狐の足跡
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平和の象徴を殺せ。そう明確な目的を持った奇襲を前にして生徒たちは出入り口へ駆ける。イレイザーが一手に引き受けている間に誰かが救援を呼ばなければ打開できない。
「上鳴、学校に連絡は!?」
「えっいや、無理だった」
「分かった」
敵のほうが一枚上手。電波妨害で俺達を根絶やしにするつもりだ。ここは、物理的に学校側へ知らせることが最善だ。
「すごい!多対一こそ先生の得意分野だったんだ。うぎゃ!?」
「バカかお前!」
呑気にイレイザーの個性を分析するもじゃもじゃの腕を引っ張り出口へと走る。
「高頭く、」
「ッ!!!」
「え!?」
ひょろっこそうに見えて案外筋肉のついた腕を放り投げた。
「高頭くん!速く避難を!」
「速く行け!」
「――させませんよ」
遥か遠く、長い階段の下にいたモヤモヤが目前で俺達を覆った。奴らは敵連合と名乗り、雄英に侵入した理由は平和の象徴を殺すためだと、そう言った。しかし虚勢を含めて俺は笑う。
「何か可笑しいですか?」
「ああ可笑しいね。お前たちは間違っている」
「はい?」
「アイツを殺すのは俺の役目だ」
純粋で無謀なその夢を語る俺は今までで一番少年らしく笑っただろう。
俺を追い越し二人の影がモヤ男を攻撃した。そんなバカな。恐怖に怯んだであろう生徒に、勇敢な奴がいただろうか。
見開く目に映った二つは、赤髪と爆発の彼。
「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか!?」
虚勢、ではない。高慢な自信だ。人はこのような行為を無謀という。
「危ない危ない…そう、生徒といえど優秀な金の卵」
「ダメだ、どきなさい三人とも!」
「散らして、嬲り殺す」
俺はすぐに飛びのいた。しかし、モヤ男の異空間へ繋がるモヤを防ぐことはできそうにない。ならばせめて生徒の一人でも多くを外に…!
「高頭!」
「ッ、尾じ…!」
伸ばした腕は、彼に届く前にモヤに飲まれていく。悔いる彼に叫んだ。お前のせいじゃないから、お前だけでも。
「逃げろ!」
黒いモヤに飲み込まれて、視界が真っ暗になった。どこからどこへ向かうか分からない恐怖に腕を構えていると、背中から空気の冷たさを感じる。
散らして。敵の言葉からして想像したのは災害ゾーンに散らばった敵たちの下へ送られることだった。だが俺がワープから出た先は、上空だった。
「クソ、最悪な性格だよモヤ野郎!!!」
重力に逆らって噴水目掛けて落下していく。さすがにこれじゃ個性を使っても意味がない。少しでも落下速度を落とさなければ俺の体が粉々になる。
「くそ、考えろ!生きるんだろ、こんな所であんな奴らにやられる前に、やることがあるだろ!」
髪の毛をぐしゃとかきむしり、脳裏に浮かんだあの屈強な背中を思い浮かべた。不思議と奴のことを考えると力に溢れてくる。憤怒から込みあがる底力というものだろうか。落下まで数十mといったところで、飛び込みの準備をした。
「こうなりゃやけだ」
怪我したら見てもらえばいい。今は生き延びることに専念しよう。そして、救える命を救う。それがヒーローだ。
残り数m。浅そうな噴水に落下していく俺を、敵の首謀者やイレイザーが見つけた。
「高頭!」
勢いをつけた俺は高い水しぶきを立てながらジャボン!!!と落ちた。水滴に濡れる首謀者はぼーっとそれを眺めていた。もともとモヤ男に生徒を散らすように言っていたのに、まさか真後ろにワープさせるとは考えもなかった。それを謀反に近いものと散ら得た首謀者はガリッと首をかく。
「……黒霧め、後で覚えてろよ」
浮き上がらない水面からボコボコ鳴る。異変に気付いた首謀者は振り返った。ザバッと立ち上がる。
「浅い!死ぬかと思った!」
「……」
頭を左右に揺らして水を飛ばす俺をじっと見つめる首謀者。あ、何だよ、何見てんだよ。水に浸って重たくなったマントを脱ぎ捨てる。
「よくも、びしょびしょにしてくれたな」
「いや俺関係ないし」
「白を切るな首謀者。お前は大人しく俺に、」
自分をこけにした相手には報復を。むき出しの犬歯を見せつける。
「噛み砕かれろ」
「はあ?」
生意気な子ども相手にムキになる青年を嘲笑うように背後に回った。ほんの一瞬の隙をついた。伊達にここまで生きてきてないってことを敵に知らしめてやる。
「残念だったな首謀者!」
「ッ!」
苦渋を噛みしめるような声が聞こえ、強打をうなじに落とした。ドン。鈍い音と青年の苦しげな唸り声に手応えを感じて飛びのく。ふらりとその場に立ち留まる青年に拍手を送ってやろうかと思った。
「初めてだ、大抵の人間はコレで這い蹲るのに」
そう。いつもならこれで片が付いたのだ。それが俺の油断だった。
「こんの、クソガキ!」
青年の怒りに火を灯したようで、怒号とともに襲い掛かる腕を叩くように払いのけた。
「触るな、人間」
だがそれは俺も同じこと。怒りを覚えるものに触れたくもないし触れられるなんてもってのほかだ。不気味な手の奥にある瞳が揺らいだ。
「俺に触れるなら人間をやめろ」
拳を握りしめ青年の腹部目掛けて振り下ろした。
USJ施設の倒壊ゾーンにて戦闘で息を切らせる爆豪と切島は最後の敵を倒して一息ついた。
「っし!!速く皆を助けに行こうぜ俺等がここにいることからして皆USJ内にいるだろうし!」
「行きてえなら一人で行け。俺はあのワープゲートぶっ殺す!」
「はあ!!?」
爆豪には敵のワープゲートを封鎖する算段があった。無謀な闘いはしないクレバーな爆豪の背後には敵の残党が忍び寄る。相手が子どもだと甘く見ていた残党は一見スキを突いた油断もあり、あっさり頭部を鷲掴みにされ爆破された。
「つーか、俺等に充てられたのがこんな三下なら大概大丈夫だろ」
普段暴言しか吐かず、横暴な一面しか知らない切島は呆気にとられた。敵への反応速度と対応能力。爆豪にある能力にひかれ、切島は彼と共に敵の討伐へ向かうことにした。倒壊ゾーンを抜け、迫りくる敵はいなかった。ワープゲートで飛ばされた面々の心配をする切島の心の片隅に一人のクラスメイトが思い浮かぶ。
「そういや、高頭はどこにいんだろうな」
「あぁ!?んで今そいつの名前が出てくんだよ」
「いやだってよ」
高頭という人物は切島と爆豪の真後ろにいた。二人が同じ場所に飛ばされたにも関わらず、倒壊ゾーンで高頭の姿は見ていない。あのワープゲートに物怖じせず先頭に立つ度胸と根性。切島の興味を引く要素は十分に備わっていた。クラスの中でも推薦入学者たちと同等の異質の存在は、一目を置かれていた。
「梅雨ちゃんが言ってたぜ。あいつ、実技試験で0Pのロボしか倒してねえんだろ」
「……」
爆豪の眉間の皺が濃くなる。入学試験で高頭と実技会場を共にしていた。あの場で最も成績を残したのは爆豪のはずだが、それを凌駕するパフォーマンスをしていたのは、紛れもなく彼であった。
己の爆発でロボたちを引き寄せていた爆豪に対し、高頭は静かに身を潜めていた。0Pが出現し、回避を優先した者たちとは反対に彼は大型ロボに全速力で立ち向かう。無謀とも思えるその行動は爆豪の目にも留まっていた。決して優位には立てないはずなのに、何の躊躇もなかったその背中は一瞬でロボを脳天から真っ二つに割ったのだ。あんな光景、イヤでも目につく。地上に降り立った彼は一度こちらを振り向き目が合った。それはじいと見つめ、ビルの狭間へと姿を消した。その瞳は今の異なり赤かったことを、鮮明に覚えている。
「対人訓練も一人パスしてるしよ。何なんだろうな、あいつ」
「……」
高頭進。初めて会ったあの日の背中が寂しげだったことを、爆豪は覚えている。だから彼が気がかりなのだ。
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「上鳴、学校に連絡は!?」
「えっいや、無理だった」
「分かった」
敵のほうが一枚上手。電波妨害で俺達を根絶やしにするつもりだ。ここは、物理的に学校側へ知らせることが最善だ。
「すごい!多対一こそ先生の得意分野だったんだ。うぎゃ!?」
「バカかお前!」
呑気にイレイザーの個性を分析するもじゃもじゃの腕を引っ張り出口へと走る。
「高頭く、」
「ッ!!!」
「え!?」
ひょろっこそうに見えて案外筋肉のついた腕を放り投げた。
「高頭くん!速く避難を!」
「速く行け!」
「――させませんよ」
遥か遠く、長い階段の下にいたモヤモヤが目前で俺達を覆った。奴らは敵連合と名乗り、雄英に侵入した理由は平和の象徴を殺すためだと、そう言った。しかし虚勢を含めて俺は笑う。
「何か可笑しいですか?」
「ああ可笑しいね。お前たちは間違っている」
「はい?」
「アイツを殺すのは俺の役目だ」
純粋で無謀なその夢を語る俺は今までで一番少年らしく笑っただろう。
俺を追い越し二人の影がモヤ男を攻撃した。そんなバカな。恐怖に怯んだであろう生徒に、勇敢な奴がいただろうか。
見開く目に映った二つは、赤髪と爆発の彼。
「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか!?」
虚勢、ではない。高慢な自信だ。人はこのような行為を無謀という。
「危ない危ない…そう、生徒といえど優秀な金の卵」
「ダメだ、どきなさい三人とも!」
「散らして、嬲り殺す」
俺はすぐに飛びのいた。しかし、モヤ男の異空間へ繋がるモヤを防ぐことはできそうにない。ならばせめて生徒の一人でも多くを外に…!
「高頭!」
「ッ、尾じ…!」
伸ばした腕は、彼に届く前にモヤに飲まれていく。悔いる彼に叫んだ。お前のせいじゃないから、お前だけでも。
「逃げろ!」
黒いモヤに飲み込まれて、視界が真っ暗になった。どこからどこへ向かうか分からない恐怖に腕を構えていると、背中から空気の冷たさを感じる。
散らして。敵の言葉からして想像したのは災害ゾーンに散らばった敵たちの下へ送られることだった。だが俺がワープから出た先は、上空だった。
「クソ、最悪な性格だよモヤ野郎!!!」
重力に逆らって噴水目掛けて落下していく。さすがにこれじゃ個性を使っても意味がない。少しでも落下速度を落とさなければ俺の体が粉々になる。
「くそ、考えろ!生きるんだろ、こんな所であんな奴らにやられる前に、やることがあるだろ!」
髪の毛をぐしゃとかきむしり、脳裏に浮かんだあの屈強な背中を思い浮かべた。不思議と奴のことを考えると力に溢れてくる。憤怒から込みあがる底力というものだろうか。落下まで数十mといったところで、飛び込みの準備をした。
「こうなりゃやけだ」
怪我したら見てもらえばいい。今は生き延びることに専念しよう。そして、救える命を救う。それがヒーローだ。
残り数m。浅そうな噴水に落下していく俺を、敵の首謀者やイレイザーが見つけた。
「高頭!」
勢いをつけた俺は高い水しぶきを立てながらジャボン!!!と落ちた。水滴に濡れる首謀者はぼーっとそれを眺めていた。もともとモヤ男に生徒を散らすように言っていたのに、まさか真後ろにワープさせるとは考えもなかった。それを謀反に近いものと散ら得た首謀者はガリッと首をかく。
「……黒霧め、後で覚えてろよ」
浮き上がらない水面からボコボコ鳴る。異変に気付いた首謀者は振り返った。ザバッと立ち上がる。
「浅い!死ぬかと思った!」
「……」
頭を左右に揺らして水を飛ばす俺をじっと見つめる首謀者。あ、何だよ、何見てんだよ。水に浸って重たくなったマントを脱ぎ捨てる。
「よくも、びしょびしょにしてくれたな」
「いや俺関係ないし」
「白を切るな首謀者。お前は大人しく俺に、」
自分をこけにした相手には報復を。むき出しの犬歯を見せつける。
「噛み砕かれろ」
「はあ?」
生意気な子ども相手にムキになる青年を嘲笑うように背後に回った。ほんの一瞬の隙をついた。伊達にここまで生きてきてないってことを敵に知らしめてやる。
「残念だったな首謀者!」
「ッ!」
苦渋を噛みしめるような声が聞こえ、強打をうなじに落とした。ドン。鈍い音と青年の苦しげな唸り声に手応えを感じて飛びのく。ふらりとその場に立ち留まる青年に拍手を送ってやろうかと思った。
「初めてだ、大抵の人間はコレで這い蹲るのに」
そう。いつもならこれで片が付いたのだ。それが俺の油断だった。
「こんの、クソガキ!」
青年の怒りに火を灯したようで、怒号とともに襲い掛かる腕を叩くように払いのけた。
「触るな、人間」
だがそれは俺も同じこと。怒りを覚えるものに触れたくもないし触れられるなんてもってのほかだ。不気味な手の奥にある瞳が揺らいだ。
「俺に触れるなら人間をやめろ」
拳を握りしめ青年の腹部目掛けて振り下ろした。
USJ施設の倒壊ゾーンにて戦闘で息を切らせる爆豪と切島は最後の敵を倒して一息ついた。
「っし!!速く皆を助けに行こうぜ俺等がここにいることからして皆USJ内にいるだろうし!」
「行きてえなら一人で行け。俺はあのワープゲートぶっ殺す!」
「はあ!!?」
爆豪には敵のワープゲートを封鎖する算段があった。無謀な闘いはしないクレバーな爆豪の背後には敵の残党が忍び寄る。相手が子どもだと甘く見ていた残党は一見スキを突いた油断もあり、あっさり頭部を鷲掴みにされ爆破された。
「つーか、俺等に充てられたのがこんな三下なら大概大丈夫だろ」
普段暴言しか吐かず、横暴な一面しか知らない切島は呆気にとられた。敵への反応速度と対応能力。爆豪にある能力にひかれ、切島は彼と共に敵の討伐へ向かうことにした。倒壊ゾーンを抜け、迫りくる敵はいなかった。ワープゲートで飛ばされた面々の心配をする切島の心の片隅に一人のクラスメイトが思い浮かぶ。
「そういや、高頭はどこにいんだろうな」
「あぁ!?んで今そいつの名前が出てくんだよ」
「いやだってよ」
高頭という人物は切島と爆豪の真後ろにいた。二人が同じ場所に飛ばされたにも関わらず、倒壊ゾーンで高頭の姿は見ていない。あのワープゲートに物怖じせず先頭に立つ度胸と根性。切島の興味を引く要素は十分に備わっていた。クラスの中でも推薦入学者たちと同等の異質の存在は、一目を置かれていた。
「梅雨ちゃんが言ってたぜ。あいつ、実技試験で0Pのロボしか倒してねえんだろ」
「……」
爆豪の眉間の皺が濃くなる。入学試験で高頭と実技会場を共にしていた。あの場で最も成績を残したのは爆豪のはずだが、それを凌駕するパフォーマンスをしていたのは、紛れもなく彼であった。
己の爆発でロボたちを引き寄せていた爆豪に対し、高頭は静かに身を潜めていた。0Pが出現し、回避を優先した者たちとは反対に彼は大型ロボに全速力で立ち向かう。無謀とも思えるその行動は爆豪の目にも留まっていた。決して優位には立てないはずなのに、何の躊躇もなかったその背中は一瞬でロボを脳天から真っ二つに割ったのだ。あんな光景、イヤでも目につく。地上に降り立った彼は一度こちらを振り向き目が合った。それはじいと見つめ、ビルの狭間へと姿を消した。その瞳は今の異なり赤かったことを、鮮明に覚えている。
「対人訓練も一人パスしてるしよ。何なんだろうな、あいつ」
「……」
高頭進。初めて会ったあの日の背中が寂しげだったことを、爆豪は覚えている。だから彼が気がかりなのだ。
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