「俺も行く。」
『は、はぃ…。』


実弥への恋心を思い出してしまった奏は、意識してしまって会話が出来ずにいた。
当の本人もそんな空気を読み取ってか、話しかけてこない。


「あら、奏ちゃん！買い出しかい？活きのいい魚が入ってるよ！」
『おばちゃん、本当⁈なら2尾くださいな。』
「おや？今日は師匠さんも一緒なんだね？」
『ぅ、うん。手伝ってもらって…』
「仲が良いのはいいことさ。せっかくの2人の時間を邪魔しちゃ悪いね！」
『ちょ‼︎おばちゃん⁈そんなんじゃ、ないから…』
「…っ」
「はっはっは！ごめんよ！」


思いがけないところから爆弾を放り投げられた奏は、顔を真っ赤にしてしまう。
そんな奏を見ていた実弥も、思うところがあるのかバツが悪そうにしている。


「（おやおや、これはあるかもね。）」


早々にお勘定を済ませた奏は、そそくさと魚屋を後にした。


『（おばちゃんが変なこと言うから！）』
「おい、高咲。」
『（急に慌てて怪しまれなかったかな？）』
「おい！」
『（まさか、気づかれたとか？！！！）』
「〜〜〜っ、俺の声を無視するたぁ、いい度胸じゃねぇかァ！」
『あだだだだだだ‼︎‼︎す、すみません！！』

気を取られていた奏は、実弥の声も届いていなかった。
頭を鷲掴みにされ、ギリギリと力を入れて絞められる。


『あた、頭割れます‼︎頭！』
「屋敷に着いたっつってんだよ。師匠である俺の声が届かねぇなら、潰れちまえェ！」
『お、鬼！悪魔！』
「あ"ぁ⁈俺を鬼呼ばわりとは…躾が足りねぇようだなァ。」
『…ひっ!じょじょじょ、冗談です‼︎冗談ですってば！』
「ちっ。」


すんなりと手を離した実弥は、先に家の中へ入っていく。
まだ痛む頭を抑えながら、2度と実弥に冗談を言うまいと誓った。