夏の夜(じろるい)
「見て!ミスター山下!fireworksだよ!very beautifulだね!」
仕事帰り、事務所からのいつもの帰り道。ビルが少なくなった道では、空を輝かせる花が良く見えた。類はステップを踏むように歩いていく。花火の輝きが彼の顔を少しだけ照らす。
「綺麗だね〜。」
炎色反応がどうと言ったって、彼には伝わらない。野暮でしかないし、彼の綺麗な笑顔を曇らせたくなかった。打ち上げられる音がドン、ドン、と腹部に響く。いつの間にか立ち止まってじっと花火を見始めていた類の隣に立つ。
「ミスター山下、本当に、花火ってbeautifulだね」
こちらを見上げてもう一度にっこりと弧を描く唇に、そっと口付ける。
「おれ的にはるいのその笑顔の方が綺麗かなぁ」
なんて、くさいことを言えば、類は俯いてしまう。覗き込んだその顔が赤く染っていたのは、花火の光のせいだろうか。
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