幼馴染
手を伸ばせばいつも届く距離に居たのに…そんな近くにもう君は居ない。
幼馴染だなんて、離れればあっさりとしたものなのだ。
【赤い糸】
「爆豪先輩!! 私と、付き合ってくださいっ」
「爆ぜろや」
彼は、3年になっても変わらずモテた。
毎日女子生徒に呼び出されては思いを伝えられ、イライラも募っていた事だろう。 それはA組の女子とて同じだった。
僕が知ってる中では「麗日さん」「耳郎さん」は確実に彼が好きだと思う。
でも、同じヒーロー志望なのだから、そういうのに現を抜かしている場合でもないのも分かっているからか、心を秘めながら彼に「また告白されたん?」「アンタも大概だねぇ〜、断ったの?」などと断ったかを確認しては密かに安堵していたのを僕は知っていた。
彼は誰とも付き合わない、付き合えないのだ。
彼には昔から想い人がいる。それはきっと誰にも言わないし言うことも無いのだろう。 彼の小指には子供の頃に掛けられた個性事故の個性が残っている。 内容は『赤い糸』その名の通り小指に赤い糸が繋がっている。
その人に思いを伝えないと赤い糸は解除されずに見え続けている。
一言相手に好きだと告げるだけで消えるのに、そうしないのは彼いわく繋がってるのを見ると安心するかららしい。その繋がっている相手はクソナードと君が罵る僕なのに?っと彼に聞くと、彼は繋がってる小指を唇にあてて毎度笑う「だからだろ?」っと。 その顔に安心してしまう僕もだけど、赤い糸は運命の相手でもある。 彼の細い赤い糸は僕の小指に繋がっていて繋がった人同士が見えるようになっている。 だから僕が消えたり彼が消えたり、彼に恋人が出来たり、僕に恋人ができたりしたら消えてしまうのだ。 運命が変わるのだから当たり前だろうっと死んだ人にまで運命はつきまとえないだろうと僕も彼も個性について聞いた時は思った。
そんな感じの互いに腹を括って、一生君の隣もいいかもって思ってた矢先にコレだ。 なんで僕は毎回こんな場所に居合わせるんだろうなどと、彼と彼を呼び出した女の子の告白現場を背に溜息をついた。
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「爆豪くん、私…爆豪くんが好きです!」
「あ? 俺はクソモブなんぞ眼中にないわ」
ほら、君はこうやってまた断って、僕にわかるように糸を引っ張って小指に口付けを…っと見つめた瞬間に小指の糸が消えてなくなったのだ。
「な、んだこれ…引っ張られる」
「えへへ、私の個性なんです。爆豪くん…私の彼氏になってください」
するりとかっちゃんの腕に回された腕を彼は離すことはせずに一言「わかった、付き合ったるわ」と告げた。 僕の頭は石に殴られた気がした。
その瞬間に目を凝らせば見つめられるくらい薄くなった赤い糸を僕はぎゅっと握った。 このまんま、さよならなのかなぁっと僕はその小指に唇を寄せるとなんとなくだけど糸の色が映った気がした。
それからはもう寮が大混乱だった。 麗日さんと耳郎さんは酷くショック受けてるし、上鳴くん達はどんな子?どんな子?っと聞いてるわだし、芦戸さん達も楽しんでるしで僕は胸がズキズキ痛んでいた。
就寝時間に近づいてきたのか、かっちゃんはソファから立ち上がりスタスタとエレベーターに向かっていった。 僕は急いでついて行くと、怖いけど彼の裾を掴んで彼を見つめた。
「か、かっちゃん、その、彼女のこと…好きなの?」
「…すっ…」
彼は何かを言おうとするも直ぐに口を抑えてから、何も聞くなっと言ってから部屋に帰って行った。 僕の心臓はまた少しだけズキっと痛んだ。
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こんなんでくよくよしてたら駄目だよね!頑張ろう僕っと布団の中で彼女とかっちゃんの会話を思い出した。 彼女は個性と言っていた。かっちゃんに個性を掛けたのは明白で、僕は急いでその子に関する情報と僕とかっちゃんの間の赤い糸に関する情報を集めることにした。 嬉しいことに、明日からは夏休み最終日のまで一週間自由休日の日なのだっと夜更かしして携帯を開いた
。
そして、次の日には地元に帰ってきて僕とかっちゃんに個性を掛けてしまった近所の叔父さんの家に向かった。 彼は高校の時に僕らに誤って個性を発動させてしまった。まだ個性封じ用の手袋を付けていなかったから仕方ないと僕はそんな過ちを彼に責任転嫁させるつもりで来たわけではないのだっと告げ、謝る彼の家に上げてもらった。
彼は既に既婚者で可愛い相手と子供にも恵まれていた。
そんな彼が僕に謝る姿に僕はハッキリと「気にしないでください、それよりも聞きたいことがあるんです」と告げた。
「貴方の個性は運命の赤い糸が見えるだけなんですか?」
「いきなりだね、出久くん…僕の赤い糸は運命の赤い糸だから繋がってる人同士が将来の伴侶になる可能性を示したものだよ」
「それが消されることってありますか?」
「…消されたとしても、それは反映されない」
「え?」
「運命は変えるものというけど、それは本当に変えられるものだけ。僕の赤い糸はね、生涯を約束したものなんだ。だから、相手が途中で浮気しても、別の相手とくっついても、必ず心はその人に向いてしまうんだよ」
「…なら、僕と彼の繋がってた赤い糸が消えたのは相手が変わったからなんですか?」
「落ち着いて出久くん、赤い糸は切れてないよ…今は薄くなっているだけ、多分、僕と反対の個性が居るんだよ」
僕にお茶を出しながら彼の隣に座った女の人はふわりと微笑みながら彼の背中を撫でてあげていた。 あぁ、夫婦ってこんななのかっと僕は見つめると、彼は続けるように口を開いた。
「赤い糸を切ってしまう個性だよ」
「…そんなっ、なら切れたら二度と…」
「…結び直されたらね」
「なら、やっぱりかっちゃんと僕は…」
「落ち着いてと言ったよね? 僕は赤い糸が見えるし感じられる、他人のものも…君と勝己くんのは消えていない、薄まっているだけなんだ」
僕の小指に彼が触れれば、真っ赤な糸が姿を表す。僕は何を?っと聞けば「繋がってるかの確認だよ」と彼は笑ってくれた。 多分勝己くんには既に見えていないが今、君の目にだけは見えるようにした。これで勇気を持ってぶつかっておいでと、彼は教えてくれる。 横にいた奥さんも楽しそうに「私たちの赤い糸が見えなくなった時も、あんな感じでしたね」と笑って答えていた。
「で、でも赤い糸切られたら…」
「赤い糸を切る個性はね、本当に切ってるわけじゃないんだ、見えた糸を指で軽く挟んで切ってしまう真似をするんだよ、その後に自分の糸、または違う人同士の糸を結んで強制的にくっつけてしまうんだ」
「それじゃあ今かっちゃんは」
「本当の君の糸と、彼女と繋がってる糸がある。彼女と繋がっている糸を解けば元に戻るよ」
「でもね、運命は変わっていくというのも間違いではないよ? かなり低い確率だけど、ずっとそれをそのまんまにしていたら、いつの間にか嘘の恋は本物の愛になる、それが感じ取れた時に、赤い糸はその人と本当に結びつくんだ、気をつけてね」
今の君なら、糸が見えるから頑張ってねっと力強く笑ってくれた叔父さんに僕は「頑張ります」っと答えてその場を後にした。
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でも、赤い糸の効力はみるみると現れていた。 夏休みなのにかっちゃんは普通科の寮近くまで行って彼女と会っては談笑してるし、たまに頭を撫でたり頬に触れたりする。 …キスも、いつかしちゃうのかなって胸元のシャツを握って遠くから見つめた。
いつもなら赤い糸が見えてたから僕が告白現場やら見てたら気づくのに今は彼の方は薄いからか気づく気配もないのだと悲しくなってしまう。
叔父さんが言ったように、時間が立てば経つほど赤い糸は運命を変えてしまうというのが本当にならないようにしなくてはっと僕は彼にどうにかして近づきたかった。
そんなこんなで何も出来ずに学校始まったけど、彼は変わらず彼女と登下校を共にしているし、寮に送ったりなど彼氏らしい行動をしていた。 胸がズキズキ痛んでいるが、僕はハタっと気づいた。
彼が僕を好きじゃないのに、僕はなんで彼を振り向かせようとしてるんだ?っと。彼に好きな人が出来たなら応援してあげるべきだろうっと思ってしまう。 元々運命の赤い糸のせいで彼は僕と結ばれるのを前提で歩んできていた。それが無くなったのだから彼が僕を気にする必要なんか無くなるのだっとストンっと胸に答えが落ちてきた。 糸のせいで彼の邪魔をしていたのに、わざわざ結び直す必要あるのだろうかっと、かっちゃんに嫌われてると思っていた僕はその考えにたどり着いた。
あの小指のキスも毎度、見えているんだと言うだけの行為だ。別に僕相手じゃなくてもしていただろうっと僕はかっちゃんを好きという気持ちを隠すために、蓋をすることにした。
そんなある日、事件は起こったのだ…
「好きです、緑谷先輩!」
「…ほぁ!? え、ぼ、ぼくぅ!?」
なんと、初の告白をされました。それも、男の子に…っと僕はその子に「ちょっと考えさせて貰ってもいい?」と告げてからその場を離れることにした。 誰かに相談したいけど、同性に告白されましたとか言いづらいなぁっと思うも、僕の帰ろうとした道から、僕の初恋相手が歩いてきたという偶然があったのだ。ポケットに手を突っ込みながら僕を睨んでいるその姿は3年になっては久しぶりかもしれないなぁっと思いつつ、彼女を送った後なのだろうと、声をかけようかかけまいか迷いつつも、頬をぺちっとしてから笑顔で彼に駆け寄った。
「かっちゃん、なに怒ってるの? 彼女と喧嘩でもした?」
「違ぇ、テメェこそなんでこっちにおんだ。こっちは普通科校舎だろーが」
「えぇ、うーんと…えとねぇ」
僕が話すのを迷っていると、彼のイライラが更に募ってるのかオーラがやばかった。 でもそうだな、彼は彼女が居るし僕との糸のことは忘れている、ならば相談してもよいのではないか?っと彼を振り向いて彼の手を握った。
そうだ、恋人が居る相手ならなんも心配はないだろう、なんせ恋人が居るのだから振り方も受け取り方も分かるはずだと僕は楽観的に考えていた。
「はぁ!? 男に告られただぁ?」
「…うん、かっちゃんならどうする?」
「…即効爆破」
「だと思った…ってそうじゃなくてさぁ…断り方だよ」
彼の部屋で彼の枕を抱きしめながらポツリと話しだした僕に彼は遠慮なくぶった切った。 彼女が出来た彼ならっと相談したが、彼の言葉は全て「断れ」「断り方なんざ興味ねぇの一択だろ」「いいから、はよ相手を殺せ」などと物騒で笑ってしまった。そんな僕を見る彼は急にベットから降りて僕の後頭部を掴んで顔を寄せてきて「目、閉じろや」と言ってから僕を見つめてきた。 僕はなんで?爆破?などと思いつつぎゅーっと目を閉じると「ちゅっ」という音と共に唇が触れ合った感触が残った。
「な、んで…」
「わかんね、でもテメェを感じてねぇとイライラすんだよ」
「ふは、彼女居るくせに?」
「アイツにはんな事してねぇわ、身体が拒否っとる」
「そうなの?」
「俺は…モヤがかかったみてぇにたまになっけど、お前を見たら晴れてく感じすっから、お前は俺の傍に居ろや…」
「浮気してる君を愛せってこと?」
「ばぁか、早く個性解けやってことだわ」
「ありゃ、気づいてたの?」
「お前なら直ぐに行動すると思ったのによ、何もしてこねぇうえに終いにゃ告白されとるとかアホかよ」
「僕頼みだったのかよ」
「たりめぇだろ、俺は引き寄せられっからなんか分かんねーけどあの女んとこ足が向くんだわ」
彼の言葉に最近痛かった心臓は痛みを消して、逆にドキドキさせてくるものだから恥ずかしくなった。そっと頬に触れられたその手をそのまんまにもう一度唇を重ねた。 その瞬間に小指が熱くなり互いに小指を見つめた。
すると、そこにはくっきりと映る赤い糸が繋がっていた。
「あ、あれ? これ…」
「…ふん」
彼は僕から離れてから自分の手のひらをグーパーしながら満足気に小指に口付けた。 君って本当にっと赤くなれば彼は嬉しげに僕を抱きしめて何度も口付けてきた。 愛の言葉は吐かれないが、彼なりにくれたこの行動に僕は嬉しくなった。
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その後がまた大変で、女の子は乗り込んで来るわ、かっちゃん狙いの女の子が押しかけてくるわで、教室の入口は大混乱だった。
僕はその光景に、またかっと溜息をつきつつも、小指に映る色にクスッと笑ってからそっと小指を触る。 その瞬間にガタッといきなり席を立ったかっちゃんに手を取られズカズカと教室前に連れていかれた。
「な、なになに?」
「デクくん!?」
「爆豪、いきなりどうしたよー」
「ん、コイツが俺んだから…今度俺に告白してきたら、容赦なく爆破な」
「ふぇ!?」
僕やクラスの言葉や、入口にたむろっていた女の子たちも叫ぶしか出来なかった。赤い糸を愛しそうに眺める彼からの愛の言葉は貰えないが、ある意味結ばれたのか?っと僕は少しだけ照れくさくなった。
赤い糸が切れた時はあんなりあっさり幼馴染といえど離れたのに、結ばれるとこんなにも近くなる悪戯な糸に僕はありがとうっと告げて、小指にそっと口付けた。
そして、それを見ていたかっちゃんにするなら俺にしろやぁぁぁぁぁと爆破されることとなる。
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【後日】
ねぇ、いつまでこの赤い糸そのまんまにしとくの?
あ?んなもん、俺とテメェがどっちかくたばるまでだろ
えぇ!? それ、いいの?
当たりめぇだわ、死ぬまで見れるってことだろ? この糸が繋がってるの
…君ってさぁ、本当に…
あ?
デレが凄いなぁ
等と僕は独り呟いた。
END