狐の足跡
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二回目のヒーロー基礎学はレスキュー訓練。少し離れた施設に向かうべくバスに乗り込んだ。
「さっさと席つけー」
「……」
コスチュームのマントを体中に巻き付けて椅子に腰かけた途端に瞼を閉じる。春の日差しが心地よく照らしているおかげて、睡眠には持って来いの状況だった。
二人がけの席で、周りから遠ざけられている俺の横に座るものなどいないと安心してうとうとしていると、ふわりと香った柔軟剤の香り。虚ろな目を開けると、隣に左右対称の彼が腰を据えていた。
「……」
「……」
座るとしても、尾白だと思っていた。彼の匂いを探って後ろの席を覗くと、他の奴と談笑していた。何だよ。マントの中で膝を抱えてふて寝を試みた。
バスが動き、少し揺られると、ますます睡魔が襲ってくる。野生にとって睡眠は食事の次に大事なのだ。膝小僧に頬を乗せて眠りかけた俺は、隣の奴の存在など気にしていなかった。
「寝ないのか」
低い問いかけに、俺の細胞は目を覚ました。そうだ。こんな所で眠ってはいけない。
「お前がいなきゃ寝られた」
「角が付く言い方だな」
「そう思うなら俺に構うな」
彼への怒りで眠気は吹っ飛び、移動する窓の外を眺めた。都会にしては木々が生い茂る道を、ぼーっと眺めていると、ガラス越しに彼と目が合う。
「っ」
左右違う色の目が、俺を見ている。ばっと振り返って睨んだ。
「お」
「……」
平然としている奴と動揺して汗を流す俺。余裕のなさが明確で、そんな自分に懸念しふてくされる。隣では相変わらず俺を監視する目が向けられ居心地が悪かった。
バスが信号で止まった瞬間、席を立ち通路へ出る。
「尾白」
「え?高頭?」
「膝、貸して」
「え!?」
驚いて強張る尾白に少しショックを受けた。左右にいた生徒たちも同じ顔をして、俺が尾白の膝の上に乗る想像をして食い止めようと腕を伸ばす。バスのエンジンがかかり、そろそろ動き始める。速くしなきゃ俺が危ないだろ。
「爪立てても怒らないで」
「え、」
マントをその場に降ろし、個性を使った。
みるみるうちに俺の体は収縮し、全身から赤い毛が生えてくる。体中の骨格が変形し、細い足を使って尾白の膝に乗る。
「はあ!?」
俺は個性を使った。雄英にきて初めて皆に見せた。
皆は目の前に突然現れた赤い毛の獣に大声を上げる。
「な、高頭!?これ狐じゃん!」
「まじかお前、個性これだったの!?てっきり足速い系のやつかと」
「つーかもふもふ~」
尾白の膝の上で丸まって耳を寝かせる俺は、左右にいた奴らからべたべた触られそうになる。
伸びて来た手をぎろっと睨み喉をグルグルならせて威嚇した。
「ッヒ」
「ケチかよ」
「べたべた気持悪いんだよ」
「狐が喋った!!!」
狐で喋って物珍しさに、奴らは遠慮なく俺の頭を撫でる。止めろと歯を出しても怯むことはなかった。
「はあ、癒しだわ」
「もうお前一生これでいろよ」
「ハア!?ふざけんな、触るな!!」
キャンキャン吠える俺にぽんと手を置く尾白。見上げるとまあまあと微笑んでいた。
「俺も興味あるから、触ってもいい?」
「……」
心臓あたりが、動いた。目を伏せぱふっと尻尾を体に巻き付ける。
「……フン」
「ありがとう」
尾白は悪くないため、体を丸ませて大人しく撫でさせてやることにした。
「仲いいなお前等」
「そうかな」
「おーい高頭。コンコン」
「寝かせてやれよ」
訓練場に着けば宇宙服の13号が出迎えた。眠気もスッキリした俺は個性を解いてマントを羽織る。それを眺めていた細長い奴がげんなりする。
「勿体ねぇ」
「見んな」
「お前顔の割に口悪ぃな」
「顔の割にってなんだ」
「やめなよ」
ケンカを始める前に尾白が仲裁役に入る。イレイザーが辺りを見回してオールマイトを探すが、13号の指の合図と仮眠室で休むという言葉が耳に届き欠伸を零す。
「ふあ」
オールマイトは衰弱している。その秘密はプロたちに守られているのは事実。オールマイトのお気に入りであるもじゃもじゃは、知っているのだろうか。
悶々と考える間に、13号は自らの個性はブラックホールだと言った。
「簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう」
「……」
見えない視線がこちらに向いた気がした。目を伏せて13号の話を聞く。
超人社会は個性の使用を資格制にし厳しく規制することで、一見成り立っているようには見える。だが、一歩間違えば容易に人を殺せる『いきすぎた個性』を持っていることも知っておくべきだ。
イレイザーの体力テストで自分の力が秘める可能性を知り、オールマイトの対人戦闘で人に向ける危うさを体験した。後者はしていないが、過去の経験ではある。
ダメだよ、怪我させちゃ。
脳裏にいるあの女がまた言った。分かってるよ、約束したじゃないか。俺を信用してよ。
「この授業では心機一転!人名のために個性をどう活かすか学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。救けるためにあるのだと、心得て帰って下さいな」
おお。思わず歓声が沸きたつ。イレイザーやオールマイトにはない説得力がある13号に拍手を送った。
「すごいな」
「だな」
尾白と共感し、そろそろ授業へ入ろうとイレイザーが動いたときだった。
「!」
俺の鼻を掠める悪臭。数年前に匂った臭くて嫌いな匂いに体が強張った。嫌な匂い。嫌な感覚。嫌な予感。すべてがマッチし異質に空間が歪んでいる噴水に視線を移した。
「…ッ」
「おい、何見て、」
爆発の彼が俺の後ろから顔色を窺った。俺を見て背筋をぞくりとさせたなんて、考える余裕もない。俺が最も嫌悪する者たちが、再び目の前に現れたのだから。
黒いモヤの中から這い上ってくる不気味な少年がじっとりこちらを見上げた。ゾンビを彷彿とさせる風貌に顔がひくつく。
「一塊になって動くな!13号生徒を守れ!」
イレイザーの一喝に生徒は状況を把握しきれずきょとんとする。結局こいつらは平和な世界に生きて夢見ている子どもにすぎないのだと、思い知らされた。
俺とは違う世界に生きた羨ましい人間たち。
そう思うと不思議とやる気に満ちる。俺はこいつらとは違うのだと鼓舞できるのだから。
「平和ボケかイレイザー、俺より反応が遅れるなんてプロが聞いて呆れる」
「お前も動くな!高頭!」
「偉そうに…『防衛』は規則違反にはならない」
ゴーグルをして戦闘態勢に入るイレイザーに並んで煽り見る。モヤから続々と現れた敵たちは見るからに俺より下だ。匂いで分かる。
人間より優れた聴覚が敵の首謀者らしい男の声を聞く。
13号にイレイザーヘッド。先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいたはずですが…。
奴の口ぶりに口角が下がる。
昨日、雄英にマスコミが乱入した。昼寝を満喫していた俺は警報の音で妨害され心底腹が立っていたが、あれは奴らの宣戦布告だったということだ。
天下の雄英高校が、簡単に虚をつかれているなんて、誰が想像できよう。
マントの下でごぞごぞ武器を用意した。
そんなことより奴らの標的は俺達ではなく、本来ここにいるはずだったアイツだ。
「狙いはオールマイトか」
ますます奴らを逃すわけにはいかない。アイツを倒すのは俺だ。
180805
「さっさと席つけー」
「……」
コスチュームのマントを体中に巻き付けて椅子に腰かけた途端に瞼を閉じる。春の日差しが心地よく照らしているおかげて、睡眠には持って来いの状況だった。
二人がけの席で、周りから遠ざけられている俺の横に座るものなどいないと安心してうとうとしていると、ふわりと香った柔軟剤の香り。虚ろな目を開けると、隣に左右対称の彼が腰を据えていた。
「……」
「……」
座るとしても、尾白だと思っていた。彼の匂いを探って後ろの席を覗くと、他の奴と談笑していた。何だよ。マントの中で膝を抱えてふて寝を試みた。
バスが動き、少し揺られると、ますます睡魔が襲ってくる。野生にとって睡眠は食事の次に大事なのだ。膝小僧に頬を乗せて眠りかけた俺は、隣の奴の存在など気にしていなかった。
「寝ないのか」
低い問いかけに、俺の細胞は目を覚ました。そうだ。こんな所で眠ってはいけない。
「お前がいなきゃ寝られた」
「角が付く言い方だな」
「そう思うなら俺に構うな」
彼への怒りで眠気は吹っ飛び、移動する窓の外を眺めた。都会にしては木々が生い茂る道を、ぼーっと眺めていると、ガラス越しに彼と目が合う。
「っ」
左右違う色の目が、俺を見ている。ばっと振り返って睨んだ。
「お」
「……」
平然としている奴と動揺して汗を流す俺。余裕のなさが明確で、そんな自分に懸念しふてくされる。隣では相変わらず俺を監視する目が向けられ居心地が悪かった。
バスが信号で止まった瞬間、席を立ち通路へ出る。
「尾白」
「え?高頭?」
「膝、貸して」
「え!?」
驚いて強張る尾白に少しショックを受けた。左右にいた生徒たちも同じ顔をして、俺が尾白の膝の上に乗る想像をして食い止めようと腕を伸ばす。バスのエンジンがかかり、そろそろ動き始める。速くしなきゃ俺が危ないだろ。
「爪立てても怒らないで」
「え、」
マントをその場に降ろし、個性を使った。
みるみるうちに俺の体は収縮し、全身から赤い毛が生えてくる。体中の骨格が変形し、細い足を使って尾白の膝に乗る。
「はあ!?」
俺は個性を使った。雄英にきて初めて皆に見せた。
皆は目の前に突然現れた赤い毛の獣に大声を上げる。
「な、高頭!?これ狐じゃん!」
「まじかお前、個性これだったの!?てっきり足速い系のやつかと」
「つーかもふもふ~」
尾白の膝の上で丸まって耳を寝かせる俺は、左右にいた奴らからべたべた触られそうになる。
伸びて来た手をぎろっと睨み喉をグルグルならせて威嚇した。
「ッヒ」
「ケチかよ」
「べたべた気持悪いんだよ」
「狐が喋った!!!」
狐で喋って物珍しさに、奴らは遠慮なく俺の頭を撫でる。止めろと歯を出しても怯むことはなかった。
「はあ、癒しだわ」
「もうお前一生これでいろよ」
「ハア!?ふざけんな、触るな!!」
キャンキャン吠える俺にぽんと手を置く尾白。見上げるとまあまあと微笑んでいた。
「俺も興味あるから、触ってもいい?」
「……」
心臓あたりが、動いた。目を伏せぱふっと尻尾を体に巻き付ける。
「……フン」
「ありがとう」
尾白は悪くないため、体を丸ませて大人しく撫でさせてやることにした。
「仲いいなお前等」
「そうかな」
「おーい高頭。コンコン」
「寝かせてやれよ」
訓練場に着けば宇宙服の13号が出迎えた。眠気もスッキリした俺は個性を解いてマントを羽織る。それを眺めていた細長い奴がげんなりする。
「勿体ねぇ」
「見んな」
「お前顔の割に口悪ぃな」
「顔の割にってなんだ」
「やめなよ」
ケンカを始める前に尾白が仲裁役に入る。イレイザーが辺りを見回してオールマイトを探すが、13号の指の合図と仮眠室で休むという言葉が耳に届き欠伸を零す。
「ふあ」
オールマイトは衰弱している。その秘密はプロたちに守られているのは事実。オールマイトのお気に入りであるもじゃもじゃは、知っているのだろうか。
悶々と考える間に、13号は自らの個性はブラックホールだと言った。
「簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう」
「……」
見えない視線がこちらに向いた気がした。目を伏せて13号の話を聞く。
超人社会は個性の使用を資格制にし厳しく規制することで、一見成り立っているようには見える。だが、一歩間違えば容易に人を殺せる『いきすぎた個性』を持っていることも知っておくべきだ。
イレイザーの体力テストで自分の力が秘める可能性を知り、オールマイトの対人戦闘で人に向ける危うさを体験した。後者はしていないが、過去の経験ではある。
ダメだよ、怪我させちゃ。
脳裏にいるあの女がまた言った。分かってるよ、約束したじゃないか。俺を信用してよ。
「この授業では心機一転!人名のために個性をどう活かすか学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。救けるためにあるのだと、心得て帰って下さいな」
おお。思わず歓声が沸きたつ。イレイザーやオールマイトにはない説得力がある13号に拍手を送った。
「すごいな」
「だな」
尾白と共感し、そろそろ授業へ入ろうとイレイザーが動いたときだった。
「!」
俺の鼻を掠める悪臭。数年前に匂った臭くて嫌いな匂いに体が強張った。嫌な匂い。嫌な感覚。嫌な予感。すべてがマッチし異質に空間が歪んでいる噴水に視線を移した。
「…ッ」
「おい、何見て、」
爆発の彼が俺の後ろから顔色を窺った。俺を見て背筋をぞくりとさせたなんて、考える余裕もない。俺が最も嫌悪する者たちが、再び目の前に現れたのだから。
黒いモヤの中から這い上ってくる不気味な少年がじっとりこちらを見上げた。ゾンビを彷彿とさせる風貌に顔がひくつく。
「一塊になって動くな!13号生徒を守れ!」
イレイザーの一喝に生徒は状況を把握しきれずきょとんとする。結局こいつらは平和な世界に生きて夢見ている子どもにすぎないのだと、思い知らされた。
俺とは違う世界に生きた羨ましい人間たち。
そう思うと不思議とやる気に満ちる。俺はこいつらとは違うのだと鼓舞できるのだから。
「平和ボケかイレイザー、俺より反応が遅れるなんてプロが聞いて呆れる」
「お前も動くな!高頭!」
「偉そうに…『防衛』は規則違反にはならない」
ゴーグルをして戦闘態勢に入るイレイザーに並んで煽り見る。モヤから続々と現れた敵たちは見るからに俺より下だ。匂いで分かる。
人間より優れた聴覚が敵の首謀者らしい男の声を聞く。
13号にイレイザーヘッド。先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいたはずですが…。
奴の口ぶりに口角が下がる。
昨日、雄英にマスコミが乱入した。昼寝を満喫していた俺は警報の音で妨害され心底腹が立っていたが、あれは奴らの宣戦布告だったということだ。
天下の雄英高校が、簡単に虚をつかれているなんて、誰が想像できよう。
マントの下でごぞごぞ武器を用意した。
そんなことより奴らの標的は俺達ではなく、本来ここにいるはずだったアイツだ。
「狙いはオールマイトか」
ますます奴らを逃すわけにはいかない。アイツを倒すのは俺だ。
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