奏は実弥の表情を見て、初めて炭治郎と会った時のことを思い出した。


『（悲しい、切ない、"過去の私"を見てるような顔…嫌だな。）』


気づかないふりをしてマグカップに口をつける。
実は、炭治郎たちだけではなく数学教師の実弥、美術教師の宇髄、歴史教師の煉獄からも同じことを言われていたのだった。

3人にも同じように伝えたところ、悲しみと驚きの表情を浮かべ、実弥に関してはあまりの落胆ぶりに、奏はあまり近づかないようにしていた。


「で？何かあったのか？」
『…ちょっと、炭治郎たちと喧嘩してしまって…』
「珍しいなァ。」
『そうですね…自分でも驚いてます。』


嘘は言っていない。
当たり障りのない受け答えをして、ふと目の前にある本棚に視線を移す。


ー鬼殺隊 隊士記録ー


『鬼殺隊、隊士記録…っ、』


たまたま目に入った題名に、なぜか懐かしさを感じた奏は自然と口に出して読んでいた。
言い終わると同時に、実弥に肩を掴まれる。


「奏⁈何で鬼殺隊を…思い出したのか？！俺のこと、俺たちのことを」
『いい加減にしてよ！！！！』


実弥の手を払って後ろに下がる。
先ほどの炭治郎たちのこともあって、奏は感情を抑えられなかった。


『みんなして、何なの？！私は知らない！覚えてない！！勝手に悲しそうな顔をしないでよ！！そんな目で見ないでよ！！！』
「…奏」
『炭治郎たちのことも、先生たちのことも、不死川先生のことも知らないったら知らなっ』


言い終わる前に実弥は奏を抱きしめていた。腕の中で暴れる奏に、ゆっくりと話しかける。