短いの
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普段はシルバーのアクセサリーなんて滅多に買うことはない。
日焼けしても黒くなる、肌の黄色い私にはあまり似合わないからだ。
そもそもアクセサリーなんて買うことはほとんどない。300円均一のお店でたまに目に入るぐらい。それもゴールドのものを見ることが多いし、着ける機会もあまりないな、との結論に至ると、結局買わずに店を出ている。
しかし、
今回ばかりは別であった。
何せ315プロダクション全ユニットをモチーフにしたシルバーアクセサリーが販売されることに決まったのだ。アクセサリー店側との営業、交渉、16ユニット分のデザインの確認まで、ここ最近は大忙しであった。
そしてその完成品がついに届いていた。
おお…!と心の中で感嘆の声を漏らすのは致し方無いだろう。
自分も携わった仕事がこうも立派に、目に見えて日の目を浴びるのだから。
きっと、たくさんのファンの人が買ってくれるだろうと思った。
満足感と高揚感の中、チラリと横目に入った一つの箱。
完成品とは別に、私が個人的に購入したものだった。別、とは言っても、完成品として届いたものの一つと同じ商品だ。
個人的に、担当ユニットであるレジェンダーズのモチーフの指輪を購入した。
大好きな担当ユニットだ。1番最初のファンであるプロデューサーの私だって、欲しくなるのは当然ではないだろうか。
………そう自分に言い訳したところで、“これ、いつどこに着けていけばいいのだろう”という目を背けている悩みは、購入して届いた今現在も頭の隅に。普段アクセサリーをつけないから尚更だ。
うーん、と思いながらもひとまず、ものは試しに、自分の指に嵌めてみようかと指輪を手に取った。
どの指につけようか、と指輪を持った手はフラフラと空中を彷徨う。
左手の薬指…が目に入るが一瞬で首を振り目を逸らす。右手の薬指…右手で手に取った指輪を左手に持ち変え、まあ、妥当な指だろう、右手の薬指にはめてみる。
…案外こうしてみると、シンプルなデザインでどこに着けてもおかしくはないかもしれない。
やはり黄色い肌には似合わないし、若干サイズが大きかったようだが、そんなことは気にならないくらい、1人嬉しくなっている時だった。
ピンポーン
とインターホンがなり私はビクッと肩を震わせた。
慌ててインターホンの通話ボタンを押すと、そういえば、と思い浮かんだ相手が、画面の向こうに写っていた。
「あ、は、はーい!」
画面を確認し、慌てて通話してすぐにエントランスを開錠ボタンを押す。
彼は慣れた様子で画面に向かって手を振って、建物の中に入っていく姿が見えた。
慌てて指輪を外す。すぐに鍵を開けておいた玄関がガチャリと開いた。
「プロデューサーさん、おじゃましますー。」
「お、お疲れ様です!想楽さん!」
そうして私のうちを尋ねてきたのは、連絡をもらって来ることになっていた想楽さんだった。
もう何回も訪れていて、エントランスからこの部屋までも教えずとも入って来られる。恋人なのだからそんなものだろう。
…でも、慌てて指輪を外したりしたことを考えると、鍵は閉めておいて、準備できたら開けるようにするのがいいのかもしれない。少し待たせてしまうけれど。
「外は暑かったよー。」
「ですよね…!あ、ジュース買って冷やしてあるので…!」
いつもの調子で荷物を適当に置いた彼は、ふと机の上のたくさんの荷物に気がついたようだ。
「何かたくさんあるけど…それ何ー?」
「あ、これは、前に話していた315プロの皆さんのアクセサリー…完成したんですよ!完成品が届いたんです!」
「えー、全部のユニット分あるのー?見たいなー。僕も見てもいいのー?」
「はい!これレジェンダーズの…あの、これは個人的に自分の分、買っちゃいました。」
少し照れ臭くも、えへへと笑って見せて、その品を彼に向けて手渡した。
私に向けられた箱から指輪を取り出して、嬉しそうな笑顔で、「へー」と指輪を眺めている。喜んでいるようで、よかった。
私もまた嬉しくなる。
「すごいねー、ユニットの模様もちゃんと入ってるー。」
「はい!他のユニットのも、デザインこだわってあって、全部違うんですよ!」
「へー…」
指輪を眺めていたかと思えば、彼は自然な動作で素早く私の左手をとり、スッと左手の薬指に持っていた指輪をはめた。
「………………」
「………………」
あまりに自然で流れるようで、しばらく私は黙ってそれを見ていたが、指輪をつけた位置に気がつくとぼっと顔に火がついたように赤く熱くなっていくのがわかった。手を取られている左手も、急激に熱くなっていく。
「…ちょっとサイズが大きかったかなー?」
「あ………」
取られた左手、はめた指輪に視線を落としたまま固まった私は、きっとなんとぎこちない笑顔なことだろう。
想楽さんの顔、見れない。
なんとなく笑っているような、優しい空気は伝わってくる。
なにか、なにか返事をしなければ、いや、深い意味はないだろうから、普通に、普通に、
「あ、あー本当ですね…!少し大きかったかも…!?サイズ調整してもらおうかなー…!……えっと、まあ大事な時に着けようかなと思って…とりあえず、大切にしまっておきますね!」
全然、自然じゃなかったかもしれない。若干いつもより無理やり明るいような、声がでかくなってしまったような…。
慌てて指輪を外して片付けようとするが、ギュッと取られた手を優しく握られて制される。
「その時は、この指につけてくれるー?」
握られた手に驚いて思わず見た想楽さんの表情は、どこか真剣なような、不安そうな、そんな色を混ざっていた。
私は「はい」としか言えず、その声は盛大に裏返っており、想楽さんにくすくすと笑われるのであった。
さて大事な時、とは、一体いつなのか。
自分の無計画な発言は、その後しばらく私の頭を悩ませるのであった。