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幼馴染



『好きです、爆豪くん!』


ゴミ出しに行こうとしていた足が止まる。
聞いてはいけないのに、此処から直ぐに立ち去らないといけないのに…僕は僕はっ…足が動かなかった。
急いで木の影に隠れ、声をした方に耳を向けてしまう。
聞いてはいけないと頭ではわかってるのに、僕はどうしても彼の返事を気にしてしまった。


「あー…悪ぃけどそういうの興味ねぇから」


っとかっちゃんなら言って断るはずと僕は予想しながらも胸元を掴んで唇を噛んで返事を聞いた。
その開いた言葉の返事に…僕の心は砕け散った音がした気がした。




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「おーい、爆豪ー!彼女できたって?」

「…あぁ? 誰がだ殺すぞ」

「今じゃ学園中のウワサだぜ〜? しかもヒーロー科じゃなくて普通科の子だってな!」

「ちっ…別に付き合ってねぇよ、ダチだダチ」

「まったまたぁ〜、あのなー男女の恋愛は常に友達からっとか言いながら進展していくものなんだぜー」

「知るか。んなもん」

「でも、意外だよな…」

「ん? 何がだよ?」

「なんつーか、爆豪ってそういうの興味ねぇと思ってたわオレ」

「俺も俺も!なんつーか、ナンバーワンの男にそんなもの、必要!ねぇーーーーとか?」



僕の席の前でかっちゃん、切島くん、上鳴くんが話しながら楽しそうにしていた。 だけど、僕の心は曇ったまんまだ。
オールマイトとの秘密を3人で抱えてから、少しずつ距離が縮んだと思っていたけどそんなの違った。 逆にかっちゃんが僕から離れていくんだっと拳を強く握った。
でも、僕にとって彼はオールマイトよりも近しい存在の憧れでかっこよくて凄く大好きで大事な人だから、彼女が出来て寂しいんじゃないかなっと感じていた。まだ、この心のモヤモヤの理由が分からなかった。

放課後になって、モヤモヤの気持ちのまんま自主練も身体に入ってこないけど、体の出力8%を維持する訓練の為に訓練室の許可をとり、1人広い訓練場の建物の中で息を吐いて座っていた。
心を落ち着かせるためにしていたのに、何故か目を閉じるとかっちゃんと女の子が共にいる姿しか映らず胸がきゅっと痛くなる。これは一体なんなんだっと結局集中出来ずに寮に帰ることになった。



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「かっちゃん!待ってよかっちゃん!」

「おせぇぞデク!ほら、はよ来い!」

「かっちゃん!」

「デクはいつもドンくせぇな…ほれ、手ぇつないでやっから」

「でも、手を繋いだらかっちゃん、個性が出せなくならない?」

「んぁ? んなもんヘーキだわ!お前のことも守るし個性も出しちまえばいいだろ!」

「わぁぁ!かっちゃんかっこいいーーー!」




PiPiPiっと頭上で目覚ましがなる。手でそれを止めると、学校が休みだからか周りの部屋はしんっと静まり帰っていた。
幼い頃の夢を見るとか何でだろうっと目を擦ってから窓のカーテンを開けて空を眺めた。
かっちゃんはずっと一緒に居てくれた、僕はそれを追いかけてきた、そして超えるためにきた…だから僕はこんな気持ちでヒーローを目指すなんてかっちゃんに悪いと思ってしまった。だから…この気持ちに蓋をすることにしたんだ。

顔を洗ってから食堂へ向かうと、数人に挨拶してから食事を済ませ食堂を後にする。途中麗日さん、飯田くんに呼び止められてその日の行動を話すも、直ぐに各々の目標があって解散した。
寮に入って久しぶりだし、買い物に行こうかなーっと部屋で準備していたら、目の前にかっちゃんと切島くんが居た。
挨拶しようとしたけど、会話を邪魔したら怒られるよねっと思いつつ上げた手を降ろして鞄の紐を握りながらそっと歩いて通過しようとする。
すると、いきなり首根っこを捕まれ後ろに引き寄せられると、目を丸くして反応に遅れてる僕の耳元で小さく「今夜、部屋来いや」っと言われて、蓋をしていた筈の気持ちが少し揺れた気がした。


「…かっちゃん、期待、させないでよ」


ボソッと呟いて階段で座り込む僕に後ろから冷たい飲み物があてられ、思わず声が出てしまった。


「ふひゃあ!? な、な、何!? あれ? 轟くん?」

「考え事か? 百面相してたぞ」

「考え事って言うより、気持ちがぐちゃぐちゃしてて…これじゃあ訓練にならないなぁって思い詰めてた所だよ」

「…ぐちゃぐちゃ? ほら、飲めよ」

「ありがとう轟くん」


轟くんから、オールマイトがプリントされたエナジードリンクを受け取ると、プルタブを開けて少しだけ飲む。 少しだけ動かした身体にも染み渡るその水分に、隣に腰掛けた轟くんにお礼を告げてから笑いかける。
轟くんは「別に…」っと素っ気なく言うが僕は知ってる、彼は凄く僕に優しくしてくれる人だから…何気なく傍に居てくれるし、何気なく助けに来てくれる僕の目標のヒーローの1人なのだ。
かっちゃんとはやっぱり互いに強いからなのか喧嘩耐えないというよりかっちゃんがめちゃくちゃ敵視してるけど。


「ぐちゃぐちゃってのは、爆豪とのことか?」

「ぶふぅっ!? な、なんでっ!?」

「お前ってさ、つまづいたり考えたりしてる時…大体爆豪との事考えてるから?」

「そ、そうかなぁ?」

「あぁ、いつも見ていたからわかる」

「え? いつも?」


その瞬間、凄く近くなった轟くんの顔に僕は驚いて赤面しつつ、目の前に来た彼の胸元に手を置いて軽く離れてしまう。


「ち、近いよ轟くんっ」

「…俺にもしてくれるんだな、そんな表情」

「え?」

「爆豪にだけかと思ったよ…悪かった、その顔見れただけでも十分だ、またな緑谷」

「えっ、ええぇ?」


何を言われたのかわからないまんま離れた轟くんの行動に真っ赤な顔で狼狽えてしまう。 かっ、かっちゃんにだけ? ど、どんな顔してた?っと腕で顔を隠すも、その場で蹲った。



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「はぁ、かっちゃん…今夜って言ったけど、時間指定してこないなんて…かっちゃんらしいと言うか、なんというか」


彼の部屋の前に着くといきなり扉が開いて腕を引っ張られる。
中に入ると急に視界を塞がれ、直ぐに声を出そうとする唇すら奪われた。
この重なった唇の形やカサつきはよく知ってる、何度も何度も僕が彼を忘れようと、諦めようと思う度に重ねられたソレだった。


「んっ、んん…ふぁ、かっち…ゃ?」

「うるせぇ、黙れデク」

「まっ、待ってかっちゃ…顔、顔が、みたいよ…なぁ、かっちゃんっ」


彼の手首を掴んで覆われた手を退けると彼の姿に心が傷んだ。
いつもより余裕が無さそうな彼の姿に、僕は手首を離した。
せっかく普通の恋をして、普通の毎日を過ごして、普通の結婚をして、普通の人生を歩もうとしていた君に、誰がそんな顔をさしたんだっと胸元のシャツをぎゅっと掴んだ。


「…なぁ、お前…あの時階段でなにしてた?」

「え? 階段? なんのこと?」

「あー、あの、半分野郎と…だ」

「半分…轟くん? なにかあったっけ? というか、かっちゃん…この体勢は?」


あの後、何度も口付けを交わした僕らは、かっちゃんの部屋の床に座っていた。 後ろからかっちゃんに抱きしめられた格好で。

「あ? んなもんわかってんだろ、クソナードが!!」

「え? えっ、わ、わかんないよかっちゃん?」

「あ、あの半分野郎とキスしてただろーーがぁぁぁぁ」

「…????? キスぅ!? ぼ、僕と轟くんが? してない、してないよっ!!」

「んなわけねぇだろ、あの時中庭で飲み物飲んでからキスしてただろーが」

「中庭で飲み物…あっ、あれは、轟くんが飲み物差し入れしてくれて、僕の悩み事聞いてくれてたんだ」

「てめぇの悩み?」

「うん、僕ってさ…行き詰まってぐちゃぐちゃしてる時の悩み事は大体かっちゃんの事らしいって言われてさ…その通りだなって思った」



僕の言葉をかっちゃんは黙って抱きしめたまんま聞いてくれた。
かっちゃんが告白されてる所を見たこと、その時にかっちゃんがハッキリ断らずに、友達からならっと受け入れたこと。
受け入れるくらいその子との仲を進展させたいかもしれないと思ったこと。
かっちゃんの事をちゃんと諦めて気持ちに蓋をしようとしたこと、不安になっていた思いを全て彼に吐き出した。
少ししてから彼に顔をあげると彼はいつものイタズラが成功したような、僕を小馬鹿にしたような顔で笑う。


「やっぱりあん時見てたんだな、くそデク」

「…へ?」

「お前がゴミ出し当番ってのは知ってたからよ、あん時あそこで待ってたんだよ…けど、お前より先にあの変な女が来たから、話聞いてやってた。 そしたらお前、一瞬出てきたのに直ぐに引っ込みやがって、追いかけようとしたらあの女人の腕引っ張ってくっから、適当に返事してやったんだよ。そしたら、お前…どっか行っちまってたから最後まで聞いてねーんだろ」

「…最後?」

「おー…あー、お前なんかにぜってぇ言うつもり無かったけど、そんな不安な思いさせちまったなら、わ、悪いと思うから…特別だ…言っとくけど今回だけだかんな!! 2度はねぇぞ!! 耳かっぽじってよく聞けくそデク!!」

「は、はいぃ!!」


抱きしめながらも怒るかっちゃんの言葉に首を傾げつつ言葉をまった。
その時の事を語るかっちゃんに僕は蓋を閉めていた思いが溢れだしてきたんだ。




__________回想__________


『あ、あの爆豪くん』

『あ?』

『入試の時からずっと、ずっと好きでした!』

『へぇー(くそデクまだ来ねぇのかよ…)』

『好きです、爆豪くん』

『(おっ、アイツ…やっと来た、ってなんで隠れんだよ)』

『あの、私と…友達でいいから付き合ってください』

『分かったから、離せよ(デク行っちまうだろ、このクソ女)』

『あ、ありがとうございます!! あの、なら早速今日一緒に帰りませんか?』

『あ? なんで俺がてめぇなんざと帰るんだよ』

『え、えと、あの、友達からなら分かったって』

『友達だからって帰るの発想がわかんねーよ、わりぃけど女と歩いて帰ったら相手が誤解するから近づくんじゃねぇ』

『あ、相手? ば、爆豪くんって、もしかして…彼女い、いるの?』

『…何当たり前のこといってんだ、俺のこの世でたった1人は昔もこれからもアイツだけだ』



__________回想終了__________



「んで、その後あの女、どっか行ったから知らねぇ…でもダチにはなったみてぇだから、それをあの馬鹿(切島、上鳴)が誤解しただけだろ」

「…かっちゃん、その子の顔や名前覚えてる?」

「知るわけねーだろ、自己紹介もせずにいきなり話しかけてきやがったし」

「そ、そうだよね(可哀想だ…なんか、ごめん)」


そんな話を聞きながらモゾモゾと彼の腕の中で向きを変えて目の前のかっちゃんを見上げた。
電気を消した部屋はカーテンを少し開けてあった月の光が入ってきていた程度の明かりだったが、少しだけ大好きなかっちゃんの顔が見えて嬉しかった。


「かっちゃん…好き、だよ?」

「ばぁか、んなのとっくの前から知ってるっての…馬鹿デク」

「もぉ、こういう時くらい前みたいに呼んでよ…お願い、かっちゃん」

「…ったく、テメェには適わねぇ…出久」



僕たちの影は重なり、何度も何度も唇を重ねては離してを繰り返すと、月が見ているのも気にせず僕達は2人の逢瀬を楽しんだ。







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「か、身体痛い…」

「ふぁー…ねみっ、朝方までてめぇが離れないでとか言うから寝不足だわ…」

「ちょっ、かっちゃんこそ僕の中で気持ちよさそうだったじゃんか」

「あ? んなわけねぇだろ、この自意識過剰のくそデクがぁぁ!」

「ち、違うの?」

「あー、違うな。別に気持ちよくねぇし、お前の中じゃなくてもいけるっての」

「…そ、そうなんだ」

「…えっ、あっ…しまっ、ちがっ」

「かっちゃんは僕じゃなくても…良かったんだ、ね」

「だ、だからっ…さっきの言葉のなんつーか…」

「ぼ、僕だって…かっちゃんじゃなくても気持ちよくなれるもん…………あっ」



売り言葉に買い言葉を出した僕に彼の愛情の一つである手からの爆破が一日の始まりを告げたのだった。




「このクソナード!! ぜってぇ、離さねぇから覚悟しとけよっ」

「痛いいたい、熱い!! わ、分かってるよかっちゃん!! 僕も離れないからね!!」



いつも後ろから君をついて行った、追いかけてたあの日から僕のヒーローはずっとずっと君だから。
そんな君が今はずっと隣にいてくれている、それだけで僕は幸せ者だなぁっと笑みを浮かべる。


「かっちゃん!! 大好き」

「…あ? ったりめぇだくそデク、俺以外好きになんかさせねぇ!! 飯行くぞ」




ほら、こうやって君はまた僕を好きにさせるんだ。

















__________End



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