失恋のお話 1
恋人が指をさしたのは駅に近い、カフェ&バーのような
オシャレな店だった。
「あんな店……いいの?」
「ああいうとこ、二人で入ったこと無かったよなぁ。
いいよね、たまにはさ。」
「うん。」
奥の個室っぽく区切られたテーブルにしてもらい
ピザやサラダなどの食事とビールを注文した。
「オシャレな店来ても結局ビールになっちゃうな(笑)」
「そうだね(笑)」
お祝いの乾杯をして、料理を食べて少ししたら
恋人が口を開いた。
「ずっと仕事で遅いのが続いてて、ゴメン。
家事の負担かけちゃってたし、寂しい思いさせて……」
「それは全然…… 仕事が上手く行くように願ってたし
ちょっとでもサポート出来てたなら嬉しいよ。」
これは本心だ。
「何が原因だとかこうすれば良かったとか色々……
考えたけど、聞かれても嫌だろうしカッコ悪いからさ。
ジタバタしないで今日で最後にしたら、それでいい?」
「…………うん。ありがとう…」
「ありがとう、か……」
店を出て歩き出した。
「家具とか色々、処分してもらえる?手間かけるけど。」
「解った……」
「……じゃあ、ここで。」合鍵を渡した。
「うん……じゃ。」
あっさりと背を向けて歩き出した背中に声をかけた。
「今まで、ありがとう。」
歩いていた足が止まり、少しの沈黙の後
「ホントはジタバタしたかった。それは解ってて。」
こちらに振り返らずにそれだけ言うと、
恋人は……たった今別れた恋人は去っていった。