失恋のお話 1
電車に乗り、駅から実家まで
何も考えないようにして歩いていたのに
勝手に涙が溢れてきた。
涙と共に、出会ってから付き合って一緒に暮らしてきた間の
楽しくて幸せだった場面ばかりが蘇った。
あんなに好きで、一緒の空気が居心地良くて、
このまま一生一緒に暮らしていくもんだと思っていたのに。
『ジタバタしたかった』って事は、
自分と別れようなんて思ってもなかったっていう事で
少なからずまだ想われていたのに、
どうして同じ気持ちで向き合えなくなってしまったんだろう。
嫌いになった訳じゃない。
きっと自分さえ気にしなければ、この居心地のいいまま
穏やかに幸せに暮らしていけたと思う。
この先、あんなに優しくて自分を想ってくれる相手に
出会える気もしない。
ましてや傷つけたんだから、一生独りでも仕方ない。
いっそジタバタして欲しかった。
怒ったりみっともなくすがったりして、
カッコ悪いとこを見せて、幻滅させて欲しかった。
最後までカッコよくて優しい、大好きだった恋人……
すれ違う人が怪訝な顔をする程、
嗚咽を漏らし、泣きながら帰った。
母親は帰った自分の顔を見るなり、理由も聞かず
「当分ここで暮らしなさいよ。」
と一言だけ言って部屋に行った。
いい大人なのに、親に心配かけて、ダメな息子だな。