拍手置場
「かっちゃん、今日こそは受けてもらうよ!」
「はっ、できるもんならやってみやがれ」
背中に背負っていた三本の矢を弦に設置してから三本一気に相手に向けて放つ。 狙われた相手はすんなりとかわしながら手から爆破を起こし矢を燃やしていった。 僕は天使、彼は悪魔…決して相容れない間なのに、僕は彼を愛している。 例え自分の生が無くなるとしても。
出会いは遥か昔、まだ個性というものが発症するより昔だ。
神から創られし御使いである僕『イズク』は、飛ぶのが苦手で森の中で良く飛ぶ練習をしていた。 だがある日、声が聞こえ、姿を現してはいけなかったのに、助けを呼ぶ声に反応し姿を現してしまった。
目の前には邪悪な影がまとわりつく堕天した仲間の姿があった。 彼は僕が産まれるより少し前に生を受け、僕より成長が早く、才能溢れる天使だった。
だがいつしか、彼とは会えなくなり、暫くしてから彼が地上に降りた事を聞いた。 そんな彼が目の前に居る。その事実だけで僕の頭は喜びで埋め尽くされていた。 天使の遣いは人間を見守る神の手伝いをすること。
このひとつの羽だけで相当な力が秘められていた。 1枚使えば死者をも甦らす事ができる素晴らしい羽だが、使っていい者は決められている。
自殺したもの、悪に手を染め死刑になったもの、薬物や違法行為に手を染め死んでいったもの、そういう人には神は絶対に羽根を使う許可を出すことは無かった。 それだけではない、事故や事故に巻き込まれ命を落とした者、そういう者にも手を差し伸べることは許されない時があった。
それが『死神』と呼ばれる者との境界線だった。 死神のリストに寿命が書かれた者は、例え事故でも悲しい結果でも天使の力は渡すことは出来なかった。 魂を迎えに来た『死神』との暗黙のルールだからだ。
天使は人を慈しみ、見守り、生を与え、人々の繁栄と幸せを願う。 そして時に矢を使い、羽根を使い、人々を守る役割だ。
死神は人を見守り、魂を刈り取り、迎えに来る役割だ。 万一、その死神の役割を阻止し阻むと契約が切れ、戦争になる恐れがある。
死神には死期が近づいたものの魂を書換える事ができる力を持つものがいる。 数人だけが持つ不思議な指先とペンで書き換えられたものだけが寿命を与えられる。
そして、最後に悪魔だ。 悪魔は魔王が支配する使い魔で黒い羽根を掲げている。 その羽根を使えば本能が悪いことに手を染めたくなるという、悪どい物だ。 使う人も使われる人も決まっていない、自分たちが面白いからこそ、楽しいからこそ世界を変えようと楽しむ奴らがその種族である。
僕の幼馴染であった白い羽根を持っていた才能溢れる彼は、その白い羽根を黒く染め、そこに姿を現した。 悪魔は天使すらも堕天させてしまう、その本能に任せ、心が蝕まれていき、何時しか彼のように羽根を変色させてしまう。 僕は彼と出会ってから、危険だと思いながらも彼に手を伸ばそうとした。 悪魔は天使を好み貪り、己の生気と化す。 彼もまた僕から命を奪おうとするはずだったのだ…なのに彼は目の前で爆破し、僕を遠ざけそこから逃げた。
それからはことある事に彼の声が聞こえ、僕は自分の矢を使い彼を射止めようと必死である。 神であるオールマイトは僕のすることをただ、見守ってくれていた。 だって、僕は彼が居ないと、例え天使でも悪魔でも死神でも人生が楽しくないと知っているから。 その生が例え失われ堕天したとしても、僕はきっと君を愛す。 そんな気持ちで彼に矢を放った瞬間だった、飛ぶのが下手な僕は羽根の制御を忘れ一気に落下していった。 手を伸ばした悪魔は僕の名を叫んだが、悪魔のせいで触れられないっと手を止め、落下した僕をそのまんまにした。
身体中が痛くて、目が覚めた。そこには悪魔に染まった彼に似た青年が立っていた。「大丈夫か、お前?」っと手を差し伸べてくれた彼の手を握った瞬間に、僕の羽根が散っていった。 あぁ、この手は…取っては行けなかったのだと、そう魂が叫んだ気がした。
「やっと、俺の元に来たな…デク、お前を逃がしはしねぇよ、永遠に」
その悪どい笑みに、僕は一筋涙を流すことしか出来なかった。
僕は人間界に落ちた瞬間に、羽根を失い、ただの木偶の坊と化した…そんな物語だ。
END