狐の足跡
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学校へ救援を求めに走った飯田が帰還した。プロたちの応戦により、遥か彼方にいる死柄木に重症を負わせる。咄嗟に黒霧が庇いワープゲートで逃亡を図ろうとしていた。遠距離でも捕らえられる個性など期待しない。
「死柄木!!」
「ッ」
ワープに飲み込まれる死柄木の首に噛み付いた。ぐっと噛みしめ奥へ奥へと歯を立てる。俺が突撃したことにより銃弾の攻撃は収まった。しかし確保を目的とした13号の個性で引き寄せられて俺まで巻沿いを食らう。下手をすればあのブラックホールによって木端微塵だ。笑えない状況は御免被る。
「離せクソガキ!」
「今度会うとき、その喉引き裂いてやる!」
俺が飛びのくと再び銃弾が奴らを襲った。くそと連呼する死柄木はオールマイトを睨む。
「今回は失敗したけど、今度は殺すぞ。平和の象徴オールマイト」
死柄木と黒霧の二名を捉え逃し、USJの奇襲は幕を閉じた。
オールマイトを助けることができなかった僕は彼に謝った。すると彼はまた救われたと言ってくれた。どこまでも優しい平和の象徴は、絶対に悪に屈しないのだと思い知らされた。
「平和の象徴」
敵が去った安堵で油断していた矢先に高頭くんがいた。しぼんだオールマイトの姿は世間では公表されていない秘密だ。それを守るために今日何度も走った。しかし、先程の使ったせいでズキズキ痛む脚を動かすことも満足にできない。このままでは、オールマイトの秘密が明かされてしまう。だらだら流れる汗は僕だけではなかった。オールマイトもかなり焦っている。
「……俺は救えるのに、何であいつは救けてやらなかったんだよ」
彼は立ち止まり、弱弱しく呟く。オールマイトは狼狽し悔いる表情を見せた。以前から彼の言動には興味があった。オールマイトを挑発したり周りの人間を近寄らせようとしなかったり、かっちゃんに似ていて、どこか違う雰囲気のクラスメイトが気になっている。オールマイトが口を開く前に、彼は背を向けた。
「礼なんて言わないからな。何があろうと俺の目的は変わらない」
平和の象徴は俺が殺す。野望に近いそれはとても悲しい目標のように感じた。
むしゃくしゃしたまま敵が逃げて平和の象徴に宣告したあと、俺の下に赤髪が駆け寄った。
「おい大丈夫か、高頭」
「うるさい騒ぐな。そんなに柔じゃない」
すっと通り過ぎると肩を掴まれた。
「離せ!」
「無理すんなって、痛えんだろ腕」
「関係ない!離せよ!」
「関係あるだろ!」
突然の罵声に驚く。赤髪は真っ直ぐな目で俺を見つめた。
「ダチが怪我してんだ、心配しないわけねえだろ!」
「……」
俺に怯むことなく怒鳴り上げる赤髪は傷のある腕を覗いで眉を寄せた。「無茶したな、早くリカバリーガールに看てもらえよ」本当に心配してくれているようだった。久しくなかった人間の慈悲に涙が浮かんだ。
「……っ」
「え!?そんなに痛いか!?まあ痛いよな」
「うぅっ」
「ああ、男が泣くな!歩けるか?ん?」
コクリと頷き彼の服を掴んで自らの裾を濡らした。
優しい人間には裏がある。そういう世界にいた俺はいつしか心が冷え切ってしまっていたのだ。当分会っていないあいつから与えてもらっていた温もりが蘇った気がする。ひくひく泣く俺はずびっと鼻水をすすった。
「……ひりひあ」
「……おお、俺か?一瞬何言ってんのか分からなかった。まさか名前を憶えていたなんて」
聞こえてるぞおい。俺は記憶力の長けた狐だぞ。悪態は内心に留め、かわりにずっと抱えていた心労を吐き出した。
「怪我ないか」
「え」
「だから、怪我ないのかよ!」
「お、おう!ねえよ!この通り!」
「そうか」
涙の最後の一滴を拭い去り、振り返った切島を睨み上げた。何だその鳩みたいなアホ面は。見んな。
「お前いい奴だな」
「はあ?」
「爆豪みてーにおっかないのかと思ってたけど、違った」
指された爆発男はキッとこちらを睨む。あいつは嫌いだ。嫌いな人間の類の匂いがする。それから紅白男は俺を観察しているようで嫌だ。もじゃもじゃはオールマイトのお気に入りで嫌悪対象。そうなればこの中では切島が一番いい。
「……一緒にするな」
「悪い悪い。あ…」
無意識に俺の頭をぽんぽん叩いた。身長的に少し低い頭部への接触がしやすいんだ。散々俺に触るなっていっているのに、無意識と言いたげな切島は再び謝った。俺は目を伏せる。
「……撫でたいなら撫でればいい」
「え?」
尾白と切島は俺を対等に見てくれた。だから特別に許可してやる。上からものをいう俺がいやならここで距離ができるだけ。それはそれでいい。切島を置いてスタスタ入口を目指す。妙に顔が熱い。熱に侵されたときのように熱い。
「な、待てよ高頭!」
彼が足音を近づけせて来る。俺を拒まなかった。それが少しだけ嬉しかったのか、頬が緩んだ。
保険医リカバリーガールに治癒を施してもらい、もじゃもじゃたちがやって来ると知って光の如く保健室を出た。同じ部屋にいて溜まるか。教室は仕方なくいてやってるんだ!逃げ足の素早いハイエナのように教室で辿り着くと、数名の人間の匂いがした。
「高頭くん!」
「怪我治ったん!?大丈夫!?」
「無事でよかったわ」
「よく生きてたよ!」
奴らに圧倒され後ろに飛びのくとドンと何かにぶつかった。勢いよく振り返った先には優しい眼差しがあり無意識化でほっと息を吐いた。
「高頭、無事でよかった」
「尾白」
俺の安否を喜んでいる尾白の顔を掴んで引き寄せた。えっとキョドっている尾白のの匂いをくんくん嗅いだ。
「え?な、なに?」
「怪我したな。血の匂いがする」
「かすり傷だよ。平気さ」
「……」
あどけなく笑う尾白が強がっているように見えた。俺は守れなかった。あのとき、伸ばした腕は彼に届かなかった。己の無力さに目を伏せると、頭部がずしっと重くなる。尾白の手が乗っかっているのだ。
「高頭に何もないなら何よりだね」
「っ」
それでも彼は俺の心配をしてくれる。湧き上がる感情が再び溢れ出しそうになった。はっと我に返り後ろに人がいることを考え、唇を噛みしめる。俺達のやり取りを見ていた眼鏡を筆頭に俺達に近寄った。
「治癒はできたのか!」
「うるさい」
「な、心配しているというのに」
「心配?俺に、なんで」
「クラスメイトじゃないか!当然だろう!」
「……当然?」
どうして当然なんだ。彼等にとって俺が怪我しようが死のうが関係ない。ただ同じ教室にいるだけの奴に、どうして心配してやれるんだ。俺なんか放っておけばいいのに。
「高頭ちゃん」
「……カエル」
「本当に無事でよかったわ」
「……なんで」
「仲間ですもの」
舌を出してケロッと微笑む彼女は大きな瞳でじっと見つめた。どうして慈悲を持っているんだ。人間なんだろう?人間は非道で下劣な奴が多くて、俺の嫌いな生き物なのに、どうして?女が言った言葉を思い出す。
そんなことばかり言ってるから、皆怖がっちゃうのよ。
俺が、拒絶している間に、人間の中にもいい奴がいたことに気づいていなかっただけなのか。なら俺はどうすれば歩み寄れる?
「……もう心配いらない」
「けろ」
「俺は無事だから」
歩み寄れば、離れていくとき、自分が辛くなる。また怖い思いをさせられるかも。じゃあ近づいてくれる奴らを無碍にするって?そうなれば俺も人間と同じだ。尾白の服を掴んで、俯きながら声を震わせた。
「さっき、酷いこと言って、ごめん」
彼女はUSJでの暴言を思い出して首を曲げた。大きな目が細められる。
「気にして無いわ。それに、酷いこととは思っていなかったの」
「?」
俺はあのとき、彼女を脅した。しかし彼女は優しく母親のように微笑みかける。
「高頭ちゃんなりに、私たちを逃がそうとしてくれてるように聞こえた。だから、悲しくはなかったわ」
「……」
「ただ、あの場で高頭ちゃん一人を残ることが心配だったの」
「っ」
それはつまり、つまりさ。あのときから、俺を案じてくれていたってことだ。なんて、優しいんだろう。心がぽっと温まる。
「なあ蛙、俺……」
「ケロ。蛙吹梅雨よ、梅雨ちゃんと呼んで」
「梅雨。俺、俺」
「なあに?」
感極まり言葉を上手く紡げない俺は、赤くなりながら心臓あたりをぐっと掴んだ。熱い、身体全身の血が沸騰しているようだ。
「お前が無事で、良かったって、思う」
「ええ、お互い無事でよかったわ」
「うん」
俺を否定しない。何でも受け入れてくれる彼女に心を許した。尾白や切島と同じで、梅雨は普通の人間とは違う。蛙で共感が持ちやすいのも相まってか、俺の中で特別に感じる存在となった。大きな手を取って、ぎゅっと握ると俺と同じで彼女の頬も染まった。
「高頭ちゃん?」
「ごめん。大きな手だと思って、いやか?」
「ケロッ」
彼女の顔を覗き込むとカチンコチンに固まった。シャボン玉の大きさの期待がパチンと弾けパッと手を離す。ハリネズミのじれんまというものだ。俺が近づきすぎれば針が彼女に刺さる。上手くコミュニケーションが取れない俺は彼女に何度も謝った。
「ごめん、いやだよな、ごめん、ごめん」
「い、いやとかじゃないと思うよ高頭くん!梅雨ちゃん、吃驚しただけとかやないかな?ね?梅雨ちゃん」
「ええ、驚いただけなの。高頭ちゃん、大丈夫よ」
「本当?無理してないか?」
「本当よ」
「じゃあ、触ってもいい?――」
久しぶりに人間と触れあった。話した。距離を詰めた。心を、開いた。憂鬱であった学校生活が少しずつ変わっていく。俺を案じて放課後に残ってくれていた尾白や梅雨、麗日に飯田のおかげで、明後日の登校が楽しみだと思えたのだ。
今度から誰かに触るときは相手の許可をもらってからにしようと心に決めた。
180811
「死柄木!!」
「ッ」
ワープに飲み込まれる死柄木の首に噛み付いた。ぐっと噛みしめ奥へ奥へと歯を立てる。俺が突撃したことにより銃弾の攻撃は収まった。しかし確保を目的とした13号の個性で引き寄せられて俺まで巻沿いを食らう。下手をすればあのブラックホールによって木端微塵だ。笑えない状況は御免被る。
「離せクソガキ!」
「今度会うとき、その喉引き裂いてやる!」
俺が飛びのくと再び銃弾が奴らを襲った。くそと連呼する死柄木はオールマイトを睨む。
「今回は失敗したけど、今度は殺すぞ。平和の象徴オールマイト」
死柄木と黒霧の二名を捉え逃し、USJの奇襲は幕を閉じた。
オールマイトを助けることができなかった僕は彼に謝った。すると彼はまた救われたと言ってくれた。どこまでも優しい平和の象徴は、絶対に悪に屈しないのだと思い知らされた。
「平和の象徴」
敵が去った安堵で油断していた矢先に高頭くんがいた。しぼんだオールマイトの姿は世間では公表されていない秘密だ。それを守るために今日何度も走った。しかし、先程の使ったせいでズキズキ痛む脚を動かすことも満足にできない。このままでは、オールマイトの秘密が明かされてしまう。だらだら流れる汗は僕だけではなかった。オールマイトもかなり焦っている。
「……俺は救えるのに、何であいつは救けてやらなかったんだよ」
彼は立ち止まり、弱弱しく呟く。オールマイトは狼狽し悔いる表情を見せた。以前から彼の言動には興味があった。オールマイトを挑発したり周りの人間を近寄らせようとしなかったり、かっちゃんに似ていて、どこか違う雰囲気のクラスメイトが気になっている。オールマイトが口を開く前に、彼は背を向けた。
「礼なんて言わないからな。何があろうと俺の目的は変わらない」
平和の象徴は俺が殺す。野望に近いそれはとても悲しい目標のように感じた。
むしゃくしゃしたまま敵が逃げて平和の象徴に宣告したあと、俺の下に赤髪が駆け寄った。
「おい大丈夫か、高頭」
「うるさい騒ぐな。そんなに柔じゃない」
すっと通り過ぎると肩を掴まれた。
「離せ!」
「無理すんなって、痛えんだろ腕」
「関係ない!離せよ!」
「関係あるだろ!」
突然の罵声に驚く。赤髪は真っ直ぐな目で俺を見つめた。
「ダチが怪我してんだ、心配しないわけねえだろ!」
「……」
俺に怯むことなく怒鳴り上げる赤髪は傷のある腕を覗いで眉を寄せた。「無茶したな、早くリカバリーガールに看てもらえよ」本当に心配してくれているようだった。久しくなかった人間の慈悲に涙が浮かんだ。
「……っ」
「え!?そんなに痛いか!?まあ痛いよな」
「うぅっ」
「ああ、男が泣くな!歩けるか?ん?」
コクリと頷き彼の服を掴んで自らの裾を濡らした。
優しい人間には裏がある。そういう世界にいた俺はいつしか心が冷え切ってしまっていたのだ。当分会っていないあいつから与えてもらっていた温もりが蘇った気がする。ひくひく泣く俺はずびっと鼻水をすすった。
「……ひりひあ」
「……おお、俺か?一瞬何言ってんのか分からなかった。まさか名前を憶えていたなんて」
聞こえてるぞおい。俺は記憶力の長けた狐だぞ。悪態は内心に留め、かわりにずっと抱えていた心労を吐き出した。
「怪我ないか」
「え」
「だから、怪我ないのかよ!」
「お、おう!ねえよ!この通り!」
「そうか」
涙の最後の一滴を拭い去り、振り返った切島を睨み上げた。何だその鳩みたいなアホ面は。見んな。
「お前いい奴だな」
「はあ?」
「爆豪みてーにおっかないのかと思ってたけど、違った」
指された爆発男はキッとこちらを睨む。あいつは嫌いだ。嫌いな人間の類の匂いがする。それから紅白男は俺を観察しているようで嫌だ。もじゃもじゃはオールマイトのお気に入りで嫌悪対象。そうなればこの中では切島が一番いい。
「……一緒にするな」
「悪い悪い。あ…」
無意識に俺の頭をぽんぽん叩いた。身長的に少し低い頭部への接触がしやすいんだ。散々俺に触るなっていっているのに、無意識と言いたげな切島は再び謝った。俺は目を伏せる。
「……撫でたいなら撫でればいい」
「え?」
尾白と切島は俺を対等に見てくれた。だから特別に許可してやる。上からものをいう俺がいやならここで距離ができるだけ。それはそれでいい。切島を置いてスタスタ入口を目指す。妙に顔が熱い。熱に侵されたときのように熱い。
「な、待てよ高頭!」
彼が足音を近づけせて来る。俺を拒まなかった。それが少しだけ嬉しかったのか、頬が緩んだ。
保険医リカバリーガールに治癒を施してもらい、もじゃもじゃたちがやって来ると知って光の如く保健室を出た。同じ部屋にいて溜まるか。教室は仕方なくいてやってるんだ!逃げ足の素早いハイエナのように教室で辿り着くと、数名の人間の匂いがした。
「高頭くん!」
「怪我治ったん!?大丈夫!?」
「無事でよかったわ」
「よく生きてたよ!」
奴らに圧倒され後ろに飛びのくとドンと何かにぶつかった。勢いよく振り返った先には優しい眼差しがあり無意識化でほっと息を吐いた。
「高頭、無事でよかった」
「尾白」
俺の安否を喜んでいる尾白の顔を掴んで引き寄せた。えっとキョドっている尾白のの匂いをくんくん嗅いだ。
「え?な、なに?」
「怪我したな。血の匂いがする」
「かすり傷だよ。平気さ」
「……」
あどけなく笑う尾白が強がっているように見えた。俺は守れなかった。あのとき、伸ばした腕は彼に届かなかった。己の無力さに目を伏せると、頭部がずしっと重くなる。尾白の手が乗っかっているのだ。
「高頭に何もないなら何よりだね」
「っ」
それでも彼は俺の心配をしてくれる。湧き上がる感情が再び溢れ出しそうになった。はっと我に返り後ろに人がいることを考え、唇を噛みしめる。俺達のやり取りを見ていた眼鏡を筆頭に俺達に近寄った。
「治癒はできたのか!」
「うるさい」
「な、心配しているというのに」
「心配?俺に、なんで」
「クラスメイトじゃないか!当然だろう!」
「……当然?」
どうして当然なんだ。彼等にとって俺が怪我しようが死のうが関係ない。ただ同じ教室にいるだけの奴に、どうして心配してやれるんだ。俺なんか放っておけばいいのに。
「高頭ちゃん」
「……カエル」
「本当に無事でよかったわ」
「……なんで」
「仲間ですもの」
舌を出してケロッと微笑む彼女は大きな瞳でじっと見つめた。どうして慈悲を持っているんだ。人間なんだろう?人間は非道で下劣な奴が多くて、俺の嫌いな生き物なのに、どうして?女が言った言葉を思い出す。
そんなことばかり言ってるから、皆怖がっちゃうのよ。
俺が、拒絶している間に、人間の中にもいい奴がいたことに気づいていなかっただけなのか。なら俺はどうすれば歩み寄れる?
「……もう心配いらない」
「けろ」
「俺は無事だから」
歩み寄れば、離れていくとき、自分が辛くなる。また怖い思いをさせられるかも。じゃあ近づいてくれる奴らを無碍にするって?そうなれば俺も人間と同じだ。尾白の服を掴んで、俯きながら声を震わせた。
「さっき、酷いこと言って、ごめん」
彼女はUSJでの暴言を思い出して首を曲げた。大きな目が細められる。
「気にして無いわ。それに、酷いこととは思っていなかったの」
「?」
俺はあのとき、彼女を脅した。しかし彼女は優しく母親のように微笑みかける。
「高頭ちゃんなりに、私たちを逃がそうとしてくれてるように聞こえた。だから、悲しくはなかったわ」
「……」
「ただ、あの場で高頭ちゃん一人を残ることが心配だったの」
「っ」
それはつまり、つまりさ。あのときから、俺を案じてくれていたってことだ。なんて、優しいんだろう。心がぽっと温まる。
「なあ蛙、俺……」
「ケロ。蛙吹梅雨よ、梅雨ちゃんと呼んで」
「梅雨。俺、俺」
「なあに?」
感極まり言葉を上手く紡げない俺は、赤くなりながら心臓あたりをぐっと掴んだ。熱い、身体全身の血が沸騰しているようだ。
「お前が無事で、良かったって、思う」
「ええ、お互い無事でよかったわ」
「うん」
俺を否定しない。何でも受け入れてくれる彼女に心を許した。尾白や切島と同じで、梅雨は普通の人間とは違う。蛙で共感が持ちやすいのも相まってか、俺の中で特別に感じる存在となった。大きな手を取って、ぎゅっと握ると俺と同じで彼女の頬も染まった。
「高頭ちゃん?」
「ごめん。大きな手だと思って、いやか?」
「ケロッ」
彼女の顔を覗き込むとカチンコチンに固まった。シャボン玉の大きさの期待がパチンと弾けパッと手を離す。ハリネズミのじれんまというものだ。俺が近づきすぎれば針が彼女に刺さる。上手くコミュニケーションが取れない俺は彼女に何度も謝った。
「ごめん、いやだよな、ごめん、ごめん」
「い、いやとかじゃないと思うよ高頭くん!梅雨ちゃん、吃驚しただけとかやないかな?ね?梅雨ちゃん」
「ええ、驚いただけなの。高頭ちゃん、大丈夫よ」
「本当?無理してないか?」
「本当よ」
「じゃあ、触ってもいい?――」
久しぶりに人間と触れあった。話した。距離を詰めた。心を、開いた。憂鬱であった学校生活が少しずつ変わっていく。俺を案じて放課後に残ってくれていた尾白や梅雨、麗日に飯田のおかげで、明後日の登校が楽しみだと思えたのだ。
今度から誰かに触るときは相手の許可をもらってからにしようと心に決めた。
180811