幼馴染
それは、とある平和な学校の一日の事であった。
【席替え】
土日を挟んで身体を休ませた2日を過ごし、また皆で月曜日から、ヒーロー科の授業を受ける。 いつもと違ったのはそこからだった。
「あー、コミュニケーションアップ強化月間ということで、席替えをする」
急な相澤先生からの一言にクラス中に『がっぽぉぉぉぉぉい!』と響き渡る。 キラッと目を光らせた相澤先生が何かを口に出そうとした瞬間に『シーーーーんっ』と大人しくなった為に、先生は一言良しっとだけ告げた。
「あー、今期から授業にチームアップミッションという
なぜ席替え?とは誰も突っ込まないが、きっと心で皆が思ったことだと思う。 その後は授業のペアなどもそれぞれ変えていくらしい。
手始めに席替えというわけだ。期間は1ヶ月のみ、席替えの席を適用するらしい。 だがやはり高校生というものだ、そういう事すら楽しみになってしまうのだ。
先生方が作ったA組専用くじと書かれた箱を出されると、順番に並びながら委員長の指示に従いクジを引いていった。
それから、波乱の幕開けとなる。
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【席替え終了】
僕はことごとく運が悪いらしいということだけはわかった。
先生の話を聞くあたり、僕はこのメンバーに囲まれることになるのは必然に感じた。
隣にはやはりと言うべきかチラッと視線を移す。
「あ? みてんじゃねーぞ」
「おい、爆豪! コミュニケーションアップだからなっ!?」
「…」
「無視してんじゃねぇぞゴラァ、デクの分際で生意気なんだよ」
僕の席運は悪すぎじゃないかなっと右隣、前、斜めに視線や気配を配りつつため息を吐いた。
僕の席の位置は元々八百万さんの席で右隣にはかっちゃん、前には切島くん、斜め前は上鳴くんという異様な光景だ。 まるで爆豪派閥というものに囲まれた動物みたいな気分になる。
というか、君たち仲良すぎだろ、今更コミュニケーションアップ計らなくて良くない?とは言えずに、自分のくじ運を呪うしか無かった。
でも、僕は思ったのだ。 かっちゃんは自分から話しかけたり必要以上に接触しなければ害は無いのだと思っている。 なんせ、彼は僕が嫌いだ。それは互いのぶつかり合いがあっても変わらない真実だ。
前よりはイライラは減ったが僕の存在=イライラに直結するのならば、僕が近づかない、話をしない等を心がければいいのだとノートを取り出して授業に集中、休み時間は席を立って教室から出るなど対処すればいいのだからっと我ながらの考えに自信を持ってみた。 隣からくる苛立ちの視線に気づきもせずに。
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【1限目】
この席順で授業受けるのかぁっとノートと教科書を開いて授業の準備をする。トイレは済ませたしっと机に物を置いてから極力隣の会話に耳を傾けないように触れないようにスマホを取り出す。 メッセージには麗日さん達から来ていた。「災難やねぇ」「席、大丈夫か? 変わってやろうか?」「…委員長として、言ってはいけないと思うが、席は変わらなくていいだろうか?」などと来ていて、「心配ありがとう、自分から必要以上に話しかけなければきっと平気だよ」と返信してから携帯を直した。
…瞬間に声をかけられて驚いてしまった。
「…おい、教科書見せろや」
「…え?」
「聞こえねーんか、教科書見せろっていったんだよ」
「えと、あの…どうして?」
「あ? コミュニケーションアップなんだろーが、隣同士で机くっつけて教科書見せ合いっこが普通だろうが!!」
「え、どんなコミュニケーションアップ方法!?」
「緑谷、爆豪はな、教科書忘れたから見せて欲しいって言いたいんだよ」
「あ、そうなの? それなら瀬呂くんが反対側なんだし…」
「俺ァ、右利きなんだわ」
「僕も右利きだけど!?」
なんなんだ?っと思いつつも、忘れたのなら仕方ないよなっと彼の机に自分の机をくっつけながら真ん中に教科書を置いた。 先生は「忘れたなら仕方ないですね、それにコミュニケーションアップ期間ですし、いいことです」と褒められたので、2限目から、隣の席の人に見せてもらう形式を取り扱うこととなった。
「(こんなので、コミュニケーション取れるのかな?今から席変えて貰って…)」
「おい、デク」
「は、はいっ」
「ここ、公式間違っとる。さっきの応用だから、これはここに入れねぇと…」
「え? あ、本当だ…気づかなかったや、ありがとうかっちゃん、ならこうすれば、答えこれかな? あってる?」
「ん、あっとる」
そんな幼馴染っぽい会話をしながら前に視線を移せば、切島くんと上鳴くんが笑顔で見ていたから僕は「どうしたの?」っと聞けば、彼らは「なんでもねーよ」「良かったなー」っと笑うだけで前を向いていた。
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【昼】
「はぁー、やっとお昼だねぇ…かっちゃ…」
ついつい4限目までで慣れてしまったのか隣にいる相手に普通に話しかけてしまった為に僕はノートを直しながら固まる。 流石に隣だからってお昼を誘わないだろーーーっと僕は失態をしてしまったっと何も無かったように席を立つことにした。
「おい、デク…」
「え、何かな?」
「飯行くんだろ、購買と食堂選ばせてやる」
「…え、なんて?」
「1回で理解しろや。購買で買うのか食堂で食べるのか選ばせてやるって言っとんだわ」
僕はもう一度固まって彼を見つめる。なぜ?って顔をすると、更にイラッとしたのか彼が僕の顔を掌で掴みながらニコッと笑った。怖い…
「朝の話を聞いてなかったんかお前は?あ? 昼飯、休み時間は必ず隣の席の人も含めて行動しろって言われただろーが」
「え、えぇ!? そんな説明あった!?」
「あったわ!丸顔やメガネ共に確認しとけや!」
「わ、わかった!麗日さん、飯田くん、轟くん、峰田くん、聞きたいことが…」
言われた通り比較的仲がいいと思ってる相手に話を聞こうと僕は彼らの席に近づくが、後ろからかっちゃんも着いてきたので「な、なに?」っと聞くと、「一緒に行動」とだけ言われて、それから何も言えず、彼らに近づいた。
「あの、麗日さん…今日というか、暫くのコミュニケーションアップの行動なんだけど、隣の席の人と昼とかの行動も一緒って本当かな?」
「え? ウチはそんな…んん」
「緑谷は聞いてなかったんだな、本当だよ」
「あ、そうなんだ…ありがとう尾白くん」
麗日さんが尾白くんのしっぽで口を塞がれたのは何故か聞けなかったが、聞きたかった返事は貰えたし、僕はチラッと後ろを見てから隣の席になったかっちゃんの傍に戻って、「かっちゃんの言う通りみたいだった、ごめんね…聞いてなかったや」と言えば、ヂィッと舌打ちした相手が僕の手首を引っ張り歩き出した。
「ね、ねぇかっちゃん…その、食堂じゃないの?」
黙ったまんま歩くかっちゃんに着いて行きながら僕は声を掛け続けた。
途中足を止め、購買部で適当に買った物を受け取ると、2人で校舎裏のベンチに腰掛けて昼を食べることになった。
「ん」
「あ、ありがとう…あ、メロンパン」
「こっちも、のどつめねぇよーに」
「ありがと、う…お金…」
「…金は要らねぇ、別のもん貰うわ」
「…別のもの? 僕、君が喜ぶもの…持ってない…へ…」
誰も居ない校舎裏で2人ベンチに座っていると、近づいてきた顔面偏差値良きの顔に咄嗟のことで動けなかった僕はそのまんま、唇が重なった。
「…あめぇ…」
「な、なっ…ななな…なっ!?」
「…壊れたラジオかなんかかよお前は」
「な、何するのさっ!僕のファーストキス!!」
「おぉ、良かったな…俺も同じだわ」
「そうなんだ、かっちゃんもかぁ…って違うよ!なんであんなことしたの?」
真っ赤な顔で彼の腕を掴んで見つめると、彼はなんでもないような顔でファーストキスだった事を告げてきたので、僕は思わずお揃いならっとか変な思考になるところだった。
理由を聞こうと彼を見れば、彼は僕を真っ直ぐ見つめてきてから鼻をぎゅむっと摘んできた。
「ふがっ…」
「ふは、ブッサイクな面」
「う、うるさいなぁ、どーせ整ってないですよぉ」
「まぁ、そんなお前がいいんだけどな…」
「………へ?い、今なんて…」
「何もねぇわ、とっとと食えや、昼休み終わんぞ」
「え、あっ、う、うん!」
彼に買ってもらったパンとジュースを飲み食いしながら、隣に座りながら真っ赤になった顔を隠すようにそっぽを向いた。 横にいた彼も激辛カレーパンなどとまたもや辛そうな物を口にしながら、パックの飲み物を吸い上げ、ジューっと音を立てつつ飲み干す音がする。
暫くして、昼も終わるなーっとうとうとしてきた瞬間に顔に影ができて、薄ら目を開けると、ちゅっと先程よりしっかりとした口付けが降ってきて、流石にぷるぷると真っ赤になるしか出来なかった。
「かっちゃんっ!!」
「理由はっ!!」
「…へ?」
「俺がテメェなんぞにこういう事する理由は…てめぇで考えろや」
「ちょ、いきなり…」
「コミュニケーションアップ期間の間だけ、猶予やるつってんだ…その頭で考えてみろや」
僕のゴミと自分のゴミを袋にまとめた彼はポケットに手を突っ込んでスタスタと歩き出した。 「行動一緒にじゃなかったのかよ」っと言わずに僕はその後ろ姿を追いかけた。
僕と彼のコミュニケーションアップ期間が始まった。
END