短いの
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
季節の変わり目、睡眠不足、不摂生、
原因ならいくらでも出てくるし、どれが本当に原因なのかわからない。
「…37.8℃…」
布団を被りながら1人体温計を見つめる。
ずーんと体がだる重い。頭痛、咽頭痛、鼻水、悪寒。
とにかく山村さんに連絡し、適当な服に着替えて近くのクリニックへ。ウイルスの検査をして全て陰性、ただの風邪と家に帰された私は再び適当な服で布団にもぐりこんだ。
仕事で迷惑をかけたくないが、アイドルの皆さんに移してしまうのが1番まずい。
「はあー…」
ため息をつきつつ、ふとノートPCが目に入った。
…あの書類だけでも終わらせてしまおうか。データを山村さんに送って…
ピンポーン
そう考えているとインターホンが鳴った。
平日の日中、おそらく宅配か宗教勧誘の2択だ。宅配の人には申し訳ないが風邪を移しても悪いので、荷物は宅配ボックスに入れて貰えばいい。
無視!
ピンポーン
もう一度鳴る。しつこいなあ。
布団の中で気配を消した。
ピコンと今度はスマホの通知音。
居留守バレてないよね?ビクビクしながらスマホを確認すると、
北村想楽
『プロデューサーさん、開けてー』
ん?!
LINKの通知に目を疑った。
急いで起き上がりインターホンに出るとカメラには想楽さんが映っている。
「想楽さん?!!」
「大丈夫ー?お見舞いに来たよー。あと、山村さんがプロデューサーさんが仕事しないように見張ってくださいってー。」
ちょうどノートPCを開こうとしたところだった。バレている…。
「とりあえず、入れてもらってもいいー?」
「で、でもアイドルの皆さんに移さないよう休んだのに…想楽さんに移してしまったら…」
「はー、入れてもらえないと寒いなー、どうしようかなー」
「!」
「このままだと、風邪をひいちゃうかもー」
「う………………、ちょ………っと待っててください…」
「はーい。ゆっくりでいいよー。」
もちろんわざとらしい演技なのはわかっていたけど、心配して来てくれた気持ちを蔑ろにはできなかった。
散らかった部屋を慌てて片付けてスッピンなのでマスクをつけた。いや…風邪をうつさないためにも…。
「ど…どうぞ…」
「…ありがとー。おじゃましますー。」
「あの…なにもおかまいできませんが…こんな格好ですみません…」
「いいよー、ていうか、プロデューサーさんは寝ててー。」
「え、え」
早速ぐいぐい背中を押されてベッドに押し込まれる。
「ゆっくり休まなきゃだめだよー。どうせなにも食べてないでしょー。温めるだけだけどおかゆ用意してあげるからー。」
「え?いえ自分でできますから…」
「こーゆー時は甘えたっていいんじゃないー?キッチン借りるよー。」
「え…あぁ…」
返事する前に想楽さんはさっさとキッチンに行っている。狭い部屋なので想楽さんの背中がベッドから見える。
………どうしよう。
………嬉しい…。
心配して来てくれたこと、ご飯を用意してくれること、しみじみと嬉しくなりじっと背中を見つめていた。
それほど時間が経たず想楽さんはすぐ戻ってきた。
「できたよー。レンジであっためただけだけど…」
「いえ…嬉しいです。すみません、ありがとうございます。」
「クリスさんが魚を持ってけ持ってけってうるさいから、鮭おかゆだよー。」
「クリスさんが…」
「みんな仕事とか学校とかで忙しくて僕しか来られなかったけど、みんなプロデューサーさんを心配してたんだよー。」
「みなさん…」
一人暮らししてから孤独を感じることも多いが、私にはアイドルの皆さんがいるんだ、と思うと泣きそうになってしまった。
「じゃあ、はいー。食べられそうー?あ、食べさせてあげよっかー?」
「えっ?」
「はい、あーん」
「…えっ!?えっ…と……あ、あーん…?」
「………、美味しいー?」
「あっ…つ…!あ、お、美味しいです、…ど、どうしました想楽さん?」
「…いや…ほんとにすると思わなかったからー、ふふ」
「!!!!
そ、そうですよね!?!!す、すみません!!!あとは自分でいただきますので…!」
皆さんをおもって出そうだった涙は引っ込んだ。
よくわからないままよくわからないことをしてしまったけれど、そりゃそうだよね!?
想楽さんが笑い出したので何かと思ったけど、想楽さんからしたら冗談だったのに、熱のせいかぼんやりして馬鹿なことをしてしまったとひたすら恥ずかしい。
「たまにはプロデューサーさんのお世話するのもいいよねー。いつも僕らのお世話してもらってばっかりだからー。」
「いえ…!すみません本当…あちっ、」
「ふふー急がなくていいよー。ゆっくり食べてー?」
「そ、そうですね、ハハ…」
言いつつも、見られていると恥ずかしくてつい早く食べてしまおうと焦ってしまう。
食べてるとこ見られるのって恥ずかしいんだな…。
すぐ横で頬杖ついてニコニコ見られているのでなるべく早く食べ終え、食後の薬を飲んだ。
「片付けは僕やるからー。」
「えっ、いいですいいです、そこまでしていただくわけには…」
「今日はそういうの、いいからー。プロデューサーさんは寝ててー。」
またもやベッドに押し込まれ、さっさと想楽さんは空いた食器を持って片付けに行ってしまった。
……こんなに若い子にこんなに甘やかされてしまい大丈夫なんだろうか…
とても悪いことをしているようなむず痒いような変な気分だ。
想楽さんってば、押しが強いからなあ…言いなりになってしまう。
それに肩を掴まれてベッドに押し込まれるときに、意外と力強くて…やっぱり男性なんだなって…
……いやいや何考えてんの自分。
ダメダメ、やめやめ、想楽さんの言う通り、しっかり休んで、さっさと治さないと…!
やっぱり熱出てるから、今の自分は少し変みたいだ。
今は余計なこと考えず、治すことだけ集中する…!
心を落ち着けるために目を閉じて布団に入り深呼吸した。
「プロデューサーさん…あれ、寝ちゃったかなー?ふふ、よかったー。」
想楽さんが戻ってくると、寝ていると勘違いしたよう。すぐ反応しようと思ったが、よかったーという声が聞こえてなんだか起きづらくなりタイミングを逃してしまった。
ど、どうしようかな…。
目を閉じていても気配で想楽さんがすぐ横に座ったのがわかった。
そしてそっと頭を撫でられる。撫で…てる…?
心臓が高鳴ったがなんとか目を閉じて動かずにじっとしていた。
この時間は一体…?!
私の頭を撫でたり、私の髪の毛を整えたりしながら、時折想楽さんの「ふふ」と笑い声が聞こえてくる。
ま、まあ身近にいる大人がこうして弱っていると若い子は物珍しくて面白いのかもしれない…
そう自分を納得させようとすると、ふいに更に近づく気配がしたかと思えば、目の上でちゅっとリップ音がした。
………え?
「……かわいー。」
想楽さんのボソッとしたつぶやきが聞こえた。
…………………え??
しばらくすると「あ」と想楽さんが何かを思い出したようで再びキッチンの方に行った。
目を閉じたまま自分の心音が大きく速くなっていくのがわかる。
今までなんとかかんとか自分に言い聞かせてきた。そんなことはあるわけがないと。
でももう誤魔化せないと思った。
目を閉じていても、今の自分の体温よりずっとずっと熱い、想楽さんの瞳の熱を感じてしまったから。
そのあと想楽さんが
「あ、起きたー?これ九郎先生が持ってけってくれたお茶ー。淹れたから一緒に飲もー。あと九十九先生が果物くれたよー。プロデューサーさん果物好きだよね?」
といろいろ話しかけてくれいろいろ用意してくれたが、あんまり覚えていない。