短いの
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
最近気づいたことがある。
私が特別ではないんだと。
あの人は誰にでもそうだった。
ユニットのメンバーはもちろん、他のアイドルともすぐ仲良くなれる。
当然だ。あの人を嫌いになる人なんていないだろう。明るくて素直で好意をストレートに伝えてくれて、すぐに他人を褒める。(なんらかの海洋生物に喩えながらではあるが…)
かといって振る舞いや言葉遣いは上品で、加えてあの容姿。本当にアイドルに相応しい。
とにかく、褒められるのも好意を伝えられるのも、私だけではないということ。勘違いしては、いけないということ。
「プロデューサーさんは今日も綺麗ですね」
「プロデューサーさんは頼りになります、いつもありがとうございます。」
「プロデューサーさん、大好きです!」
屈託のない笑顔で、今までいただいたこんな言葉も、嘘ではないだろう。しかし、彼にとってはなんてことのない言葉なのだ。同じことを感じれば他の人にも、彼はすぐに口に出して伝えるだろう。それを悲しいと感じることも、よくないことだろうと思った。
そんな折だった、友達からお願いがあるとLINKが届いた。
今夜、突然で申し訳ないが合コンの人数合わせに来て欲しいと。今までは、目の前に魅力的な人がいるためか、合コンなんてものには興味もなかったし、お酒も苦手な私が行って楽しめるようなところとも思わなかった。
でも、今日は…行ってみようかな。ずっとこのまま、私は特別じゃないんだと落ち込んでウジウジしているのも嫌だし。
いいよーと返事したら本当にありがとうと感謝され、悪い気もしなかった。
定時後、仕事を終わらせて急いで向かおうとしたところ、その友人から電話がかかってきた。
「もしもし?あー全然いいよ、私も行ってみたいから、今から向かうよ。どこに行けばいい?」
電話しながら事務所を出ようとすると、ハイジョーカーのみなさんが事務所に来たところだった。
「あっ!プロデューサーちゃん!おつかれっす!今から帰るっすか?」
「あっ、みなさん!今来られたんですか?」
「はい。ちょっとみんなで課題をやろうということになって…あ、プロデューサーさん、電話中ですか?」
「大丈夫ですよ!ラウンジも使っていただいて大丈夫です。私は今日これで失礼しますが、山村さんがいるので、戸締りについて聞いてくださいね。」
「プロデューサー、ありがとう!」
「いえいえ、すみません、お先に失礼します。
…あ、もしもし?ごめんごめん、今出たから大丈夫。…え?ご飯代?いいって、合コンの人数合わせなんて、居ればいいんでしょ?お金はいいって。お腹空いてるからお店楽しみだよ、今向かうねー。」
再び電話をしながら事務所を後にした私だったが、その後の事務所が大変なことになるとは知る由もなかった。
----------
プロデューサーが去った後、電話の内容が聞こえてしまったハイジョーカーの面々は驚きで口と目を丸くしていた。
「ちょちょちょちょ、ちょっとみんな今の聞いたっすか?!」
「ちょっと四季くん…、電話の内容盗み聞きなんて…プライベートなことなんですから…」
「でも!俺たちのプロデューサーちゃんが合コンに?!行っちゃうっすよ〜!!!」
「合コンって…どんなところなんだろう…」
「オレも行ったことあるぜ、合コン。」
「え?!春名、行ったことあるの?!?!」
「友達の友達とかで、男女同じ人数でしゃべったりするだけじゃね?みんな出会いを求めて行くかもだけど。オレはさっきプロデューサーが言ってたのと同じで、人数合わせだったし、美味いもん食ってただけだけどな!」
「春名すげ〜…、俺も行ってみたい…」
「オレはプロデューサーちゃんが変な男に絡まれないか心配っすよ〜!!!プロデューサーちゃんかわいいし、優しいっすから!」
「あ…!それは確かに俺も心配かも…!」
「み、みんな、プロデューサーさんのプライベートなんだから詮索するのは…」
「でも…旬も心配…じゃない…?」
「…心配ですけど。」
「そうっすよね!?!?あぁ〜!プロデューサーちゃん大丈夫っすかね〜!?」
「あれー。ハイジョーカーのみんな、事務所に入らず何してるのー?」
「あ、想楽さん!雨彦さんとクリスさんも!」
「お疲れ様ー。仕事終わりで戻ってきたよー。」
「みなさん、何かありましたか?」
「それが大変なんすよー!プロデューサーちゃんが…」
「四季くん!そんなベラベラ喋っちゃ…」
「プロデューサーさんが…どうかしたんですか?」
「流石に、ここで止められると気になるなー。」
「う…まあ、そうですよね…。」
「えっと…実は、今さっきプロデューサーが電話しながら帰って行ったんだけど、電話してる内容が聞こえちゃって…。」
「これから人数合わせで合コンに行くって言うんだ。プロデューサーが変な男に言い寄られないか心配だなって話になったんだよ。」
「…え?プロデューサーさんがー?」
「それはそれは…確かに大事件…かもな。」
話を聞いた想楽と雨彦は思わずクリスの方に視線をやった。
「プ、プロデューサーさんが…」
「わー…。あからさまにショックを受けた顔をしてるねー。」
「だな…。」
「ど、どうしましょう。想楽、雨彦…合コンとはそんなに危険なところなんでしょうか?!」
「ど、どうかなー…。そうとも限らないと思うけどー。」
「そりゃあ、変な奴がいないとも限らないが…。まあプロデューサーも大人だ。そんな会にも呼ばれて一つや二つ参加することもあるんじゃないか?」
「オレ心配っすよー!レジェンダーズのみなさんは大人だから様子伺ったりできないっすか?!」
「ええ〜…、無茶なこと言うなー。僕は未成年だし無理じゃないかなー。雨彦さんと…クリスさんはどうかなー?」
「様子を…伺ってもいいのでしょうか…?!」
「まあ…そうさな…。じゃあ、仕事も無事終わったし、プロデューサーに報告の電話を入れてくれないか、古論。」
「!!!雨彦…!ありがとうございます!今すぐ電話してみましょう!」
慌ててクリスがプロデューサーに電話をかける。
ハイジョーカーのメンバーは前のめりになってその様子を見守っている。
「はあー…それにしても、プロデューサーさん合コンに行っちゃうなんて…。クリスさんの気持ちに気づいてないってことー?あんなにわかりやすくアピールしてるのにー?」
「どうだかな…。案外あちらさんも思い悩んでるのかもしれないな。」
「えー?」
---------
初めて来てみた合コンというものは、それほど悪いものでもなかった。無理にお酒をすすめてくる人もいないし、友達にも会えたし、初めて会った人も良い人そうだし…普通に談笑できている。
こういう出会いがもしかしたら、私の独りよがりな片思いを終わらせるきっかけになってくれるかもしれない。
ふと電話が鳴った。
あれ…、クリスさんからだ。
たった今思いを馳せていた本人からの電話だったので、一瞬ドキッとしたが、…もしかして仕事で何かあったかな?
たしかレジェンダーズのみなさんはラジオの仕事が入っていたような…。
一瞬でそれらの思考を駆け巡らせ、一声謝罪して席を離れた。
お手洗いの近くの少し静かな場所まで移動して電話に出る。
「はい、もしもし。」
『!プロデューサーさん!!!』
「は、はい、どうかしましたかクリスさん?仕事で何かありましたか?」
『い、いえ…!仕事は先程、無事に終わりまして、今想楽と雨彦と事務所に戻ってきました。』
「あ、そうでしたか。よかったです!今日は付き添えずすみません。でも、レジェンダーズの皆さんなら心配なかったですね。」
『は、はい…!あの…!プロデューサーさん…』
「…どうしましたか?やっぱり何かありましたか?」
電話越しでも何か伝わってきた。…何か…焦っているような…。
『…プロデューサーさん、今どちらにいらっしゃいますか?』
「え?今ですか?えっと…〇〇の近くのレストランで…友人たちと…」
『あの…!私そちらに行ってもいいでしょうか…!』
「え?!あの、やっぱり何か問題が…?私、今から事務所に戻りましょうか?」
『いえ、問題ということはないのですが…。私が、プロデューサーさんに会いたいのです。』
「え…」
またドキッと胸が高鳴った。いやいや、勘違いするなって思ったばかりでしょ…!
でも、本当にどうしたんだろう。やっぱり何かあったのかもしれない。
『場所を教えてくれませんか。事務所からそう遠くない場所ですよね?すぐ行きますので…!』
「わ、わかりました。今お店の場所を送りますね。店先に出て、待ってます。」
『!ありがとうございます!安全な場所でお待ちください!』
勢いに押され、思わず了解した。安全な場所…?
まあ、人数合わせに呼ばれた役目はもう果たしたかな…?
仕事のトラブルでと言い訳して謝ると、友人は急に来てもらったから気にしないでと言ってくれた。
友人に良い出会いがあることを祈り、大体の金額を置いて店を後にした。
店を出ると、息を切らしたクリスさんがちょうど駆け寄ってきた。
「プロデューサーさん!」
「クリスさん!そんなに急いで…どうしまし、」
駆け寄ってきた勢いのまま、ガッと抱きしめられた。
「?!」
「プロデューサーさん!会えてよかったです!」
「え…?!え…っと…?!ど、どうしましたクリスさん…?!」
「あぁ…すみません、思わず…。」
驚くとクリスさんは照れ笑いしながら手を離した。
び、びっくりしたー…。さっきも安全な場所と言ってたし、何か勘違いしている…?
「実は…プロデューサーが合コンに行くと知ってしまい、いてもたってもいられず…」
「…え?!な、なんでそれを…」
「事務所でハイジョーカーの皆さんにお会いしました。彼らはプロデューサーさんの電話の内容が聞こえてしまったそうです。そして、プロデューサーさんが変な人に絡まれないかと心配していました。」
「ハイジョーカーのみなさんが…、わ、わー…お恥ずかしいところを…えっと、ご心配おかけしてすみません…?!」
まさか聞かれていたとは。しかも、高校生たちにそんな心配をされるとは。恥ずかしくなり赤面する。相当頼りないと思われている…?!
「プロデューサーさんは可愛らしく、優しいですから、みなさんが心配するのもわかります。でも…私は少し違うことを思いました。」
「え…?え…?」
「もちろん、私も心配な気持ちがありましたが…。いえ、それだけでなく、たとえ悪い人でなくても、プロデューサーさんが他の人と親しくなってしまうかもしれないと考えると…私が嫌だったのです。」
「…」
「そう考えると、いてもたってもいられず、ご迷惑とは思ったのですが急いでプロデューサーさんの元に来たかったんです。」
「……」
「プロデューサーさん、変な男はいなかったですか、何もされてないですか?」
「は、はい。」
「良かった…!」
またギュっと抱きしめられ私はまた真っ赤になって固まった。
「プロデューサーさん!よかったら、みんな事務所で心配しているのです。戻ってみんなで何か食事をしませんか。食事を中断させてしまったでしょうし…。」
「は、はい!い、いいですね!何かみなさんにも買って戻りましょうか。」
「そうですね!美味しい海鮮丼がテイクアウトできる店があるのですがどうでしょうか?」
「い、いいですね!?行きますか!」
「はい!行きましょうプロデューサーさん!」
まだ真っ赤な顔の私の手を引いてクリスさんは歩き始めた。
私はまだ頭上にクエスチョンマークが飛び回っており、とにかくわからないままクリスさんとご飯を買い、事務所に戻った。
その間もずっとクリスさんに手を繋がれており、事務所に戻ると想楽さんと雨彦さんがニコニコとこちらを見ていた。
ハイジョーカーの皆さんにはいろいろ聞かれたが何と答えたかよく覚えていない。
ハイジョーカーの皆さんに囲まれている間、ふとクリスさんと視線が合う。
私もこんな目で彼を見ているのだろうか。
クリスさんの私を見る目はとても愛おしそうな嬉しそうな表情だったことだけはよく覚えている。