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電車を降りるとうだるような暑さと強い日差しに私は顔をしかめた。今朝の天気予報によれば、今日は35℃以上となる、いわゆる猛暑日だそうだ。
先程までの冷房が効いた電車の中とは別の世界に来てしまったようだ。
この時期は朝でもこんなに暑いのか、と毎日思いながら出勤している。この調子だとまた、事務所に着く頃には汗だくかもしれない。
「あつ………」
改札を抜け駅のコンコースに出る。駅の屋根が途切れるところから眩しい日差しの空を眺め、私はバッグから日傘を取り出した。
最近買ったものだ。高くないものだけど、あるのとないのでは全然違う。
ワンタッチの日傘をバッと勢いよく開き、その勢いのまま意を決して日差しの中へ足を踏み入れる。
すると前方にみなれた後ろ姿を見つけた。白いTシャツに白と黒のツートーンの丸い頭が揺れている。
少し小走りで駆け寄って声をかける。
「想楽さん!おはようございます。」
「あ、プロデューサーさんー。おはようございますー。今出勤するところー?」
「はい!想楽さんも事務所に行くんですよね。よかったら日傘入ってください!暑いですから…」
背の高い想楽さんに、日傘を少し持ち上げて入れようとすると、少し驚いた顔をしてすぐ笑った。
「ありがとうー。僕が持つよー。一緒に入ろうー。」
すっと私から日傘をとりあげて、持ってくれる。
「あ、私持つのに…、すみません、ありがとうございます。」
「僕の方が大きいからー。」
ニコっと笑う想楽さんの爽やかな笑顔にドキッとする。しかも私が日傘の影に多く入るよう傾けて待ってくれている。そして、私に合わせた歩幅で歩いてくれている。若いのに気遣いができて感心してしまう。優しいなあ…。
「…晴れの日も、チャンスは巡り、やってくるー。」
「え?なんですか?」
「雨の日は傘を忘れてくれば、プロデューサーさんと相合傘できるかなーと思ってたんだけど…まさか晴れの日でもそれが叶うとはねーっと思ってー。」
「え??」
よくわからず聞き返すと、想楽さんはふふっと笑ってこっちを見ている。
「日傘って結構涼しいねー。僕も欲しくなってきたかもー。」
「そうなんですよ!最近買ったんですが、もうないと日差しに耐えられなくて…!」
「そしたら、陽に当たらないようにもうちょっとこっちに寄りなよー。」
そういいながら想楽さんは、突然私の肩を抱いて自分の方へと引き寄せた。
「えっ、ちょ、ちょっと想楽さん…!私汗かいてるので離れてください…!」
「それはお互いさまだからいいよー。」
「い、いや…あ…暑いでしょ?!」
「ふふっ顔赤いよー。早く涼しい事務所に入ろうかー。」
私が1人で慌てていると、いつのまにか事務所の前まで来ていたようだった。想楽さんは傘を閉じて綺麗に畳み、私に手渡す。
「はい、入れてくれてありがとうー。」
「あっ、いえ…」
「…やっぱり僕は日傘買わないでおくから、プロデューサーさん、また入れてねー?」
想楽さんは事務所への階段に足をかけ、「プロデューサーさんも早くおいでー」と、ポカーンとした私を見てくすくすと笑っている。
からかわれてるなんてわかっているのに、顔の熱さはなかなか引かなかった。
それは今日が猛暑日だというせいにしておくとして、
…日傘は、もっと大きくてしっかりしたものを買おうかな、と思考も巡らせつつ、慌てて私も想楽さんを追いかけて階段を駆け上るのだった。