短いの
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昼まで寝ていたプロデューサーさんはだるそうにヨタヨタと起き上がった。
「あ、おはよー。」
「おはようございます…すみません寝すぎて…」
「休日ぐらいいいんじゃないー?何か飲む?」
「いえ…あ、自分で…」
「白湯?そのぐらいやってあげるよー。」
「あ…すみません…ありがとうございます……」
………顔色悪いなー。
ソファに体育座りでボーッとしているプロデューサーさんは青白い顔だ。ここ数日はずっと体調が悪そうだ。
僕らアイドルの前ではにこやかにいつも通りにしようと努めてくれているが、見るからに顔色が悪かったり、眠そうだったり、仕事中も頭を抑えたりしている。
僕だけじゃなく、他のみんなに体調を心配されても、「いえ全然なんともないです!元気ですよ!」と笑ってみせる。(風邪のときは普通に風邪だと言ってくれると思うんだけど。)
そういえば、1ヶ月くらい前にも同じような時があったなー。……っていうのを何回か繰り返していると、なんとなくわかってしまった。女性は大変だなー…。
「お湯沸いたよー。熱いから冷ました方がいいかもー。」
「あ、ありがとうございます…。」
マグカップを差し出すとプロデューサーさんは力無い笑顔で受け取った。両手でマグカップを持ち、お湯に息をフーフー吹きかけていて可愛い。寝癖もついていて僕の口元は緩んだ。
…何かしてあげたいけど……。プロデューサーさんは自分からは何も言わないし、いまいち詳しいことはわからず、どうしたらいいかもわからない。…女性の兄妹がいる雨彦さんや…いや、クリスさんの方がそういうことは詳しいだろうか。でも、勝手にそんなこと相談するのもどうなのだろう。というか、なんと言って相談すればいいかもわからない…。…だめだなー。
おそらく、他のアイドルのみんなの中にも、気づいている人はいるようで、そんな時期はみんなプロデューサーさんを気に掛けていることが多い。もちろん気づいていない人も、単純に元気がないからとプロデューサーさんを気遣っているようだ。
みんなお菓子や飲み物を差し入れして休憩を促したり、荷物を持とうとしてあげたりしている。
…でも、
横で寝癖をつけて白湯をすするプロデューサーさんを見て思う。
…僕が1番、優しくしたい。1番助けになりたい。
だって、事務所では気を張っているプロデューサーさんが、家に入れてくれて、こんなに気の抜けた姿を見せてくれるのは、僕だけだと思うから。
…でも、何をしたらいいんだろう…。そしてまた、わからない、に思考が戻ってきてしまう。そうやって何もできない自分が酷くもどかしい。
「…ねー、なまえさん。」
「はい?」
「何かして欲しいこと、ないー?」
「えっ…?して欲しいこと…?」
「そうー。なんでも甘えてみてー。」
「あ、甘える…?きゅ、急にどうしたんですか。」
「んー…、なんだか疲れてるみたいだから、何かしてあげたいなーって。」
「…!いえ…、すみませんせっかく来てくれてるのに…。昼まで寝てるし、昨日も即行寝ちゃったし…!」
「それは全然いいんだけどー。ふふ、プロデューサーさんの寝顔たくさん見れたし。」
「え?な、なんで見てるんですか…?!」
「えー?そりゃあ見るでしょー。」
見ないでくださいよ、と赤くした顔を手で隠すプロデューサーさんを抱き寄せ、自分にもたれさせた。
「そ、想楽さん…?」
「…………あしひきの、山路越えむとする君を、心に持ちて安けくもなし…」
「……???あしひきの…え?」
…知らなそうだから言ったのだ。
百人一首だと、プロデューサーさんもわかる時があるけど。
「ちょ、ちょっと待ってください」と、スマホで調べようとするプロデューサーさんを、抱きしめる力を強くして止めた。
「うーん…、心配ってことー。」
「え………。………………、あの、体調は大丈夫なんです、本当…えっと…。」
「まあ、プロデューサーさん、甘えるの下手だしねー。僕じゃ頼りにならないかもしれないけどさ…」
「そ、そういう訳じゃ……あの……ていうか想楽さん、私…、気づいてます…よね?」
「んー…、なんでも、辛い時は頼って欲しいかもー。…1番に。」
「……十分、いつも助けられてるんですよ。本当…」
「……………」
どことなく嬉しそうに微笑んだなまえさんは、控えめに僕に体重を預けて寄りかかってきた。
しばらくそうして黙っていると、少しは僕の気持ちも満たされてきたようだった。
「…結局何もしてあげられてないねー。」
「えっ。いいんですよ。あの…毎回になっちゃいますから…。」
「毎回頼ってよー…。」
「いえ…いや…。…こうして一緒にいてくれるだけでも、嬉しいんです。」
「……お昼ごはん、僕が作るねー。何が食べたい?」
「えっ、う、うーん…何がいいですかね…」
よし、と思って立ち上がり、何ができるかなーと冷蔵庫の中をのぞいた。
「想楽さん」
「ん?」
「ありがとうございます。」
青白い顔で、…でも本当に嬉しそうな顔するなー…。
次もまたごはんぐらいは作ってあげられるだろうか、とぼんやりと考えながら、愛しいこの人の助けになれることを祈っていた。