誕生日おめでとう上鳴!
「はぁ、やっと帰ったか?」
「うん…上手くいくといいね…」
「ちっ、最初から知ってたんかよ」
「上鳴くんと切島くんのこと?」
「…んっ」
僕は隣にいた幼なじみ兼、恋人を見つめると、彼は短い返事で前を見つめたまんま歩く。その横顔がなんともかっこよくて僕は握られた手をそのまんまに俯いた。 最初はなんとなくだったし、確信も無かったが、今日出かけてる時にどんどんわかっていった。 上鳴くんが好きな人がっとチラッと横をみる。
視線に気づいたのか、かっちゃんは僕の目を掌でいきなり覆ってきた。
彼いわく「視線がうるせぇ」との事で、やめてよーっと彼の手をどかそうと手首を掴む。 手があっさり離れると、彼は次に僕の胸ぐらを掴んで唇を重ねてきた。 周りに人が居る、こんな往来の真ん中でだ…彼らしくないなぁっと思いつつも、じわっと少しだけ嬉しさ含む独占欲がどろっと顔を出してきたので、彼に答えるようにぺろっと唇を舐めた。
寮に帰宅する時に2人で歩いた帰り道を手を繋いで歩き、電車では混んでもいないのに壁際に乗らされた。 明らかに僕と上鳴くんの行動見てたなぁっと思いつつも楽しくて笑みが零れた。 寮までもう少しだなぁと足を進ませると、途中でかっちゃんが止まって共に足が止まった。 彼を見ると彼は僕の首筋に顔を埋めてきてすんっと鼻を鳴らす。 擽ったくて「なに?」っと彼のシャツを引っ張ると、彼は「香水…まだ付いとる」っと言われお試しに上鳴くんに吹きかけられたソレについてだろうと気づいた。 結局彼が選んでくれた香水は買わなかったけど、代わりに柑橘系のスッキリしたオレンジ色のコロンを内緒で購入した。 香りも別に彼のと言う訳でもないし、彼にはニトロの甘い香りがあるからっと香水要らずだが、なんとなく色が彼を思い出させてくれたから、机に飾ろうかなくらいな気持ちだった。
帰ったらシャワー浴びるよっと笑う僕にまた、「んっ」と一言返すかっちゃんはまた踵を返して歩き出した。 小さな小さな独占欲…彼が言わなくていいと言ったくせに可愛い事をするっと笑ってしまう。 でも…周りに言わずに今回みたいに彼を翻弄できるのも僕だけだと思うと、このまんまでも良いかなぁとか悪どい事を考えてしまった。
「おい、くそデク…」
「んー?」
「……ぞ」
「え?」
ピタリと足を止め直してまたもその場で2人きりの世界に投げ込まれた感覚になる。 彼がなんて言ったか聞き取れなくて…僕は顔をあげて彼をみた。
彼は僕を見ながら真っ直ぐに綺麗な赤い瞳を逸らさずに口を開いた。
「皆に、言うぞ…つったんだわ」
「…へ、えぇぇぇぇ!? ちょ、かっちゃん正気? 僕だよ? かっちゃんの嫌いなムカつくクソナードだよ!?」
「…わかっとるわっ! しかたねーだろ、誰にも奪われたくねぇ、てめぇは俺のだって…離したくねぇって気づいちまったんだよ」
「あーーーーー、クソっ」とかっちゃんは頭をガシガシ掻きながら耳まで赤くしながらも足を進め直す。 さりげなく空いてる右手に僕は自分の左手を重ねるように手を繋ぎなおしてから隣に並ぶ。 隣の相手の意外な言葉に驚かされたが、それよりも嬉しくて幸せでそっと指を絡めるようにしっかりと繋ぐ手に力を込めた。 その手にしっかりと握り返させると、彼の顔を覗き込んでから「僕とかっちゃんみたいに、上鳴くんも上手くいくといーね」と告げれば「しるか、んなもん当事者しでぇだろ」っと普通の言葉を返されながらも、寮までの道のりを並んで歩いた。
【寮帰宅後 上鳴視点】(上耳要素有)
あの後、瀬呂と切島と3人で寮に帰ってくると、部屋が真っ暗で驚いた。もう6月だというのに日が落ちるのがまだ早いのか、7時前には既に暗いなぁっと足を進めた。 玄関で3人で立ち止まっていると、いきなり【誕生日おっめでとーーーーー!上鳴ーーーーー!】っと叫ばれクラッカーが鳴らされては電気で寮の共用スペースが明るくなる。 目の前には垂れ幕とクリスマス程ではないが、多少の飾り付けされた室内と机には大きな3段ケーキ(砂藤作)が置いてあった。 俺はぶっちゃけ最初何事かと目を丸くして固まっていたが、切島と瀬呂に背中を押され椅子に座らせられた。
「へ? え、こ、これって…」
「緑谷が発案してくれてさ、 皆で内緒で用意したんだ…」
「飾り付けとか、料理とかもクジで決めてよー、緑谷がプレゼント係だったってわけ、ふふん、驚いたかー上鳴ー?」
耳郎と峰田が告げた言葉に緑谷の言葉が思い出された。そういえば、今日は緑谷と出かけた理由はそれだったなぁっと笑みが零れた。 今日は別れる最後に緑谷から「上鳴くんは、2人で出かけたことないから…ちょっと意地悪しちゃってごめんね、実はね…焦れったい2人の気持ち、気づかせたくなったんだ、目…逸らさないであげて?」っと赤い液体の入った香水を渡してきたダチの言葉に俺は、切島の視線から逃げて気づかないフリしてたんは俺なんだなぁっと感じた。最初から緑谷は俺の気持ち気づいてて、あんだけ接近してきたんかなぁとか地味に喜んでた俺は馬鹿かよっと思いつつも、気づかせてくれた相手に心の中で少しだけ「あんがとな、緑谷」ともお礼を述べた。
ケーキを囲んでロウソクに火をつけて消そうとした瞬間に扉から爆豪と緑谷が帰ってきた。 手にはなにやら持っていたが、一応緑谷はプレゼント係というのもあって、適当に買ってきてくれたらしい。 流石は緑谷、気が利く気配りやさんだよなって思いつつも誕生日の曲を披露してくれた耳郎や爆豪達のバースデーBANDも活かしてたし、すげぇ楽しかった。 でも、俺は今から自分の誕生日プレゼントの為に1歩進まねぇとっとケーキを食べた。
「…耳郎、ちっといいか?」
「…うん…あっちいこっか…」
「わりぃ」
俺は耳郎を周りと話してた輪から連れ出して、少し離れた場所に歩いていく。 横目で切島の視線を捉えたが、片手をひらひらと振ってからその視線から外れるように離れていく。 周りから見えない階段の下辺りで立ち止まると、耳郎を振り向いて一気に頭を下げた。
「わりぃ、耳郎!俺さ、お前とは付き合えねぇ!」
俺の口から出たのにはこれだった。 実は俺は数ヶ月前に耳郎から告白されていた。 もちろん、BAND仲間としても、チームメイト、クラスメイトとしても頼れるし、女の中ではマジで可愛いと思うし好きだと思った。 でも、返事が出来なくて、この理由は分かんなかったけど考えさせて欲しいとだけ言って離れた。 その場面に緑谷は居合わせたんだ。 緑谷は気配りが出来て自分のことはとんだ鈍感だけど、周囲の異変には気づきやすい。 偶然にも聞いてしまった緑谷は「大丈夫、誰にも言わないよ」っと笑ってくれたし、有言実行というもので、ちゃんと黙ってくれていたから誰一人として知らなかった事だった。それからというもの、緑谷は親身に俺の相談を聞いてくれたし話も聞いてくれた。その心遣いに、好きになったのが緑谷だったらなぁと零したこともある程だ。でも結果、緑谷は俺と2人で過ごしてみてわかったのは、俺が誰を好きだという事だった。 出かけた時も相談してる時も俺の会話の中にはそいつが居て、きっとこれから先も俺とバカしてくれるのは止めてくれるのはそいつなんじゃないかなっと思ってしまったし、そうであってほしいとも願ってしまったくらいだ。 俺より先に居て、俺より強くてかっけぇ奴。
でも、1人で突っ走るんじゃなくて、俺が横に駆け寄るのを並ぶのを待っててくれる背中。隣に来たらすっげぇいい笑顔で「行こうぜ!上鳴っ」と呼んでくれる甘い声。そんな奴に俺はいつの間にか心奪われてたんだと思った。
「…うん、知ってた。 上鳴の視線…いつもアイツが居るもんね、ちゃんと振ってくれてあんがとね、これで前に進めるよ」
「あ、あのよ…俺…」
「ちゃんと伝えてよ上鳴もさ…じゃないと、ウチだけが振られるとか、ムカつくし、あんたも振られて来なよね、そしたらさ…」
声が少し震えていた。 此処で抱きしめてしまったらきっと、勘違いさせてしまうし、傷つけてしまうっと俺は手をぐっと止めながら真っ直ぐ彼女を見つめた。耳郎はにへらっと笑うと、いつもの笑顔で俺の心臓に人差し指をたてた。そして、目の端に涙を溜めながらこう言ったんだ。
「また、ウチがアンタにアタックすっからさっ」
って、かっけぇわお前マジでっと赤くなった顔を隠しながらその場で蹲った。 マジでお前に惚れてたら俺、幸せだったかもっと言えないまんま、パタパタと仲間の元に帰ってくる足音にはぁーーーっと息を吐いた。 その後に申し訳なさそうな足音が近づいてきたのに気づき立ち上がって視線を向けた。
そこにはやっぱり足音と同じくらい申し訳なさそうな顔で、俺を心配していた切島の姿があった。
⑤(最終話)へ