短いの
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぐるぐると目まぐるしい。
嫌な記憶と怖い景色がひたすら繰り返し続いている。心臓の音が早くなる。視界が滲む。
悪いことをしていると責められる、罵られる、
叫んで走って走って走って、逃げた。
嫌だ、怖い、苦しい
「お前さん、おい!」
「ーーっ!!!」
目を覚ますが状況を理解できない。
荒い呼吸を繰り返してもまだ心臓の音は早いままだった。
………夢?
「大丈夫か?お前さん、」
「ハァッ、ハァッ、ハッ…」
「…大丈夫だ、もう大丈夫だ。」
雨彦さんは呼吸が整わない私を抱きしめた。
まだ訳がわからないが私も雨彦さんに縋り付く。
「あ、あ、雨彦さ、ん…」
「なまえ、大丈夫だ。」
「ハ…ッ…はい…」
吸って、吐いて、ゆっくり、ゆっくり、
訳がわからなくても人間というのはそうできているのだろうか、無意識に深呼吸をしようと頑張っていた。
繰り返している内に段々、段々、落ち着いてきた。
…また、悪い夢を見ていたんだ。
「ごめ、ごめんなさい、大丈夫です、もう。」
「…お前さん」
呼吸は落ち着いたが、心臓はまだ、いつもより早く鳴っているようだ。
雨彦さんの胸を両手で弱々しく押し返して体を離した。
時計を見ると2時を示していた。夜中だ。
こんな時間に起こしてしまって申し訳ない。
さっきの悪夢のせいか、迷惑をかけることが怖い、理由のない罪悪感が押し寄せ私を襲い、全てを包み込んだ。
いつまで、いつまで続くの。
悪夢で蘇った過去の記憶が脳裏に焼き付く。
いつまでこんな思いしないといけないの。ずっとこれに囚われたまま生きていくの?
嫌だ、嫌だ、思い出したくないのに。
視界が滲んで頭を抱えた。
「…なまえ」
ふと雨彦さんに名前を呼ばれ、ビクッとするが、私は俯いたまま顔を上げられなかった。
そっと両手をとられて、雨彦さんの大きな手でしっかりと握られた。
「俺を見ろ。」
思わず雨彦さんの方を見ていた。
まっすぐな瞳で、けれど優しい瞳で見つめられ、不思議な気分になった。
別の意味で胸が高鳴るような、スーッと落ち着いていくような。
「なまえ、お前さんが苦しそうだと、俺まで苦しくなってくる。」
「あ……」
「分けてくれ、俺にも。…寄り添わせてくれ。」
雨彦さんはそう言いながら雨彦さんと私の額と額を合わせた。
すると涙がボロボロ溢れてきた。
「ぅ…う…っ…雨彦さんっ…」
「…泣くな。」
フッと困ったように笑って、私の頬の涙を掬ってくれるが、掬っても掬っても涙が溢れて止まらなかった。
それに申し訳ないと思いながらも、頬に触れてくれることが嬉しかった。
雨彦さんが握ってくれる手を私も強く握り返すと、またゆっくりと抱きしめてくれたので、今度は大きな胸に顔を埋め、大きな背中に手を回して、雨彦さんの服を力いっぱい握りしめた。
「こわっ…かった…っ」
「もう大丈夫だ。悪いもんは全部俺が祓っちまったさ。」
優しく笑いながら、私の頭も背中も大きな手で包み込んで撫でてくれた。その度に、本当に悪い物が取れていくような、そんな気もした。
「これからは俺のそばにいてくれ。そうすりゃ、いつでも守ってやれるからな。」
「ぐすっ…うっ…でもっ…こんな遅くに悪いですよ…」
「なに、もっと遅い時間まで愛し合ってることもあるじゃないか。」
「………ぐすっ…………」
「はは、とにかく、そんなこと気にするな。1番大事な人を守れないんじゃ、…俺の名が廃る。」
「……雨彦さん」
「ん?」
「…好き。」
「俺もだ。」
「そばにいて…ください…」
ぎゅっと祈るように雨彦さんの服を握ると、力強く抱きしめ返してくれた。
「ああ、離れるなよ。」
優しく口付けてくれるので、そのまま身を委ねたくて私も目を瞑った。
-----------
「…雨彦さん、もしかして本当に悪い夢、祓ってくれたんですか?」
「ん?はは、どうだかな。」
「雨彦さんが呼んでくれたら、目が覚めたから…。」
「…お前さんがうなされてたから、起こしてやっただけさ。」
「そっか、そうですよね、うるさくしてすみません。」
「それはいいんだが…。お前さん、あんな悪夢をよく見るのかい?」
「そう…ですね、毎日のように見てる時期もありました。…そういえば、この事務所に来てからは、頻度が減ったような気もします。」
「そうか。ふっ…うちの事務所は、いい気が流れてるからな。」
「ふふ、雨彦さんと出会ったからかも。」
ふにゃりと笑う彼女の笑顔を見て、本当に守りたいと思った。
…あんな厄介な汚れが湧いてくるとは。
眠っている時は本人の意識から外れ、無意識に引き寄せちまうのはあるが…。
「…掃除屋の出番って訳だな。」
「え…?ふふ…ライブですか…?」
しゃべりながら、俺の腕の中で、今度は幸せそうな表情で眠る彼女の頬に指を滑らせた。
「…今度はいい夢を見てくれ。」
瞼に口付けて自分も目を閉じる。
もう何も寄せ付けない。