカレンダーを眺めてるんですか。そろそろ穴が空きますよ」
「……嬉しいんだ」
「……はぁ?」

 ただ誕生日を教えただけなのに、何を言っているんだこの人は。――いや、人じゃなくて魔族だった。

「初めて会った時から誰にも自分のことを話していなかった極卒が、私に誕生日を教えてくれたことが、とても嬉しいんだ」

 確かに、家族以外で自分の誕生日を教えたのは、ヴィルが初めてだった。
 そもそも、僕は何故ヴィルには誕生日を教えていいと思ったんだ……?

「それに、誕生日が分かったから、来年も、再来年も、その先も一緒に祝える。それが楽しみで仕方ないんだ」

 そう言って、ヴィルはくしゃっと笑った。
 そういえば、彼が僕以外の前でこんなに笑った顔を見せたこと、無かったような……

「なぁ、極卒」
「はっ、はい!何ですか?」
「来年も、再来年も、その先も、私と一緒にいてくれないか?」

 ヴィルが僕を見て笑いかける。
 あぁ、そうか。そういうことか。僕がヴィルに自分のことを教えていいと思った理由は、恋人だから、だけじゃない。ヴィルと僕は、互いを信頼し合っているからだ。
 僕は彼を信頼しているから、自分のことを話すことができる。
 彼も僕のことを信頼しているから、僕の前で笑った顔を見せてくれる。
 それなら、と僕も満面の笑みで返した。

「ええ、こちらこそ、これからも貴方と一緒にいさせて下さいな」
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