狐の足跡②
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裕としてロボを越えた連中が通り過ぎていく。己の個性を活かし先頭にいる轟を目指す。必死に駆けだす生徒たちの背中を眺め、呆然と立ち尽くす高頭は緩く口角を上げる。誰もが自分の力を使って一位を掴もうとしている。この学校の中に、好感を持てる連中がいたことに気づけなかった今までの時間を惜しいと考えた。
第一関門を通過し、第二関門は落下の恐怖に失神しそうな綱渡り。長い綱を渡る度胸がある者はすいすい進んでいく。その中には蛙吹や麗日の姿もあり、後ろから様子を伺っていた。やっと追いついたと言わんばかりに荒い吐息の緑谷が高頭を置いて通り過ぎる。背中に担いだロボの破片に逆さまになりながら渡って行った。
「……」
蛙吹はバランス感覚で何楽通過した。飯田はエンジンで一定のスピードをコントロールし進む。他の連中も創意工夫しながら時間をかけても進んでいく。
第三関門は地雷を敷き詰めた土地。後ろから追跡する高頭は一人の人物に目を光らせる。四方八方に毛先が向く頭は背負っていた鉄骨を使い地中の地雷を掘り始めた。呆れて先を行く耳郎とは裏腹に、ワクワクしながらその姿を眺める。この中で個性を使わずに上位に食い込んでいくのは至難の業。それを勘付けないほど愚かなのかと思っていたが、高頭の思考の斜め上をいき緑谷は飛んでいった。
「っ」
爆発の勢いに乗った緑谷は天空を仰ぎ轟と爆豪の下へ到達する。避けるべき地雷を利用した賢い選択に激しい動悸が起こった。服を掴んで興奮を抑え込んでいる俺の横を通り過ぎた影が一つ。
「大口叩いた割に、アンタ大したことない?」
オールバックに目の下のクマ。数週間前に見た男は地雷を避けて器用に歩く。ここまで汗水垂らして走って行くのはヒーロー科と思わしき面々ばかりだった。その中で体格の小さい彼がいる。彼は言った。
余裕でいると足元をすくわれる。ヒーロー科への編入も検討してもらえる。
興味がない人間はその場で諦める。ここまで必死に走らない。真剣な奴らを見縊らない。高頭が立ち止まっているのは余裕があるからだと怒っているように聞こえた。春の日差しが高頭の瞳に光を与える。
どこで過ごそうと、何を学ぼうと、人々の内に秘めた憧れはヒーロー。個性を使った形跡のない心操に些か興味を持った高頭も走り出した。
第一種目を終え、僅かな小休止を噛みしめる一次通過者をおおざっぱに眺め、十人十色の個性を思い出して尻尾を揺らした。今朝まで何の期待もなかった体育祭を、楽しみだと味わっていることが己で分かる。
「高頭!良かった、ちゃんと通過してた」
「尾白」
腕を上げてこっちと手招きする尾白の下には切島を含めたA組が集う。A組もB組もヒーロー科は全員予選通過していることは把握している。気を許した奴以外に懐かないとした高頭は尾白のもとへ向かった。
「ヒーロー科は全員残ってるな」
「あれ?峰田走ってるの見てないけど」
「峰田さんはずっと私の背中にいましたわ。個性を使ってひっついてましたの」
「うっそ!だから八百万着替えてんのか」
「ええ」
頬に手を当て自分の落度を感じている八百万に、彼女を励ます耳郎の耳が額を撫でる。二人の仲の良さを羨んでいる自分がいた。人間なんて大罪を犯す愚かな生き物である。しかし彼等は7つの罪に染まることなく輝かしい枢要徳に準えているではないか。
正義を志とし、知恵を絞って節制に勤しみ勇気を振り絞り立ち向かう。
「……」
俺は醜いものを見すぎていたのかもしれない。ミッドナイトが鞭を掲げた奥のモニターに第二種目が記される。
「騎馬戦……」
チームを組むシステムは通常の体育祭と変わらないが、雄英は更なる受難を設けた。一次予選通過者最下位から5Pずつ加算していき、チームの獲得総数を競い合う。そしてこのシステムにより俺は二ケタのPを持ち、最上位に君臨する緑谷には1000万Pが与えられた。脚光を浴びる緑谷の顔色が深海より深い青に染まっていく。
「……」
オールマイトのお気に入り。危なっかしい個性を序盤で使わなかったが、思慮を絶えず巡らせていた頭脳派と認識した。15分の制限時間内に、獲得P数の高いチームが三回戦進出の切符を手に入れる。騎馬が崩れようがPが0になろうが、時間を許す限り挽回の余地があるとミッドナイトは知らせた。ふむと考え込む高頭は今までの情報を整理し、誰と組めば得策か検討していた。
万能性なら八百万。機動力なら飯田。中距離戦法なら瀬呂や耳郎。咄嗟の判断力は蛙吹に任せ、常時麗日に浮かせてもらっていれば安全策だろうか。他にも強力すれば心強い味方となってくれそうな連中ばかりで、選択しかねる。
15分のチーム決め兼策戦時間が開始され、案の定顔も個性も知れた同クラスが手を組み合っている。戦闘に長けた爆豪の人気は否めないが、性格上の問題で高頭の関心は他へ移る。誰が、俺と組んでくれるだろう。こんなことならもっと愛想よくしてくべきだった。今まで粗野な態度を取っていた自分を責め始める高頭の肩に手が置かれた。目に期待の色が浮かぶ。
「おこぼれなら貰ってやろうか?」
見上げた先には揶揄を垂れるオールバック心操である。彼の印象は好印象とはいえないが、わらをも掴む思いを拭えずにいる。心操の個性を拝見していない高頭は頷く前に自分を選択した理由を問いたかった。
「……な」
口を開いた瞬間、心操はにやりと笑う。それを見て言葉を止めた。すると再び肩を叩かれる。
「高頭、一緒に組まないか」
「あ、ああ、尾白」
「騎馬が崩れてもいいってルールで、高頭の個性でいい案があるんだ」
策戦を持ち寄った尾白の説得に押され、尚且つ気心知れる尾白だから容易に了承した。良かった、と安堵の息を吐く尾白に、俺が断るわけないのにと呆れていると、後ろから舌打ちが聞こえた。心操はがしがし頭部に指を埋めて無表情に尾白と俺を舐めるように見る。俺達は警戒心に身構えた。
「なあ、俺も誘ったんだけど」
「……」
随分下手に出た口調に見開く。先程の悪人面は気のせいだったのか。気にしなくてもいいのか?高頭が黙っているから、いつもの『駄々』が始まったと勘違いした尾白は返答した。
「そう急かさないでほしい、高頭が決めることだ」
「……そうだな」
「……」
宣戦布告したときの横柄な態度はどこへいった。じっと見つめ見定めている高頭はある異変に気づく。高頭の個性は狐。今は耳を出現させているため、会場内に葉音がしても高頭には分かるほど、聴力が特化する。尾白の呼吸が、変わった。ふと振り返ると、彼は地面を見つめ放心状態となっていた。
「尾白?」
「……」
「尾白、なあ。おい」
揺さぶっても応答がない。胸板に耳を当てれば心臓が動いている。となれば答えは一つしかないじゃないか。ギンと目が吊り上がり毛が逆立った。
「お前、何をした」
「この騎馬戦でお前は俺の機動力として必要だからさ」
「そんなことは聞いてない。尾白に何をしたのか応えろ」
「物事には順番があるんだぜ」
心操の企みに皺を寄せる高頭は尾白を庇うように前に立つ。
「お前、操る奴か」
「ご明察。勘がいいな、動物だからか?」
「個性を解け。喉かき切るぞ」
「……ヒーローを目指す奴とは思えない発現だな」
心操が悲しく呟く姿に目を見開く。身構えていた体制を直し彼と向き合う。
「諦めんの?」
「個性を話せ。チームを組むか俺が判断する」
「上から言ってくれる」
バチバチ火花を散らす二人に誰も声をかけようとしなかった。横暴な狐に普通科の関わりの薄い奴。孤立といえばそれまでだが、緑谷同様に個性を明かさない奴をチームに入れて不利益な闘いには臨まないだろう。
「俺の個性は狐だ」
「……俺は、洗脳」
「洗脳?」
ぼそぼそ言葉を紡ぐ心操の話を高頭は最後まで黙って聞いていた。
心操の個性である洗脳は、彼の問いかけに答えた者は洗脳でき、彼の言いなりになってしまうものだった。おかげで尾白の応答がなかったわけかと納得する。目の前で手をひらひらさせてもぼーっとした彼を心配そうに見上げた。
「……」
「お仲間が大事なら俺の言うこと聞け」
個性を明かしても勧誘を諦めていない。心操は、絶対高頭を手に入れたいようだ。彼のいう機動力欲しさに高頭を選んだのかそれが偽りなのか分からない。高頭は不審がって心操に尋ねた。
「脅さなくても俺を洗脳すればいいのに、案外ビビりなのか?」
「なっ」
立場を分かっていない。というよりは、純粋な疑問を投げかけている。
「それにその個性のことあまり口外しないほうがいい。終盤で得点の高いチームを洗脳してハチマキを奪えるからな」
「……」
「尾白には悪いけどこのまま洗脳続けられるか?コイツ正義感強いから、そういう騙し合いに賛同してくれるか自信がない」
「……残酷だなお前、仲間を見捨てるのか」
「見捨てる?」
心底、心操と考えが合っていないようで睨んだ。
「勝てばいい話だ」
「……は、」
あまりに単純な思考に心操は絶句した。予選から人を観察したり、悠然と後ろから巻き上げてきたり、ばかにした態度を見せていたように見えた高頭は手っ取り早く洗脳できると思っていた。チーム決め時間の半分が過ぎた頃、残りのメンバーを誰にするか高頭は辺りを見渡す。
「お前、変わってるよ」
「?」
今まで関わって来た人間とは違った高頭に吐露した。
「普通俺の個性を聞いたら、敵向きだとか自分が洗脳されることを恐れて離れていくってのに」
「……」
心操のこれまでの人生を語っているようだった。容易に想像できる。個性のせいで周囲から人が去って行く虚しさは、いつか日常となっていた。高頭には寂しさをくれた人物が現れたからいいものの、心操には心の支えがないのだ。同情はしない。その支えになってやろうとも思わない。しかし意識の相違には意見する。
「個性なんて使い方次第だ。悪用を考える奴が愚か者。お前を避けるのはお前の個性の強力さに対抗できる力がないだけだろ」
「……」
「バカみたいな破壊力の力よりお前の力の方がよっぽど合理的だ。洗脳では死なない――」
色あせた中学三年間が水に沈んでいく。間接的に敵だと言ってきた学校の奴らの顔が歪んで見えなくなった。見下ろす狐は仁王立ちで言い放った。
「俺が癇癪起こしたら洗脳しろ。周りが見えなくなって足手まといになるのはごめんだ」
「……やっぱ変わってるよ」
「俺が許す。だから、よそよそしい態度は止めろ。これから俺たちは仲間なんだ」
「……――」
沈んだ過去を見下した。波打ち際で呆然と立ち尽くす。眩しい太陽を見上げて穏やかに笑った。
「調子にのるな」
「はあ!?お前、俺が必よ、……………」
「バカな奴」
俺なんか信用するな。高頭。
180812
第一関門を通過し、第二関門は落下の恐怖に失神しそうな綱渡り。長い綱を渡る度胸がある者はすいすい進んでいく。その中には蛙吹や麗日の姿もあり、後ろから様子を伺っていた。やっと追いついたと言わんばかりに荒い吐息の緑谷が高頭を置いて通り過ぎる。背中に担いだロボの破片に逆さまになりながら渡って行った。
「……」
蛙吹はバランス感覚で何楽通過した。飯田はエンジンで一定のスピードをコントロールし進む。他の連中も創意工夫しながら時間をかけても進んでいく。
第三関門は地雷を敷き詰めた土地。後ろから追跡する高頭は一人の人物に目を光らせる。四方八方に毛先が向く頭は背負っていた鉄骨を使い地中の地雷を掘り始めた。呆れて先を行く耳郎とは裏腹に、ワクワクしながらその姿を眺める。この中で個性を使わずに上位に食い込んでいくのは至難の業。それを勘付けないほど愚かなのかと思っていたが、高頭の思考の斜め上をいき緑谷は飛んでいった。
「っ」
爆発の勢いに乗った緑谷は天空を仰ぎ轟と爆豪の下へ到達する。避けるべき地雷を利用した賢い選択に激しい動悸が起こった。服を掴んで興奮を抑え込んでいる俺の横を通り過ぎた影が一つ。
「大口叩いた割に、アンタ大したことない?」
オールバックに目の下のクマ。数週間前に見た男は地雷を避けて器用に歩く。ここまで汗水垂らして走って行くのはヒーロー科と思わしき面々ばかりだった。その中で体格の小さい彼がいる。彼は言った。
余裕でいると足元をすくわれる。ヒーロー科への編入も検討してもらえる。
興味がない人間はその場で諦める。ここまで必死に走らない。真剣な奴らを見縊らない。高頭が立ち止まっているのは余裕があるからだと怒っているように聞こえた。春の日差しが高頭の瞳に光を与える。
どこで過ごそうと、何を学ぼうと、人々の内に秘めた憧れはヒーロー。個性を使った形跡のない心操に些か興味を持った高頭も走り出した。
第一種目を終え、僅かな小休止を噛みしめる一次通過者をおおざっぱに眺め、十人十色の個性を思い出して尻尾を揺らした。今朝まで何の期待もなかった体育祭を、楽しみだと味わっていることが己で分かる。
「高頭!良かった、ちゃんと通過してた」
「尾白」
腕を上げてこっちと手招きする尾白の下には切島を含めたA組が集う。A組もB組もヒーロー科は全員予選通過していることは把握している。気を許した奴以外に懐かないとした高頭は尾白のもとへ向かった。
「ヒーロー科は全員残ってるな」
「あれ?峰田走ってるの見てないけど」
「峰田さんはずっと私の背中にいましたわ。個性を使ってひっついてましたの」
「うっそ!だから八百万着替えてんのか」
「ええ」
頬に手を当て自分の落度を感じている八百万に、彼女を励ます耳郎の耳が額を撫でる。二人の仲の良さを羨んでいる自分がいた。人間なんて大罪を犯す愚かな生き物である。しかし彼等は7つの罪に染まることなく輝かしい枢要徳に準えているではないか。
正義を志とし、知恵を絞って節制に勤しみ勇気を振り絞り立ち向かう。
「……」
俺は醜いものを見すぎていたのかもしれない。ミッドナイトが鞭を掲げた奥のモニターに第二種目が記される。
「騎馬戦……」
チームを組むシステムは通常の体育祭と変わらないが、雄英は更なる受難を設けた。一次予選通過者最下位から5Pずつ加算していき、チームの獲得総数を競い合う。そしてこのシステムにより俺は二ケタのPを持ち、最上位に君臨する緑谷には1000万Pが与えられた。脚光を浴びる緑谷の顔色が深海より深い青に染まっていく。
「……」
オールマイトのお気に入り。危なっかしい個性を序盤で使わなかったが、思慮を絶えず巡らせていた頭脳派と認識した。15分の制限時間内に、獲得P数の高いチームが三回戦進出の切符を手に入れる。騎馬が崩れようがPが0になろうが、時間を許す限り挽回の余地があるとミッドナイトは知らせた。ふむと考え込む高頭は今までの情報を整理し、誰と組めば得策か検討していた。
万能性なら八百万。機動力なら飯田。中距離戦法なら瀬呂や耳郎。咄嗟の判断力は蛙吹に任せ、常時麗日に浮かせてもらっていれば安全策だろうか。他にも強力すれば心強い味方となってくれそうな連中ばかりで、選択しかねる。
15分のチーム決め兼策戦時間が開始され、案の定顔も個性も知れた同クラスが手を組み合っている。戦闘に長けた爆豪の人気は否めないが、性格上の問題で高頭の関心は他へ移る。誰が、俺と組んでくれるだろう。こんなことならもっと愛想よくしてくべきだった。今まで粗野な態度を取っていた自分を責め始める高頭の肩に手が置かれた。目に期待の色が浮かぶ。
「おこぼれなら貰ってやろうか?」
見上げた先には揶揄を垂れるオールバック心操である。彼の印象は好印象とはいえないが、わらをも掴む思いを拭えずにいる。心操の個性を拝見していない高頭は頷く前に自分を選択した理由を問いたかった。
「……な」
口を開いた瞬間、心操はにやりと笑う。それを見て言葉を止めた。すると再び肩を叩かれる。
「高頭、一緒に組まないか」
「あ、ああ、尾白」
「騎馬が崩れてもいいってルールで、高頭の個性でいい案があるんだ」
策戦を持ち寄った尾白の説得に押され、尚且つ気心知れる尾白だから容易に了承した。良かった、と安堵の息を吐く尾白に、俺が断るわけないのにと呆れていると、後ろから舌打ちが聞こえた。心操はがしがし頭部に指を埋めて無表情に尾白と俺を舐めるように見る。俺達は警戒心に身構えた。
「なあ、俺も誘ったんだけど」
「……」
随分下手に出た口調に見開く。先程の悪人面は気のせいだったのか。気にしなくてもいいのか?高頭が黙っているから、いつもの『駄々』が始まったと勘違いした尾白は返答した。
「そう急かさないでほしい、高頭が決めることだ」
「……そうだな」
「……」
宣戦布告したときの横柄な態度はどこへいった。じっと見つめ見定めている高頭はある異変に気づく。高頭の個性は狐。今は耳を出現させているため、会場内に葉音がしても高頭には分かるほど、聴力が特化する。尾白の呼吸が、変わった。ふと振り返ると、彼は地面を見つめ放心状態となっていた。
「尾白?」
「……」
「尾白、なあ。おい」
揺さぶっても応答がない。胸板に耳を当てれば心臓が動いている。となれば答えは一つしかないじゃないか。ギンと目が吊り上がり毛が逆立った。
「お前、何をした」
「この騎馬戦でお前は俺の機動力として必要だからさ」
「そんなことは聞いてない。尾白に何をしたのか応えろ」
「物事には順番があるんだぜ」
心操の企みに皺を寄せる高頭は尾白を庇うように前に立つ。
「お前、操る奴か」
「ご明察。勘がいいな、動物だからか?」
「個性を解け。喉かき切るぞ」
「……ヒーローを目指す奴とは思えない発現だな」
心操が悲しく呟く姿に目を見開く。身構えていた体制を直し彼と向き合う。
「諦めんの?」
「個性を話せ。チームを組むか俺が判断する」
「上から言ってくれる」
バチバチ火花を散らす二人に誰も声をかけようとしなかった。横暴な狐に普通科の関わりの薄い奴。孤立といえばそれまでだが、緑谷同様に個性を明かさない奴をチームに入れて不利益な闘いには臨まないだろう。
「俺の個性は狐だ」
「……俺は、洗脳」
「洗脳?」
ぼそぼそ言葉を紡ぐ心操の話を高頭は最後まで黙って聞いていた。
心操の個性である洗脳は、彼の問いかけに答えた者は洗脳でき、彼の言いなりになってしまうものだった。おかげで尾白の応答がなかったわけかと納得する。目の前で手をひらひらさせてもぼーっとした彼を心配そうに見上げた。
「……」
「お仲間が大事なら俺の言うこと聞け」
個性を明かしても勧誘を諦めていない。心操は、絶対高頭を手に入れたいようだ。彼のいう機動力欲しさに高頭を選んだのかそれが偽りなのか分からない。高頭は不審がって心操に尋ねた。
「脅さなくても俺を洗脳すればいいのに、案外ビビりなのか?」
「なっ」
立場を分かっていない。というよりは、純粋な疑問を投げかけている。
「それにその個性のことあまり口外しないほうがいい。終盤で得点の高いチームを洗脳してハチマキを奪えるからな」
「……」
「尾白には悪いけどこのまま洗脳続けられるか?コイツ正義感強いから、そういう騙し合いに賛同してくれるか自信がない」
「……残酷だなお前、仲間を見捨てるのか」
「見捨てる?」
心底、心操と考えが合っていないようで睨んだ。
「勝てばいい話だ」
「……は、」
あまりに単純な思考に心操は絶句した。予選から人を観察したり、悠然と後ろから巻き上げてきたり、ばかにした態度を見せていたように見えた高頭は手っ取り早く洗脳できると思っていた。チーム決め時間の半分が過ぎた頃、残りのメンバーを誰にするか高頭は辺りを見渡す。
「お前、変わってるよ」
「?」
今まで関わって来た人間とは違った高頭に吐露した。
「普通俺の個性を聞いたら、敵向きだとか自分が洗脳されることを恐れて離れていくってのに」
「……」
心操のこれまでの人生を語っているようだった。容易に想像できる。個性のせいで周囲から人が去って行く虚しさは、いつか日常となっていた。高頭には寂しさをくれた人物が現れたからいいものの、心操には心の支えがないのだ。同情はしない。その支えになってやろうとも思わない。しかし意識の相違には意見する。
「個性なんて使い方次第だ。悪用を考える奴が愚か者。お前を避けるのはお前の個性の強力さに対抗できる力がないだけだろ」
「……」
「バカみたいな破壊力の力よりお前の力の方がよっぽど合理的だ。洗脳では死なない――」
色あせた中学三年間が水に沈んでいく。間接的に敵だと言ってきた学校の奴らの顔が歪んで見えなくなった。見下ろす狐は仁王立ちで言い放った。
「俺が癇癪起こしたら洗脳しろ。周りが見えなくなって足手まといになるのはごめんだ」
「……やっぱ変わってるよ」
「俺が許す。だから、よそよそしい態度は止めろ。これから俺たちは仲間なんだ」
「……――」
沈んだ過去を見下した。波打ち際で呆然と立ち尽くす。眩しい太陽を見上げて穏やかに笑った。
「調子にのるな」
「はあ!?お前、俺が必よ、……………」
「バカな奴」
俺なんか信用するな。高頭。
180812