狐の足跡②
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第一試合は緑谷が勝利をおさめた。次の試合に出場する瀬呂と轟と入れ替わりに控室へ向かっていた高頭は足を止める。
「……」
聞こえてくるのは低い男の声だ。
「醜態ばかりだな焦凍」
しょうと?人の名前か?そばだてずとも耳に入って来る。
「左の力を使えば障害物競走も騎馬戦も圧倒できたハズだろ。いい加減子どもじみた反抗はためろ。お前にはオールマイトを越えるという義務があるんだぞ」
ピクリと鼻先が反応した。オールマイトに憧れる者は多くても、越えようとしている者には興味がある。声がする曲がり角を抜けると、そこには炎に塗れた大柄の男と、轟がいた。他人行儀な感じがない。横顔から見える男の瞳は轟のそれを同じ色をしていた。一瞬で分かる。この二人は親子なのだと。轟を宥める男は言う。
「わかっているのか?兄さんらとは違うお前は最高傑作なんだぞ!」
轟の歯が軋んだ。
「それしか言えねぇのかテメェは。お母さんの力だけで勝ち上がる。戦いでテメェの力は使わねえ」
「…学生の間は通用したとしても、すぐ限界が来るぞ」
親子の仲つつましい会話、とは到底言えなかった。男の言葉を無視してステージへ向かう。通路から出た瞬間に歓声が上がると共に、男がため息をつく。漂う暗い空気に耐えかね姿を表すと青い目がぎょろりとこちらを見た。
「何だ君は」
「……」
「ッ」
男、エンデヴァーは下からの視線に身じろぐことができない。視線だけで気圧される。平和の象徴の次に強いヒーローが。息子にしか関心のないエンデヴァーは些細な情報のみで高頭の存在を思い出す。
「確か、障害物競走で焦凍の前にいた」
「……」
息子の前にいた狐の少年という認識のエンデヴァーに何も応えない。映像では息子に焦点が当たっており彼の活躍はほぼ皆無。残念ながら息子の踏み台にもなる器ではないと見た。
「お前、自分の息子をものみたいに扱いやがって…」
やっと紡がれるは憎悪に満ちた重々しい宣告。
「平和の象徴は俺が殺す。邪魔するならお前の息子ごと――」
「ッ!」
最後まで言わないが、その続きを想像し血走った瞳に背筋が凍った。雰囲気、瞳、言動。猛々しい獣を対峙しているかのような錯覚に陥る。狐?そんな生易しい生き物には到底…。
「どいつもこいつも贅沢な。だから嫌いなんだ人間は」
暴言を吐くだけ吐いて去っていく高頭に、エンデヴァーはその場に立ちつくすことしかできなかった。
「……」
第二試合。瀬呂は氷結により戦闘不能となり失格。轟の氷を溶かしたステージを乾かして、第三試合が始まる。
「まあ、よろしくしよーぜ。高頭」
「……」
上鳴は緊張よりは高頭に虚勢を張っている。高頭の力は未だ誰も目撃していない。USJで怪人脳無の攻撃を多少のダメージで凌いだとしか聞かされていない上鳴は先手必勝を試みる。プレゼントマイクの合図と同時に電撃を与えればこちらに勝機があるという作戦を内に秘めていた。
「ん?」
無口な高頭は首元からチェーンを取り出す。何かのサポートアイテムか?申請を受けていない高頭に目を光らせるのはミッドナイト。シャラっと取り出したネックレスの先端には、昔流行したロケットペンダントだ。それを大事そうに持つ高頭に皆息を飲む。
「……」
そして、誰かの写真がおさまっているだろうロケットに口づけを落とした。長い睫毛が下へ向き悩ましげに眉を寄せる高頭の姿は大画面スクリーンに映し出される。思春期の生徒たちはおろか、中性的な色香に大人までも翻弄され、何名かの女性陣は彼の虜となる。誰かを思ってキスをする。その相手は一体。
「うぇ!?」
上鳴はステージ上で真っ赤になった。間抜け声を上げる彼を煽り見る。
「待たせた」
「い、いいってことよ!」
仕切り直してプレゼントマイクが合図を下す。先手必勝。動揺をかき消すほど鋭い電光をステージ全体へ流れ込ませる。
「いくぜ高頭!130万Vォ!!」
騎馬戦で上鳴の電気をくらった耳郎はひいと声を上げる。超人社会とはいえ、電気や自然の摂理で身体機能は変わらない。電気を食らえば人は死ぬ。それでも情けを考えて、実のところ100万Vに下げたのは上鳴の優しさだ。
高頭の下へ届く電光にハラハラする観客は、ああと心配そうな声を上げた。そんな雑音を耳障りと囁いて地面から天高く飛び上がる。あまりの跳躍に実況者のマイクに唾が飛んだ。
「うおー!何だそのジャンプ高っ!1k分は飛んでんじゃねえか!お前もやばいやつか高頭!」
「……」
実況を無視して重力により落下していく。上鳴の電光が途切れ始めたことを確認し、腕を仰いで宙で回転を始めた。走行中のタイヤのように速度を増す高頭は上鳴の頭上目掛けて落下した。
ドシィン!
「!?」
「どーなってんだ、生きてるか!?」
勢いに地響きが鳴る。コンクリートの破片が飛び散る中、二人は立つ。身を乗り出して観戦するA組面々は生唾を飲んだ。
「お、おお?」
傍観席にいた切島は目を凝らした。人間の姿に戻った高頭はトンと上鳴を押し出す。
「うぇー」
「まだ、速い」
尻もちをついてキャパオーバーした上鳴を見下ろした高頭。状況を見てミッドナイトが腕を上げる。
「上鳴くん場外!よって、高頭くんの勝ち!」
耳郎が上鳴を見て吹き出し笑いを堪える。不謹慎と分かっていても上鳴のキャパオーバーした状態が面白くて仕方がないのだ。高頭から与えられた傷のため担架で運ばれる上鳴とは反対に、出入口へと戻っていく。
トボトボ歩き目指したのは実況者のいる傍観席。会場から沸き立つ歓声を面白く無さそうに聞き流しドアを開けた。
「イレイザー」
「高頭?」
振り返ったミイラ男は離席し向かって来る。高頭は顔をしかめた。ただ腹が減ったから飲料ゼリーを頂きに来ただけで正直関わりたくはない。
USJで相澤を教師として多少尊敬はするようになったが、それでも受け入れられない部分がある。相澤は決して易しい評価はしない。彼からの講評はオールマイトのものより断然辛いため、相澤との会話は避け体と願うが、不可能である。
「高頭」
「な、なんだよ」
既に目の前に来てしまった。どうせ本気で闘えとか言われるんだとげんなりする高頭の頭上から声が降る。
「やっぱお前はセンスに磨きがかかってんな」
「…………は、んん」
ぽかんと開けた口に飲料ゼリーを突っ込まれた。こちらが用としていたそれをぢゅうと吸い込み見上げる。血走って不健康そうな目がじっとこちらを眺めて細められた。
「頑張れよ」
「……」
ゴクリと喉仏が上下し、胃におさまっていく。あの相澤が褒めた。夢でも見ているのか頬をつねるも痛みを感じ現実に怒っているのだと知る。「何やってんだ」と呆れた声がして、背後から騒がしく実況するプレゼントマイクに呼ばれ彼は席へ戻って行く。じゃあな、と自由な手をひらひらさせながら。
「……」
持たされたゼリーを掴んで部屋を出る。来たときよりも足取りは軽く、勢いよくゼリーを吸い込んだ。ほのかな甘みに満足した高頭はにやりと笑みを浮かべていた。
180816
「……」
聞こえてくるのは低い男の声だ。
「醜態ばかりだな焦凍」
しょうと?人の名前か?そばだてずとも耳に入って来る。
「左の力を使えば障害物競走も騎馬戦も圧倒できたハズだろ。いい加減子どもじみた反抗はためろ。お前にはオールマイトを越えるという義務があるんだぞ」
ピクリと鼻先が反応した。オールマイトに憧れる者は多くても、越えようとしている者には興味がある。声がする曲がり角を抜けると、そこには炎に塗れた大柄の男と、轟がいた。他人行儀な感じがない。横顔から見える男の瞳は轟のそれを同じ色をしていた。一瞬で分かる。この二人は親子なのだと。轟を宥める男は言う。
「わかっているのか?兄さんらとは違うお前は最高傑作なんだぞ!」
轟の歯が軋んだ。
「それしか言えねぇのかテメェは。お母さんの力だけで勝ち上がる。戦いでテメェの力は使わねえ」
「…学生の間は通用したとしても、すぐ限界が来るぞ」
親子の仲つつましい会話、とは到底言えなかった。男の言葉を無視してステージへ向かう。通路から出た瞬間に歓声が上がると共に、男がため息をつく。漂う暗い空気に耐えかね姿を表すと青い目がぎょろりとこちらを見た。
「何だ君は」
「……」
「ッ」
男、エンデヴァーは下からの視線に身じろぐことができない。視線だけで気圧される。平和の象徴の次に強いヒーローが。息子にしか関心のないエンデヴァーは些細な情報のみで高頭の存在を思い出す。
「確か、障害物競走で焦凍の前にいた」
「……」
息子の前にいた狐の少年という認識のエンデヴァーに何も応えない。映像では息子に焦点が当たっており彼の活躍はほぼ皆無。残念ながら息子の踏み台にもなる器ではないと見た。
「お前、自分の息子をものみたいに扱いやがって…」
やっと紡がれるは憎悪に満ちた重々しい宣告。
「平和の象徴は俺が殺す。邪魔するならお前の息子ごと――」
「ッ!」
最後まで言わないが、その続きを想像し血走った瞳に背筋が凍った。雰囲気、瞳、言動。猛々しい獣を対峙しているかのような錯覚に陥る。狐?そんな生易しい生き物には到底…。
「どいつもこいつも贅沢な。だから嫌いなんだ人間は」
暴言を吐くだけ吐いて去っていく高頭に、エンデヴァーはその場に立ちつくすことしかできなかった。
「……」
第二試合。瀬呂は氷結により戦闘不能となり失格。轟の氷を溶かしたステージを乾かして、第三試合が始まる。
「まあ、よろしくしよーぜ。高頭」
「……」
上鳴は緊張よりは高頭に虚勢を張っている。高頭の力は未だ誰も目撃していない。USJで怪人脳無の攻撃を多少のダメージで凌いだとしか聞かされていない上鳴は先手必勝を試みる。プレゼントマイクの合図と同時に電撃を与えればこちらに勝機があるという作戦を内に秘めていた。
「ん?」
無口な高頭は首元からチェーンを取り出す。何かのサポートアイテムか?申請を受けていない高頭に目を光らせるのはミッドナイト。シャラっと取り出したネックレスの先端には、昔流行したロケットペンダントだ。それを大事そうに持つ高頭に皆息を飲む。
「……」
そして、誰かの写真がおさまっているだろうロケットに口づけを落とした。長い睫毛が下へ向き悩ましげに眉を寄せる高頭の姿は大画面スクリーンに映し出される。思春期の生徒たちはおろか、中性的な色香に大人までも翻弄され、何名かの女性陣は彼の虜となる。誰かを思ってキスをする。その相手は一体。
「うぇ!?」
上鳴はステージ上で真っ赤になった。間抜け声を上げる彼を煽り見る。
「待たせた」
「い、いいってことよ!」
仕切り直してプレゼントマイクが合図を下す。先手必勝。動揺をかき消すほど鋭い電光をステージ全体へ流れ込ませる。
「いくぜ高頭!130万Vォ!!」
騎馬戦で上鳴の電気をくらった耳郎はひいと声を上げる。超人社会とはいえ、電気や自然の摂理で身体機能は変わらない。電気を食らえば人は死ぬ。それでも情けを考えて、実のところ100万Vに下げたのは上鳴の優しさだ。
高頭の下へ届く電光にハラハラする観客は、ああと心配そうな声を上げた。そんな雑音を耳障りと囁いて地面から天高く飛び上がる。あまりの跳躍に実況者のマイクに唾が飛んだ。
「うおー!何だそのジャンプ高っ!1k分は飛んでんじゃねえか!お前もやばいやつか高頭!」
「……」
実況を無視して重力により落下していく。上鳴の電光が途切れ始めたことを確認し、腕を仰いで宙で回転を始めた。走行中のタイヤのように速度を増す高頭は上鳴の頭上目掛けて落下した。
ドシィン!
「!?」
「どーなってんだ、生きてるか!?」
勢いに地響きが鳴る。コンクリートの破片が飛び散る中、二人は立つ。身を乗り出して観戦するA組面々は生唾を飲んだ。
「お、おお?」
傍観席にいた切島は目を凝らした。人間の姿に戻った高頭はトンと上鳴を押し出す。
「うぇー」
「まだ、速い」
尻もちをついてキャパオーバーした上鳴を見下ろした高頭。状況を見てミッドナイトが腕を上げる。
「上鳴くん場外!よって、高頭くんの勝ち!」
耳郎が上鳴を見て吹き出し笑いを堪える。不謹慎と分かっていても上鳴のキャパオーバーした状態が面白くて仕方がないのだ。高頭から与えられた傷のため担架で運ばれる上鳴とは反対に、出入口へと戻っていく。
トボトボ歩き目指したのは実況者のいる傍観席。会場から沸き立つ歓声を面白く無さそうに聞き流しドアを開けた。
「イレイザー」
「高頭?」
振り返ったミイラ男は離席し向かって来る。高頭は顔をしかめた。ただ腹が減ったから飲料ゼリーを頂きに来ただけで正直関わりたくはない。
USJで相澤を教師として多少尊敬はするようになったが、それでも受け入れられない部分がある。相澤は決して易しい評価はしない。彼からの講評はオールマイトのものより断然辛いため、相澤との会話は避け体と願うが、不可能である。
「高頭」
「な、なんだよ」
既に目の前に来てしまった。どうせ本気で闘えとか言われるんだとげんなりする高頭の頭上から声が降る。
「やっぱお前はセンスに磨きがかかってんな」
「…………は、んん」
ぽかんと開けた口に飲料ゼリーを突っ込まれた。こちらが用としていたそれをぢゅうと吸い込み見上げる。血走って不健康そうな目がじっとこちらを眺めて細められた。
「頑張れよ」
「……」
ゴクリと喉仏が上下し、胃におさまっていく。あの相澤が褒めた。夢でも見ているのか頬をつねるも痛みを感じ現実に怒っているのだと知る。「何やってんだ」と呆れた声がして、背後から騒がしく実況するプレゼントマイクに呼ばれ彼は席へ戻って行く。じゃあな、と自由な手をひらひらさせながら。
「……」
持たされたゼリーを掴んで部屋を出る。来たときよりも足取りは軽く、勢いよくゼリーを吸い込んだ。ほのかな甘みに満足した高頭はにやりと笑みを浮かべていた。
180816