短いの
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外は大雨が降っていた。
時間が空いたので、事務所の倉庫を整理していた。
ずっと資料を古い順に並べてわかりやすくしておこうと思ってたんだよね。
いつも掃除や整理を山村さんに任せてばかりじゃ悪いなとも思っていた。
「よし…」
アイドルの皆さんのお仕事の記録、オーディションの記録、懐かしいものから最近のものまで、つい眺めて時間が経ってしまいそうになったりしながらも粗方整理できただろう。
時間もいい時間だ、戻ろうかな。
窓を見ると暗く、窓に雨が打ちつけているようであった。
「プロデューサーさん?あ、いたー」
開けっぱなしの倉庫のドアからひょこっと想楽さんが顔を出した。
「想楽さん、どうしました?」
「物音がしたからー。ここの部屋なにー?狭いねー。」
「倉庫ですよ。大したものもなく狭いですが…今ちょうど整理し終わって、」
話していると雷が光って鳴り、近くに落ちた音がした。突然、ふっと電気が消えて真っ暗になる。
「わっ」
「えっ?!停電…?!」
驚くと同時にバタンとドアが閉まる音がした。
「うわー、何も見えないねー。プロデューサーさん、いるー?」
「は、はい、想楽さん大丈夫ですか?なんともないですか?」
「僕はなんともないよー。…ドアどこかな?」
「あ、ライトだしますね…!…あ、あれ?スマホスマホ…。」
「…スマホ忘れちゃったー?」
「もしかしたら向こうに置いてきたかも…」
「…奇遇だなー、僕もだよー。」
「…懐中電灯でもあればいいんですが…。」
「とりあえず、ドアを探そうかなー。」
「ですね、えっと…どこだろ…暗いとわかんなくなっちゃった…」
広い空間ではないというのに、真っ暗な状態だとどちらに向かっていけばいいかわからない。フラフラと手を伸ばしつつドアらしき方向に足を踏み出した。
すると、
「!!!」
「あれ、何か…これプロデューサーさんー?」
「あ、わ、わっ…あ!」
「わっ」
何かが、私の胸に触れ、それが想楽さんの手だとわかって、慌てた私は後ろにずっこけた。
…想楽さんを掴んで。
ドサっと床に2人で倒れ込んだ。
その時、蛍光灯がジッと嫌な音をしながらピカピカと光り、電気がついた。
「いてて…、大丈…、!」
想楽さんは、自分の手が私の胸に当たっていることに気づいて、押し倒される形になった私の真っ赤な顔と至近距離で目が合う。想楽さんはサッと両手をあげて起き上がった。
「…ごめんー。…あ、大丈夫ー?…怪我してないー?」
「…は、はい…」
想楽さんが床に転がっている私に手を差し伸べてくれる。ありがたく手をとって起き上がるが、…見れない、想楽さんの顔。
まだ脳みそが混乱している。
「…ごめんねー?」
「えっ!いえいえいえいえ私こそ巻き込んで転ばせてしまって…!す、…すみません…」
「ううんー、怪我しなくて良かったー。」
「で、ですね…」
「……」
「……」
「…えーっと…、電気もついたし、とりあえず出ようかー。」
「そ、そうですね!」
なんとも微妙な空気の中、想楽さんがドアノブに手をかけると、ガチっと抵抗感のある音がした。
「…あれー?開かないなー。」
「え…」
「…鍵かかってるー?」
「え?…もしかして、この部屋オートロックだから…」
「え?この部屋オートロックなのー?」
「は、はい、みなさんの資料や個人情報も保管されているので……。こっちからはいつもは普通に開くのですが…。もしかして…さっき停電したからおかしくなっちゃったのかな…?」
「…わー、どうしようー。」
「ど、どうしよう…。今事務所誰も…」
「誰もいないのー?」
「山村さんが…買い出しに行っているので…。帰ってくれば…、山村さんには倉庫にいること伝えたから、帰ってきたら気づいてもらえる…かと…」
「雨彦さんとクリスさんももうすぐ来るはずだと思うんだけどー。…この雨だからねー。遅れてるみたい。」
2人で窓の方を見た。雨風はまだまだ弱まる様子はない。
「まあ、誰かに気づいてもらえるのを待つしかないかー。」
「そ、そうですね…。…す、すみません、こんなことに巻き込んでしまって…。」
「プロデューサーさんが謝ることじゃないでしょー。元はと言えば、僕がここに来たんだしー。」
「ですが…私を手伝おうとして来てくれたんじゃないですか?それなのにこんなことになっちゃって…」
「だからプロデューサーさんは悪くないって。暇だったから来ただけだしー。…ていうか、プロデューサーさんの方が嫌じゃないのー?」
「え?…何がですか?」
「…さっき僕が、プロデューサーさんの体触っちゃったでしょー。わざとじゃないけど、そんな男と密室に閉じ込められちゃって嫌じゃないかなーって。」
「えっいやいやいやいや…!」
想楽さん気にしてる…!?
どことなく、話している想楽さんの横顔が暗い気がした。
「ま、待ってください!私が!あの、私が勝手に動いて勝手にぶつかりに行ったので!!それに想楽さんを転ばせたのも私です!私が本当すみません!!」
「…必死すぎー。」
必死に弁解(?)するとフッと想楽さんが笑った。
慌てて変な日本語になり、恥ずかしさもありつつ、あ、良かった笑ってくれたら…。と安心もした。
「い、いえあの…本当に気にしないでくださいというか…!それに閉じ込められたのが1人じゃなくて…想楽さんがいてくれて私は助かっててというか…!」
「ほんとー?良かったよー、嫌われてなくてー。」
「!?き、嫌うわけないじゃないですか!!!」
思わず大きい声を出して反論しまった。
あまりにも思いもよらぬ台詞だったから…。
「…びっくりしたー。プロデューサーさん、そんなに大きい声出せるんだー。」
「あっ…ごめんなさい思わず…。いや、でも、そんなことあるわけないので…、そんなこと言わないでください…!」
「ふふ、そんな事あるわけないんだー。」
「そうですよ!ていうか、むしろ想楽さんは被害者でしょ…!」
「被害者じゃないでしょー。…でも嫌いにならないって言ってくれて、ありがとう。」
「と、当然です!」
「…嫌いにならないってことは、プロデューサーさんは、僕のこと好きってこと?」
「え?!…えっと…?まあ、そう…ですね!」
「…ふふ、僕もプロデューサーさん、好きだなー。」
「え…え?!あ、ありがとうございます…。」
好き、好きとは。
聞かれて、そうですね!と答えたが、好きだなー…、の、好き…とは?
混乱したまま、お礼を言って、あははと笑って、会話が終わったが、よく意味が分からずまだ混乱している。
普通の、好意的な…意味…だよね?だよな。なんとか、落ち着いて自分を納得させる。
想楽さんが、人にも物にも、好きと、言っているイメージがなく、突然言われて驚いたけど、普通に考えたらただ、なんてことないそのままの意味だよな…。
「…なんかこの状況ってさー、漫画とかでありそうだよねー。」
「え、ああ…密室に閉じ込められる…?」
「そうー。」
「…ミステリー?」
「それもあるけどー、男女が閉じ込められると大体少女漫画とかラブコメかなー。」
「あぁ…確かによくありますね。…想楽さんもそういうの見ることあるんだ。」
「雑貨屋でバイトしてた時、漫画もいろいろ置いてたからなんでも読んだよー。内容を知らないとPOPも書けないしー。」
「あ、なるほど。すごいなあ、いろんな物扱ってたんですね。」
「うん。それで大体、閉じ込められた2人は…」
想楽さんがそこで言葉を止めて、じっとこっちを見た。
「…ふ、2人は?」
「…プロデューサーさんはどうなるか、知ってるー?」
「え、うーん…そうですね…。よく、周りがふざけて良い感じの2人を閉じ込めて、出てきた頃には両思いになってる…とか、よく聞きますかね?」
アハハと笑って想楽さんの方をみると、私のことを嬉しそうに、愛しそうな笑顔で見つめていて、心臓が高鳴った。
「ふふ、そうだったらいいなー。」
「…え?」
「…あ、車の音がする。」
「…え?!」
想楽さんが窓の方を見て言った。
思わず私も窓を見る。窓に近づいて耳を傾けると、かすかにエンジン音が聞こえた。
「もしかしたら山村さんが帰ってきたかも…!」
「そっかー。よかったー。ちょっと残念。」
「え?」
「え?」
聞き返すと聞き返されて何もわからなくなった。
…???さっきから…なにか……??
ニコニコしている想楽さんに、ひたすらクエスチョンマークを飛ばしていると、事務所の方から物音がする。山村さんの「ただいま戻りましたー」と言う声が聞こえる。
「あ…!山村さーん…!すみません!」
「山村さんー、お疲れ様ですー。」
2人でドアの方に声をかけてみる。気づいてもらえるようドアをノックしてみた。
「えっ?プロデューサーさんの声…?」
「山村さん〜…!倉庫です〜!」
「倉庫から…?プロデューサーさんー?!」
「扉が開かないんです〜…!想楽さんも一緒なんです!」
「そうなんですー。助けてくださーい。」
「ええっ?!待ってください、今鍵を持ってきますね!」
ホッとして想楽さんと顔を見合わせた。
その後、山村さんが鍵を持ってきてくれると、外からはスッと開いて私たちは密室から脱出することができた。
ドアはひとまず閉まらないようにストッパーをかけ、修理中・立ち入り禁止!と山村さんが張り紙をしてくれたので、私はそれをさらにカラフルにして目立つようにペンで周りに書き足した。後日業者に来てもらいドアの修理をしてもらうことになった。
めでたしめでたし。
…が、その日から、少女漫画あるあるのごとく、なんとなく想楽さんを意識してしまうようになってしまい…。
…いやいや、それは、漫画の読みすぎ、雰囲気に流されすぎだろう。
と、心の中で自分にツッコミを入れて冷静になろうとするも、想楽さんの言った言葉の意味を、ずっと考えてしまうのでした。