暴露大会とその相手は…
「緑谷、最初は何飲む? アルコールはこっちに…」
「あっ、大丈夫だよ切島くん。もうかっちゃんが頼んでると思うから」
「へ? そうなのか? てか、爆豪が?」
「うん。大体飲むもの分かってると思うし」
「…アルコールなしだかんな」
「わかってるよ…おつまみは?」
「…ん、チーズ盛り合わせ」
「うげ、まさか締めにチゲ鍋やめてね?」
「はっ、まだ辛いの食えねぇのかよザッコwww」
「皆がみんな君と同じで辛いの平気だと思うなよかっちゃん」
そんな俺らのやり取りに切島や丸顔とか、周りは目を丸くしていたが、俺とデクが普通に会話してるのが珍しかったのか少し固まってから直ぐに会話に戻っていた。外国では皆の活躍見てたーだの、外国では敵はどんなだった〜だの適当な話に花を咲かせていたら、飲み物とつまみが来たのを確認してから切島が立ち上がり叫ぶ。
「我らがA組のヒーローであり、平和の象徴であるヒーローデクこと、緑谷出久の帰国を祝って…改めてかんぱーーーーい!」
『かんぱぁーーーーーいっ』
「皆ありがとう、皆もお疲れ様!乾杯!」
始まってから2時間が経とうとしていた頃に、周りの女性陣は大体が輪になって話しているしアホ面は既に潰れていた。 そんな時に半分野郎とメガネ、クソ髪としょうゆ顔やら丸顔、黒目、耳やらがそばに来てデクと話していた。 そう、それは目ざとく見つけたそいつの指に着いてた物について聞くためだと俺はため息をついた。
「あ、あのさ…緑谷…聞きたいことあんだけどよ」
「切島くん? なぁに?」
「すっげぇ気になったけど…聞いていいか分かんなくてよ、あのよ…その指のってさ…」
チラッと隣のデクの指を見つめてから視線を逸らす。 そう、そいつの指にも伴侶が居るという証のそれがハマっていた。 離れていたら変わる。そういうもんなのだ…時とはっとジョッキを掴んで一気に飲み干して、少し酔いながら相手と周りの会話に耳を傾けた。
「え? あぁ、うん…これね…もらったんだ…」
「もらう側かよ!?」
「誰!? 誰からなん!?」
「わわ、落ち着いてよ麗日さん…これね、お守りだったんだ」
「おま、もり?」
「うん。僕さ…旅立つ時は誰にも言わずに旅立つ予定だったんだけど、その日にその人は僕に会いに来てくれたんだ朝早くに…わざわざ…」
愛しそうにその指に嵌るリングをなぞるデクにドキッとした。 色気のあるその姿に俺は視線を逸らしたまんま頭をガシガシ掻きながら酒を飲む。 丸顔やクソ髪は聞きながら赤くなっているから、コイツらも同じ気持ちなんだろうっと片手は畳に置いたまんま話の続きを聞いている。
「僕が無事に帰って来れるようにって…僕が帰る場所は此処だって…その人が僕にしっかり証明してくれた大事な物なんだ」
「…なんつーか、すげぇ好きなんだな緑谷、そいつの事」
「す、好き!? ううんっ、その好きと言うより、そのっ、もっと…そのぉ、深いかも」
「おぉっ、なんというか、むず痒いねっ!」
「ううう、あんまりこういう手の話は苦手なんだよ…恥ずかしい、…僕、シラフなのにぃ」
「で? デクくんの恋人さんってどんな人?」
「俺も気になる」
「俺もだ、友人の俺たちは聞いてもいいだろう?」
「轟くん、飯田くんも…えと、その聞いても楽しくないよ?」
「楽しいとかじゃちゃう!たんに聞きたいんよ!デクくんがそんな顔する相手!」
「あぁ、純粋に…お前にそんな幸せそうな顔させる奴が気になる」
「俺たちは離れていた君がいつのまにかそんな顔させるような相手が居るのが嬉しいんだ、聞かせてくれるかい?」
「うぐっ、うううう…あうううう…」
「俺にも聞かせろや、デク」
ずっと黙っていた俺が口を開いたのが意外だったのか真っ赤になってたソイツは「かっちゃんまで…」と口をモゴモゴさせながら顔を隠しつつ耳まで真っ赤に染め上げていた。 そして観念したのか目の前の烏龍茶のグラスを手で支え、ストローをもう片方の指で触りつつ下を向いてぽつっと口を開く。
「す、素敵な人だよ…僕には勿体ないくらい…元々、優しい人だとは知ってたけど、付き合ってから更に、そのぉ、優しいというかデレが凄いというか…うぅ、恥ずかしい」
「愛されとるんやねぇ、デクくん」
「ウチらが恥ずかしくなってきた」
「素敵ですね緑谷さん。さぞ素敵な奥さんなんでしょうね」
「えっ、奥さん? あっ、えと…ううーん、奥さんとは程遠いかな、例えて言うなら…ご、ゴリ嫁?」
「あぁ?」
「ひぃっ!? あっ、だってさ!ほ、ほら僕が指輪もらう側だよ? 素敵でも…そういうんじゃないというか」
「…あー、あーな。緑谷が嫁の方なんだな」
「納得…相手はゴリラってことな」
「お、怒ると怖いけど…それも僕を心配しての事だって思ってるからいいんだけどね」
「緑谷さん、心が広いですわ」
「緑谷も尻に敷かれるタイプってこったな。爆豪ん家とは逆か。爆豪んとこは嫁さんが強いんだもんな」
「…あー、あー…だな、嫁のがゴリラだわ…ってぇ、何しやがんだてめぇ」
「あっ、ごめんねかっちゃん。偶然手が当たったみたい」
「ふざけんなクソがっ!」
「お、おいおい、お前らやめろって…相変わらずだなぁ、2人は…ほら爆豪どうどう、緑谷も離れとけ」
俺の言葉に畳に置いてあった手を力強く抓られイラッとして、その抓った奴を睨みつけると、相手も負けじと睨み返してきた。 その為に俺とデクのバトルが始まろうと掌をバチパチと軽く鳴らしつつ近づくと、間に切島と目が覚めたのかアホ面が間に入ってきて止めてきた為に、どかっとその場に座り直した。 クソナードもそのまんま俺の横に腰を下ろし直して周りがほっとしていたのを確認して顔を見合わした。
既にそんなこんなや繰り返して夜の23時が差し掛かる前にお開きにしようとクソ髪が声をあげてテキパキと色んなヤツらに指示を出している。
俺も適当に店員が片付けやすいように皿をまとめ、軽く台を拭きながら残っていた自分の酒と隣のヤツが飲み残した烏龍茶を一気に口に流し込んだ。
そいつは「僕のー」っと言いながらも立ち上がり帰り支度をしながら片付けを続ける。俺は上着を羽織れば、隣にいたデクに車のキーを投げて渡す。器用に受け取ったそいつは「何階?」と聞いてきたので「地下」っと返してから靴を履く。
その会話を聞いていたクソ髪、丸顔、メガネ、半分野郎、アホ面、しょうゆ顔、黒目、耳、透明女は「ちょっと待って」っと俺とデクの会話を止めると降りようとしていた俺らを引っ張って部屋に戻しやがった。
「いってぇなクソ髪…なんだっての」
「いやいや、なんだは俺らの方だろ!? なんだよ今の会話!」
「まって、デクくん?え?え?」
「麗日さん? 落ち着いて、え?どうしたの?」
「落ち着くのはお前だろ緑谷!? 2人で帰るのか?」
「え? だって、かっちゃんお酒飲んでるし? 家まで送らないと?」
「…あっ、あーな。緑谷は家も知ってるってことか幼なじみだもんな。だから嫁さん居ても驚かなかったんだな」
「…え? あ、うん。う…ん?」
「なんで、そんな疑問なんだよ!?」
「いや、あの…よってる人を送って帰るのが行けないことなのかと?」
「いや、悪くねぇよ? 悪くねぇけどお前らナチュラルにしすぎだろ? 一瞬、2人とも伴侶居んのに普通にすっげぇ普通に互いのプライベートっぽく車の会話してっから驚いたんだよ」
「あー、そういう事か。僕…運転できるよ? 外国でちゃんと取ったよ!安心して、上鳴くん」
「違う!なんつーか違うっ!」
クソ髪が次いで何かを言おうとしてるのに気づいたが、俺は黙ってそのやり取りを見つめながら、口元を弛めながら笑みを零すと、デクは何を言ってるかわからないっと表情で語りながら首を傾げていた。
すると、半分野郎とクソ髪がアホ面とデクの会話に何かを悟ったのか顔を抑え「あっ、あーーーー、あーーー」っと納得しながら顔を抑えて呆れている。半分野郎は「…そうか」っと呟いてからデクの肩をぽんっとしながら言葉なく頷いた。
卒業式の後にそいつが最後に会ったのは誰か。
そいつが誰にも言わず…なんて無理なのは知っていた。あいつは親とオールマイトにだけは必ず伝えるのが分かっていた。
そして、そいつに1番近しいのは誰か…なんて、そんなん答え聞かなくてもわかるやつは分かるわなっと立ち上がりモサモサの頭に手を乗っける。
「おい、出久…こっち向けや」
「…っ、急に名前、とか…反則…んぐっ」
こいつの頭を掴んで向かせると噛み付くように唇奪って口付ける。 周囲が見てるとか、そんなん知るか。むしろ見せつけてやれっと舌を奪い更に深い口付けをすると、流石に苦しかったのかデクが引き剥がして息を吐いていた。
「もう、辞めてよ勝己…2人っきりの時だけって言ったじゃんか名前も…て、あっ…えと、そのぉ…もぉやだぁぁぁぁぁぁ」
「…ふんっ」
真っ赤になって車に走り出したアイツを見ながら俺も立ち上がり金を2人分置いてから自分の指に嵌る薬指のリングを掲げた。キラリと光ったその指輪に嵌る石の色は…果たして何色だったのか。
見せつけられた皆は呆然と立ち尽くしかなかったと、あの後切島から聞いた。
「はっ、誰も名前も何も聞かねぇから悪い」
「あー、もう。穴があったら入りたい」
「あ? てめぇの穴は俺がはいんだよザケンナ!」
「もぉ、勝己オヤジくさい…」
「うっせぇ、つか…あー、なんつーか」
「…なに?」
駐車場にたどり着けば、2人で繋いでた手を離してから彼に向けて両手を広げ、暫く開けた後に「来ねぇんか」と告げると勢いよく俺の腕に入ってきたソイツは昔と変わらない笑顔で俺に言ってきた。
「ただいま!かっちゃん!」
「おう、おかえりデクっ!」
ずっとあの日から恋焦がれ、ひとつの輪っかで繋がっていた相手をようやっと、腕の中に収められた瞬間の幸せな時間が今、再び動き出すのだ。
end
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