狐の足跡
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雄英高校生活二日目の朝。俺はあのもじゃもじゃの前に立つ。
「あ、えっと、お、おはよう高頭くん?だよね」
「……」
律儀に挨拶を交わしてくるあたり、似ている。ますます気にいらなかった。登校中の生徒たちにチラチラ見られながら、俺は彼を見つめる。
「お前、オールマイトの何だ」
「え!?」
「お前に染みついたオールマイトの匂い、肩入れされている風な口ぶり……お前、オールマイトの『特別』か?」
ぞぞっと青ざめていく彼の顔が物語っていた。それは次第に体へ影響してゆき、握る拳が震えている。否定も肯定もしないということは、肯定に近しい応えだ。ますます気にいらない。
「お、オールマイトは、僕の憧れで、目標なんだ」
「……」
「あんな風に、笑って、人々を救えるヒーローに、なりたくって」
俺の質問に対する答えではないが、彼の考えを聞けてどこか安心する自分がいる。そして、喜んでいる。
「っふ」
クツクツ笑い始めた俺を怯え見る彼が滑稽で仕方がないのだ。オールマイトに憧憬する者はこの世界に五万と存在し、そんな奴らを嘲笑ってきた。
「なれるといいね、あんな英雄に」
「…え?」
「お前を応援してるよ」
ふいっと校舎へ向かう。あのもじゃもじゃは少なからずオールマイトと特別な関係であることは明白になったため、もう用はない。
オールマイトを含め、彼を倒すことに変わりはないのだから。
午後の授業は待ちわびたオールマイトの授業。他の生徒とは違う意味で高揚していた俺は、指定のコスチュームに着替え訓練施設へ訪れた。奇しくも本日の授業は対人戦闘訓練。喉をひくつかせながら服の下で舌を出す。
「君たちはこれから『敵組』と『ヒーロー組』に分かれて、2対2の屋内線を行ってもらう!」
初めての訓練がちっぽけな対人訓練だとはほとほと呆れた。2組ずつに分かれるということは、21名の中で必然的に1人があぶれることになる。回って来たチャンスに、低く笑った。
「オールマイト」
「ん?何かな、高頭少年」
能天気そうな影の濃い顔を見上げた。
「――俺の相手になってよ」
挑発する俺の微笑みにオールマイトの表情が曇る。ざわついた生徒は無謀すぎると言った。気にせず彼の返答を待っていた静寂の中、俺の肩を引く者がいた。
「高頭くん、先生に失礼ではないか」
「……」
全身の装備の男。漂ってくるのは眼鏡の少年らしきものだった。誰であろうと構わないが、俺の道を阻むのは許さない。
「……お前は、何に対して失礼だと言う?」
「これは生徒間での訓練であって、プロの先生の相手になど、」
「全うな相手になどならないだろうね。だからこそ見せしめに俺を使えばいい」
「何だと?」
ガラスの向こうで睨む眼鏡を睨み返した。
「トップとの差が、どれだけあるのか、俺は知りたいから申し出たまでだ」
段階を踏む前に、あの背中との距離がどれほど長いモノなのかを把握しておくには、対戦は必須。俺の考えに感化されたのか、眼鏡は腕を降ろし確かにと頷く。
「頼むよオールマイト、可愛い生徒の頼みだ」
「……う」
狂気じみた俺の眼差しに敗けて、傾きかけたオールマイトの心にほくそ笑んだ。すると、震えた叫び声が呼ぶ。
「高頭くん!」
「…!」
あのもじゃもじゃ。
「……何だ」
「あ、いや、」
急にどもるもじゃもじゃに助けられたオールマイトは咳払いをし、訓練の説明を加える。
「君は他の生徒より現状把握ができているから、この訓練は講評に集中してほしいと思っていたところだ!」
「……」
冷や汗が見える。少し動揺したのか。それとも俺を怖れてか。どちらにせよ、オールマイトは。
「逃げるのか、平和の象徴」
「…ッ」
「皆に愛されて良い身分だね、オールマイト『先生』」
言葉で追い込みをかけ、出番のない俺は説明の途中でモニタールームへ一人向かった。
「もう帰るのか、高頭」
「ああ」
「そっか。また明日な」
「……ん」
尾白に小さく手を振って教室を出る。退屈な授業を終えてトボトボ廊下を歩いていた。夕日に染まりかけた空を眺めて、甘い柑橘の飴を思い出す。そういえば、近頃食べてないな。帰り道に買っていこうか。
「高頭」
「!」
俺としたことが、背後を取られた。驚いて振り返ると左右対称の彼が立っていた。
昼間の戦闘訓練で、彼の個性が氷を出現させ相手を凍らせる個性だと知る。強力で目に見えて恐怖を植え付けるイイ個性だと思ったうちの一人。荷を持ち俺に近づいて来る。
「……」
「お前、オールマイトに恨みでもあるのか」
俺の態度の横柄さを見て勘付いたことを突いて来た左右対称の彼は真っ向から問いかける。どちらの返答でも興味がなさそうな顔して、案外身長深い質問をするものだと感心した。
「だったら何だ?」
結局、こいつもオールマイトを好いている。それが気に食わないんだ。
「皆の憧れる『ヒーロー』だから止めろって?」
「そうじゃねぇ」
「お前じゃ歯が立たないから止めろって?」
「違ぇ」
「……」
「……」
だったら何だ。目で訴える。無言の問いかけに応じない彼に癇癪を起こして言い放った。
「用もないのに俺に関わろうとするな」
夕日に向かって歩いていく俺の背を彼は黙って見ていた。くそ。その日は新品の制服を掴んでぐしゃぐしゃにして帰った。
オールマイトの教師就任は全国的なニュースである。翌朝は特に校門の前にマスコミが群がっており、朝から俺の機嫌が最高に悪かった。
昨日の左右対称の彼のこともあり、ますます青筋ができてくる。
「君!オールマイトの授業について、聞かせ……」
「……」
「ちょっと!イヤホンでもしてるの!?」
マイクを向けられる前にスタスタ歩き去るので、ぐいっと引っ張られた。体制を崩して倒れ込む俺は筋肉を使い何とか持ちこたえたが、アナウンサーの女はふらっと地面に落ちていく。
ダメだよ、怪我させちゃ。
蘇る記憶に抗うことができず、細っこい腕を掴んで引き寄せた。
「へ!?」
「……」
胸板に手を置く女はぽっと頬を染める。化粧や香水の匂いが入り混じって俺の鼻を掠めた。臭い。女を押しのけ颯爽と立ち去る俺を誰も引き止めなかった。
「……ッ」
くそ、くそ。鼻を服の裾で擦って匂いを紛らわせる。ドッドと鳴る心臓を感じ、熱っぽい顔を手で覆った。
俺は雌に慣れていないんだ。情けない自分を許せなくて眉間に皺を寄せていたら、隣から見知った声がした。
「あ?」
「……」
爆発の男。きょとんとして真っ赤な俺を見つめる。半分泣きかけの俺を凝視し、お互い立ち止まった状態で見つめ合う。
「……」
「……ふは、童貞かよ」
「ッ!!!」
顎を突き出し嘲笑った奴に全身の毛が逆立った。揶揄された表情と言葉。全身全霊で目の前の男を殴ってやりたくなった。
「女触ったぐらいで半べそとか、うけるわ」
「……殺す」
「やってみろや。泣き虫野郎」
「殺す!!!」
鬼の形相でとっつき合う俺達は校門の前でいがみ合った。さすがに個性を使うわけにもいかないため、拳をぶつけていたところ、誰かが教師に密告し足音が聞えて来た。
咄嗟に校舎へ入って教室まで駆ける。後ろで騒がしく俺を追跡してくる奴は何度も俺の名を呼んだ。
教室に着いてはっはと息を整えていると、尾白が心配した顔で寄って来る。
「おはよう高頭、走ったのか」
「あ、ああ」
「お前もマスコミに当てられて?」
「いや、それより、」
「逃げてんじゃねぇぞ、泣き虫野郎!!」
教室中に響く怒号で、皆面食らった。尾白も俺の傍で「え?泣き?」と狼狽えている。違うぞ、俺は。
「泣いてないからな!!!」
「う、うん。そんな怒鳴らなくても、」
「嘘つけよ、クソ童貞が」
「ッ!!!」
青筋だらけの俺はぐりんと首を回して奴と掴み合った。後にイレイザーがやってきて俺だけ捕縛される。くそ。
180805
「あ、えっと、お、おはよう高頭くん?だよね」
「……」
律儀に挨拶を交わしてくるあたり、似ている。ますます気にいらなかった。登校中の生徒たちにチラチラ見られながら、俺は彼を見つめる。
「お前、オールマイトの何だ」
「え!?」
「お前に染みついたオールマイトの匂い、肩入れされている風な口ぶり……お前、オールマイトの『特別』か?」
ぞぞっと青ざめていく彼の顔が物語っていた。それは次第に体へ影響してゆき、握る拳が震えている。否定も肯定もしないということは、肯定に近しい応えだ。ますます気にいらない。
「お、オールマイトは、僕の憧れで、目標なんだ」
「……」
「あんな風に、笑って、人々を救えるヒーローに、なりたくって」
俺の質問に対する答えではないが、彼の考えを聞けてどこか安心する自分がいる。そして、喜んでいる。
「っふ」
クツクツ笑い始めた俺を怯え見る彼が滑稽で仕方がないのだ。オールマイトに憧憬する者はこの世界に五万と存在し、そんな奴らを嘲笑ってきた。
「なれるといいね、あんな英雄に」
「…え?」
「お前を応援してるよ」
ふいっと校舎へ向かう。あのもじゃもじゃは少なからずオールマイトと特別な関係であることは明白になったため、もう用はない。
オールマイトを含め、彼を倒すことに変わりはないのだから。
午後の授業は待ちわびたオールマイトの授業。他の生徒とは違う意味で高揚していた俺は、指定のコスチュームに着替え訓練施設へ訪れた。奇しくも本日の授業は対人戦闘訓練。喉をひくつかせながら服の下で舌を出す。
「君たちはこれから『敵組』と『ヒーロー組』に分かれて、2対2の屋内線を行ってもらう!」
初めての訓練がちっぽけな対人訓練だとはほとほと呆れた。2組ずつに分かれるということは、21名の中で必然的に1人があぶれることになる。回って来たチャンスに、低く笑った。
「オールマイト」
「ん?何かな、高頭少年」
能天気そうな影の濃い顔を見上げた。
「――俺の相手になってよ」
挑発する俺の微笑みにオールマイトの表情が曇る。ざわついた生徒は無謀すぎると言った。気にせず彼の返答を待っていた静寂の中、俺の肩を引く者がいた。
「高頭くん、先生に失礼ではないか」
「……」
全身の装備の男。漂ってくるのは眼鏡の少年らしきものだった。誰であろうと構わないが、俺の道を阻むのは許さない。
「……お前は、何に対して失礼だと言う?」
「これは生徒間での訓練であって、プロの先生の相手になど、」
「全うな相手になどならないだろうね。だからこそ見せしめに俺を使えばいい」
「何だと?」
ガラスの向こうで睨む眼鏡を睨み返した。
「トップとの差が、どれだけあるのか、俺は知りたいから申し出たまでだ」
段階を踏む前に、あの背中との距離がどれほど長いモノなのかを把握しておくには、対戦は必須。俺の考えに感化されたのか、眼鏡は腕を降ろし確かにと頷く。
「頼むよオールマイト、可愛い生徒の頼みだ」
「……う」
狂気じみた俺の眼差しに敗けて、傾きかけたオールマイトの心にほくそ笑んだ。すると、震えた叫び声が呼ぶ。
「高頭くん!」
「…!」
あのもじゃもじゃ。
「……何だ」
「あ、いや、」
急にどもるもじゃもじゃに助けられたオールマイトは咳払いをし、訓練の説明を加える。
「君は他の生徒より現状把握ができているから、この訓練は講評に集中してほしいと思っていたところだ!」
「……」
冷や汗が見える。少し動揺したのか。それとも俺を怖れてか。どちらにせよ、オールマイトは。
「逃げるのか、平和の象徴」
「…ッ」
「皆に愛されて良い身分だね、オールマイト『先生』」
言葉で追い込みをかけ、出番のない俺は説明の途中でモニタールームへ一人向かった。
「もう帰るのか、高頭」
「ああ」
「そっか。また明日な」
「……ん」
尾白に小さく手を振って教室を出る。退屈な授業を終えてトボトボ廊下を歩いていた。夕日に染まりかけた空を眺めて、甘い柑橘の飴を思い出す。そういえば、近頃食べてないな。帰り道に買っていこうか。
「高頭」
「!」
俺としたことが、背後を取られた。驚いて振り返ると左右対称の彼が立っていた。
昼間の戦闘訓練で、彼の個性が氷を出現させ相手を凍らせる個性だと知る。強力で目に見えて恐怖を植え付けるイイ個性だと思ったうちの一人。荷を持ち俺に近づいて来る。
「……」
「お前、オールマイトに恨みでもあるのか」
俺の態度の横柄さを見て勘付いたことを突いて来た左右対称の彼は真っ向から問いかける。どちらの返答でも興味がなさそうな顔して、案外身長深い質問をするものだと感心した。
「だったら何だ?」
結局、こいつもオールマイトを好いている。それが気に食わないんだ。
「皆の憧れる『ヒーロー』だから止めろって?」
「そうじゃねぇ」
「お前じゃ歯が立たないから止めろって?」
「違ぇ」
「……」
「……」
だったら何だ。目で訴える。無言の問いかけに応じない彼に癇癪を起こして言い放った。
「用もないのに俺に関わろうとするな」
夕日に向かって歩いていく俺の背を彼は黙って見ていた。くそ。その日は新品の制服を掴んでぐしゃぐしゃにして帰った。
オールマイトの教師就任は全国的なニュースである。翌朝は特に校門の前にマスコミが群がっており、朝から俺の機嫌が最高に悪かった。
昨日の左右対称の彼のこともあり、ますます青筋ができてくる。
「君!オールマイトの授業について、聞かせ……」
「……」
「ちょっと!イヤホンでもしてるの!?」
マイクを向けられる前にスタスタ歩き去るので、ぐいっと引っ張られた。体制を崩して倒れ込む俺は筋肉を使い何とか持ちこたえたが、アナウンサーの女はふらっと地面に落ちていく。
ダメだよ、怪我させちゃ。
蘇る記憶に抗うことができず、細っこい腕を掴んで引き寄せた。
「へ!?」
「……」
胸板に手を置く女はぽっと頬を染める。化粧や香水の匂いが入り混じって俺の鼻を掠めた。臭い。女を押しのけ颯爽と立ち去る俺を誰も引き止めなかった。
「……ッ」
くそ、くそ。鼻を服の裾で擦って匂いを紛らわせる。ドッドと鳴る心臓を感じ、熱っぽい顔を手で覆った。
俺は雌に慣れていないんだ。情けない自分を許せなくて眉間に皺を寄せていたら、隣から見知った声がした。
「あ?」
「……」
爆発の男。きょとんとして真っ赤な俺を見つめる。半分泣きかけの俺を凝視し、お互い立ち止まった状態で見つめ合う。
「……」
「……ふは、童貞かよ」
「ッ!!!」
顎を突き出し嘲笑った奴に全身の毛が逆立った。揶揄された表情と言葉。全身全霊で目の前の男を殴ってやりたくなった。
「女触ったぐらいで半べそとか、うけるわ」
「……殺す」
「やってみろや。泣き虫野郎」
「殺す!!!」
鬼の形相でとっつき合う俺達は校門の前でいがみ合った。さすがに個性を使うわけにもいかないため、拳をぶつけていたところ、誰かが教師に密告し足音が聞えて来た。
咄嗟に校舎へ入って教室まで駆ける。後ろで騒がしく俺を追跡してくる奴は何度も俺の名を呼んだ。
教室に着いてはっはと息を整えていると、尾白が心配した顔で寄って来る。
「おはよう高頭、走ったのか」
「あ、ああ」
「お前もマスコミに当てられて?」
「いや、それより、」
「逃げてんじゃねぇぞ、泣き虫野郎!!」
教室中に響く怒号で、皆面食らった。尾白も俺の傍で「え?泣き?」と狼狽えている。違うぞ、俺は。
「泣いてないからな!!!」
「う、うん。そんな怒鳴らなくても、」
「嘘つけよ、クソ童貞が」
「ッ!!!」
青筋だらけの俺はぐりんと首を回して奴と掴み合った。後にイレイザーがやってきて俺だけ捕縛される。くそ。
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