1
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※斎鈴?←大
「俺はあんたが大嫌いでね……!」
珍しく感情をむき出しにし、低く唸り鯉口を切った斎藤さんの後ろで、私は固唾を飲んで事の顛末を見守っていた。
彼の肩越しに見えたその人物は、何を考えているのやら相変わらず楽しそうににやにやと笑っていた。サシの勝負とはいえ、大石は戦う前からかなり大きな傷を負っているように見えた。戦場でこさえたものか、見たところ刀傷ではない。第一彼は、人を斬る趣味はあっても甘んじて他人に斬られるような趣向は持ち合わせていないはずだ。とすれば、この戦から多用されるようになったという舶来の新型銃のためか。人斬り鍬次郎と言えども鉛の弾には適わなかったようだ。
この勝負、目に見えて大石が不利であるように思われた。
じりじりと間合いを詰めるは斎藤。構えは上段。対する大石はというと、刀身を鞘から抜くことすらしていない。
「ふぅん…余裕なさそうだねぇ。」
やっと、すらりと刀を抜きつつ大石が呟いた。
何を言っているんだろうこの人は。初め、目の前の男が気でも触れたのかと思った。が、どうやらそうでもないらしい。先より一層笑みを深くした大石に、だまれ!と斎藤さんが低く警告したのだ。らしくもない。あの斎藤さんが翻弄されているように見えた。
「まあ、理由なんて聞かなくても分かるけど。」
「……………」
「そんなに俺に取られるのが怖いんだ。」
この一言に、終に斎藤が動いた。
上体は低く、相手の懐に潜り込むように突っ込んでいった。早い。が、ここは大石、そう簡単には斬らせてくれない。暫く鍔迫り合いが続き、力に任せお互い相手を弾き返そうと刀身に体重を乗せる。いつになく怒りを顕にした斎藤の表情。その瞳は憎しみで満ち溢れていた。傷の痛みからか冷や汗を流しつつも、楽しくて仕方なさそうに笑いを洩らす大石。正直、痛々しくて見ていられなかった。
「斎藤さん、あんた弱くなったんじゃないの?」
「……ほざけ!」
浅いが、斎藤の一撃が決まった。やはり先程の傷がたたったのだろう。思わず片膝をついて蹲る大石に、再度斎藤の刀が向けられた。首筋にぴたりと添えられた切っ先にゆっくりと大石が視線を上げる。
何故。
何故このような窮地において、彼は尚も余裕を絶やさないでいられるのだろうか。
「………終わりだ。」
言って刀を振り上げた斎藤には目もくれず、大石が見つめた先は他ならぬこの私であった。
彼の口が開き、音が空気を、鼓膜を震わせ終に脳に届く。
「桜庭、お前、なんて顔してるんだい。」
死に際、大石は一瞬笑った。
自分でも気が付かないうちに、私は泣いていた。
2009.6.11
--------------------
70/76ページ