短いの
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事務所で課題をやっていたら遅くなってしまった。もう事務所には僕しか残っていないようだ。
いけない、残りは帰ってやろう。
…と思っていたところに雨彦さんから着信が入った。
「もしもし?雨彦さん?なにー?」
『おー北村。今大丈夫か?』
「平気だけど、どうしたのー?」
『お前さん今どこにいる?まだ事務所の近くにいたりしないか?』
「…いるけど、なにー?」
電話口からは、雨彦さんの声以外にやたらと騒がしい音が聞こえてきて嫌な予感がする。雨彦さんの声もなんだかいつもよりぽやぽやしてるような気もする。
居酒屋にいる?…酔っ払ってるー?
とにかく先に要件を言ってほしい。
訝しんでいると、プロデューサーさんの元気な声が聞こえてきた。
『ちょっと雨彦さん、誰に電話してるんですかー?!』
『おーお前さん、喜べ。北村だよ。』
『はあ!?なんで本当に想楽さんに電話してるんですかあ?!』
「…プロデューサーさんも一緒なのー?」
『ああ、古論もいる。3人で飲んでたんだがプロデューサーはもう限界みたいでな。北村、悪いが迎えにきてやってくれないか。』
『ちょっと!やめてくださいよ想楽さんに迷惑かけるのはあ〜!』
『プロデューサーさん嬉しそうですね!』
『ちがっ、ちがいますー!』
『ははっいいじゃないか。お前さんはもう飲めないだろ。送ってもらえばいい。そういうわけなんだ北村。こんな状態のプロデューサーを1人で帰すのも心配でな。場所を送るから来てもらえるか。』
「…まあいいけどー。」
『すまんな、よろしく頼む。』
電話を切る。頼まれた内容自体はさして問題はない。酔っ払ったプロデューサーさんを1人で帰らせるわけにはいかないし、僕もあとは帰宅するだけで暇だし、家まで送り届けるのはなんの問題もないけど…。
「…プロデューサーさんのあんな声、初めて聞いたかもー。」
当然、まだお酒を飲めない僕は酔っ払ったプロデューサーさんを見たことがない。雨彦さんやクリスさんと一緒に飲んでいるというのは聞いたことあったけど…。あんなにフランクに会話しているプロデューサーさんは見たことがなかったので、電話で声が聞こえてきて驚いた。
…僕にはそんなふうに話したことないのになー。
こんなこと思う自分に驚きつつも、その思いの正体にはなんとなく気づいていた。
雨彦さんからLINKで位置情報が送られてくる。クリスさんからも『ぺこり』とおじぎが描かれたスタンプが送られてきた。
…とにかく、行ってみるかー。
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到着してすぐは酔っ払ってる3人をみて、来たことを少し後悔した。
「ちょっとなんで本当に想楽さん呼んでるんですかー!?!」
「いいじゃないか、大好きな北村に送ってもらえば。」
「ちょっと雨彦さん!!なんでそういうこと言うのー!!」
「プロデューサーさんが想楽に送って欲しいそうなんですよ!」
「クリスさん!私そんなこと言ってないですー!」
真っ赤な顔のプロデューサーさんが、もー!と雨彦さんとクリスさんをぽかぽか叩いている。わっはっはと雨彦さんもクリスさんも笑っている。
「俺たちは2軒目に行くんだ。悪いな北村。」
「ちょっと嘘でしょー?まだ飲むのー?」
「まだこれからなんですよ。最後は海で乾杯したいです。」
「ははっそれもいいな。じゃ、北村。プロデューサーを頼んだぜ。」
「想楽!プロデューサーさんをよろしくお願いします!」
「2人も飲みすぎないでよー。」
「わかってるって。」
「酔っ払い〜!2人で私を置いていくんですか〜!」
「酔っ払いはお前さんだろう。じゃあな。」
「プロデューサーさん!お気をつけて!」
「雨彦さんとクリスさんのばかー!」
置いていかれるプロデューサーさんが喚いているが、酔っ払ったでかい男2人はわっはっはと笑いながら夜の繁華街に消えて行った。
「想楽さん…想楽さん…うーーー…迷惑かけてごめんなさいーー!」
「ほんとにねー。」
「わー!うわーーごめんなさいーー!私1人でも帰れるので本当に!呼び出してごめんなさい!」
じゃあ!と半泣きでペコペコ頭を下げながら歩き出そうとするプロデューサーさんの腕を慌てて掴んだ。
「1人で帰すわけないでしょー?酔っ払った女の子1人じゃ危ないから大人しく一緒に帰るよー。」
「わ…本当に大丈夫ですよ!」
「僕じゃ頼りにならないー?」
「そ、そんなわけないじゃないですかーー!」
「はいはいうるさいよー。」
「うーー…すみませんー……。」
プロデューサーさんの腕を引いて歩き出す。
ごめんなさい〜と呻きながらおぼつかない足取りでプロデューサーさんも着いてくる。
「…なんだか雨彦さんとクリスさんには馴れ馴れしく話すのに、僕にはしてくれないんだねー。」
「え!?馴れ馴れしく!?」
「酔っ払ってるとはいえ、随分態度が違うから驚いたよー。」
「だって!だってあの2人、私が想楽さんのこと好きなのからかってくるんですよ!」
…ん?
「それで北村に電話しようとか言い出して、じゃあ想楽に送ってもらえばいいじゃないですか!とか言ってー!そりゃいいワッハハってめっちゃムカつく!本当に呼んじゃうし!」
「んー…どういう話してたのー?」
「私は想楽さんが大好きだけど、プロデューサーだし、こんなに歳の差があるから悩んでるのにー!あの2人全然面白がってんですよ!?」
「…そうなんだー。」
歩きながらプロデューサーさんはキャイキャイと2人に対する文句を言っている。
「僕がいないところで、3人で何の話してるかと思えば…僕の話してたのー?」
「そうですよ!雨彦さんとクリスさんも想楽さん大好きですからね!3人で想楽さんのいいところをいっぱい言う勝負になってました!」
「………」
「私が勝ちますけどね!絶対!私が1番いっぱい言う!だって1番想楽さんのこと大好きだから!」
「……ありがとうー。」
ニコニコと言うプロデューサーさんに赤面してしまう。
3人で何やってるの?
ていうかプロデューサーさん、お酒のせいなのかなんでもしゃべるなー。
「プロデューサーさんはなんて言ったのー?」
「えっとー…、まず想楽さんはかっこいいでしょー、かわいいでしょー、すっごく気を遣えるし優しいしー、アイドルのお仕事も真剣でー、お兄さん想いだしー、ライブでのアピールもすっごく上手でー、ウィンクが上手!背も高くてかっこいい!あと演技が上手!歌も上手!声が好き!かわいいのに男の子の声がするからドキドキします!それにダンスも苦手って言ってるけど本番では必ずすっごい仕上げてきてて、練習も一生懸命で、」
「うん、ありがとうー。もういいよー。」
プロデューサーさんの話が止まらずクリスさんのようになってしまったので、内心慌てて止めた。目の前で言われると嬉しい気持ちもあるがなんともむず痒くなった。
「えーっまだいっぱいありますよ!」
「もう十分だよー。」
「えー…もしかして想楽さん照れてます?!」
「照れてないよー。」
「う…かわいい〜…想楽さん…想楽さん好きです〜…マジでかわいい…」
「………」
僕に掴まれていない方の手で顔を覆って唸っている。
すごい…面倒くさいなー…酔っ払い…。
はじめは好きとか言うからドキッとしてしまったが、酔っ払いの戯言と思って聞き流しておいた方がいいかもしれない。
「うー…想楽さん大好きです本当ー…。こんな私も送ってくれるし…」
「はいはいー。」
「本当に好きで…どうしたらいいかわからないんですもう…雨彦さんとクリスさんにもからかわれるし……でも当然ですよね、私が想楽さんを好きなんて…想楽さんはアイドルだし私はプロデューサーで、想楽さんは若くてかっこいいのに私なんかが…笑っちゃいます。」
聞き流そうと思った矢先に言うので、思わず気になったことをすぐに聞き返していた。
「…それってどういう好きなのー?雨彦さんとクリスさんのことも好きでしょー?」
「そりゃあ雨彦さんのことも、クリスさんのことも好きですよ。でも、違うんです!想楽さん見てると…ドキドキが止まらなくて…他の人にはこんなふうにならないのに…どうしたらいいでしょうか?」
うるんだ瞳に見つめられて、そんなこと聞かれたらこっちの心臓も高鳴った。
歩いているともうプロデューサーさんの家はすぐそこだった。
立ち止まって、見つめてきたプロデューサーさんを見つめ返してそっと頬に触れた。
「プロデューサーさん…」
「想楽さん………………
………………………………気持ち悪い。」
そう言ったプロデューサーさんのその顔は青白かった。
僕はため息をつく。
「ちょっとー…もう家だから吐くなら家でねー。」
「う〜…ごめんなさいごめんなさい…」
プロデューサーさんを支えながら家に入ってお水をあげた。
ベッドに横にさせてその脇に僕も腰掛ける。
「もう寝たらー?僕ももう遅いし面倒だから泊めてねー。」
「はい…想楽さん…」
「なにー?」
「ありがとうございます…大好きです…」
プロデューサーさんはそう言いながら眠りについたようだった。その寝顔を見ながら呟く。
「…酔っ払ってない時に言ってよねー。」
寝ているプロデューサーさんの頬をつついた。
あ、お風呂も借りよう。適当に服も借りよう。朝起きたらプロデューサーさん、驚くかもしれない。
ここまで酔っ払った世話をしてあげたんだから、そのくらいの代償は払ってもらいたいなー。
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朝起きると、案の定プロデューサーさんは慌てていた。
「…え?え?!想楽さん?!」
「んー…?起きたのー?おはようープロデューサーさんー。」
「おはようございま…じゃなくて!な、なんで一緒に寝て…え?ええ?」
「昨日のこと覚えてないのー?」
「昨日…昨日は雨彦さんと、クリスさんと…あれ?お二人は…?そうだ、想楽さんに送ってもらっ…て………私………変なこと言ったような……あれ…?」
「もう酔いはさめたのー?」
「は、はい!えっと…ご迷惑をおかけして…えっと……」
「酔ってないなら、改めて聞かせて欲しいなー。」
「えっと…ええっと…?」
「昨日は雨彦さんたちと何の話してたのかなー?」
「!えっと…!それは…!」
「僕のこと、大好きなのー?」
「!!!!ぁ…あ…あの…あ……」
酔っ払ってもないのに顔がどんどん赤くなるプロデューサーさんを見て、にまっと口角が上がる。
しばらくからかえそうだ。