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幼馴染





白い病室の中、無慈悲な機械音だけが音を零して彼が生きているという定期的なリズムが聞こえる。
「僕がもう少し早く来れていたら」「僕があの時別れて居なかったら」「僕が…」等と思考をぐちゃぐちゃにする。
膝の上でギュッと拳を力強く握りながら目に涙を溜め、白いベットに横たわり規則的な息を吐いているその姿に安堵しつつも苦しくなっていく。

手足に繋がれているその管を外せずに毎日入れ替える人が来て既に彼の腕は注射の痕も多くある。手術の痕だって未だに消えずに残っているのだ。
僕を守るために身体に出来上がった傷痕をなぞるように掌で触り、身体を拭いては毎日、涙を零すしか出来くなっていた。


あの後、死柄木との戦いにも無事終止符が打ち込まれ、彼は今留置所で隔離されている。
幼い頃の彼の境遇も相まって始まってしまった無情なこの戦いは遂に終わりを告げ、倒れた人々も緊急搬送されていく姿を見送るだけだった。まるで世界に一人取り残されたように僕は佇み、先程まで横たわっていた彼は既に一番最初に救急車に乗車し運ばれた。

その近くには二人で当てた、互いの憧れの目標のカードが悲しく置かれていて、そのカードは既に彼のものであろう…血で汚れ焼けただれている。
僕は膝をついてそのカードを拾い上げ、彼を思い、一人大声で泣き叫ぶしか出来なかった。
その姿に、A組の誰も、プロヒーロー達も、先生も誰も踏み込んでくることは無く、僕は僕自身を許せることも出来なかった。



【二ヶ月後】



いつもの様に花を抱えて彼の病室に入った。
そこにはいつも、横たわっていただけの彼ではなく、今何処に居るのかを必死に理解しようとしている顔をした幼馴染の彼の姿があった。
急いで光己さん、勝さん、お母さん、皆に連絡をっと病室から飛び出そうとした瞬間に懐かしい、落ち着いている時は少し低音の優しい声で話す彼の声が掛けられた。



出久いずく



その声を聞いた瞬間に、僕はその場で崩れ落ちそうになった。
立っているのもやっとな程、彼の声が鮮明に聞こえ耳の中を透き通り僕に存在を教えてくれた。
頬を伝う涙が止まらず、ギギギと壊れた玩具のような錆びた人形の首のような効果音が付いてしまいそうな程のぎこちない硬い動きで名前を呼んでくれた相手を振り返る。
そこには苦しかったのか、既に繋がれていたいくつかの口元に当ててあった機械を取り外し、点滴といくつかの身体に繋がれた管を残しながらも自分に手を広げてくれている幼馴染の愛しい姿があった。

僕は相手の痛みなど考えずに走りその広げられた逞しい、僕の全てを始めてくれた勝利の権現の姿に飛びつくと、胸の中でわんわんっとそれはもう、相手が「ブッサイク」とぎこちなく笑うくらいぐちゃぐちゃの顔になりながら泣いた…泣き叫んだ。



出久っと優しいいつもより落ち着いた声のまんま名前を呼ばれ、顔を上げる。
そこにはとても自分を見る顔がとても優しい彼の表情があり、感動のシーンの筈なのにポポポっと湯気が出るほど顔が暑くなってきた。
泣き顔を見られたことよりも、泣き叫ぶのを聞かれたことよりも、彼の腕の中でそんな甘い顔を見せられれば、流石の鈍感な出久でも分かってしまう。


「かっちゃん、その…あんまり見ないで…」

「あ?見せろや…そのブッサイクな面」


フッと笑う表情にまたも心臓が跳ねるような感覚が見出され、出久は狼狽えてしまった。




静かな病室の窓を開け放ち、ナースコールを押す。
彼はその手を黙って握ってから、顔を近づけてくると看護師が駆け付けるより早く、僕の唇を掠めとっていた…。
その彼の唇から感じる温かさに、僕はまた一粒涙を零してしまう。


「たでェま、いずく…」

「お帰り、かっちゃん」


その後…
そんな僕らの甘い雰囲気は変わらず、高校卒業後に籍をいれ、互いを愛し合うと傍に居ると誓い合った。






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