短いの
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なまえさん…、触れてもいい?」
私の家のソファ。真剣な表情で、真横に並んで座る想楽さんの赤い瞳が私を見つめている。
な、なぜこんな状況に…?!
遡ること数日前ー
想楽は大学の講義を受けていた。
この先生の授業は少し退屈ー。欠伸がでて口元を押さえた。
周りの生徒たちもみんなヒソヒソとおしゃべりしている。斜め後方の女の子たちの会話が聞こえてきた。
「先輩の彼氏どうなん?最近」
「どうもこうもないよー」
「は?ないってなに?喧嘩とか?」
「ないってのは本当にないの!なんもしてこないの!」
「え〜?どゆこと?」
「なんか奥手っていうかぁ…まあそういう真面目なところが好きではあるんたけど〜…」
「デートは?デートどっか行くでしょ?」
「そういうのも全部私がリードしないといけないの〜。手も繋がないし」
「手も?!マジで?!」
「ちょっと声でかいよ〜…」
ヒートアップしている…。
恋悩み、話燃えれば愚痴になる…
聞こえてくると気になって聞いてしまう。
手かー……。
まあ、僕とプロデューサーさんは、外で手なんか繋げないし、ちょっと羨ましい話だなー。
「とにかく…向こうから何もしてこないってこと!悩んでんだよこれでも〜」
「まーそれはそうだよねー。」
「女として自信無くすわー。」
「大丈夫、あんたかわいいよ。先輩が経験ないだけじゃん?」
「そうかもだけどさ、こうして悩んでると、私ばっかり好きみたいでやだなーって。」
「じゃ、なんか作戦考えるかー。」
「なに作戦ってー。」
最後はキャハハと楽しそうに笑っている。
恋の愚痴、絆深める乙女たちー。
…ぼんやりとととのいつつも、彼女たちの話を聞き自分に重ね合わせていた。
僕も別に、何もしていないなーと。………。
先程思ったように、プロデューサーさんとアイドルの僕では、人の目がある場所で恋人らしく振る舞う、ということに制限があるのは確かで。
2人きりのときならダメというわけではない…のかなー?
プロデューサーさんからは、甘い雰囲気というのは全く感じたことがない。
そのせいかなんとなく僕も、落ち着いて過ごせることは居心地もよくて、特に何もしていないと言えばしていない。
………が、かと言ってプロデューサーさんに触れたくないわけではない。というか、いいんだったら、当然。
先程の彼女たちの話を聞くに、こちらからアクションを起こさないということは、イコールそういう気がないと思われて、結果的に彼女は自分に魅力がないかもしれないとまで悩んでしまっていた。
…まさかだけどプロデューサーさんもそこまで考えたり…してない…よね?
いつも会う時はニコニコしているが、そんな気持ちを隠して笑っているんだったら…
嫌だなー、それは。
しかも、相手に経験が少ない、奥手だと彼女たちは話していた。ただでさえ歳の差があるプロデューサーさんと僕、あまり子供扱いされるような要素はなくしておきたい。
「…………。」
スマホを取り出してプロデューサーさんにLINKを送った。
『お疲れ様ー。話があるんだー。
空いてる時、プロデューサーさんのお家行ってもいいかなー?』
もう、本人と話す方が早いだろう。
大学の女の子たちと、プロデューサーさんは違う。何を思って何を考えているか、プロデューサーさんの言葉で聞きたい。
万が一、1人で悩んでいるんだったら、早く誤解は解きたい。
悩んでいないんだったら、……それはそれで残念な気もするけど、それならそれでいい。
授業が終わって、大学の友人たちと適当に話を合わせながら、早く事務所に行ってプロデューサーさんに会いたいなと思った。
一方その頃、プロデューサーも悩んでいた。
スマホが鳴り、久しく会っていない友人からLINKが届く。
どうやら近々結婚すると言った内容であった。結婚式に招待すると。大変喜ばしいことだ。招待してくれると言うのも嬉しい。
「おめでとう!と…喜んで…慶んで?出席させていただきます…。しかし最近多いなあ…」
そういう年齢になってきたんだろうが、こういった報告を度々耳にする。
すぐに返事が返ってきた。
『ありがとう!あんたはそう言う話ないの?笑』
……「笑」ってなんだ。自分が結婚するからって、ムカつくな。
しかし、担当アイドルと付き合っているなんて友人であろうが言えない。
まあ、相手がいない寂しいやつだと見下していればいいわ…。
『いないよ〜。仕事一筋なので笑』
『本当かなー、今度会ったら話きかせてよ。まあ相手がいても、あんたは奥手だから何もないと思うけど笑』
『うるさいな、お祝いしてやらないよ』
『怒んないでよ〜!まあ、必要だったら紹介するからいつでも言って!』
……まあ友人なりに、仕事ばっかしてる(と思われている)私を心配しているんだろう。
実際、相手がいても何も起こらない、私が奥手なのは確かだ。
学生時代の苦い思い出が蘇ってきた。
初めて彼氏ができた時、私を好きだと言ってくれた彼から数ヶ月で別れを告げられた。
全く思い当たる自分の悪い点がなかったが、その時も友人から指摘された。
デートも行かない?手も繋がない?キスもしてない?当然それ以上も…それは愛想つかされるねと…。
………もしかして私はまた同じことを繰り返している?
何か…私から想楽さんに可愛げを見せたことがあっただろうか。
可愛いとは、愛することが可能と書く。(詳しい語源は知らないが)
可愛くないと、愛されないのではないか?
大人の女なのに、ボケーっとしてると思われている気がする…本当にそうなのだけど、それはまずいんではないか。
自分から、愛される努力もしないといけない…かもしれない。
再びスマホが鳴る。
ハッとした。想楽さんから…?
『お疲れ様ー。話があるんだー。
空いてる時、プロデューサーさんのお家行ってもいいかなー?』
…こういう時は悪い方へ考えがちだ。
まさか…別れ話…じゃないよね…?
いやいや、まさか…とも思うも、ありえない話ではない。
というか、アイドルとプロデューサー、もともとこのような関係になるのは良いとは言えないだろう。
始まった時から覚悟はしていたことだ。
「………………。」
でも好きなんだよなあ。
ため息をつきながら返信する。数日後なら、仕事も早く終えられそうだ。
一応、どんな話でも覚悟しておこう。
…で冒頭に戻る。…なんで!!???!!?
「なまえさん…、触れてもいい?」
私の家のソファ。真剣な表情で、真横に並んで座る想楽さんの赤い瞳が私を見つめている。
あれ?え?あれ?
思っていた話と違いすぎて頭が追いつかない。
「あ、あの…?!想楽さん今日は突然どうしました…?!」
「…突然かー。まあ、そうだよね。僕たちって恋人らしいこと、あんまりできてないなーと思ってー。」
「こ、恋人らしいこと…」
ハッとして青ざめる。
「私が何もしないから…!き、気を遣わせてしまってすみません…!」
「…?なんかズレて伝わった感じがするなー。」
「…?恋人らしいこと何もしていないっていう話ですよね…?私大人なのにその辺りの気が回らなくて…!いつも…だめで…私もしっかりしないとと思って…」
「…いつもってー?」
「えっ…?い、いえ…前も…よく私からそういった態度を見せないので愛想つかされることが多いんです…想楽さんには、そう思われたくないなと…何かしなくてはと…思っていた所なんです。私の方が年上なのに頼りなくて申し訳ない…」
「ふーん…」
じっと私の顔を見ていた想楽さんがソファの背もたれにポスっと寄りかかった。
「じゃ、僕より年上で経験のあるプロデューサーさんは僕に何してくれるのかなー。」
「えっ!?」
「何かしてくれるんでしょー?恋人らしいこと。どうぞお願いしますー。」
「え、ええと、そうですね…そうですよね…えーと…」
わかってはいても、突然言われると…!
どうしよう。
「…と、とりあえず手を繋いだり…してみますか…?」
なんとか絞り出すと、想楽さんが両手で顔を隠してふふふと笑い出す。
あ、あああ、子供っぽすぎること言ったかも!中学生じゃないんだから?!恥ずかしい…
「想楽さんと手を繋いだことないかもと思って…!すみません…」
「ふふ、あープロデューサーさん可愛いなー。」
馬鹿にされている気もする…。
ひとしきり笑うと、想楽さんからぎゅっと力強く手を握ってきた。指と指をしっかり絡めて。
「無理してほしいわけじゃないんだけど、…もしなまえさんが嫌じゃなければ、今後は僕から触れてもいいー?」
「う…す、すみません、私が上手くできなくて…」
「いいよー。そういうところ可愛いからー。だからそんなに、年上とか気にしないでー。僕もそんなに年下と思われたくないしー。」
「は、はい」
「それと、そんなことで僕、プロデューサーさんと別れるつもりないからー。よろしくねー。」
「えっ」
「僕は何かしたかったら自分からするから、大丈夫ー。まあ、今までの男と一緒にしないでねーってこと。」
握った手をそのまま口元に持って行って、私の手にキスをした。
「ね。」
「は、い…」
言われなくても、こんな素敵な男性、私は今まで会ったことがない。
私なんかの恋愛経験ではとっくにキャパオーバーしており、年下と思っていた想楽さんにすっかり掌握されて何も言えなくなっていた。
「じゃあ…今日はあと何しよっかー、…恋人らしいこと。」
……この話はここで終わり!!