誕生日おめでとう上鳴!
『あー、あー、こちら瀬呂…今、ターゲット出てったぞどーぞ』
『あー、てすてす、此方、烈怒…じゃなくて、切島…了解。どーぞー』
『………』
『おーい、爆豪ー?』
『アイツら、手なんか繋いで出ていきやがったぁぁぁぁぁ』
『落ち着けっての!尾行ばれんだろーが』
『おーい、爆豪んとこ行くぞ切島ー』
『切島りょーかーい』
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あの後、電車で暫く揺られながら目の前の緑谷を見る。 くりっとした目で俺を見上げると『にこっ』と形容されるような可愛い顔で笑ってきた。 俺は手を握ったまんま電車に揺られると、結構な満員のため大きな揺れの瞬間にバンッと緑谷を壁際に追い込んでしまった。所謂【壁ドン】というものだろう。 緑谷は結構な揺れに驚きつつも、俺にぎゅっと掴まってきた。「緑谷?」っと聞くと緑谷はへにゃっと苦笑いしながら「ごめん、混んできたのに…上鳴くん辛くない?場所変わろうか?」っと告げてきたから「緑谷の方がなんか俺より体格細っちぃから大丈夫だっての」と笑うと緑谷は小さく俺に聞こえるだけの声で「ありがとう、上鳴くん」っと肩に顔を埋めてきたので、心臓がキュンって鳴った気がした。 ぞわっとなんだか背中にはしったので振り向いたが誰も居なかったので首を傾げた。
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「あぶねぇだろーが! 爆豪!こんなとこで爆破しようとすんなっての」
「離せやっくそ髪!アイツ、俺のデクとちけぇんだよ!殺す、ぜってぇ、殺す!」
「落ち着けってのっ!バレるだろ」
「はぁーなぁ〜せぇー!殺す、ぜってぇ、殺す!」
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そんなやり取りも知らない俺ら2人は林間学校前に訪れたショッピングモールに足を運び中に入る。 その時も緑谷はしっかりとはぐれないように手を繋ごうっと言って握ってきた。 俺はどんどん近くなる緑谷の距離に少しドキドキしながらも手を握り返すことしか出来なかった。
そのあと、色んな場所を回った。 電化製品のとことか、服屋とか雑貨屋とか本当に色んな場所を転々とするも俺は遠慮しちまって緑谷に何が欲しいか言い出せずに居た。 その時にひとつの香水屋さんが目に入った。
ふわりと香ってきたそれがなんとなく緑谷っぽくて足を止めると、緑谷が止まった俺のせいでくんっと引き止められるような形で数歩後ろに下がる。
「上鳴くん?」
「なぁ緑谷…俺さ、あの店見たいんだけど」
「香水? うん、いいよ。上鳴くん、あーいうの似合いそうだもんね」
ぱっと花が咲いたみたいに笑う緑谷に「お前に似合いそうなんだよ」とは言えずに足を進め店に入った。 期間限定だからなのかその香りだけが今回お店のピックアップ商品みたいになっていて、お店にはその匂いが充満している。 それを付けた緑谷を考えてみれば少しだけ、仄かにあった独占欲が胸を締めてしまいそうになった。 緑谷は友人の好きなやつである。それは分かっているのだが、俺だって少しはソイツを振り向かせてみたいと思うことだってあるもんなんだっと深呼吸してから色々見て回る緑谷の手を引いた。
「緑谷、あのさ…この香水付けてみねぇ?」
「…僕? え、そんな臭う!? なんかごめんっ」
「違うっての…いや、その…俺が緑谷に似合いそうって感じた香りだったからつけて欲しいって思っちまってさ」
「僕に? でも、今日は…上鳴くんの…」
「なら、俺も緑谷がくれたもの付けっから…どうだ?」
「ぼ、僕が君に似合うものを!? で、できるかなぁ?」
「大丈夫だっての!緑谷って、訓練とかでも俺たちに的確なアドバイスくれんじゃんっ!香りとかも絶対得意なんじゃね?」
「そ、それは違うと…上鳴くん?」
俺は緑谷を引っ張って香水の棚が並ぶ場所へ移動すると、ずいっと彼の前に香水を差し出した。 透き通るような緑色の香水は森林の香りと書いてあったが、森林の匂いってなんだ?とは思いつつも、なんとなく香った瞬間に癒されたから緑谷って感じたから進めた。それだけだっと見つめると、緑谷は最初は狼狽えていたが、本気だとわかったのか俺の手からそっと受け取り頬を緩めるように笑った。 可愛かった…っと思いながらも首を振ってから「次、誕生日プレゼントの、俺の選んでくれよ」っと告げ2人で店内を歩いた。
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