狐の足跡
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青年相手に怯むはずなかった。何も怖れを感じない。自分に言い聞かせて笑っていたのに、奴には見透かされていた。
「高頭退け!」
青年の個性を省みずに挑んでいく生徒を放ってはおけない性が彼の中にもあったようだ。俺を庇って青年の相手を務めるのは担任のイレイザーヘッドだ。体に巻き付いた捕縛武器を解き怒号を響かせた。
「邪魔するなイレイザー!」
「引け高頭!お前が邪魔だ!」
「ああ!?」
こんなときにする会話ではない。ケンカをする相手でもない。生徒と教師という関係になった俺たちは、守られ守る相手となった。だから奴は俺を庇う。それは腹立たしい。
「俺に指図するな人間!」
「いい加減にしろ!」
「っ」
初めてイレイザーが吠えた。青年の攻撃を避けながら言葉は俺に突き刺さる。
「いつまでもガキみてぇな真似するな!また失いたいのか!」
立ち尽す俺の目の前にあの光景が蘇った。
俺に伸びてくる大きな手と押し寄せる遺物感に何度も嘔吐した。望んでもいない力が芽生え、周りは俺を化け物と呼んだ。唯一、拒まなかった人間は、……。
ギリッと奥歯を噛み絞め、ふつふつと湧き上がる怒りをぶつけようとした瞬間、先程まで大人しかった黒い大男がイレイザーの腕を掴んだ。
「あぁ!!」
地面に滴る血。混在した汗と鉄分の匂い。己の体に縛りつく炭素繊維を含んだ奴の捕縛武器。全てが脳の機能を停止させた。
「……は」
まるで小枝を折るかのように容易くイレイザーの腕をへし折る。這い蹲る彼に覆いかぶさり、頭を掴んで顔面を叩きつけた。俺はそれを、黙って見ていた。
「……」
俺は人間が嫌いだ。それは人間が先に俺を拒んだからだった。人間に好かれようとも思わない。だが、何だ。この息苦しさは。目の前の男に何を思う。俺だけ生きていればいいじゃないか。問題ないじゃないか。褪せた記憶の中に残る言葉が脳裏に浮かぶ。
もう、怪我させちゃだめだよ。
ああそうか、そういうことか。分かった。お前との約束は死んでも守ると、誓ったのだから。
力んだ足を浮かせた。傍にいた青年がこちらに振り向き、目を見開く。
「俺のもんに、手ぇ出すな!!」
青年にあっさり避けられるが、どうでもいい。あの怪人からイレイザーを引きはがす。今すぐに。
今思えば、イレイザーが二番目に俺の中にいた。
お前はヒーローになれる。
随分上からものを言う大人が来た。病院外ならアイツも文句はいうまい。今ここで仕留めてやろう。
「何だアンタ。みすぼらしい少年なら吊れると思ったか」
「規則違反を見つけたから拘束しようと思っていたが、どうやら事情があるみてえだったから勧誘しに来た」
汚い大人をたくさん見て来た。甘い言葉の罠にはすべて裏がある。俺も相手を欺く狐だ。相手がこちらに傾かせようとしていることは明白であった。
「去れ。俺は人間なんぞ関わりたくもない」
「なら今すぐお前を警察に連行し規則違反でお前は牢獄に入れられる」
「なに」
「そうなれば病室のあの子も嘆くだろうな」
病院に行き来していることが知られている以上、俺は身動きが取れなかった。もしも被害が病院に向けられれば成す術がない。ぐっと応え相手の要件を飲もう。
「目的は何だ」
「1年後、雄英高校を受験しろ」
ゆーえい?聞きなれない単語に首を傾げていると奴は颯爽と姿を消した。その日から雄英に関する学校案内が届くようになり雄英高校の存在を知らされた。全ては奴の目論見であったため、癪全としない気持ちで入試を受ける。持たされたお守りを首に下げた実技テストでは、落ちる気満々で無謀な闘いに挑んだ。落ちると思っていたのに、合格通知が来て、そして入学早々奴に出くわし、クラスの担任だとすべて仕組まれたようなここ数日が腹立たしかった。
そんなイライラする対称が目の前でやられて、憤りを抑えきれないのは、そういうことだ。
大好きなものほど、独占したいのよね、高頭は。
ああそうだ。俺の独占欲は人一倍強くねちっこい。それはお前が教えてくれた。だから言ったんだ。
「俺のもんに、手ぇ出すな!!」
蛙吹さんと峰田くんの三人で僕等が見たのは、プロが対峙する世界だった。抹消という有望な個性を持つ相澤先生がオールマイト並の腕力を持つ怪人に滅多打ちにされている。
「俺のもんに、手ぇ出すな!」
水にぬれてはいるが、唯一無傷な高頭くんが主犯格の男を通り過ぎ怪人に拳を振るう。ぎょろりと動く目玉に僕等はひっと声を上げそうになるが、彼は一寸の狂いもなくその目玉目掛けて爪をたてた。
「あ、蛙吹さん!見ちゃだめだ!」
「ケロ…」
女の子には酷いと思い手で覆った。それでも彼の攻撃が通じたか気になる。もしかすれば相澤先生を救えるかもしれないから。青ざめた表情で僕等が見た光景は、残酷だった。
「ッ!!!!」
「いい動きだ。脳無の目を狙うのも悪くない」
称賛を口にするそいつの手が高頭くんの首に触れた。僕等は奴の手に触れた相澤先生の肘がボロボロに崩れている瞬間を見ていた。まずい。そう考えたときには足が動いていた。
「手っ離せぇ!!」
奴はギョロリと目を動かした。パンチの風圧が起こる。今度は僕が狙われるんだと青ざめたとき、奴の姿は目の前から消えた。
「ッ」
僕が放ったワンフォーオールは相澤先生の腕をへし折った怪人の腹部に打っていた。腕の痛みを感じない。やっとオールマイトの力をまともに使えるようになった歓喜は脳裏から飛んでいった。瞳が絶望の色に染まる。僕じゃ、誰も助けられない。カタカタ震える体は硬直し逃げ出すこともできなくなってしまった。
「……脳無」
命令を下された怪人が僕を見下ろした。ヤバイ。警告が鳴っていると分かっていても、恐怖に抗えないのが人間の性というものだ。本当に怖いとき、人は声も出ないといっていたことは、本当だった。人々を助けるヒーローになろうとしているのに、乾いた喉は「助けて」と叫ぶ。怪人が振り下ろした腕の痛みに耐えようと目を瞑る。相澤先生の腕と同じように、僕は負傷…それどころか、死。背筋が凍った。
「余計なことするな」
とても冷ややかな声にそろりと目を開いた。声の主は怪人の太い首に巻き付いている。
「死にたいのか」
「高頭くん」
怪人に比べたら細い腕だ。しかし全身の力をもって首を締めている。びくともしないが、怪人の動きは止まっている。彼が救ってくれた。
「高頭く……」
「邪魔だ!そいつら連れてどっか行け!」
かっちゃんに似た悪態はいやな感じはなかった。言葉の裏に感じる恩情と僕等が持つ同じ心。人を救いたいという、ヒーローの本質。彼の赤い目にそれが宿っている。
「速く!」
「脳無、やれ」
怪人が彼を猫のように裾を掴んだ。宙に浮く足がバタバタ空を蹴る。
「あ、がッ」
「高頭くん!!」
首を爪で引っ掻きもがき苦しむ彼の口から唾液が滴る。彼は僕を助けてくれたのに、僕は彼を助けられないのか。嫌だ。動けよ。何のためにここまで来たんだ。オールマイトの力を貰ったんだ。何の為に。
「ぁ…」
高頭くんが気絶寸前に僕等の希望がやってきた。僕の、僕等の憧れた最高のヒーローが。
「もう大丈夫。私が来た」
奴の登場に決まっていう台詞が聞こえて来た。それは自分が平和の象徴であるという高慢な台詞。だが、もっと嫌いな言葉がある。
「僕がいる」
お前達に何ができる。俺に何をしてきたか、忘れたとは言わせない。愚かな人間に見せつけるために、俺はここにいる。あいつがもじゃもじゃやイレイザー、他の奴二人を救出し首謀者に打撃を加えた間に、俺もまた怪人の腕から服を引き裂いて逃れた。口内に溜まった唾液を地面んに吐き出して裾でぬぐう。肺に酸素を走らせ咳き込むと奴は俺の傍にやって来る。
「高頭少年、無事か!よく頑張ったな!」
「うるさい!」
悠長に会話している場合ではなかろうに。奴は依然として貫禄ある姿で俺に手を差し伸べる。
「もう大丈夫だ。さあ、君も入口へ」
「……」
この手を取れば皆守られ生きられると信じている。だが俺はそんな生き方は望んでいない。野太い腕を払いのけた。
「遅れて来て調子に乗るなよ、平和の象徴」
俺の憎悪と憤怒は誰にも晴らせない。鋭い視線で奴を怯ませていると、首謀者が怪人に命令した。怪人は奴の骨格に近い。こんな大がかりな奇襲をかけられる理由はあの怪人にあると言える。だとすれば、首謀者の命令がなければ動かない弱点を突かないわけない。ゆらりと立ち上がる俺に蛙の女が呟いた。
「高頭ちゃん、逃げましょう」
「うるさい」
「ここはオールマイト先生に任せるべきよ」
「……」
この女。俺が今から敵に攻撃しようとしていることを見透かしている。蛙といえば、俺は捕食対象となるわけだ。女の顎を浸かんで上を向かせた。情けなく「ケロ…」と鳴く。
「俺に喰われたくなきゃ、今すぐ去れ」
世の中の摂理には適わないのが動物というものだ。恨むなら蛙という個性にした両親を恨め。トンと突き飛ばしもじゃもじゃの腕に寄りかかる。俺は首謀者目掛けて飛びかかった。
「まだやるのかよ」
「愚問」
奴と取っ組み合いになる。後方で三人が悲鳴に近い声を上げる。大方、イレイザーの損傷を見て俺も同じ目に遭うと思ったのだろう。しかし俺は違う。個性の発動を抹消するイレイザーとは訳が違う。異変に気付いた首謀者は顔を歪めた。
「よく覚えておけ。あの平和の象徴を殺すのは、俺だ!」
180810
「高頭退け!」
青年の個性を省みずに挑んでいく生徒を放ってはおけない性が彼の中にもあったようだ。俺を庇って青年の相手を務めるのは担任のイレイザーヘッドだ。体に巻き付いた捕縛武器を解き怒号を響かせた。
「邪魔するなイレイザー!」
「引け高頭!お前が邪魔だ!」
「ああ!?」
こんなときにする会話ではない。ケンカをする相手でもない。生徒と教師という関係になった俺たちは、守られ守る相手となった。だから奴は俺を庇う。それは腹立たしい。
「俺に指図するな人間!」
「いい加減にしろ!」
「っ」
初めてイレイザーが吠えた。青年の攻撃を避けながら言葉は俺に突き刺さる。
「いつまでもガキみてぇな真似するな!また失いたいのか!」
立ち尽す俺の目の前にあの光景が蘇った。
俺に伸びてくる大きな手と押し寄せる遺物感に何度も嘔吐した。望んでもいない力が芽生え、周りは俺を化け物と呼んだ。唯一、拒まなかった人間は、……。
ギリッと奥歯を噛み絞め、ふつふつと湧き上がる怒りをぶつけようとした瞬間、先程まで大人しかった黒い大男がイレイザーの腕を掴んだ。
「あぁ!!」
地面に滴る血。混在した汗と鉄分の匂い。己の体に縛りつく炭素繊維を含んだ奴の捕縛武器。全てが脳の機能を停止させた。
「……は」
まるで小枝を折るかのように容易くイレイザーの腕をへし折る。這い蹲る彼に覆いかぶさり、頭を掴んで顔面を叩きつけた。俺はそれを、黙って見ていた。
「……」
俺は人間が嫌いだ。それは人間が先に俺を拒んだからだった。人間に好かれようとも思わない。だが、何だ。この息苦しさは。目の前の男に何を思う。俺だけ生きていればいいじゃないか。問題ないじゃないか。褪せた記憶の中に残る言葉が脳裏に浮かぶ。
もう、怪我させちゃだめだよ。
ああそうか、そういうことか。分かった。お前との約束は死んでも守ると、誓ったのだから。
力んだ足を浮かせた。傍にいた青年がこちらに振り向き、目を見開く。
「俺のもんに、手ぇ出すな!!」
青年にあっさり避けられるが、どうでもいい。あの怪人からイレイザーを引きはがす。今すぐに。
今思えば、イレイザーが二番目に俺の中にいた。
お前はヒーローになれる。
随分上からものを言う大人が来た。病院外ならアイツも文句はいうまい。今ここで仕留めてやろう。
「何だアンタ。みすぼらしい少年なら吊れると思ったか」
「規則違反を見つけたから拘束しようと思っていたが、どうやら事情があるみてえだったから勧誘しに来た」
汚い大人をたくさん見て来た。甘い言葉の罠にはすべて裏がある。俺も相手を欺く狐だ。相手がこちらに傾かせようとしていることは明白であった。
「去れ。俺は人間なんぞ関わりたくもない」
「なら今すぐお前を警察に連行し規則違反でお前は牢獄に入れられる」
「なに」
「そうなれば病室のあの子も嘆くだろうな」
病院に行き来していることが知られている以上、俺は身動きが取れなかった。もしも被害が病院に向けられれば成す術がない。ぐっと応え相手の要件を飲もう。
「目的は何だ」
「1年後、雄英高校を受験しろ」
ゆーえい?聞きなれない単語に首を傾げていると奴は颯爽と姿を消した。その日から雄英に関する学校案内が届くようになり雄英高校の存在を知らされた。全ては奴の目論見であったため、癪全としない気持ちで入試を受ける。持たされたお守りを首に下げた実技テストでは、落ちる気満々で無謀な闘いに挑んだ。落ちると思っていたのに、合格通知が来て、そして入学早々奴に出くわし、クラスの担任だとすべて仕組まれたようなここ数日が腹立たしかった。
そんなイライラする対称が目の前でやられて、憤りを抑えきれないのは、そういうことだ。
大好きなものほど、独占したいのよね、高頭は。
ああそうだ。俺の独占欲は人一倍強くねちっこい。それはお前が教えてくれた。だから言ったんだ。
「俺のもんに、手ぇ出すな!!」
蛙吹さんと峰田くんの三人で僕等が見たのは、プロが対峙する世界だった。抹消という有望な個性を持つ相澤先生がオールマイト並の腕力を持つ怪人に滅多打ちにされている。
「俺のもんに、手ぇ出すな!」
水にぬれてはいるが、唯一無傷な高頭くんが主犯格の男を通り過ぎ怪人に拳を振るう。ぎょろりと動く目玉に僕等はひっと声を上げそうになるが、彼は一寸の狂いもなくその目玉目掛けて爪をたてた。
「あ、蛙吹さん!見ちゃだめだ!」
「ケロ…」
女の子には酷いと思い手で覆った。それでも彼の攻撃が通じたか気になる。もしかすれば相澤先生を救えるかもしれないから。青ざめた表情で僕等が見た光景は、残酷だった。
「ッ!!!!」
「いい動きだ。脳無の目を狙うのも悪くない」
称賛を口にするそいつの手が高頭くんの首に触れた。僕等は奴の手に触れた相澤先生の肘がボロボロに崩れている瞬間を見ていた。まずい。そう考えたときには足が動いていた。
「手っ離せぇ!!」
奴はギョロリと目を動かした。パンチの風圧が起こる。今度は僕が狙われるんだと青ざめたとき、奴の姿は目の前から消えた。
「ッ」
僕が放ったワンフォーオールは相澤先生の腕をへし折った怪人の腹部に打っていた。腕の痛みを感じない。やっとオールマイトの力をまともに使えるようになった歓喜は脳裏から飛んでいった。瞳が絶望の色に染まる。僕じゃ、誰も助けられない。カタカタ震える体は硬直し逃げ出すこともできなくなってしまった。
「……脳無」
命令を下された怪人が僕を見下ろした。ヤバイ。警告が鳴っていると分かっていても、恐怖に抗えないのが人間の性というものだ。本当に怖いとき、人は声も出ないといっていたことは、本当だった。人々を助けるヒーローになろうとしているのに、乾いた喉は「助けて」と叫ぶ。怪人が振り下ろした腕の痛みに耐えようと目を瞑る。相澤先生の腕と同じように、僕は負傷…それどころか、死。背筋が凍った。
「余計なことするな」
とても冷ややかな声にそろりと目を開いた。声の主は怪人の太い首に巻き付いている。
「死にたいのか」
「高頭くん」
怪人に比べたら細い腕だ。しかし全身の力をもって首を締めている。びくともしないが、怪人の動きは止まっている。彼が救ってくれた。
「高頭く……」
「邪魔だ!そいつら連れてどっか行け!」
かっちゃんに似た悪態はいやな感じはなかった。言葉の裏に感じる恩情と僕等が持つ同じ心。人を救いたいという、ヒーローの本質。彼の赤い目にそれが宿っている。
「速く!」
「脳無、やれ」
怪人が彼を猫のように裾を掴んだ。宙に浮く足がバタバタ空を蹴る。
「あ、がッ」
「高頭くん!!」
首を爪で引っ掻きもがき苦しむ彼の口から唾液が滴る。彼は僕を助けてくれたのに、僕は彼を助けられないのか。嫌だ。動けよ。何のためにここまで来たんだ。オールマイトの力を貰ったんだ。何の為に。
「ぁ…」
高頭くんが気絶寸前に僕等の希望がやってきた。僕の、僕等の憧れた最高のヒーローが。
「もう大丈夫。私が来た」
奴の登場に決まっていう台詞が聞こえて来た。それは自分が平和の象徴であるという高慢な台詞。だが、もっと嫌いな言葉がある。
「僕がいる」
お前達に何ができる。俺に何をしてきたか、忘れたとは言わせない。愚かな人間に見せつけるために、俺はここにいる。あいつがもじゃもじゃやイレイザー、他の奴二人を救出し首謀者に打撃を加えた間に、俺もまた怪人の腕から服を引き裂いて逃れた。口内に溜まった唾液を地面んに吐き出して裾でぬぐう。肺に酸素を走らせ咳き込むと奴は俺の傍にやって来る。
「高頭少年、無事か!よく頑張ったな!」
「うるさい!」
悠長に会話している場合ではなかろうに。奴は依然として貫禄ある姿で俺に手を差し伸べる。
「もう大丈夫だ。さあ、君も入口へ」
「……」
この手を取れば皆守られ生きられると信じている。だが俺はそんな生き方は望んでいない。野太い腕を払いのけた。
「遅れて来て調子に乗るなよ、平和の象徴」
俺の憎悪と憤怒は誰にも晴らせない。鋭い視線で奴を怯ませていると、首謀者が怪人に命令した。怪人は奴の骨格に近い。こんな大がかりな奇襲をかけられる理由はあの怪人にあると言える。だとすれば、首謀者の命令がなければ動かない弱点を突かないわけない。ゆらりと立ち上がる俺に蛙の女が呟いた。
「高頭ちゃん、逃げましょう」
「うるさい」
「ここはオールマイト先生に任せるべきよ」
「……」
この女。俺が今から敵に攻撃しようとしていることを見透かしている。蛙といえば、俺は捕食対象となるわけだ。女の顎を浸かんで上を向かせた。情けなく「ケロ…」と鳴く。
「俺に喰われたくなきゃ、今すぐ去れ」
世の中の摂理には適わないのが動物というものだ。恨むなら蛙という個性にした両親を恨め。トンと突き飛ばしもじゃもじゃの腕に寄りかかる。俺は首謀者目掛けて飛びかかった。
「まだやるのかよ」
「愚問」
奴と取っ組み合いになる。後方で三人が悲鳴に近い声を上げる。大方、イレイザーの損傷を見て俺も同じ目に遭うと思ったのだろう。しかし俺は違う。個性の発動を抹消するイレイザーとは訳が違う。異変に気付いた首謀者は顔を歪めた。
「よく覚えておけ。あの平和の象徴を殺すのは、俺だ!」
180810