短いの
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「おいおい…お前さん、大丈夫か?」
「ぅーー………雨彦さん……すみません…」
仕事の付き合いで飲み会に参加したのはいいものの、苦手なくせにお酒を飲みすぎた私はフラフラになってしまい、道端でしゃがみこんだ。立ちくらみがすごい。歩くことはできそう…だが、地面に足がついているのに浮遊感がすごい。顔も熱くて熱くてしょうがない。自分では見えないが、おそらく真っ赤な顔になっているだろう。
「…仕方ない。」
「え?」
「ほら、おぶってやろうじゃないか。」
「え?おぶる?ええ?!いいです、いいです、歩けます!」
雨彦さんが私の前でしゃがんで背中を差し出してくる。
さすがにそれは申し訳なさすぎる…!
「フラフラじゃないか。転ばれる方が困る。それに、お前さんくらい小さいと、古論みたいに肩を組んで歩いてやるのは難しいからな。なに、お前さんなんて軽いもんさ。」
「う…う…でも…でも…」
「いいから、ほら。」
「う〜…」
雨彦さんはついに遠慮する私の腕を掴んで自分の肩の方に引っ張る。
「つかまれ。」
「でも……うひゃあっ!」
「はは、ほら、軽いな。」
がっと一気に持ち上げられて、本当に地面から足が離れておんぶされてしまった。本当に軽々と持ち上げた。
恥ずかしいやら情けないやら嬉しいやら、様々な感情が押し寄せる。
「うう〜………ごめんなさい…」
「気にするな。お前さんがこんなになるのは珍しいからな。たまには世話焼かせてくれ。」
「本当にすみません…」
「お前さんが酒好きとは知らなかったが…いつもは抑えてるのに、今日は調子でも悪かったか?」
「いえ…お酒なんか不味いし嫌いです…。ただ…」
先程の居酒屋にて、雨彦さんが出演した番組のディレクターやスタッフさんたちに言われた言葉を思い出す。
『315プロさんもどうですか一杯!』
『ディレクター、あんまり無理に勧めたらアルハラになっちゃいますって〜!』
『ハハ、今時気をつけないとだな!女性だし、もうやめといた方がいいか!』
『こんなでっかいアイドルに、若くてちっちゃい女性のプロデューサーとはね、わざわざ今日無理して来ていただいたんだから丁重に接しないと!』
ワハハと笑うみなさんに合わせて笑った私は、ディレクターが差し出そうとしていたピッチャーを奪って自分のグラスにたっぷりビールを注いだ。そして一気飲みする。
『いえ!私が小さいんじゃなく、うちのアイドルのスタイルが良すぎるんですよ!』
周りから、おおっ!と驚きと笑いが混じった声が聞こえた。もう一杯注いでみせた。
『みなさん、気を遣わないでくださいね!今日はうちのアイドルを売り込みに来たので!どうぞよろしくお願いします!』
笑顔でそう言うとその場は盛り上がった気もした。
そのあとは…勧められるまま、不味いと思いながらも飲んだ。
今にして思えば、こんな状態になってしまい、雨彦さんに迷惑をかけ、間違った行動だったと思う。
でも、
「……女だからってなめられたくなくて」
「………そうか。」
「………」
「……世界が違えば、悩みも正反対だな…」
「…えっ?なんて言いました?」
「フッ、いや…」
雨彦さんは何か考えているように黙った。
しばらく沈黙が続いた。
「…プロデューサー、ありがとな。お前さんはよく頑張ってるさ。それは、俺たちアイドルと事務所のやつらがよくわかってる。だからお前さんは胸を張っていてくれ。」
「…………」
思わず、大きな背中に顔をうずめて、ぎゅっと抱きついた。
「おいおい、まさか泣いてないよな?泣き上戸か。」
「ないっ…てません……でも、でも…雨彦さん、こんなプロデューサーですが、これからもよろしくお願いします…!」
「はは、わかったわかった。」
「…本当にわかってますか?!これからもですよ!」
「わかってるさ。酔っ払いの悪絡みは勘弁してくれ。」
「だって…!だって雨彦さん…いなくなっちゃうじゃないですか…」
「…俺がかい?」
「そうですよ!いつも私や想楽さんやクリスさんの目を盗んでどっかに行っちゃうじゃないですか…!」
「…どこにも行かないさ。」
「…うそ!信じられません!」
「やれやれ、そんなに信用ないのかい?」
「だって!雨彦さんの、」
お父さん、と言おうとしてしまい慌てて口をつぐんだ。
詳しいことは、知らない。…知りたいけど。
勝手な憶測で物を言うのは良くない。
「…俺の?」
「…………本当は雨彦さんにしがみついてでもついて行きたいんです。」
「………」
「一緒に、どんなところまででも」
「………」
「…ついて行ったって、何もできないのはわかってるんですけど…」
「フッお前さんが一緒に、か。ははっ」
「…何笑ってるんですか?!」
「いや、想像しちまってな。はは、お前さんがいたら楽しそうだな。」
「………」
そんなこと言って、私を一緒に連れて行く気なんか、微塵もないくせに。
ムカついて雨彦さんの背中にひっついてむくれた。
「…お前さんが心配することはなんにもないさ。」
「………」
「俺が戻ってこなかったことがあったかい?」
「……ないですけど」
「そうだ。俺がいる場所はもう、お前さんたちがいるここだからだ。」
「…本当ですか?!ずっとですよ?!」
「ああ。」
「ずっとずっとその先もですよ?!」
「ああ、そうだ。俺も同じ気持ちだ。だからプロデューサー、お前さんも…どこにも行かないでくれるかい。」
なんでこの人、不安そうなんだろう。
表情は見えないのに、ぼんやりとそんなふうに思った。
「…行くわけないじゃないですか。」
「…そうか。そうだな…。俺ももしかしたら、少し酔ってるのかもしれないな。」
「…今度は、2人だけで…行きませんか。」
「そりゃあ良い。だが…酒は1杯だけだ。あとはコーラにしてもらおうか。」
「う…もう酔っ払いません…」
「頼んだぞ。お前さんは頼れるプロデューサーだが…、知らないやつらには、可愛いお嬢さんに見えるのも確かだ。あまり俺たちを心配させないでくれよ。」
「おじょ…、…………は…い…」
「ま、俺がいる時にはこうやって頼ってくれ。」
「…もう…おんぶされないように…します…」
「あぁ…、…お前さん?………寝たのか?…まいったなこれは…」
次の日、気づくと私は雨彦さんの家のベッドで目を覚ました。ぼんやりとしか記憶がない。
ソファで寝ていた(多分寝てない)雨彦さんに半泣きで土下座して平謝りすることになるのだった。
「頼れるプロデューサーの可愛い寝顔が見れたんだ、安いもんさ。」
「え…?!なんですか…?!私、昨日何言ってました…?!」
「なあに…お前さんがあんなに大胆になるとは。熱い愛の告白にも驚いたぜ。」
「え?!なんもしてない…ですよね?!」
「嘘は言っちゃいないさ。可愛かったぜ。」
「私何かしちゃいましたか?!許してくださいー!!」